「そんな危険なことをしないで頂けませんかね、アルクェイド
血を飲むと魔王転生しかねない貴女が、血の近似物質である精液を口にする
のを埋葬機関である私が看過するわけにはいきません」
ひらり、と窓からまたしても人が部屋の中に舞い込む。
黒い修道服の蒼髪の少女。そして、この場の三人には嫌と言うほど見知った顔。
アルクェイドはその声に舌打ちして向き直る。
「なによ、こんな所まで来て邪魔しに来なくても良いじゃない、シエル」
「なーにを抜かすんですかこの淫乱吸血鬼!さっさと遠野君から離れないと、
黒鍵を一ダースどころか一グロスお見舞いしましますよ」
「淫乱……って、それはアンタの方でしょ?昔のアンタと来たら老若男女どころ
か狗狼鹿熊まで乱れ撃ちだったくせに」
たちまち角を突け合い、額をぶつけんがばかりに言い争うアルクェイドとシ
エル。
またしても乱入してきたシエルにもはや、唖然とするばかりの志貴は一体ど
うしてアルクェイドとシエルがここにやってきたのか、それもこんな僅かな時
間差なのか、疑問は山ほどあるがいちいちを回答を得ることはおろか、口に出
すことも困難なこの状況である。
――わからない
シエルは、無言で睨む秋葉とこれまた険しい表情のアルクェイドを前に、何
故か胸を張ってえっへんと威張ったような仕草をしたかと思うと……
「それに、秋葉さんもアルクェイドも、そっちの方の経験は無いと見えますか
らね……」
「な、何を言い出すんですかシエルさん!?」
「……」
いきなりそんな指摘を受け、おもわず赤面してどもる秋葉と、図星で気まず
そうに顔を背けるアルクェイド。またしても話の方向が、自分に対してのフェ
ラチオの方に進んでいくのを察して、志貴はもはや溜息すらつけない有様であった。
「先輩、一体何を……」
「話の一部始終は窓の外で聞かせていただきました、遠野君。
アルクェイドさんも秋葉さんも、多分未経験者でヘタクソだから遠野君が満
足出来ることはないと思うんです。だから、私がお口でお手本を……」
窓の外で一部始終を聞いていても、全然理解してないじゃん……とつっこみ
を入れたい志貴だが、喜色満面でアルクェイドをはじき飛ばし、志貴の元に膝
でにじり寄ってくるシエルを見つめる。シスターの恰好のまま、先輩はあんな
事をしようとしている――志貴はそんな背徳感を感じ、せめてもの抵抗を示そ
うと手を振る志貴であったが。
「や、止めてくれ、先輩!」
「まぁまぁ、タチの悪い先輩に捕まったと思ってあきらめて下さい、遠野君
安心しても良いですよ、こう見えても昔はトゥールーズでは勇名を馳せて……」
だから、勇名ってなんなのさ!という質問を無視するシエル。
だが、いよいよ志貴の寝間着のズボンがぬがされんとしたその時、やおら笑
い声がドアの向こうから響き渡る!
「……何奴!」
「あははは、甘いですねーシエルさん……
シエルさんが勇名を馳せていたのは八年前……それも、僅かな間だったので
しょう?それではあまりにもブランクがあり、あまりにも技量が不足してます
ねー……だから、私の敵じゃないですよー」
ドアの向こうから声高に呼ぶのは、これまた聞き覚えのある口調と語尾の抑揚。
誰何の声を上げて立ち上がったシエルであったが、そんなことをいちいち尋
ねなくてもこの声の主は誰もがわかっていた。
――しかし、なんでそんなことまで知ってるのかねあの人は
志貴は軽く咳払いをすると、あきらめたような口調でドアに向かって呼びかける。
「……あー、そこにいるのは琥珀さん?」
「はい、失礼します、志貴さま」
そう言って頭を下げてドアを潜ったのは案の定――琥珀であった。
志貴の部屋で、都合これで五人目の人数となった琥珀はぐるりと辺りを見回
す。夜の遅くだというのに、いつの間にか志貴の部屋に集合している女性達を
眺めて、琥珀はにっこりと相好を崩す。
見つめられる志貴は、苦い顔で頷いたかと思うと……
「琥珀さん、その、琥珀さんも……俺にしたいと?」
「はい!」
手を合わせて如何にも嬉しそうに言う琥珀の姿を見て、いつもなら喜び心が
勇むのに今ばかりは重く沈鬱な心地になってしまう志貴であった。次々に現れ
て志貴にフェラチオをしようとする今日は、男冥利に尽きるかも知れないが、
一体いかなる星の巡り合わせだというのだろうか?志貴は真剣に悩んでいる。
「それは、シエルさんもヘタだとは言いませんけど、やはり実戦経験に裏打ち
された私のテクニックに比べれば雲泥の差だと思うんですねー」
「……言ってくれるじゃないですか、琥珀さん……」
にっこり笑って人を切って捨てる琥珀の姿に、鬼気迫る策士の姿を見る志貴。
一方バカにされたシエルはつい伸びる腕をぐっと押さえて琥珀を睨み付けるが、
琥珀はシエルにも、その傍らでジト目で睨む主人の秋葉や客人のアルクェイド
にも動じる様子を見せない。
気まずくなってきた雰囲気の中で、琥珀は何を可笑しいのかくすくすと笑い
始める。
「あははは、それに私だけがご奉仕する訳じゃないんですよー、志貴さん」
「へ?」
唐突な琥珀の宣言に呆気にとられていると、琥珀は先ほどくぐってきた扉の
向こうに戻って行った。しばらく扉の向こうで琥珀と誰かが言い争っていたか
と思うと、琥珀に後ろから肩を押されて部屋に入ってくる人影がある。
メイド服の少女は、言うまでもなく――
「……翡翠も、なのか?」
「はい、翡翠ちゃんもいっしょに志貴さまにご奉仕させていただきます。ほら、
昔からメイドさんはご主人様にお口でご奉仕って決まっていますから」
どこから仕入れてきたのか分からない知識を披瀝する琥珀に押されて、部屋
に入ってきたのは――真っ赤になって俯き、志貴の顔を見られないまま絨毯に
記した足跡を見つめている翡翠であった。
ここまで来たら、翡翠も登場しないわけがない――と志貴は内心思っていた
が、実際その通りになると食傷すら感じ始めていた。もはや場のイニシアティ
ブが奪われて久しい志貴が言葉を失ってはいたが、なんとか真っ赤になった翡
翠の顔を下から覗き込もうとする。
その仕草に気が付いた翡翠は顔を上げるが、すぐに顎が下がってしまい、志
貴以上に言葉を出すのが困難な様子であった。
今度は翡翠まで導き入れた琥珀に、秋葉がふん、と鼻で笑って言う
「琥珀、どういうつもりなの?翡翠は私以上に男性には縁がないと思うのだけど」
「いえいえ、翡翠ちゃんは指とかをお口でちゅぱちゅぱしゃぶるのに天与の才
がありまして、今も私が仕込んで居るんですねー。今でこそ翡翠ちゃんは私に
は及びませんが、半年で全国レベルに仕上げて見せますからー」
――全国レベルって何?ともはや琥珀に尋ねる余地はない。
もはやベッドの上で空しく乱入者を待つだけになった志貴を無視される恰好
になっていた。
一方、琥珀は背中から翡翠の耳元を口を寄せて囁きかける。
「ねぇ、翡翠ちゃん?翡翠ちゃんは志貴さまにご奉仕したくないの?」
「……」
「翡翠ちゃん、恥ずかしがらなくても良いの。こういうのはみんな誰もが通る
ところだから……それに、私が教えて上げるから」
「姉さん……」
双子のメイドさん同士がこうやって耳に口を寄せて囁き合う光景は、淫靡な
モノを感じさせる。息を飲む志貴だったが、すぐに周りから厳しい非難の視線
が都合三人分浴びせられ、居所無く小さくなるばかりであった。
「……埒が明きませんね、これでは……せっかくしたかったのに」
「でも、兄さんを譲る気は到底ありません、私は」
「妹の言うとおり、私も志貴にお口でして上げたいなー」
シエルと秋葉、アルクェイドが口々にそんなことを話し合っている。もし、
一人一人の台詞として聞くのであれば嬉しい台詞だが、井戸端会議のように言
われるとなんとも気鬱に聞こえるのであった。
「それに、誰が上手いかという話しになると……その……でも、テクニックで
負けていても、兄さんを想う情熱では私は負けません!」
「秋葉さん、それでは遠野くんが苦しいばっかりですよ……」
「でも、そう言う身体の話って上手い下手の他に身体の相性もあるしー」
「じゃぁ、こうしましょう!」
ぱちん、と手を打って琥珀が周囲の注意を集めると、さも嬉しげに提案する。
「みんなで順番に志貴さまにお口でして差し上げて、最後に志貴さまに誰が一
番気持ちよかったかを決めて貰いましょう!」
しぃん、と一瞬部屋の中が静まり返る。
皆、それぞれに頭を掻いたり顎に手を当てたりして、無言で提案の内容を熟
考しはじめる。だが、その真ん中でひとり真っ青になる志貴。
――そんな、ここの全員にやられるのか、俺!?
並み居る美女に次々にフェラチオされるというのは、それこそ淫夢の妄想か
も知れないが、現実にその立場に立たされると悪夢じみたモノがにじみ出てい
ることに気が付かされるのである。
一人一回だとしても、五人で五回。次々にフェラチオされ、続けざまに噴射
して果てたら……
「や、やめろっ!そんなに俺は保たない!」
身の危険を、いや有り体に言うと腹上死の危険を憶えた志貴は大声で叫び声
を上げる。だが、周りの女性たちから返ってきたのは冷たい視線と……
「却下です、兄さん。兄さんだって、いつも立て続けにするじゃないですか」
「遠野くん、心配しなくても良いですよ。いろいろ便利な術がありますから」
「はい、強精剤も注射で用意しますのでー」
「……頑張って下さい、志貴さま」
「うーん、これだけ回復の手段が揃えば五回どころか十回は大丈夫かもねぇ、
志貴」
あははははー、と無邪気笑うアルクェイド。
もはや、運も極まった志貴があははははー、と絶望に満ちた薄っぺらい笑い
の中に沈んでいる。目には光が無く、これから押し寄せるであろう官能の怒濤
の前に壊れてしまうのではないか?という危惧を辺りにまき散らしていた。
それでも、この場にいるのは志貴のそんなことをいちいち心配する連中では
ない。一人の時はともかく、二人三人となればなおさらであった。
「はいはいはーい!志貴くんが十回OKなら私も参加させてー!」
(To Be Continued....)
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