「ふぁっ、こすれて……気持ちいいっ、んにゃぁっ、はぁはぁ」
「はぁ、あ……遠坂。今のお前、すごいいやらしいな……でも、可愛い。本当
に可愛い。もっと、遠坂を悦ばせたい……」
「はぁ、ぁんっ、士郎……」

 凛の声音が弱火で煮込んだシチューのように蕩ける。
 なめらかな声に引き寄せられるがまま、士郎は割れ目を擦っていた尻尾を今
度は彼女の顔へ向けた。
 愛液と精液が混ざり、染み付き、ねとつく先端を近づかせると微かに眉をひ
そめる。しかし、それだけだった。紅潮したやわらかな頬に、いやらしく尻尾
を擦り付けられても、その眸は熱に浮かされたような色。
 自らの手で美しいものを穢す。それは酷く背徳的で、甘美を含んだ支配欲を
満たす行為。まるで獣のするマーキング。どうやら自分は、思っていた以上に
遠坂凛に対して独占欲が強いらしい。残る理性で士郎はそう思う。

「あぁ……んっ、士郎の方が、やらしい……にゃぁぁ」
「そうかな? ………いや、そうかもしれない。遠坂があんまりにも可愛いか
ら、俺をそういう気分にさせるんだ」
「うん……わたしも……あっ、はぁ、士郎に……そういう気分にさせられる、
にゃ、あ……ああぁ」

 身悶えながらも、しっかりと士郎に言葉を返す凛。
 いつの間にか彼女の手はこちらの背に回されており、委ねてくれている、と
解り胸の奥から嬉しさがこみ上げてくる。
 顔中をいやらしい精液でどろどろに汚された凛は、漂う男の匂いに臆しもせ
ず、自分を汚した汁がぬめりついた尻尾をむしろいとおしげに舌で舐め始めた。
毛繕いする猫の行為そのものであるが、凛のそれは様相が違う。精液まみれの
尻尾を舐める凛は頬を赤らめながらも、どこか恍惚とした様子で自らの行為に
没頭してゆく。

 延々と、こうやって淫らな行為に耽る凛を眺めていたい。
 どこか麻痺した脳内の片隅でそんな考えが浮かぶ。惰性という水面に浮かび
続ける麻薬のようなその誘いに惹き付けられそうになる。
 それを止めたのは、背中を這う凛の指先だった。
 熱い。体内の火照りが直に伝わっているんじゃないか、と思わせるほどの指
先。熱い。背を擦るだけで、汗という油を得た炎のように衛宮士郎の中に焦げ
付きを残す。熱い。
 衛宮士郎の愛している遠坂凛はここにいる―――と。

「――――遠坂」
「士郎――――」

 互いを呼ぶ声が重なる。
 それだけで、ただそれだけで二人は嬉しくなって微笑んだ。先刻まであれほ
ど淫らな行為に耽っていたというのに、付き合い始めた恋人同士のように、何
気ないことで笑っている。
 それはきっと幸せなことに違いない。
 緩やかに蕩け始めた思考は、普段は思いもしないことにまで思い至らせる。
こんな時じゃないと気付かないのか。それとも、こんな時だからこそ気付くの
か。

 気恥ずかしそうにしながらも、凛が視線を合わせる。
 それだけで相手が何を求めているのか、何となくだけど解った。また二人の
間に笑顔が零れる。お互いに、求めていたものが同じだったから。

「―――――――」

 声は零れない。その代わりに音が零れた。
 互いの唇を舐め、啄み、その質感を、温度を、ぬめりを感じあうように舌を
這わせ、唇を重ねる。先程まで凛が尻尾を舐めていたからだろうか、彼女の口
腔は普段とは違った粘っこさがあった。その中に白濁液が含まれている。そう
考えただけで、いつもだったら自分の精液を口に含むという行為に眉根を寄せ
ていただろう。だが、今はそんなことに何の意味も無かった。
 その永遠にも近い刹那の間で、意味があるとすれば、キスという行為の持つ
意味のみか。
 互いが互いを、相手が相手を、男が女を、女が男を、士郎が凛を、凛が士郎
を、愛していると、存在を相手に焼き付ける印。熱い。身体の心から燃え上が
るような―――ほのおのしるし。

「―――ぷ、はぁ」
「―――んっ、はぁ、はぁ」

 唇が離れるが、二人の身体は離れず抱き合ったまま。もう一度、凛の名を呼
びたかったが、それはすぐには叶わなかった、酸素を求め荒い喘ぎの吐息しか
零れてこない。
 抱き寄せた凛もそれは同じだった。だが、彼女はそれでも士郎の耳元に断続
的な言葉を紡ぐ。

「士郎……身体、熱いにゃ……」
「ん。じゃあ、服脱がそうか?」
「馬鹿。そんなこと、聞かにゃいでよ……大丈夫、一人で脱げる。それに、自
分の方も服脱ぎにゃさいって……」

 本当に熱に蕩けてしまったのではないかと思わせるほどの声音。大丈夫だろ
うか、と少し心配するが、言葉通りに一人で上着を脱ぎ始めた。正直、脱がせ
られないのは残念だったが、彼女の言うことにも一理ある。
 汗を吸い込んだ衣服を周りに散らかす。この途中で途切れた間がもどかしい。

「遠坂……」
「うん、全部……脱いだ、にゃ」

 言葉通り、本当に一糸纏わぬ凛の姿がそこにあった。服を着ていながらも美
しく描かれた曲線は、裸身を晒すことによってさらにはっきりとなめらかさを
露にしていた。
 薄い赤みを帯びた白い肌は、艶のある黒髪、そして同色の毛並を持った猫耳
と尻尾を映えさせる。明暗の美しいコントラストと普段にも増して可愛らしい
姿見に、脊髄の奥から全身へと駆け巡るような衝動が込上げてくる。

 ―――キスだけじゃ……これだけじゃ足りない。

 それは快感を求める欲求だけではなく、相手に快感を与えたいという似て異
なる要素を含んだ思考。欲求による衝動ではなく、情愛による衝動というべき
ものであった。

「……んにゃぁ、士郎」

 そんな思考に応えるかのような声音。その呼びかけには、士郎の胸を締め付
けるような凛の焦がれの響きが含まれていた。
 そっと抱き寄せた腕を解き、凛はその場で四つんばいになった。剥き出しの
下半身を突き出し、額づくような体勢で高々とお尻を掲げる。白く美しい曲線
に生える尾は外巻きに回っていた。これは猫の発情期に見せる行動の一つ、も
う我慢という言葉など凛には無いのだろう。

「士郎の、わたしに挿れてにゃ……」
「――――――」

 嚥下すべき唾液などすでに無く、ただ乾いた空気だけが喉を通り抜ける。ひ
くひくと震える秘唇は、士郎を待ち望む凛の感情を体現していた。
 これ以上は焦らすべきではない。士郎は自らの精液を塗りたくった女性器に
己のペニスをあてがう。それだけで勃起した亀頭の先端が、割れ目に愛液を溢
れさせながら入り込んでゆく。
 キスするように重ねあう士郎の性器と凛の性器。さらに深く舌を絡め求め合
うように士郎が腰を沈めると、肉棒に掻き分けられた膣肉が湿った音を響かせ
る。
 この数日間、発情を我慢していたからだろうか、凛の秘肉は壁をしなやかに
伸ばしてペニスを貪欲に内側へと呑み込んでいく。まだ半分しか入っていない
というのに、凛は背筋を震わせて嬌声を上げた。

「あっ、あぁぁぁ……んんっ―――にゃあぁぁ、士郎っ……! お願い、奥ま
で……」

 熱い蜜壷へさらに深く肉の楔を打ち込む士郎。
 ベッドに額づいた姿勢の凛との結合は、それこそ獣のする交わりを思わせる
体勢。猫耳、尻尾を生やしている姿であるため、より深い実感としてそれを感
じる。雄と雌の獣が交わす生殖行為。
 だが、士郎の胸に込上げる衝動はそれとは異なるもの。

 秘唇と肉孔の内壁が導くままに、ようやく肉茎を根元まで挿し入れる。凛の
絡みつく膣は、柔らかさも熱も圧力も全てが心地よく、動くのも億劫になって
しまいそう。この一瞬だけは肉棒の硬さを忘れ、凛の膣内と溶け合って一つの
器官になっているような、そんな感覚。
 その歓喜をすぐには言葉に出来ず、代わりに士郎は曲線を描く凛の背中にそ
っと唇を重ねることで意思を示した。

「ふにゃぁっ……士郎ぉ……」
「背中まで、凄い敏感になってるな……遠坂。もっと、キスしてもいいか?」
「うん……でも、それよりも……んん、にゃぁぁ、うぅ……もっと、はぁ……
あっ、動いて―――」

 可愛らしい喘ぎを交じらせながらの凛の懇願に、士郎は腰を力強く律動させ
ることで応じた。凛の中を掻き混ぜるように小刻みに動くと、こすれ合う肉茎
と秘唇の間から、白濁液と肉蜜の液が混ざり泡立った恥ずかしいカクテルが垂
れ落ちてゆく。
 とめどなく零れるそれは、真っ白のシーツにおもらしでもしたような大きな
染みを作り出しす。
 濁りった色の雫が漏れる音は、二人の嬌声と腰とお尻のぶつかり合う激しい
音とでかき消されていた。

「や……あっ、ふにゃぁっ……士郎、気持ちいいっ、気持ちいいのっ―――奥
までねっ、士郎がっ……んんっ、入ってきてるって……あっ」
「は―――あっ、とおさ――――凛っ、今のお前、すごいえっちだ……えっち
だよ、それで可愛い、何度でも言ってやる、可愛いよ本当に、お前……っ!」
「ひゃっ、あ、ん、士郎っ……にゃ、ふあぁぁっ」

 欲望を吐き出すのではなく、もっと彼女を気持ちよくさせてあげたい。先刻
から果てることなく湧き上がり続けている、その気持ちが士郎をさらに突き動
かす。
 肉棒の一番太い、広がったカサの部分を割れ目から抜け出す。すると、もう
終わるの、と問いかけるように秘裂がキュッと喰らい付き、その柔肉の持つね
っとりとした感触に思わず精を漏らしてしまいそうになる。
 何とか、暴発しそうになるペニスの衝動を抑え込みながら、士郎は小刻みに
腰を動かし始めた。奥にまでは届かない抽挿。だが、亀頭のカサが締まる秘唇
とこすれ合い、いやらしい粘着音を響かせてゆく。
 割りほぐされてゆく膣口からだらしない涎のように粘り気のある凛の汁が零
れる。

「ふあっ、んんっ、すごい、いやらしいっ……はぁ、あっ……しろぉ、もっと、
もっと……してにゃっ、ぁぁっ、んん……」
「ああっ……もっと、してやるっ」

 荒い吐息に乗せて何とか言葉を搾り出す。
 正直、もう限界はすぐそこにまで近づいていた。凛を気持ちよくさせようと
いう衝動で動いているというのに、このままでは先に果ててしまうのは士郎の
方だ。
 それでも膣内に挿さった肉棒を抜こうとは思わなかった。浅い抽挿から一気
に腰を落とすことで、深いピストン運動へ転じる。どうせならば、このままス
パートを掛けて二人で果ててしまいたい。
 凛の嬌声は段々、言葉としての意味合いを失って只の鳴き声のようになって
いく。目の前で痙攣するように震える尻尾と猫耳―――それは、まるで絶頂の
兆候を示し始めるよう。
 士郎の腰のスライドに合わせ、凛も無心で腰を回し、前後に動かす。

「気持ちいいっ、しろぉ……もう、だめかもっ……んにゃあ、や、にゃああっ!」

 追い込みを掛けるように士郎は凛の陰部、その先端の壁の奥に隠れる肉の尖
りに指を伸ばす。陰核―――最も敏感なそこを指先でほじりだされ、丁寧に優
しく揉まれた凛は、今までよりも一際高い叫びに打ち震えた。

「ふあああっ、あ、あ……ふにゃああうぅぅ……っ、しろぉっ、しろぉっ。お
願いっ、一緒に―――」
「くっ、膣にっ……出すぞっ、凛!」

 宣言し、声にならぬ息を士郎は呻きと共に吐き出す。体中の酸素が抜けてい
くような錯覚と同時に、白い何かが脊髄を駆け抜けて下腹部へとぶつかってゆ
く。
 膣内に注ぎ込まれる士郎の精液。絶頂と同時にぶちまけられたそれが、肉壷
の中を濃密な温かさで塗りつぶしてゆく。
 だが、肉棒のわななきは一度ではない。
 小刻みに震える度に、下腹部に残った白濁の汁が射精される。

「あ、ふぁ…………ぁ」

 虚脱と同時に息を吐く彼女に合わせて、士郎も力を失ってゆくペニスを引き
抜いた。
 深く酸素を吸い込み、大きく吐き出す。そうすることで、ようやく身体全体
を支えていた芯が抜けていくのを感じる。肩を落とし、腰を落とし、視線を落
とす。
 その先には、先程まで張り詰めていた凛の尻尾。
 だらん、と主の身体と同じように脱力すると―――未だひくひくと震える士
郎の肉棒を優しく撫でるように、のしかかってきた。
 不意打ち気味の火と撫でに、肉棒がびくんっと震える。

「―――あうっ!」
「―――きゃっ!」

 最後の一滴を搾り出すような射精。
 白濁した液は凛の中にではなく、横たわる彼女の目の前に吐き出された。
 びゅちゃ、とシーツの上に濁った液だまりが出来る。
 ぱちくりと目を瞬かせ粘つくそれを見つめていた彼女は、ゆっくりと視線を
持ち上げて士郎を窺う。

「……士郎、あれだけ私に注いでおいて、まだ足りにゃかったの?」
「う、いや、そういうワケじゃ……遠坂が、あんまりにも気持ちよかったから
……」

 言い訳にしかならないのは解っていたが、反論は帰ってこなかった。
 言葉を受けた凛は、士郎を見据えたまま気恥ずかしそうに頬を赤らめている。
しばし、そのまま沈黙を保っていた彼女であったが、彼が何か言葉を紡ぐより
も早く次の言葉をぽつりと呟いた。

「でも、士郎が私の中にいっぱいで―――嬉しい」

 また、恥じらいながら微笑むその表情が可愛らしくて、士郎はまた何も言え
なくなってしまう。
 だから、また言葉ではなく行動で自らの意思を示した。
 横たわる彼女を覆い被さるようにして抱きしめ、くちづけを交わす。真っ白
なシーツに花開く黒髪を梳く様に撫でると、凛が胸の中に顔を埋めてくる。
 そのまま隣に転がりながら、ひょこひょこ動く尖った耳の先に舌を這わせて
毛繕う。

「ん、にゃ……士郎、それ、気持ちいい……もっと、耳お願い……」

 望み通り、艶やかな毛並を舌先でそろえてやる。
 緩やかな猫耳の形に添っていくと、ほどなくして先端の尖った部分に到達す
る。そのまま別の部分を舐めてもよかったのだが、ふと、士郎はそこで舌を止
めた。
 間髪入れず、猫耳の先っぽを唇で挟む。

「はむっ―――ん、んむ、ちゅ……」
「ふにゃぁぁっ、しろ、士郎っ、耳……すごい、にゃ」
「はは……甘える遠坂、なんだか本当に子猫みたいで、可愛いな……」

 面と向かって“猫”と呼ばれて怒るのではないだろうか。
 そう思ったが、もう猫化したことについては気に留めていないのか、怒気を
湛えるといったことはなく、彼女ははにかみながら笑うと、

「わたしも……それなら猫化した甲斐がある、にゃ……」
「―――そっか」

 吐息に乗せたような呟き。再び沈黙が訪れるが、それにはもう気まずさは無
く、水面にゆったりと浸るような心地よさが感じられた。
 窓は開けていないはずなのに、頬を柔らかい風が撫ぜる。
 緩やかな流れの中にいるからだろうか、思考の流れもゆったりとしたものに
なっていた。今更ながらに、凛の呟いた言葉の意味を思考が噛み締め始めてい
る。
 ………………………

「…………ちょっと待て、猫化した甲斐があるって………失敗じゃなくて意図
的に猫化したってことか?」
「あ」
「あ、じゃない。遠坂……お前、隠してたな」
「……………にゃんでもにゃいわよ」
「視線を逸らすな」

 うつ伏せになって顔を隠す前に、がっしりと抱き寄せてホールド。再び、最
初の時と同じ胸と背中をくっつける体勢になる。違いと言えば、二人が一糸纏
わぬ姿というところか。
 猫耳をわざとくすぐるように息を吹きかけ、言葉を続ける。

「で、どういう事だ。遠坂……」
「ちょっ、士郎。耳元、近いっ……んにゃ、言う、言うからっ」
「解った。それで、何でまた猫耳と尻尾を?」

 尋ねると、凛は少し言いよどんだようだが、しっかりと返答を返してきた。

「し、こういう猫耳とかの格好だと、士郎喜ぶかにゃーって?」
「………いや、確かに嬉しいけど」
「そ、それだけじゃにゃいわよっ。蔵書の中に面白そうにゃ魔術が書いてあっ
たから、た、試してみたらっ!」
「あー、その、つまり……」

 普段なら、くだらないと切り捨てるような筈の魔術であったが、衛宮士郎の
為に趣向を凝らしてそれを使ったということか。ひょっとしたら、趣向を凝ら
す為に蔵書を漁ったのかもしれないが。

「まあ、使った魔力の加減が強すぎて、猫耳尻尾が解除できにゃくなっちゃっ
たんだけど……」
「………それって、好奇心は猫を殺すってヤツか?」
「それは微妙に違う、にゃ」

 呆れを交じらせた溜息を零す凛。
 言葉に詰まってしまった士郎は、しばし悩んだ後に少し話題を逸らす。

「えーと、まあ、ともかく戻るんだろ。その猫の格好」
「一応、魔力の放出という形で出来てるから……後は、数をこなすだけにゃ…
…」
「あー、つまりもっとそーゆーことして欲しいってことか?」
「歯に衣着せろにゃっ!」

 凛の一喝が飛ぶ。だがそれは怒号というよりかは、照れ隠しのものか。
 言ってて恥ずかしいのは士郎も一緒だが、それを言える相手が胸の中にいる
というのは幸福なことだな、と抱き寄せた感触とぬくもりから思う。

「―――ん、ちょっと待て」
「またにゃ? 今日は随分と突っかかるわね……」
「いや、今しがた思ったんだけど……遠坂の膣に出しちゃったんだけど……」
「あ」

 今日、何度目の絶句になるだろうか。
 絶頂を迎えることで魔力を発散させたはずなのに、士郎がそれを同時に補給
してしまったということ。プラマイゼロ。

「ちょ、ちょっとどーするつもりにゃ! 士郎! これじゃあ、意味無いじゃ
にゃいっ! ちょっとは考えにゃさいよっ!」
「なっ―――そ、それは違うだろ。遠坂が事情を語らないから、俺に解るわけ
ないだろ!」
「あう―――ま、まあ、それはそう………にゃ」

 さすがに反論はせず、凛は素直に自分の非を認める。
 そこで攻められてしまったら、さすがに士郎も立場が無い。してしまったも
のはしてしまったのだから。

「ああ、そうだ遠坂。それだったら、その……もう一回しないか? 今度はさ
……ちゃんと、外に出すから」

 士郎の言葉に答えるまで、凛はしばしの時間を要した。
 胸中に伝わる鼓動が早まってゆくのを感じる。肌の暖かさが、ほんの少しだ
け熱くなる。多分、凛は顔を真っ赤にしているのだろう。

「にゃ、にゃに言ってるのよ、この……馬鹿っ! そんないきなり……って、
や、んっ……ああっ、士郎、また……硬くなって……」
「大丈夫、本当に嫌だったら途中で止めるから」
「…………………」
「…………遠坂?」

 突如、黙りこくってしまった凛を覗き込むように士郎が窺うと、

「―――なんか、士郎の方が発情期みたい………にゃ」

 顔を赤らめながら上目使いでそんなことを言うから、士郎は何も言い返せず
にはにかんだ。
 そして、言葉で答える代わりに、行動で応える。
 士郎の眼前で嬉しそうに猫耳が跳ね、二人の間で、艶やかな毛並の尻尾が嬉
しそうに揺れた。



                                                                          了