猫は年に二・三回、春から秋にかけての季節に繁殖期を迎えるという。一つ
の繁殖期間にメス猫が繰り返し何度か発情し、オスはそれにつられて発情する
らしい。

「と、遠坂っ。えーと、冗談?」
「こんにゃ余裕の無い状態だって解ってて、冗談だと思う?」
「う……確かに」

 眸を潤ませ、頬を染めている表情は凛が士郎にだけしか許さない表情だ。そ
んな彼女が嘘を言っているとは思えないし、その余裕の無さは客観的にも見て
取れる。
 だが、それでも士郎には疑問に思う点が残っていた。
 そもそも発情期の猫ならば、もっと甘ったるい鳴き声をあげ、色っぽく腰を
くねらせたり悶えるような仕草をするのが一般的ではないだろうか。凛を見る
限りでは情緒不安定で調子が悪そう、といつも通りとまでにはいかないが、発
情期の猫の様な兆候はまったく見られない。

「…………それは、我慢してたから……にゃ」
「我慢? 我慢って事はそれなりに身体に負担かけてたってことじゃないか」
「まあ、そうにゃるわね……」

 吐息交じりに視線を逸らす凛はどこか気まずそうだった。
 その様子を怪訝に思いながら、士郎は思考を掘り起こす。彼女の猫化に対し
て、自分にも何か出来ないかと思い購入した“猫の飼い方”という実用書――
―思いっきり的外れな買い物ではあったが―――あれには発情期の欄に何と書
いてあった?

 確か。

「発情した猫は……交尾が出来ない場合、えーと……強いストレスによって、
粗相をしたり食欲不振を招く恐れが―――あっ!」
「…………………………」
「あー、その……………」

 拙い。
 どうやら自分は思いっきり的の中心を射抜いてしまったらしい、ということ
を士郎は自覚した。一方で、言い当てられた凛は先刻よりも気まずそうに、そ
して恥ずかしそうに俯いてしまっている。

 拙い。
 この気まずい沈黙は士郎にとっても凛にとっても宜しくない。何度こんな沈
黙を経験すれば気が済むのだろうか、自分は。しかし、もっと気まずい思いを
しているのは凛の方だろう。

 えっちしたいのを我慢している、と告白してしまったのだから。

 拙い。
 だとすれば、尚のこと士郎が現状を打破しなくてはならない。どっちがこの
状況を作り出したか、と聞かれれば首を捻ってしまうが、おそらくは士郎側に
非があるのだろう。

「と、遠坂……」
「……………?」
「何で我慢してたんだ。べ、別に俺としては構わないんだけど……」

 また沈黙を招いてしまうかもしれないと思ったが、凛は瞼を落とし数度の深
呼吸。その後、窺うようではあったが士郎の視線と自分の視線を合わせ、問い
に答えた。

「―――だって、魔術に失敗して猫耳尻尾生やして、それで発情期迎えたにゃ
んて……恥ずかしいじゃにゃい」
「でも我慢することはないだろ? そ、その……もしかして、俺のこと嫌いに
なっちゃったとか?」
「そ、そんにゃわけないでしょ!」

 脊髄反射の速度で否定の言葉が返ってくる。少しだけ士郎は安堵。

「だったら、何で?」
「………もー、女心が解ってにゃいわねっ。好きだから、発情期に流されて士
郎とするんじゃにゃくて……もっと、雰囲気とか大切にしたかったの……にゃ」
「――――――っ」

 くらりと、きた。
 尻すぼみになってゆく凛の言葉は一字一句零さず、士郎の耳朶から思考の隅々
へと浸透していった。熱を帯びた想いが胸の奥からじんわりと広がってゆくよ
うな幸福感。
 だが、同時にすこし悔しくも思う。
 遠坂凛はいつだって衛宮士郎の愛した遠坂凛だ。女の子の都合というものも
あるだろうが、それでも強気で自制を効かせる凛の弱い部分を隠さないでほし
かった―――自分は遠坂凛の愛した衛宮士郎であるという自負はあるのだから。
 だから、士郎は行動でその想いを伝えることに決めた。
 邪魔な掛け布団をはがし、士郎は凛を直で抱きしめる。我慢していたにも関
わらず、彼女には抵抗らしい抵抗は無い。おそらく抗しているのは士郎にでは
なく、内側から発情してゆく火照りに対してだろう。

「ん……あ、にゃあ……士郎、ちょっ、駄目……」
「遠坂、我慢しなくていいから。俺はお前のことが好きだから」
「にゃ、にゃんでそういうセリフをさらりと言えるのよ、アンタは……」

 それは非難と言うよりも照れ隠しか。
 委ねるにも抗するにも徹しきれない心情なのか、手持ち無沙汰そうに彼女の
掌がシーツをいじる。士郎はベッドの上で丸くなっている凛を抱き起こし、そ
のまま自分の胸と彼女の背中をくっつけた。
 布の擦れるくすぐったい音。
 その狭間で悶えるのは、黒い毛並の美しいしなやかな尻尾だ。もぞもぞと腰
の辺りを揺れているその先端を引っ張り出し、むぎゅりと先端を握り締める。

「んにゃひゃっ! あっ……んんっ、はぁ、はぁ……」
「うあ……遠坂のしっぽ、いい感触してる……」

 吐息に乗せた囁きが凛の耳朶をくすぐる。
 尻尾を触られる感覚は、凛にとって今までの肌を撫でられるような感覚とは
異なっていた。そこだけが敏感な神経の束になったような錯覚で、触られ、撫
でられる度に過敏な反応を示してしまう。
 士郎の五指がピアノでも弾くように波打ち、尻尾の適度な硬さと毛並の柔ら
かさを何度も味わう。熱を帯びたそこは毛並のくすぐったさが何とも言えず気
持ちよくて、病みつきになってしまいそうだ。

「どう、遠坂。気持ちいい?」
「はぁ、はぁ……士郎っ、駄目にゃのお……しっぽ、だめぇっ……」

 尻尾を弄られることで感じているのだろう、ぴくぴくと震えているのが掌か
ら伝わってくる。少し刺激を加えるだけで熱く湿った吐息を零し、甘い音色も
零し始める凛。
 なのに、彼女は駄目と言う。
 それが何だか禁忌に触れているようで、胸中の背徳感を引っ掻く。きっと凛
も尻尾という未知の部分を弄られることに怯えを感じているのかもしれない。
 少しでも気を落ち着かせてやろうと、開いた片手でさらに深く凛を抱き寄せ
る。

「……ふにゃっ、士郎……んんっ、だめっ、んにゃぁぁ……」
「遠坂……なんでさ。何が、駄目なの?」

 聞きながら首筋に吸い付くと、火照った肌をつたう雫に舌がしょっぱい刺激
を覚える。
 掌の中の尻尾を撫でるように上下させると、舌先で凛が身震いするのが伝わ
った。やわらかな毛並と感触ではあるが、硬さを含んだそれはまるで陰茎を握
っているような錯覚。
 尻尾をしごきたてることで、凛もペニスをしごかれているように感じている
のだろうか。性器と尾は異なる器官であるにも関わらず、今の彼女は秘唇を割
りほぐされているみたいな反応を見せていた。

「しっぽ、しっぽ……変にゃのっ、士郎っ。くぅんん―――ふぁ」
「尻尾で感じてるんだ、遠坂」
「んっ―――言わにゃいでっ、あ」
「―――ん、ちゅ……ぷ」

 首筋から離れ、尻尾の先端に顔を寄せる。掌から飛び出し揺れている様は、
まるで別の生き物のようだ。唇と尻尾が触れてしまいそうな程に接近すると、
士郎は軽く口をすぼめ、口腔に溜め込んだ唾液を十センチほど上から尻尾にめ
がけて垂らす。
 わずかな粘質を含んだ雫が尻尾に落ちる―――すると、まるでそこを舐めら
れたかのように凛がぴくんっと背筋を逸る。士郎は安心させるよう自分の胸に
彼女の背中を委ねさせ、再び尻尾をしごき始める。
 唾液というローションを塗りたくるように掌が滑り、ちゅぷちゅぷ、と湿っ
た音が次第に響きだす。粘り気をからめた指先がシャフトに沿って上下すると、
さらに濡れた卑猥な音がして、新たな刺激に凛の尻尾はおののく。

「はぁ……あっ……ふにゃぁんっ」

 尻尾を熱っぽくしごき立てられて、凛は立て続けに痙攣し、甘い吐息を漏ら
し続けた。
 包み込んだ胸で、掌の中でそれを感じる度に、もしかしたら射精してしまう
のではないだろうか、という歪んだ考えが浮かび上がる。事実、ふわふわした
毛並を別にすれば、熱を帯びた凛の尻尾はひくつき、硬くそそり勃って、男性
器のそれのよう。
 無論、そんな反応をしているのは凛だけではない。

「―――っ、にゃ、士郎のすごく硬い……」
「うあ……そう、まじまじと言うな。なんか恥ずい」
「ばか。私にはこんにゃに恥ずかしい思いさせてるくせに……」

 唾液でぬめる尻尾をしごくことで覚えた興奮は、しっかりとした反応を示し
ていた。ズボンの下で硬くなっているペニスは、密着する凛のお尻へと押し付
けられている。
 我慢できないと言っているかの様に自己を主張するこわばり。凛の腰に回し
ていた手で士郎はチャックを下ろし、布の中で苦しげにしていた分身を解放さ
せる。その飛び出す硬い感触をお尻越しで感じたのか、抱き寄せられていた凛
は感電したように肩を震わせた。
 ぎちぎちに張り詰めたペニスが凛のお尻の割れ目を滑る。
 布越しではあるが、そのショーツが遠坂凛のものであるということと、隔て
た先に感じる確かな肉感、それがお尻をこする士郎の快感をさらに加速させ、
鈴口から透明な粘液を染み出させてゆく。

「ん……んぁ、にゃぁうぅ……」

 しごくたびに快い声をあげ、そして下着をこする肉棒のようにピクピクとな
る尻尾。張り詰めた士郎の肉棒と凛の尻尾がまるで快感を共有しているような、
そんな錯覚に陥ってしまう。
 凛の尻尾をしごけば、士郎の肉棒が張り詰め。
 士郎の肉棒が張り詰めれば、凛の尻尾がわななく。
 まだ繋がっていないのに繋がっている。はっきりとした形を持たないとろみ
のような感覚は、水の中に漂うような、不思議な心地よさを感じさせる。

 尻尾をしごき立てるスピードも次第に早くなり、それに合わせて凛の痙攣も
短い間隔で小刻みになっていった。掌の中の尻尾も同じようにわななき芯を通
したような熱が駆け上ってゆく。
 腰の奥からこわばりへと駆け抜ける快楽ではなく、掌から伝わる相手の快感
で士郎は自らの限界が近いことを知る。

「あっ、士郎―――すごい、ピクピクしてるにゃ」
「く、う……遠坂、もう我慢できない……あ、くっ」

 摺り寄せた頬で、小さく彼女が頷くのを感じる。
 妙な感覚だった。肉棒それ自体は凛のお尻に押し当てているだけだというの
に、しごき立てられた時と同等の快感が込上げてくるのだ。尻尾を上下にしご
けば、着々と下腹部は射精の準備を整えてゆく。
 暴発の予兆にペニスが震え、飢えた獣の涎のように垂れる先走り液が凛のシ
ョーツに染みこむ。ちゅくちゅくと淫靡な音が士郎の耳朶へと響き、張り詰め
た肉棒はどうしようもない状態にまで追い込まれてしまった。

「あ―――遠坂、出るっ!」

 半ば暴発気味にペニスに溜め込まれた快感が弾け飛ぶ。
 反り返った肉棒が凛のお尻で大きく撥ね、熱いほとばしりが彼女のショーツ
へと吐き出される。

 びゅくっ――――という最初の一撃。

「にゃっ、あぅ……んん」

 次いで、びゅくびゅく、びゅくっ―――と立て続けに白濁色をした精液が解
き放たれる。
 震えるのは尻尾も同時であった、激しい痙攣のように打ち震えると脱力した
のか、だらんと垂れ下がっている。一方の凛は果てたわけではないらしい。し
ばし荒い吐息を漏らしていた彼女であったが、士郎の胸の中へゆったりと身を
委ね呼吸を落ち着かせる。

「下着、士郎のでべとべとになっちゃった、にゃ」
「あー、そういえば脱いでないっけな、俺ら……」

 下着を脱がしてもいなければ胸も出ていない凛の格好。なんだか順番が逆に
なってしまったが、士郎の肉棒は、一度の射精では足りぬとばかりに勃起して
いた。
 抱き寄せた体勢から向き合う体勢へ転じ、ゆっくりと士郎が凛のスカートを
脱がす。続いてショーツへ。いつもだったら、するすると脱げてゆくのだが、
士郎の精液をたっぷり含んだそれは、粘り気のある音と微かな温かさを伴わせ
ていた。
 白濁液を吸い込んだショーツが、ぐじゅり、と粘っこい音を立てる。

「士郎。あんまし人の下着をじっくり見にゃいでよ」
「あ、ああ。そう、だな……」

 自ら解き放った欲望の残滓を見続けるのは、さすがに少し気まずかった。凛
の言葉に背中押されるように、士郎は精液の染み付いた下着をベッド脇に。

「ね、ねえ……士郎……キスして、にゃ」
「ん―――」

 気まずさを払拭するように凛が提案し、それに応じた士郎は短い呟きと共に
身を寄せた。先刻とは異なり今度は前から。
 最初は啄むように。唇だけで相手の存在を確認するように何度も何度も断続
的に。次第にそれだけでは足りなくなってゆく。そうしたら次は舌を絡める。
猫化しているからざらついた舌なのかと思ったら、意外にもそうではなく普通
のものであった。

「にゃに? やっぱ、猫舌なのにザラザラしてにゃくて変?」
「いや。そんなことないさ、遠坂が相手なんだから……」

 頬を染め、今度は照れ隠しの為に凛が士郎に唇を重ねる。

「ん……んんっ、ぁ―――士郎」

 求められるがままに掌を差し出し、五指と五指を絡めさせる。左、続いて、
右としっくり来る手の繋ぎ方を互いに模索していると、

「―――っ」

 静電気でも走ったかのように凛が右手を弾かせた。拒絶からだろうか、と一
瞬だけ身体を強張らせるが、彼女にその様子は無い。疑念を覚えながら右掌を
握ると―――気付いた。
 指先に粘り気のある液体がへばりついている。
 おそらくは、凛の下着に染み込ませた精液が指に付いてしまったのだろう。

 相手の尻尾をしごいただけで射精してしまったというのは、もしかしたら男
としては非常に情けないことなのではないだろうか。ふと、指で糸を引く白濁
液を見ながらそんなことを思う。

「んにゃ? 士郎、考え事?」
「い、いや、そんなんじゃない、うん――――」

 言いながら、ベッドに投げ出された肢体へと視線を戻す。
 しなやかで瑞々しい弾力に満ち、女性的な柔らかさも忘れていない、脚から
太股、そしてウエスト、双丘。上半身は上着を着たままであるが、その美しい
ラインにはなんら遜色は無い。
 今日はそこに二つのアクセントが加えられていた。
 ピンと立って自己主張する猫耳とゆらゆら揺れる長い尻尾。いつ見ても凛の
姿見は美いが、それ以上に今の彼女からは可愛らしさを覚える。

 そんな凛を見て、自分の掌を見て、士郎はふむと一つ頷く。

「なあ、遠坂。ちょっと尻尾いいかな?」
「い、いいけど……にゃにするの?」

 窺うような視線から目を逸らす。その先はベッド脇にある凛の下着であった。
士郎は己の白濁した精液をたっぷり吸い込んだそれを手に取り、開いた手でお
もむろに尻尾を掴む。
 士郎の行動の意図を読み取ることが出来ず、凛はきょとんと目を丸くしてい
る。
 そんな彼女の目の前で、士郎はフライドポテトにソースを付けるような気軽
さで、握った尻尾の先端へ下着に染み付いた白濁液を塗りつけた。

「あっ、にゃふぁっ―――し、士郎っ」

 制止の声が聞こえているにも関わらず、士郎はそれを無視して精液でぬとぬ
とになった尻尾の先端を彼女へ向ける。瞬間、僅かに身を強張らせたのが掌か
ら伝わった。
 尻尾を掴まれているため、逃げることも叶わぬ凛は未だ驚きの抜け切らぬ表
情で事の次第を眺めている。士郎が何をするつもりなのか―――もしかしたら、
心のどこかでそのことを理解し、期待しているのかもしれない。

 士郎の狙いは艶かしい脚の付け根にある凛の恥部。薄く口を開き始めたそこ
は、薄桃色の内壁と粘膜をわずかに覗かせている。
 下着を持っていた手で彼女の脚を大きく開かせ、尻尾にぬめりついた精液を
大事な部分にこすりつける。恥丘へと汁を落とし、撫で回すように尻尾の先端
で白濁のそれを塗り広げてゆく。

「ん、んにゃああっ、そんなトコ……こすっちゃ駄目っ、ひゃんっ」
「遠坂。子猫みたいで可愛いな……」
「バカっ、そんにゃ、こと言っても……あぁんっ、駄目ぇぇ」

 言葉では抵抗しながらも、訪れる刺激に身体が弛緩してきたのか、力を無く
した脚は徐々に開かれてゆき、はっきりと彼女の下腹部を露にした。

 凛の意識化にあるはずの尻尾を巧みに操り、士郎はゆるゆると白濁液を塗り
ながら秘唇をくすぐり、いやらしい肉の丘を割りほぐしてゆく。
 振り解かなくては。そう凛が微かに思考を働かせても、身体は意思よりも本
能を優先してしまう。尻尾がお尻の割れ目を上からなぞるように這い、淫らな
粘液を漏らし始めた割れ目を擦り上げると、火照りとともに身体の力が抜けて
ゆく。

 多分―――と、凛は前置きして思う。
 これが士郎相手でなかったら不快感しか覚えなかっただろう。たとえ猫化し
て発情期の状態におかれていても、だ。相手が士郎だから、遠坂凛の愛した衛
宮士郎だから、ここまで身体を預けられる。愛した相手だから、自らを愛して
くれるのだと信じられる。

「ふぁっ、こすれて……気持ちいいっ、んにゃぁっ、はぁはぁ」
「はぁ、あ……遠坂。今のお前、すごいいやらしいな……でも、可愛い。本当
に可愛い。もっと、遠坂を悦ばせたい……」
「はぁ、ぁんっ、士郎……」

(To Be Continued....)