つい口走ってしまう遠坂。うむ、やはりうっかりの素質は不断に遠坂の中に
宿っている模様だ。ほうそうか、と俺が満身の笑みで頷くと遠坂がぶるぶると、
指を振るわせだす。
赤くなって怒っている様も今も可愛い。それも話の内容が内容だけにおかし
くてつい噴き出すと……
「しっ、士郎の馬鹿っ!」
遠坂が俺に飛びかかって、ぽかぽかと胸を殴ってくる。
本気で殴るとぶっ飛ぶけど、遠坂も恥ずかしさに我を忘れたようにぽかぽか
とまるっきりだだをこねる女の子そのものの叩き方だった。
ぺしぺし殴られながら、感じるのは痛さではなく
「あっはっはっは、可愛いぞ遠坂、おちんちんだなんてお前の口から――」
「じゃ、じゃぁコックとかサックとか男根とかチンコとか言ってほしいの?士
郎は、もう私に痛い思いをさせたり恥ずかしがらせたりだなんてこのデリカシー
のないばかちんをどうして私は」
髪を振り乱しながら俺の胸をぱしぱしと叩き続ける。
でも、その手首を手に取る。親指と中指が握り込んで触れてしまう、細い手
首。
遠坂の手を取ると、はっとして俺を見上げる。口を閉じ、どうするのかを悩
む驚きの眼差しで俺を見つめている。
遠坂の身体が、俺の前にある。
細い肩に流れる滑らかな黒髪、鎖骨の弓と脇と胸の描く曲線、肌はサイドラ
ンプの光の中で柔らかな白に照らされて、その顔の綺麗さに合わせてどうして、
こんなに間近に遠坂を側に感じつづけていられるのかを不思議に思うほどに―
―
僅かに止まった遠坂の、赤い唇が動く。
「どうして私、そんな士郎を好きになっちゃったんだか……」
遠坂の言葉が、熱い。胸にとんと頭を付いてきて、遠坂の髪の薫りがふわり
と漂う。
息が胸に触れる。はぁ、と規則正しく胸にその息吹が触れ、肌を通して胸の
中に染みこんでくるような気がした。腕を取り、遠坂に寄られ、身体の温もり
と重さを感じていた。
どうして遠坂が俺を好きになったのか――どうしてだろう?どうしても、で
も良いような気がする。俺は遠坂を憧れていて、憧れるだけじゃなくて知るよ
うになってきて、それがどうしようもなく好きになっていた。これだけ強く、
時に強引で、それでいつ解れるか分からない危うさのある遠坂凛を好きになら
ないと言う方がおかしい。
そんなことをとくとくと遠坂に語って聞かせるのも恥ずかしいので、胸の中
に収めていた。そして、腕を回して遠坂の背中を抱く。
手に触れるのは、潤い滑らかな遠坂の髪と、柔らかく弧を描く遠坂の背筋だ
った。
遠坂の手首を離し、両手で遠坂の背中を抱いた。
「…………遠坂。その……」
ベッドの時間は穏やかに流れる。遠坂を抱き、ずっとこうしていたい――と、
身の程知らずにも祈るように。こんな幸せを味わうと、その代価に何を失うの
かが怖くなる。遠坂は無償の幸せを与えてくれるかも知れないけど、俺は信じ
ることにまだ……
ぎゅむ
「ふ、ふんぎゃー!」
「ほら、やっぱりこんなに士郎のおちんちん大きいじゃないの!」
また、また良いところで良い感じの雰囲気が木っ端微塵に!
遠坂が両手で俺の棹と玉袋をがっしり握っていた。手を離したのは迂闊、そ
してこんな間近に遠坂を近づけたのも迂闊にも迂闊、もしかして遠坂はこれを
狙って色仕掛けをしてきたんじゃないかって邪推するほどに。
いや、こう根本からぎりぎりと掴むのは――思わず俺はベッドの上に倒れる。
くすぐったいというか、痛いというか、とにかく『タマキンを握られたよう
に竦み上がる』というのを地で体験してしまう。
遠坂が俺の上に馬乗りになり、しっかと握ったモノを確かめている。
な、なんだこの豹変は……さっきのしおらしいのはいったい何だったんだ。
「ほら、やっぱり士郎の認識は過小評価よ、こんなに大きいじゃないの士郎の
は」
「遠坂、遠坂、タマに罪はないんだ、そっちは離してくれー!」
軸というか、棹の方はいい。でも袋を握られるのは急所故にすごくぴんちを
感じる。
でも、遠坂は仕返しとばかりにむふっと笑う。ああ、遠坂が目を輝かせて意
地悪そうに笑うのがすごく似合っていて怖い。笑いを俺が見るのと、ころころ
と指で転がされるのが一緒で――
「うっ、うわっ、遠坂よせまだ俺はー」
「ふふ、士郎はここが感じそうだって分かってたのよ?ほら……」
指がくりくりとタマを弄ぶ。敏感な、というか内臓の感覚が出張しているみ
たいな陰嚢をなで回されると尻というか、とにかく下半身が辺になりそうだっ
た。それがむず気持ちよく、おまけに裸でそんなことを遠坂にされているとい
う興奮と相まって、股間に熱く滾らせていく。
そうすると遠坂にいやらしい攻撃の言質を与えてしまうんだけど、本能には
逆らえない。
遠坂の指が俺のペニスを這い出す。長くしなやかな指が、俺の性器の形を確
かめるようにその表面を撫でる。指が触る部分が熱く、そこからまた腫れ上が
ってくるようで。
顔を起こすと、遠坂が背中を屈め、俺の股間を凝視している。あの黒い怜悧
な瞳に俺の醜い部分が晒されると思うと、それは……焼けるように恥ずかしい。
「うん……こんなに大きいの、私の中に入ってるのね……」
「あう……そんなに弄られると俺……遠坂……あ……」
肺と喉の奥から熱い息が漏れる。肘で身体を支え、起こそうとした。
遠坂の手に俺の股間は握られていて、もっと硬さと大きさを増させようと遠
坂の指が動いている。擦る指の腹、弄る人差す指と親指、そして瞳と間近に酔
った遠坂の熱い息が浴びせられ、堪らなく――興奮する。
それが、内臓と脊髄を動かし始める。まずは肺が、興奮のための新しい酸素
を、そして酔うための薫りを求めて動き出す。目は脊髄に繋がり、股間の感触
を視覚で追い打ちし、それで脳を乗っ取ろうとして――
胸が、心臓が、肋骨毎脈動して、血を熱く燃え立たせる。
筋肉がその血に滾り、肌は汗を拭く。体が熱く、それに期待に震えていて―
―
「あ……はぁ……う……」
「士郎……こんなの……こんなにおちんちん硬くしちゃって……」
その言葉を口にする遠坂に、抵抗はない。むしろ彼女もその淫らさを身体に
含もうとしているように、指でその俺のおちんちんをいじり、口でその名前尾
呼んで確かめる。雁首まで剥かれ、ぬるりとまだ体液にぬれたその部分を撫で
た。
「士郎……ここで私の中をえぐってるのね……エラ張ってる……」
「ひ……あ……うう……」
先端の感じやすい部分を弄られると、何度も太股と膝の筋肉が痙攣する。指
が窪みの所を撫で、遠坂の中をえぐってるという言葉が耳から脳をイメージで
冒す。俺の雁首が遠坂の中の襞をこそげあげ、淫水を書きだしその襞を刺激す
る様が。
ぐしゅり、と幻聴すら聞いた気がする。触れる指がまるで濡れた遠坂の膣の
ように。
霞む目で、遠坂を見る。
遠坂はほとんど俺の脚の上に被さって、目の前に俺のペニスを据えて観察し
ている。その瞳は潤い、どこか焦点が合ってない様に見える。俺のペニスを見
ているのか、それともそれ越しに俺の顔を確かめているのか。その二つが絶え
ずぶれている、そんな感じがした。
「士郎……先っぽの口から、漏れてるわよ……期待してるのね、士郎は」
「とお……さか……そこ、あう……」
何を漏らしているんだろうか?精はさんざん遠坂の中に漏らしたのに、それ
なのに先走りをまだ滴らせるほどに俺は欲情してるんだろうか?遠坂の指と、
言葉と、存在に打たれ、快感の悲鳴を上げる楽器に、止めどもなく情念の汁を
漏らすモノになってしまいたい。
一時の快感のために、いや、遠坂との快感は何にも代え難く、それが俺に―
―
「ん……士郎の……大きい……はいっちゃってるのね、私に……」
ふるっと遠坂が身震いするのも、俺に伝わってくる。
俺のペニスを撫でているだけなのに、遠坂も入れられているみたいに感じる
んだろうか。俺のものを握り、俺の幻のペニスに犯される遠坂。もう一人の俺
が遠坂を犯しているみたいで、いけない興奮を覚える。
びくっびくっと遠坂の身体は、何度も震える。
どうしたのかとちょっと不安になる、俺が触れないのに遠坂が一人で気持ち
よくなってしまっているのかと――それが不公平な気がした。遠坂に気持ちよ
くして貰っているのに、気持ちよくしてあげられないだなんていうのは。
足下に被さる遠坂に、指を触れるには遠い。
もどかしく、いっそ身体に骨が無くぐにゃりと曲がって遠坂に回り込めれば
良いんじゃないのかと思う。快感のために、それを求めてあやふやになる心。
ただ、遠坂の手にあるこの性器の硬さだけが俺の骨と身体を保たせているみた
い、だ。
遠坂が、俺の顔をしっかりと見つめる。
ほんのりと笑い、そしてどこか、誇らしいことをした子供のようにはにかん
で――
「士郎の……お口で……してあげ……る」
遠坂が、俺のを口でなんて、そんな――と声を上げそうになる。
あの遠坂凛が、綺麗で美人で強い彼女がまるで娼婦みたいに俺の醜いものを
くわえ込むだなんて、そんなのはしちゃいけない、と叫びそうになる。
でも遠坂の唇が開き、ゆっくりと俺の捲れあがった粘膜の亀頭に迫る。
なぜ遠坂が俺にフェラチオしちゃいけないのか、それで彼女が穢れるから?
俺にちんこを舐めさせるなんて、非道の行いだから?違う、そうじゃなくて、
それで俺の中の遠坂のイメージが、淫らに――なることが、どこか怖くて。
完全無欠なお嬢様の遠坂凛なんてイメージはもうどこにもなかった。
でも、どこかで感じ続けていたい憧憬が、俺をくわえ込もうとする遠坂を拒
否する。
「あ……」
でも、それも間違っている。
それもまた衛宮士郎の不自由な妄想に過ぎない。「娼婦のように淫らな」遠
坂、「汚れを知らぬ令嬢たる」遠坂、それも目と心の柵で、俺の心は本当に、
ただ、「 」でない遠坂との触れ合いを求めているのに――馬鹿な俺は、
そこにこだわっていて、触れるのを怖がっていた。
だから、感じるのだ、感じることでしか遠坂を遠坂にすることはできない。
「ん……」
くわえ込まれる、暖かく湿った感触。
唇に、遠坂の唇に、舌に包み込まれる俺のペニス。遠坂の体の中に包まれる
――締め付ける遠坂の膣ではなく、ぬるりとその全てに被さる、暖かな口の粘
膜。
俺が見守るのは、遠坂の顔。口を大きく開き、目を閉じて飲んでいる、俺の
ペニスを――赤い唇に包まれる俺自身の姿がどこか遠く、まるで逆におれが遠
坂の口を犯しているみたいな気になる。
唇が締め付ける。ずず、と遠坂の口を進んでいき、くわえられる感触が深く
なる。
つん、と遠坂の口の中に触れた。ちょうど口蓋の上あたりを擦って、舌は俺
の棹の舌に宛うように、ぬるりと支えてきて。
「あ……あ、ああ」
顎を上げ、遠坂の口腔を性器で触れる異な感触にしばし酔う。
キスして舌で触れる遠坂の口とは、違いすぎる。舌が戯れる時にはどこまで
も舐められそうな深さを感じたけども、怒張した俺の性器ではまるで塞がれる
みたいになっていた。遠坂が顎を開き、あの口一杯に俺のペニスをくわえてい
る――信じてしまうと怖いけど、感じる遠坂の身体は偽りようが無く、俺の快
感もまた偽りのものはない。
「ん……んふ……ん……」
遠坂は、俺のものをどんどん深く飲み込もうとしていた。
まるで俺が遠坂の中を深く突くみたいに、遠坂の口の奥にどれまで飲み込め
るのかを確かめるように。ふるふると震える遠坂の肩がどこか、健気だった。
愛撫するのではなく、飲み込む。遠坂に俺のペニスがどれほど埋め込まれたの
か。
「むり、するな……遠坂……そこ……」
「ん……はぁ、うっ……」
するすると遠坂の頭が上がっていく。後には唾液でてらてらと濡れたペニス
の腹が晒される。やっぱり無理だったのかとどこかでほっとしていると――ぬ
るり、と思い出したように亀頭を舐め上げられた。
遠坂の口の中に舌があったことを今更思い出させられるような、鮮烈な――
快感。
「あああうっ!」
腰がびーんと震える。俺の亀頭だけを口に含んだ遠坂が、目配せする。
それは得意そうに笑い、無言で俺を気持ちよくしてあげると物語っている。
いやそれだけじゃなくて、あそこまで深く飲み込んだことをどこかで誇ってい
るみたいで、それだから、遠坂らしく俺をすごいことにしてしまおうって言っ
てるみたいで。
ぬる、ぬると舌が、俺を這い回る。
感じやすい粘膜同士が擦り合い、唾液と俺からの分泌液にまみれて滑る。密
な快感が尿道に流し込まれ、体の中に逆行するみたいで……
「う、あ……あっ、ふぁ……遠坂……ああ……」
舌が動く。尖らせて点をつついたかと思うと、そのまま縦横に撫でて刺激す
る。唇まですっぽり包み込み、俺の悶える顔を遠坂が眺め、愉しんでいる。目
が熱い。それがもう……頭の中が遠坂のくわえ込んだ淫らな笑顔に、どこか赤
い笑いに、そして恥骨と座骨に堪って昇ってくる快感の汁にまみれ、俺の中を
ぐらぐらと煮立て、溶かしてくる。
俺が出来るのは、そんな遠坂の愛撫をただされるがままに味わうこと。
今は遠坂がしてくれる、その快感に身を委ねているのがいい。考えることが
頭の中にマッチ棒が入ってるみたいに上手く働かせない。遠坂の指は棹を撫で、
擦り、舌と唇がぬめぬめとペニスを飴のように舐め溶かそうとしている。その
うち俺の肉もくずれて、遠坂の口の中で神経が剥き出しになって舌に弄ばれ、
俺が狂ってしまうんじゃないかと――
「あ、う、はぁ……ああ……んっ」
「ん……んふ……ん。ん」
ぬぽっと唇から、吐き出される俺の先端。
もっと遠坂のなかで虐められたいのに、吐き出されてしまってひどく残念だ
った。でも、指がなおも俺を激しく擦り続け――しゅっしゅと絞る痛い快感が、
この醜い肉の固まりに俺の中の熱いものを全部絞り上げるみたいだった。
遠坂は唇を舐め、はぁ――と熱い吐息を漏らしていた。
遠坂の体の熱さも、俺の身体に染みる。脚の上でこんなに火照らせているの
が可哀想で、指で撫でて可愛がりたく思う。でも、遠坂はそんな危ない身体の
ままで、微笑みすら浮かべ、俺を嬲り続けながら――
「ねぇ……士郎の、すごく太かった……私のお口の中一杯になっちゃって……
息が詰まって、もう……だからお仕置きしてあげたの」
「あ………はぁ……うう……もっと……」
遠坂の声色はどこか、婉曲で淫らだった。お仕置きをしてあげたの、という
言葉の襞の中にある何層もの戯れで、淫らで、そして可愛い遠坂の表情。それ
があの舌の愛撫であり、俺はそれに身体を引きつらせて悦んでいた。恥ずかし
い、どうしようもなく……
目が細くなる、嬉しさをどこかの残酷さで包み込んだ笑い――だ、俺が見て
いるのは。
「士郎、お仕置きなのにひぃひぃ言っちゃって……可愛いのね、もう」
「遠坂、あ……あれが……はぁ、あ、あ、あ」
言葉の間にもしごき上げる手は止まらない。しゅっしゅっと音を立て、時に
は激しく俺の根本から先まで擦り上げる。ポンプを漕ぐようで、俺の体の中か
らまるで汲み上げたがっているみたいだ、俺の体の中に溜まった白く汚れた液
体全てを、このまま噴き出させたいというみたいに。
「こんなに大きいの……私に大きいので士郎は虐めてるから、仕返ししたくな
っちゃった……」
遠坂の言葉には意味が通っているように思えない。彼女もこんな快感と情欲
に身体を火照らせ、あの犀利な知能を鈍らせてまでそれに酔っているんだろう
か。でも、あの遠坂をそこまで、こころまで犯してしまっているのが俺である
というのが……麻薬じみた快感の薫りがした。
遠坂がもう一度、顔を俺自身に近づける。濡れて淫猥に照り輝く俺の陽物。
そこに遠坂が、愛しげに頬を寄せる様を見せつけて……遠坂の言葉を、仕草
を、その刺激を待つ。息の吸い、吐き、心臓の収縮する時間もまた長く感じる
ほどの――
唇が動き、言葉を紡ぎ、そして俺のペニスを触れた。
「士郎……士郎……虐めてあげる……だから私にももっと……えっちなことで
虐めて……」
(To Be Continued....)
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