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「こ、ここまで来れば……」

 トラクター顔負けに二人の身体を引っぱって、俺はこの路地裏の袋小路にた
どり着く。
 ビルの切れ間から差し込む光が、教会のステンドグラスのような光線を描く。
それはここが埃っぽいからに他ならないが、この袋小路は不思議なぐらい厳粛
な雰囲気がある。

 この町の秘めたるアジール、というか。

 俺は服が皺になるほど掴んでいた手を離して、映画館前から初めて二人に振
り返った。
 さぞかし怒っていることだろうな、と内心ひやひやして振り返ると――

「おや、ここですか、懐かしいですね……遠野くん」

 先輩は平然とした顔をして当たりを見ていた。怒っている様には見えず、む
しろ楽しんでいるような気がする。ここに連れてこられたことに腹を立ててい
ると言うよりも、何かの遊びのネタを見つけたかのような雰囲気。

 もう一名の、怒っていて当然の秋葉に目を向けると……

「……………」

 ――あれ?何故?

 俺が思わずぽかんと口を開いてしまう……秋葉の様子だった。
 秋葉はスカートの前の裾を押さえ込むようにして、真っ赤な顔で俯いている。
それも内膝を擦り合わせるようにして内股になっていて、もじもじしているか
のような。
 先ほど先輩と喧嘩していたのが嘘のような、しおらしさ。

 二人とも頭から湯気を出すほど怒っているから、必要とあれば土下座をして
でも宥めなくては……と考えていた俺の頭の中のシナリオは、一瞬で吹き飛んだ。
 先輩は怒っていないし、秋葉に至ってはしゅんと大人しくなっている。

 俺は拍子抜けして秋葉と先輩を交互に見つめる。用意していた説得の科白も
頭の中から消え去ってしまい、ぱくぱくと酸素の足りない金魚のように口を開
くばかりの俺。
 秋葉はじりじりと後ろずさり、俺と瞳を会わせることもなく袋小路の壁まで
引き下がる。

 ……どうにも解せない秋葉の挙動だった。

「ど、どうした?秋葉」
「に、兄さん……あ、あんなことしなくたって良いじゃないですか……」

 秋葉の抗議の言葉だったが、声に力がない。どちらかというと、泣きそうな……
 わからない。なぜ秋葉が泣きそうな声をしているのか、秋葉の言う『あんな
こと』がなにであるのか、まったく、さっぱり。

 もしかして慣れないミニスカートを履いてきたことで戸惑っているのかも知
れないけども……それにしても、今の秋葉の様子は……おかしい。
 何故こんな風になってしまったのか?さっきまで自信満々に振る舞い、あま
つさえ先輩と激突する覇気があったのに。

 わからない。

「……あんなことって?」
「そ、それを私の口から言わせるんですか、兄さん!」

 秋葉はキッと顔を上げて俺を見つめる――赤く泣き崩れそうな顔で、目尻に
は涙が浮かんでいた。なぜ?何故秋葉はこんな風に……
 俺はなぜ?とこれ以上口にすることが出来なかった。秋葉は激発するかその
まま泣き崩れるか、きわどい線上に彷徨っているように……

 その時、俺の背中の方からぽんぽん、と肩を叩かれる。
 先輩が俺の肩に手を置いて、軽く肩をすくめて見せた。振り返る俺が見えた
のは、可笑しそうで、それでいて――不思議に淫らな感じのする笑いであった。
 なんで、先輩がこんな表情で笑うのか、俺には……わからなかった。

「遠野くんは、気が付いてなかったんですか?」
「いや、ごめん先輩……なにがあったのか、全然分からなくて」
「そうかも知れませんね、遠野くんは振り向きもしませんでしたから」

 やれやれ、と先輩は軽く頭を振る。
 さっきからというもの、一体何が起こっているのか俺には分かりかねる事態
が続いていた。
 秋葉が先輩を睨んでいるようだったが、力無い今の秋葉で俺ですら威圧感を
感じることはない。

「…………」
「遠野くんは見てなかったみたいですし、秋葉さんの口からは説明が難しい様
ですから、ここは不肖シエルこと私がお答えしましょう」

 先輩はぴっと人差し指を立てて、意気込んでいる。俺ははぁ、と先輩に生返
事を返すのが精一杯だったし、秋葉は内股で俯いて口を閉ざすばかり。
 秋葉の口元は一直線に結ばれていて、言葉が漏れてきそうもない。ならば、
先輩から教えてもらわないと……

「……一体、秋葉に何があったのかな?」
「一言で言えば簡単なんですけどね……まぁ、論より証拠というか」

 先輩は俺の肩から手を離すと、鼻歌混じりに壁際の秋葉に向かって進んで
いった。
 俺が見守る中、先輩の背中が秋葉に近寄っていた。壁に詰められた秋葉は、
そんな先輩の顔を見て――絶望したような、歪んだ泣きそうな顔をしている。
なぜ、先輩に近寄られるだけで秋葉はこんなに……

 わからない。

「……シエルさん……お願い……」
「あ?私は辞めてもいいんですよ?秋葉さんが遠野くんに説明してくれれば、
喜んで」
「…………」
「まぁ、先ほどは中身の入った缶を投げ付けられましたから、お返しですね」

 秋葉のひどく弱々しい抵抗。一体何が……
 秋葉の前でシエル先輩は立ち止まって、説明し始めるかと思っていた。
 だけども先輩は、膝と膝をぶつけるほどに秋葉に近寄って――

「先輩?秋葉になにを……」
「遠野くんには、論より証拠、百聞は一見に如かずという実例を見て貰おうかと」
「……や……やめて……」

 秋葉の前の先輩はポケットの中に手を差し込む。
 そして、秋葉の耳元に顔を寄せてなにかを囁きかけた――言葉の中身は聞き
取れないけども、何かの警告のような……ですよ、という語尾だけが俺の耳に
はいると、秋葉は耳まで顔を赤くして顎を引く。

 こんなにしおらしい秋葉の素振りを見るの滅多にないことだった。一体何が……
それに、先輩はなにを知っているんだろう?
 先輩はちらりと俺を肩越しに振り向くと、その顔は悪戯そうに笑っていた。

 俺の見守る中、先輩がポケットの中から取り出しだのは、レターオープナー
みたいな小さなナイフだった。銀色の刀身には刃は付いてないみたいだったが、
それでも切っ先は尖って鋭そうだった。
 ナイフを見て俺が声を上げる間もなく、先輩はナイフ片手に秋葉の腕を――

「シエルさん、ああ……!」
「秋葉さん、往生際が悪いですよ、さぁ」

 先輩は、秋葉の手を万歳させるように持ち上げる。
 秋葉の両手首が高く掲げられ、打ちっ放しのコンクリートに押し当てられた。
 そして、その手首の間に素早く先輩はナイフを――

「あ……」
「影縫いですよ、遠野くん。見たことあるでしょう?」

 秋葉の両手首は、ナイフによって壁に貼り付けられた。
 ただ、ナイフは秋葉の掌や腕を貫いているわけではない。丁度、光線の具合
で影を作る秋葉の両手首の間に刺さり、その影を壁に縫いつけていた。だが、
それだけでも秋葉の腕は鎖にでも繋がったかように、壁に吊されている。

「くっ……こんな……」
「ナイフは銀ですから、生半可な事では抜けませんよ。さて、遠野くん」

 秋葉は腕を吊されて呻くが、その身体が……ひどくいやらしい。
 先輩は秋葉を押さえつけると、くるりと振り返った。そして俺の視界の中に、
ほっそりとした囚われの秋葉の身体が苦しげに身じろぎしている。
 秋葉のミニスカートから伸びた足に瞳がどうしても言ってしまう。先輩の手
前、妹の秋葉の足をじろじろ眺める訳にもいかないから目を逸らそうとするが……

 やはり、どうしても震える秋葉の両膝に目が。
 ……震える?秋葉の膝が?脅えるように?
 なぜ?俺は目を疑った。

「……遠野くん、聞いてますか?」
「え?その……先輩?」
「しっかりして下さい……もしかして秋葉さんのこの囚われの様でこーふんし
てるんですか?」

 先輩は軽く肩を振るわせて笑うがなんとなく、淫靡な空気が漂う。
 秋葉は唇を噛み、前髪に顔を隠して俯いている。身体は小刻みに震え、まる
で恥辱に震えるお姫様のような……
 わからない。

「なんで……秋葉を縛る必要が?」
「ああはい、簡単です。こうでもしないと抵抗されますから」

 俺の問いに簡単明瞭に答える先輩。だが、なぜ抵抗されるのかに触れていな
いので意味不明であった。俺が首を傾げる間もなく、先輩は話を続ける。

「で、秋葉さんが怒ってた理由ですけどね。簡単ですよ、はい」
「……ど、どういうことなの?先輩?」
「ふふふ、心の準備は良いですか?遠野くん」

 先輩はそういいながら、秋葉の身体に手を伸ばす。
 心の準備、などと先輩は言っても俺のことを待つでもなく、先輩の腕はすん
なりとした秋葉の胸元からお腹、そして腰のスカートへと進んでいった。俺は
固唾をのんで先輩と秋葉を見守る。
 そして、スカートの裾を先輩の指が引っかけたその時――

「や、やぁぁぁぁ!」

 秋葉の悲鳴が袋小路を木霊する。
 それは胸の中に切り込むような鋭い叫びであった。妹の秋葉が辱められてい
る――にもかかわらず、俺の心は秋葉に恥辱を与えられることを望んでいたか
のように、その声に……興奮を憶えていた。

 じっとりと、握った拳の中に汗が滲む。
 先輩の指は、太股の中程の秋葉のスカートを握っていた、そして、その裾を
ゆるゆると、ストリップのように持ち上げていく……

「これが……理由ですよ、遠野くん」
「お願い……兄さん、見ないで……兄さん……」

 秋葉の弱々しい嘆願の声が聞こえた。微かに涙声混じりの、秋葉の声。
 こんな事をする先輩もどうにかしているけど、秋葉の声を、姿態を、そして
その恥辱を見つめ興奮し始める俺もどうにかしている……わからない。

 わからない。
 
 先輩の手は、秋葉のスカートをすっかりとめくり上げていた。
 晒された秋葉の股間には、いつも見ているレースのショーツが……

「…………秋葉?お前……」

 思わず俺は目を剥いて聞かせるまでもなく呟く。

 なぜなら、秋葉の股間を覆い隠すショーツが無かったから。

 先輩によってめくられたスカートの中には、秋葉の柔らかく秘丘を被う陰毛
と、肉付きの浅い足の隙間に陰裂の窪みが見える。秋葉はノーパンであった……
それも、ミニスカートを履きながら。どうしてそんなは令嬢にあるまじき、し
たない真似を秋葉が?

 わからなかった。ただ、予想もしない所で俺の目の前に晒された秋葉の下腹
部に宿るむき出しの恥部が、ひどく淫猥だった。清純にも見える秋葉の中に、
こんなにいやらしい肉が秘められていたと改めて思い知られるように。

 先輩も、そんな秋葉の股間を見つめていた。

「この通り、秋葉さんはミニスカートにのーぱんという恰好だったんですよ、
遠野くん」
「やめて……もうやめて、シエルさん、それに兄さんも、ああ……」
「それで遠野くんが秋葉さんの手を引っぱって走るものだから、もう」

 シエル先輩は、思い出したようにくつくつと笑う。
 秋葉はがっくりと項垂れ、縫い止められた手首に身体も吊されてぐったりし
ている。顔は見ることは適わなかったけども、きっと未曾有の屈辱にうち砕か
れているのじゃないのかと思う。

「きっと、町のみんなに見られたでしょうね。秋葉さんのお尻」
「やめて……」
「もしかして、女の子のあそこも見られたかも知れませんね」
「やめて……やめて……」
「遠野家のお嬢様が痴女同然に、ミニスカートからあそこを覗かせて走ってい
た……きっと噂になります、実は遠野家のお嬢様は露出狂だったんだって」

 先輩は秋葉のスカートを掴んだまま、秋葉を言葉で嬲り始めている。
 兄として、先輩にやめさせるべきだった……が、俺はエスカレートしていく
先輩の言葉をむしろ楽しんでいた。一体どのように秋葉を先輩が責めぬくか、
興味が……押さえきれない。
 いや、俺もそれに一枚噛みたいとも思う。秋葉の打ち震える様を眺めてみた
いという、淫靡な欲望。

 秋葉の口は、ヤメテと繰り返すばかりだ。いつもなら気丈に言い返す秋葉は
ない。
 今の秋葉は拘束され、俺とシエル先輩に視姦され、そして言葉責めに翻弄さ
れる弱い……いつにない弱々しい秋葉。
 だが、それがひどく欲情をそそる。

 俺は、からからに乾いた喉から言葉を絞り出す。

「ふぅん……秋葉は、ぱんつを履かないで俺に待ち合わせに来たわけか」
「……に、兄さんまで、そんな……」
「それも、俺も初めて見るミニスカートで……なぁ、秋葉?」

 俺は秋葉の捉えられた壁に、進んでいく。
 先輩は俺の方を見ると、頷く。先輩は俺の顔色を伺ったようだったが、俺が
なにを考えているのかを読みとったようだった。俺が見る限りの先輩は、この
秋葉責めに――協力を惜しまない様子を見せている。

 秋葉の前まで来ると、項垂れた秋葉の顎に指を触れる。
 小さな秋葉の頤を持ち上げると――今まで垂れた黒髪に隠れた秋葉の顔が露
わになる。
 秋葉は、涙を溜めた目で……俺を見上げている。その顔はあの気の強く自信
家の秋葉ではなく、恥辱に震え迫り来る責め苦に恐怖する少女の……無類の美
少女の顔だった。

 ごくり、と空唾を飲む。

「秋葉?いったい……何を期待してノーパンで出歩いていた?もしかして、琥
珀さんの差し金か?」

 ふと考えられうる可能性を口にする。琥珀さんなら俺の気を引くために、そ
ういう無茶な献策を秋葉にしかねない。それに、秋葉が恥ずかしい目にあって
も琥珀さんは平気、というかむしろ喜びを憶えるかも知れないのだから。

 俺は秋葉の瞳を見つめて問う。だが、秋葉は……頷きはしなかった。

「ははぁ、あの琥珀さんならそれくらいするかも知れませんね。でも、秋葉さんも」

 先輩はスカートを掴んでいた手をようやく離す。
 一瞬秋葉の顔に安堵の色が浮かぶ、が、それは早すぎだ。
 横から腕を差し込む姿勢の先輩は、スカートを手放した代わりに――その手
を秋葉のスカートの中に差し込んでいた。

「ひぃ!」
「……濡れてますよ、秋葉さん。内股までべっとり」

 先輩がそう話しながらも、見つめているのは俺の顔だった。
 先輩の顔に浮かぶ淫らな喜び。俺はそれに欲望に駆られた笑みを返す。
 秋葉は女陰を先輩に触られ、俺の前に悲痛な顔色を見せていた。

 俺はそんな秋葉の顔に、顔を寄せていく。
 泣き出しそうな秋葉の顔を間近に見つめながら、俺は秋葉の唇を……奪った。

 秋葉の柔らかい唇を、ぴちゃぴちゃと貪る。
 秋葉は目を閉じて、唇を奪われるままにされていた。加えるようにして柔ら
かい肉を楽しみながら、俺は秋葉の首筋を撫でる。

「秋葉さん……ノーパンで出歩いていて、興奮したんですね?」
「…………ん、はぁ……」
「それも、町中で見られないかどうかを不安に思いながらも興奮したんですね?
身体は正直ですよ?秋葉さん、こんなに――滴らせながら歓んで」
「ひゃ!はぅぅぅん!」

 先輩の声と共に、唇と会わせる俺の口の中にも秋葉の悲鳴と息が流れ込む。
 ぴちゃぴちゃという俺と秋葉の唇を交える音に加えて、秋葉の身体からくちゃ
くちゃと湿った音が聞こえる。きっと先輩が、秋葉の女裂を指で弄んでいるん
だろう。

 俺は舌で秋葉の唇の中を貪りながら、先輩の言葉責めに耳を傾ける。

「ソックスまで伝ってきましたよ、秋葉さんの愛液……こんなに濡らして」
「……う、う……はぁぁ……」
「きっと、遠野くんに腕を引かれて走りながらも、こんな風に感じていたんで
すね……なんて、いやらしい」

 先輩の語尾が微かに歪んだ様な気がした。
 それと共に、秋葉の舌が俺の口の中で痙攣する。

「んんぅぅぅぅぅ!」
「……ふふ、感じやすいんですね、心も体も……秋葉さん」

                                      《つづく》