◇ ◇
「よかったよ、気に入ってくれて」
映画館から少し離れた品の良い洋食屋。
次に入ったのは、兄さんのお勧めだというお店だった。
「兄さん、よく来る処なんですか?」
「一度だけね。有彦に教えて貰ったんだ。でも雰囲気も良いし当たりだったかな」
「そうですね、良いお店ですね」
そう大きくは無いが、なんとも言えず落ち着く雰囲気。
内装とか、浮ついた感じの無い上品さが心地よい。
注文を取りに来た店員の応対なども洗練さを感じさせる。
湯気を上げたお皿が運ばれた。
「とりあえず食べようか」
「はい」
さっきの映画の事など話しながら、ナイフとフォークを動かす。
美味しかった。
食事を楽しむなんて、久々のような気がする。
こうして兄さんと二人きりでお喋りしているだけで、この上の無い極上の食
事に思えてくる。
「何か飲むもの頼もうか? それともデザートでも?」
話が弾んでいるうちに皿は下げられている。
既にティーカップも空だった。
「そうですね、もう一杯、今度はダージリンにします」
「うん」
兄さんが女給さんを呼んで注文をする。
また、とりとめのない会話。
そしてしばらくして、お盆を片手に注文の品が運ばれた。
「で、兄さんはそれを注文なさったんですか」
「うん」
「なんでまた」
「いや、お勧めって聞いたから。一人で来てこんなの頼めないし、有彦と来て
一緒に食べるのも嫌だしさ」
プリン・ア・ラ・モード。
兄さんが頼んだのは、生クリームとフルーツを従えたプリンだった。
美味しそうと言えば美味しそうだけど。
「兄さん、甘いものは苦手……、じゃないですね、そう言えば」
「プリンにはちょっと思い入れというか、昔の思い出があるんだ」
少々恥ずかしそうにしながら、兄さんは食べ始める。
スプーンが動き、ぷるぷるとした山を崩すのを、眺める。
う……、なんだか兄さんが可愛い。
「何だ、秋葉も食べたかったのか?」
じっと兄さんを見つめていると、訝しげな顔をされた。
別にプリンが欲しい訳では……。
「ほら」
え?
一匙しゃくると、兄さんは手を伸ばして私の口元に差し出す。
そんなに物欲しそうに見えたのかしら。
反射的に口を開けて、それを咥えた。
うん、この生クリームと混ざった味がなんとも言えない。
確かに美味しい。
……って、味わってる場合じゃなくて。
これって。
間接キスよね。
兄さんと……。
かあっと頬が熱くなる。
兄さんも自分の行為に気づいたのか、頬を紅潮させている。
わ、わ、恥かしい。
「兄さん、私、ち、ちょっと化粧室へ」
「あ、ああ」
緊急退避。
逃げる必要はないけど、不意打ちみたいだったから。
びっくりした。
鏡を見ると、あーあ、真っ赤。
本当に、中学生のデートみたいだ。いや、小学生かしら。
なんでこんな事くらいで。
意外と免疫ないものね……、私。
まあ、いいわ。
少し間を置いた方が兄さんも落ち着くし。
このままだと変にぎくしゃくしちゃうものね。
せっかく来たんだし。
どうせだから……、紙はあるわね。
こういう処も綺麗にしているのは一流ね。
さて、と。
ええと。
あれ?
……。
なんで?
嘘?
どうして?
なんで、私何も穿いていないの?
ぱんつはどうしたのよ。
途中で脱げた?
まさか。
良く考えるのよ。
冷静に、落ち着いて。
冷静に事を運べばいつもうまくいくものなんだから。
……。
もしかして、朝から?
慌ててお風呂にもう一回行って、その後で……。
あああああ。
バカ。
私のバカ。
気付かれてないわよね。
兄さん、気づいてないわよね。
大丈夫よね。
うん、それは大丈夫だわ。
でも気を付けないと。
こんな街中でのーぱんでいるなんて、絶対に気付かれる訳にはいかない。
とりあえず戻ろう。
長居するのは変だし。
平静に、落ち着いて。
さっきまでのように自然に。
うう、意識するとなんだかすーすーするように感じる。
なんでさっきまでは平気だったんだろう。
「どうしたの、秋葉?」
「え、な、何ですか、兄さん」
「いや、トイレ行ってから何か変だから」
「そ、そんな事はありません」
「そう……?」
ダメ、兄さんを正視できない。
そんな様子が、より兄さんに不審がられるのはわかるけど。
◇ ◇
噛み合わない会話をそれからしばらく続けて、外へ出た。
外へ。
座っている限りは少なくともバレる事はなかっただろうけど、歩いていると
なるとそうはいかない。
そろそろと脚を開かぬようにゆっくりと歩く。
しかし危険の少ない歩き方をするほど、兄さんの私を見る目に疑問符が幾つ
も増えるのを感じる。
努めて明るく話し、ウインドゥ・ショッピングを楽しむふりをしてごまかそ
うとしたけれど、自分でも違和感を感じる。
うう、何でこんな事に。
本当ならもっとべたべたと兄さんに甘えるはずだったのに。
怖くて、あまり大胆に動けない。
何かの弾みで転んだり、服が引っ掛かったりしたら……。
怖い。
いっそ家に帰ってしまえばいいのだど、こんなめったにない逢瀬の時を。
だいたい兄さんにどう言えばいいのだろう。
言えはしない。
でも、バレたらどうなるんだろう。
こんな処を見つかったら。
こんな、兄さんとのデートの間中ずっとこんな恥ずかしい格好で街を歩いて
いた事が知れたら……。
びっくりして、そして私のことを軽蔑するだろう。
今の今まで、まったく普段と変わらずに、少しの羞恥の様子を見せていなか
った事も、深読みされたらどんな風に思われるか。
穿き忘れたなんて事は、きっと信じてはくれないだろう。
こんな恥知らずな格好で、平気で人前に出る変態だと思われるに違いない。
今だけでなく、頻繁にこんな真似をしていたのだと。
私の事を気遣ってくれて、私の為に時間を割いてくれて、普段以上に優しく
接してくれている兄さん。
裏切られたと怒るのではないだろうか。
その怒りが行動に転じて……。
どこかの路地裏、建物の隅、空いている部屋、何処かそんな処に腕をつかま
れて連れ込まれて。
「秋葉がこんな女の子だとは思ってもみなかったよ。……がっかりした」
「違うんです、兄さん」
「何が違うんだ、こんな格好して?」
兄さんは無造作にワンピースの裾を捲り上げる。
露わになる足、太股、そして隠すもののないあそこ。
兄さんの目に、恥毛も谷間も全て晒される。
一瞬兄さんは息を呑む。
そしてさらに猛々しく言葉を続ける。
「これが普通だとでも言うのか、秋葉は?
そうか、いつもこんな格好で俺や琥珀さん達の前に立っていたのか。こんな
恥知らずな格好が秋葉の普通なんだ。いかれてるよ、秋葉。
自分の妹がこんな淫乱な真似をするなんて、清純だと思っていた秋葉が街中
で恥かしい処を晒して悦ぶ露出狂だったなんてな」
「そんな、ひどい」
「なんだよ、そんな傷ついた顔して。本当は喜んでいるんじゃないのか?」
「違います、兄さん、信じて下さい」
「じゃあ、確かめてやるよ」
後ろから兄さんが抱きつく。
胸をつかまれ、太股に手が伸ばされる。
「やだ、兄さん、何をするんです」
「だから、確かめてやるって。秋葉が露出趣味のある変態じゃなければ、こん
な真似をされても感じたりはしないだろ。
でも、こんなすぐ傍に人がいるような状況でもしも感じるなら、どんなに言
い訳したって、おまえの本性は明らかにされたって事さ」
「そ、そんな」
「ちゃんと秋葉が、これ持って見える様にしてろよ、隠さずにな」
ワンピースの裾を高く掲げて、そのまま下半身を剥き出しにするよう命じら
れる。
自分の手で、兄さんの目に恥かしい処全てを晒す事を強制される。
そんな恥かしい事……、でも逆らえず、私は従う。
兄さんは後ろから両手で胸をゆっくりともんだり、前に回って太股の内側を
手で撫ぜたり、お尻に手を這わせて時折ぎゅっと強く掴んだりする。
服の上から兄さんの手が薄い私の胸を掴む。
僅かな膨らみを押し潰す様にぎゅっと圧迫したり、ゆっくりと弧を描くよう
に動かしたり。
指先で探り、敏感な先端を重点的に弄ったり。
軽く引っ掻く様に乳首に与えられる刺激が、もどかしくも体を痺れさせる。
剥き出しの腿やお尻への刺激はもっと直截的に快感につながる。
すべすべな腿の感触を楽しむように何度も手を滑らせる。
力を入れずに羽で撫ぜるようにお尻に手で触れる。
かと思うと柔らかさを楽しむように、きゅっと指を食い込ませる。
片手で、そして両手で、左右に開くように。
お尻の谷間がぎゅっとひっぱられて開く。
そして、ただ肉体的な刺激だけではなくて、言葉でも私の頭を痺れさせる。
「小さいけど、ちゃんと柔らかいよ、秋葉」
「少し、先っぽが硬くなってきたかな」
「秋葉の白い太股、綺麗な肌で触ってるだけでどうにかなりそうだよ」
「お尻も柔らかいな」
「こうしてぎゅうってすると、開いて、秋葉の後ろも丸見えだな」
「こんな処まで、全部。でも意外と可愛いな、秋葉のは」
必死で私は我慢する。
感じちゃいけないと。
でも。
でも、そう思えば思うほど敏感になる。
意識しないようにしても、兄さんの指を、手を、視線を細胞の一つ一つまで
強く意識している。
そんなの当然だ、こんな異常な状況であれ、これは夢にまで見た兄さんから
の愛撫なんだから……。
秘裂に手を触れられないのだけが救いだけど、そこだけ触れられていないと
いう事実が、かえってそこを強く意識させる。
それに、時折覗き込む兄さんの視線。
触られたみたいな錯角すら覚える。
「あーあ」
「え?」
「やっぱりだな。自分の妹が下半身丸出しで町に出掛ける淫乱だなんて、傷つ
いたなあ。すっかり感じちゃって」
「そんな……」
「じゃあ、これなんだよ?」
兄さんの指が、下から上へと閉じたままの秘裂を走った。
うんんッッッッッ。
いきなりのとてつもない刺激。
倒れそうになりながらも、何とか声を出すのだけは堪えきった。
「ここには指一本触れてなかったのに、なんでこんなになってるんだ、秋葉?」
人差し指の爪の先が濡れている。
もう一度兄さんは指で私の谷間をなぞる。
今度は二回、三回と。
「ほら、こんなに濡れてる」
人差し指と中指、親指をこすりあわせるようにして、広げる。
にちゃっと粘液が糸を引く。
私の恥ずかしい粘液。
「違います、私、そんな……」
「濡れてるよ、まるで雌犬だな。小さい頃に可憐だった秋葉が、ちょっと口う
るさいけど凛として眩しかった秋葉が、俺の前ではあんなに可愛かった秋葉が、
こんな露出願望がある痴女だったなんて」
「だって、あんな事されれば……」
「ふうん、やっぱり感じてはいるんだ。
じゃあ、秋葉をもっと悦ばせてやるよ。
みんなに見て貰おう、きっとそれだけで秋葉はイくかもな」
「ダメ。嫌です。兄さん」
「いい演技だな。まるで本当に嫌がっているみたいだ。
そうだよな、さっきはまるで俺に気付かせなかったもんな」
そして強引に腕を引っ張られて……。
そこにいた人たちの、奇異の目が集まる。
兄さんはワンピースの裾を捲くり上げ、すっかり太股に伝わるほどしとどに
濡らした私の……。
いくらなんでもそこ迄はしないわよね。
何を考えているんだろう、私は。
兄さんの横顔をちらりと見る。
そんな鬼畜な真似を兄さんがする筈ないわ。
じゃあ、どんな風にするんだろう?
私のこんな姿を知られたら。
そうだ、例えば……。
そうね、手を掴んで引っ張っていかれたりして。
誰も来ない二人だけになれる処。
良くは知らないけれど、ホテルの一室とか。
無言で痛いほど手を握り締めて兄さんは、そこまで来て鍵を掛ける。
これからどうなるのか不安に駆られている私に、向き直る兄さん。
その目は凶暴な色を湛える事無く、穏やか。
でも私はそこに、普段の兄さんでない何かを感じる。
「秋葉は、遠野家の当主だよな」
「は、はい」
唐突な言葉に戸惑いつつも答える。
うん、と確認するように頷き、兄さんはまた言葉を続ける。
「だから家の事については、秋葉が言う事が絶対だよな。琥珀さんや翡翠はも
とより、俺も秋葉の意志に従わなければならない」
「え……」
「ちょっと口うるさいなとは思うけど、秋葉は無理難題を言っている訳ではな
いし、俺も出来るところは規則とか守ろうとしてる。でも、けっこうはみ出し
て秋葉を怒らせちゃうけどな。
でも、秋葉が当主だという反面、俺は秋葉の兄でもあるよな。たとえ血の繋
がりのない関係だと……」
「兄さんは、私の兄さんです」
思わず叫ぶ。
兄さんが私との関係に、脆弱さを匂わせるのが辛くて。
「秋葉は俺のこと兄さんだと言ってくれるんだな」
「当たり前じゃないですか。私は兄さんの妹です」
「そうか。じゃあ、兄としての義務を果たさないといけないよな、秋葉?」
「兄としての義務?」
「妹が道を外しそうになったら、きちんとそれを正してやらなくてはならない
な、と言っているんだ。兄として」
「は、はい」
「街中でこんな恥知らずな格好をして喜んでいる妹には、きちんとした道徳教
育としつけが必要だろうな。心を鬼にして厳しく……」
え、どうして?
怖い。
優しいといっていい表情なのに兄さんの顔が、何故か怖い。
「こっちにおいで、秋葉」
ベッドの上?
え、何を?
でも、逆らえない。
この兄さんの目には逆らえない。
近づく。
真ん中を空けているという事は、ここに座るの、それとも寝るのだろうか?
「四つん這いになって」
「なんで」
「聞こえなかったかい、秋葉?」
「は、はい。わかりました」
ベッドが少したわむ。
膝を立てて四つ足になる。
「それでいい。そのままじっとしてるんだ」
兄さんが近づく。
あ、ワンピースの裾を持って、捲り上げて。
「嫌、何をするんです」
「じっとしてろと言っただろう」
構わず兄さんは後ろから捲り上げて……、私は何もつけていないお尻を剥き
出しにされた。
後ろに回っている兄さんの目を感じる。
「しかし、秋葉にこんな趣味があったなんて」
「違うんです、兄さん、これは……」
「いいよ、言い訳は。出来れば帰宅するまで気付きたくなかったよ。でも良か
ったかもしれない。誰か他の人にばれる前で。
じゃあ、お仕置きだ」
「え、あ、きゃあぁぁ」
兄さんがいきなり私の太股を掴んだ。
二本の脚を束ねるように片手で押さえ、持ち上げるように支える。
バランスが崩れ、私はシーツに上半身を突っ伏す。
お尻だけが上を向いて突き出している格好。
そして、何事かともがいた時、強烈な衝撃があった。
パシィィィィッッッ!!!
「ひぃんんッッ」
悲鳴が独りでに口から洩れた。
でも何が起こったのか知覚が伴わない。
何かが破裂したような……、これは痛み?
バシンッッッッッ!!!
また、その衝撃。
今度はわかった。
お尻に激しい痛みが。
首を捻じ曲げるようにして顔を後ろに向ける。
目に映った。
兄さんの手。
振り上げられた手。
それが凄い勢いで、私の……。
バシッッィィィィッッッッ!!!
「ひあッッ、んんぁぁぁ」
次々に熱いほどの痛みが走る。
兄さんがお尻を叩く度に私は、堪えきれず悲鳴を上げる。
「ひいいぃぃ、……んあッ、あああん、痛い、痛いです、兄さん」
兄さんは私の悲鳴にまったく斟酌しない。
十回ほどだろうか、数なんかわからない。
「やめて、もう、死んじゃう。許して、許して下さい、兄さん」
「よし、最後だ。反省したか」
「はい、反省しました。ごめんなさい。ああっ、兄さん、ああぁぁッッッ」
わからない。
とにかくその激しい苦痛から逃れたくて、謝り、慈悲を乞う。
定期的な激痛の炸裂が止まる。
許して貰えたのか、と気が緩んだ時。
パシシシィィィンンンンンッッッッ……!!!
最後に一際高く、破裂したような音を立てて兄さんの手が一撃を加えた。
その強烈な痛み。
そして、それで終わったという圧倒的な開放感。
それで堰を切ったかのように、脱力してしまう。
全身の力が抜けた。
兄さんが支えていてくれなければ、そのままベッドに突っ伏していただろう。
「秋葉、大丈夫かい?」
優しい、兄さんの声。
さっきまでとは全然違う声。
「はい、痛いけど、大丈夫です」
お尻がジンジンと痛む。
痛みもそうだが、酷く熱い。
「辛かったろう。でもこれも秋葉の事を愛しているから、兄としての務めとし
て、心を鬼にしてやったんだ」
「はい、わかります」
「でも、少しやりすぎたな。あんなに真っ白で綺麗だった秋葉のお尻が、こん
なに真っ赤だ。
ごめんな、これで少しは楽になるかな」
ぴたん。
あ、気持ちいい。
濡れたタオルを当てくれた。
そのひんやりとした冷たさは、火照った肌に染み入る。
「それに……」
ちょっと困ったような顔をする兄さん。
別なタオルが太股に当てられる。
そして、剥き出しの股間にも。
これも気持ちいい。
びちゃびちゃになっていたのが拭われると何とも……。
えっ?
体を起こす。
な、何、これ。
お布団と、脚、兄さんのシャツが濡れて染みになっている。
股間から滴ってまだ脚を伝っているこれ。
生温い、これは……。
「やりすぎたな、最後のショックで秋葉、いきなり……」
「いやぁぁぁぁあああッッッッッ」
聞きたくない。
のーぱんで街中を歩いたと誤解されて、兄さんにおしおきをされて、その挙
句に粗相をしてしまうなんて。
兄さんの目の前で失禁して、びしゃびしゃに……。
死にたい。
こんな恥を晒して……。
うわああんんんんん。
ぎゅっと抱き締められた。
「ほら、泣くなって、秋葉」
「ひん、ぐしゅ、ひんッ、は……、はい、で、でもこんな……」
「秋葉のなら平気だから」
唇が近づく。
え、ああ……。
こんな時なのに、兄さんの唇は私を酔わせる。
うっとりと兄さんの唇と舌を受け入れる。
そのまま、兄さんは私の体を横たえる。
そして……。
「秋葉、秋葉ってば」
「え、……兄さん? 私」
いつの間にか、また妄想の世界に浸っていた。
何処、ここ?
お店とかを回っていた筈じゃ。
駅前よね、ここ。
「今日はもう帰ろう。ちょうどタクシーも待たずに乗れるし」
「ええと」
「さっきから呼んでも生返事だし、調子が悪いんだろ、見てても辛そうだ」
「いえ、その」
妄想に耽っていたとも言えないし。
どうしたんだろう。
意識しないようにと思って、かえっておかしくなっているんだろうか。
せっかくの兄さんとのデートの最中に。
いやらしい事ばかり考えていて。
まさかとは思うけど、兄さんとのデートの最中に下着を着けずに街を歩いて
いるのを本当に……。
いえ、そんな事ないわ。
でも……、これ。
このにちゃりとした感じ。
少し濡れてきているのだろうか。
……。
これは、痴態を晒す前に帰った方がいいかもしれない。
「また、今度一緒に出掛けよう、秋葉がよかったら」
「すみません、兄さん。昨日から嬉しくて気を張り詰めていて、おかしくなっ
たみたいです」
「遠足前の子供みたいだな。でもそんなに楽しみにしてくれたんだ」
「だって兄さんとお出掛けなんてほとんどないし。今日も私も本当に楽しくて」
「そうか。うん、俺も楽しかったし、秋葉がちょっとでも気分転換になったの
なら、誘ってよかったな。」
「はい。私、また兄さんと一緒に……」
「わかった、約束するよ、また何処かに行こう。
じゃあ、今日は予定よりずっと早いけど、帰って家でのんびりしようか」
ありがとう兄さん。
それに、ごめんなさい。
私が穿き忘れさえしなければ……。
《つづく》
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