「は──あ、は──く……っ!」
 僅かに先端が食い入っただけで、体中の毛穴がざあっと開いていく。迂闊に
口を開けば、獣じみた唸り声が迸りそうで、ぎりぎりと奥歯を噛みしめた。
「あっ……い、や……だめ、士郎……きつ……いっ!」
「遠坂──いいから、息、吐け──」
 一度しか破られたことの無い封印は、二度目でもまだ酷くきつい。指で愛撫
した時はあれほど柔らかな感触だったのに、今はそれは強靱な肉の檻となって、
こちらの侵入を死に物狂いに押し止めようとする。
「は──、」
 俺から逃げようとずるずるずり上がっていく遠坂の肩を、片手でしっかり捕
まえて、ずぶり──と更に腰を入れた。
「ひぁ……っ! んっ、や……だ、士郎、乱暴にしないでって……言った、の
にぃ……!」
 乱暴になんてしてるつもりは無い。ただ、遠坂の中があまりにきつくて、全
身の力を振り絞らなければ前に進めないだけ。遠坂も苦しいんだろうけれど、
こっちだっていい加減つらい。彼女の肉は、半分ばかり埋められたペニスをぎ
ゅうぎゅうに締め上げてきて、緊張を解けばその瞬間、一気に食い潰されてし
まいそうだった。
「──あと、半分だから……我慢、してくれ」
 喉元に内臓が逆流してくる錯覚を耐え、何とかそれだけ言葉を絞り出す。歪
む視界の中で、遠坂が苦しげに頷くのを見て、両膝に力を込めた。
「あ……あ、ああ……っ、くぁぁぁ……っ!」
 オクターブを駆け上がる遠坂の悲鳴。合間に、低い自分の呻き声が混じるの
を他人事のように聞きながら、ずぶずぶと膣肉をかき分けて奥へと進んでいっ
た。
 やがて。
 じゅぷ、という音と共に、屹立の根元が遠坂の入り口にすっぽりとはまる感
触がする。濡れて喘ぐ彼女の粘膜に、揺れる陰嚢がぴとりと触れた。
「は──あ、遠坂……入っ、た」
「……ん……こ、これで……全部?」
「ああ。大丈夫か?」
「……ちょっと、苦しいけど……うん……最初の時よりは、平気」
 処女膜を破られる痛みが無い分、いくらかは楽だったのだろう。まだ幾分苦
しげに息を絞りながらも、彼女は俺を見上げ、健気にそんな言葉を告げてくる。
「そっか。じゃ、動くぞ──と、」
 彼女の腰を掴み、抽送を開始しようとした所で、俺ははたと思い止まった。
 今二人が体を重ねているのは、柔らかな寝台などでは無く、固い保健室のパ
イプベッドだ。スプリングも厚手のマットも無いこんな所で、この体勢のまま
遠坂を抱いては、振動のショックがもろに彼女の体に伝わってしまう。
「遠坂」
「……なに……?」
「ちょっと、ごめん」
 ひょい、と彼女の腕を取って、自分の首に絡ませた。そしてそのまま、腕力
に任せて遠坂の背中を抱き上げる。細い背筋は頼りなくて、思った以上に酷く
軽い。
「よっ、と」
「きゃ……?!」
 胡座をかいた自分の太股の上に、遠坂の体を乗っける。向きを変えて、自分
の背中を背もたれの向こうの壁にもたせかけると、幾分座りが良くなった。
「し、士郎、このカッコ……」
「ん? ああ。さっきのままだと、遠坂の体に負担がかかるから。これなら少
し楽な筈だし」
「……で、でも、これじゃ、士郎のがすごく奥まで入ってきて……わたし、こ
うしてるだけで……お腹の中、士郎でいっぱいになってて……」
 自分の重みで、俺の昂りを更に奥まで取り込む形になった少女は、はあ、と
切なげに吐息をついて身を捩る。
「遠坂──」
 その悩ましい表情に、今の今まで押さえつけていた劣情が堰を切って溢れ出
すのが分かった。
「いくぞ。しっかり掴まってろよ」
「え? ちょ、ちょっと待って士郎──あ、ふぁ……っ!」
 遠坂の返事を待たず。
 その柳のような腰を抱きしめて、強引な揺さぶりを開始した。
「あ……っ、んっ、ん……ぁ、ああ……士郎、しろ……ぉっ!」
 正常位に比べて、もっと反復運動の大きいこの体位。上下に動くそのたびに、
遠坂のふくらみがすぐ目の前でふるりと揺れる。視覚から受ける刺激は、官能
に爛熟した脳細胞を更に興奮させ、その指示に従って新たな血液がどくん──
と下半身に流れ込んでいき、そして──
「は……あん……っ! 士郎の、中で、びくんっ、て……」
「く──は、あ──っ!」
 ただでさえ狭い遠坂の胎内を、より一層膨れ上がったペニスが圧迫する。
 それは、手加減も何も無い気違いじみた抽送だった。遠坂の体重を、この両
腕の膂力と腰のバネだけで、何度も何度も反り返るほどに突き上げる。パイプ
ベッドの足が、今にも壊れそうなほどにぎしぎしと鳴っている。
「ひ……あ、ああ……っ!」
 彼女の全体重をかけて摩擦されるペニスは、ただ遠坂の肉の感触を得て、快
楽に転ずる為だけの器官と化していた。強く上に突き上げると、何十枚もの襞
が一斉にうねってこちらを包み込む。逆に腰を引けば、熱い昂りをつなぎ止め
ようと懸命にしがみついてくる。
 あまりにも気持ち良くて──頭が、どうにかなりそうだ。
「……遠坂……は、あ──遠坂……っ!」
「んん……っ、しろ、う……わたし、だめぇ……壊れ、ちゃうよぉ……!」
 遠坂の体を乱暴に揺さぶりながら、目の前に実った白い果肉に歯を立てる。
流れ落ちる彼女の汗は、だけど何故か甘く感じて──ああもう、きっと感覚器
官がめちゃくちゃに狂っているんだ。今、この肉体のすべての五感は、遠坂を
感じるためだけに存在している。
「あぁ、士郎……わたし……わたしぃ……、」
 遠坂の手が、自分の胸に食らいつくこちらの頭をぎゅっと抱き寄せる。それ
に甘えて、遠慮なく彼女の乳房を貪り食らった。その間も休むことなく、下半
身は彼女を突き上げて、ざわめく快感を求め続ける。
「あ、ん……しろ、わたし、も──ダメ、い、きそう………」
「ああ……俺、も、遠坂──」
 あっという間に押し寄せる快楽が、二人の肉体を頂点へと導いていく。お互
いに見つめ合い、唇を押しつけながら、最後のラインを手を取り合って踏み越
えようとした、

 ──その、時。

『──まったく。遠坂の奴、どこほっつき歩いてるんだろうね』

 それは思いもかけないほど突然だった。
 保健室の扉のすぐ向こうから響いてきた声に、俺たちは一瞬にして、渦巻く
官能から現実に引き戻される。
 聞き覚えのある声だ。クラスメイトである遠坂は勿論だろうし、俺もその声
の持ち主は良く知っている。俺の腕の中で完全に凍りついた遠坂を見下ろすと、
緊張に強張った顔つきで、彼女はじっとカーテン越しに扉の方を見つめていた。
『さぼりならともかく、あいつが保健室なんかで寝込むタマかね』
 その声の持ち主──美綴綾子の軽口に、おどおどとした別の声が心配げな色
を帯びて答える。
『でも遠坂さん、体育の時具合悪そうだったから……』
『はぁん。あたしにゃ全然、そんなふうには見えなかったけど』
『わ、わたしも見ただけじゃ分かんなかったんですけど、わたし、転びそうに
なって遠坂さんに助けてもらった時、遠坂さん、すごく体熱くて……なんか、
熱あるみたいだったんです』
 ──三枝さんか。
 なるほど、いかに猫かぶりの遠坂でも、体温まで誤魔化すことは出来ないの
は道理だ。遠坂を心配した三枝さんは、美綴を連れて授業を抜け出し、姿の見
えない彼女を捜し回っていたのだろう。
『ま、とにかく確かめてみるか。おーい遠坂、いるか?』
 どんどん、と乱暴に扉を叩かれて、びくん、と彼女の肩が震え上がる。
「士郎……ど、どうしよう……」
 唇を微かに動かして、そんな事を囁いてくる彼女。普段は間違っても見るこ
との出来ない、困り切った顔が、不謹慎とは分かっていてもひどく可愛らしか
った。
『遠坂? 寝てんのかい?』
 ガチャガチャと扉を揺らす音。──悪いな美綴。その鍵の噛み合わせは、保
健室に入った最初の時に『強化』済みだ。俺が魔術で再度弄らない限り、素人
に開けられるものじゃない。
「……士郎、ばれちゃうわよ……!」
 俺のシャツをきゅっと掴み、涙目で遠坂が訴えてくる。本当は鍵のことを教
えてやれば、すぐに彼女の不安も消えるのだろうけど──あんまり遠坂が可愛
くて、俺は少しだけ意地悪をしてみたくなる。
「遠坂は、俺とのことがばれると困るのか?」
「そ、そうじゃないけど……でも、学校でこんなことしてるの気づかれたら…
…そりゃ、綾子たちの記憶をいじれば済む話だけど……でも、でも……っ!」
 遠坂の目尻に溜まった涙が、つうっとひとすじ、真っ赤に染まった頬を滑り
落ちていく。
「……でも、イヤ……」
「イヤって、何が?」
 俺の胸に頭を押しつけ、遠坂がかぶりを振る。その姿は、拗ねて甘える子供
のよう。
 許される筈も無いワガママを、それでも懸命の願いをこめて一心に口にする。
「……士郎と、こんなことしてるわたしも……こんなふうにしてる士郎も、一
瞬でも、他のひとに見せたくない」

 ──だってこうしてる時は、わたしだけの士郎だから。

 その彼女の呟きは、シャツのはだけた胸板を通して、心臓にまでしみ通って
ゆくよう。

 まだ、外の物音は続いている。がたん、と扉が揺れるたびに、遠坂は肩を竦
ませて、この腕にしがみつくように体を寄せてくる。
「ふぅ……あ、ん……」
 身じろぎする弾みに、二人のつなぎ目から微かな水音が立つ。ほんの僅かな
肉の摩擦でも、過敏になった彼女の神経は、甘い快感を全身に走らせてしまう
のだろう。勝手に漏れてしまうその喘ぎ声を、遠坂は必死で唇を噛んで殺して
いる。
「遠坂」
 瘧のように震える細い肢体を強く抱き直して、そっと彼女の名前を呼んだ。
俺に応えて眼差しを上げる彼女に小さく笑いかけると、濡れたその唇を、自分
のそれでぴったりと塞ぐ。
 彼女の呼吸。彼女の吐息。こらえてもこらえても溢れ出し、誰かに聞かれて
しまう不安をかき立てるその音色を、自分の唇の中に閉じ込めた。
 ──やがて。
『──誰も居ないんでしょうか……鍵、かかってるみたいだし』
『そうかもね。一応、他の場所も探してみるか』
『は、はい』
 保健室に入ることを諦めたのだろう。ふたつの足音が、ぱたぱたと廊下の向
こうに走り去っていく。その残響が完全に消え、保健室が静寂を取り戻しても
尚しばらくの間、俺たちはただ唇を触れさせたままの姿勢で、互いの体温を分
け合っていた。
「……遠坂、大丈夫か? 続き、いいか?」
 真っ赤に染まった耳たぶを見ながらそうささやくと、彼女はためらいつつも、
こくんと頷きを返してくる。
「動くぞ」
「……ん、」
 遠坂の腰を持ち上げ、律動を再開する。一度擦り上げると、引きかけていた
汗がまたじっとりと全身の毛穴から吹き出してくる。
「あ……あぁ、ん……」
「……あ──く、は──」
 一人でしている時は、不測の用事で中断なんてすれば、大概そのまま萎えて
しまうものだけど、今は萎えるどころの騒ぎじゃなかった。一度せき止められ
た熱は前にも増して膨れ上がり、解放された瞬間、渦を巻いて二人の肉体を飲
み込んでゆく。
「んっ……くぁ……、あ……士郎……っ!」
 激しい動きの中で、こちらのシャツも殆ど肩からずり落ちている。剥き出し
になった俺の胸に、汗ばんだ遠坂の乳房が押しつけられる。瑞々しい素肌に包
まれた脂肪のたわむ感触が、脳内の神経を次々に焼き切った。
「は──あっ、くっ……うっ、」
 僅かなタイムアウトを置いたことで、ただきつく締め上げるだけだった遠坂
の内壁は、本来の柔らかさを幾分取り戻している。濡れて蠢く襞をかき分け、
彼女の一番奥を目指して、強く、強く、目眩のするような往復運動を繰り返し
た。
「あ……っ! んっ、士郎……す、ごい……わたし、喉まで……あんっ、きち
ゃう……!」
「遠坂……俺、も……くっ……」
 俺よりずっと小さい彼女の体に、いっそ縋るように抱きついて。性急な射精
感を必死でこらえながら、遠坂の肉体を尚も突き上げる。
 一回に一度しか射精出来ないのが悔しい。この一突きひと突きごとに、遠坂
の中に精を注ぐことが出来たなら、俺を求めてこんなに乱れる遠坂の胎 内(なか)
全部満たしてやることだっ
て叶うだろうに。
「……し、ろう、わたし……わたし、もう、あ……ああっ、」
 遠坂の指が、うなじに強く爪を立てる。延髄を刺激するその痛みさえ、甘く
うねるような快感。繰り返し口づけを奪いながら、哀願する彼女に問い掛ける。
「どう──する? この恰好のままじゃ、中に、出すしか──」
「ん……いい、よ……わたし、多分、今日は……それに、士郎のだったら、わ
たし──欲しい、から」
 ひくん、と喉を鳴らして、遠坂が訴える。その言葉を裏打ちするように、き
ゅうっと膣の内壁が締めつけられていく。
 ──限界、だった。
 ここが学校の中であることも、今が授業時間であることも、そんな状況での
この行為がどんなに普段の二人に背くことであろうとも、もうそんなことは全
部頭から吹っ飛んでいる。
 ただ、遠坂が欲しくて、遠坂に与えてやりたくて、遠坂しか見えなくて、体
も心もすべてが遠坂でいっぱいになっていて─────

「しろ、ぉ、ああっ、んっ……んぅ、あ、ああああ……っ!!」
「──く──遠坂……あ──はぁ……っ!」
 ずくん──という衝撃が、全身を揺さぶった。
 射精、なんて生易しい感覚じゃない。はち切れるほどにこみ上げた精を、根
こそぎ絞り取られてゆくようだ。
「ひぁ……っ! んっ、しろぉ、あつい……火傷、しちゃう……っ!」
 吹き上げる精の奔流はまだ止まない。子宮口に直に叩きつけられる精液の熱
さに、遠坂は快感と怯えの入り交じった悲鳴を上げる。
「遠坂──とお、さか……っ!」
「はぁ……っ、あっ……んっ、士郎……ああ……っ」
 自らの絶頂と、こちらの絶頂を共に受け止めて、遠坂の体が小刻みに跳ねる。
最後の一瞬まで、彼女のことを感じていられるように、しっかりとこの腕に抱
きしめたまま、すべてを遠坂の中に吐き出した。
 精液と共に、回路を巡る魔力までが、パスを伝って一気に遠坂の中に吸い込
まれていく。引きずりこまれる吸引力は、酩酊にも似た脱力感をもたらしたけ
れど、何故かそれは泣きたくなるほどに幸せだった。
 遠坂に俺をあげられる事が、彼女に必要とされている事が、この上なく幸福
だった。

 ──良かった。

 呟いて、目を閉じる。
 ──落ちていく瞼の中、半透明の蜜に白のマーブルが優しく溶けてゆく幻を、
見た。

(To Be Continued....)