「お布団を床に敷きましょう。仕舞ってるのもありますから」

 そう言いながら褥の仕度をする。
 やはりベッドで遠野くんとアルクェイドにそういう事をされるのは嫌。

 諦めたように遠野くんは服を脱いでいく。
 何度も見た肌が露わになる。

 アルクェイドもてきぱきと身に纏ったものを剥いでいく。
 
 何、これ……。
 こんなのって……。
 今まで何度も死闘を繰り返し、彼女の纏っていた服をずたずたにして、半裸
になった姿などは見た事がある。
 でも、改めて白光の下でその姿態を目にすると。
 完全に目を奪われた。

 なんて、なんて綺麗な体。
 毛ほどの瑕もない白い透き通るような肌は輝かんばかりだった。
 量感溢れる胸は、絶妙な曲線を描いている。
 大きいだけでなく、張りがあってそれでいて柔らかそう。
 ウェストはほっそりとして形良くお尻のラインに続いている。
 脚は長く、すらりと伸びている。
 体のどの部分を見ても非の打ちどころがない。
 足首の形、小指の爪までなんて繊細に作られているんだろう。
 賞賛の言葉しか浮かばない。

 あの強靭な破壊兵器がなんで。
 日々ぐーたらしている浮浪猫の真祖がなんで。
 こんな美の体現みたいな姿をしていなきゃならないんですか。
 綺麗だなとはちょっとは思っていたけど、この一糸纏わずに頬を微かにバラ
 色に染めている姿は……。
 あまりに卑怯だ。
 ずるいくらい。

 こんなのを遠野くんは……。

 はっとして遠野くんを見ると、うっとりするようにアルクェイドに目を向け
ている。
 でも、それを責められない……。
 
「アルクェイド、おいで……」
 
 うん、と頷くと恥かしそうにアルクェイドは遠野くんに近づく。
 遠野くんは優しい目でアルクェイドを見つめ、抱き寄せる。
 ぎゅっと抱き締め唇を合わせてから、寝床へと誘う。

 ふと遠野くんと目が合う。
 ――本当にやるの?
 ――して下さい。

 ゆっくりと遠野くんは愛撫を始める。
 遠野くんの手が、唇がアルクェイドのいたる処を這いまわる。
 首筋、胸、お腹、背、お尻、脚、そしてとろとろになったアルクェイドの秘
処。
 その動きにつれてアルクェイドは高まっていくのがわかる。
 白い肌がぽっと色づき、口からは小さな吐息と抑え難い嬌声が洩れている。
 
 遠野くんも。
 最初はこのシチュエーション故にか、服を脱ぎ捨てると既に臨戦態勢という
いつもの状態にはなっていなかった。
 しかし今、遠野くんの心情を反映してうなだれていたペニスは、はちきれそ
うに質量を増していた。

「いくよ、アルクェイド」
「うん、来て、志貴」

 アルクェイドの中に遠野くんが入っている。
 腰が動いている。
  
 肉弾相打つような激しさではなく、ゆっくりとどこまでも優しくアルクェイ
ドを気遣いながら動いているのがわかる。
 
 随分といつもと違いますね……。

 アルクェイドの脚を取って斜めになる体位に移行し、アルクェイドが乱れ始
めるとまた正常位に戻る。
 ああ、遠野くん気持良さそう。
 アルクェイドも戸惑ったような表情をしつつも、明らかに感じている。
 ぎゅっとほっそりとした白い手が遠野くんの背中に回される。

 あ、もうすぐイクのかな。
 アルクェイドが小さく何かを告げ、遠野くんは頷く。
 遠野くんのスピードが上がる。
 アルクェイドの口から泣いているような声が洩れる。

「志貴、志貴、し…、き……」
「いくぞ、アルクェイド、一緒に」
「うん、ああ、飛んじゃう。しきぃぃぃぃーーー」

 ずんと遠野くんの腰が強く打ち付けられる。
 それに合わせてアルクェイドが遠野くんの名を叫びながら……果てた。
 遠野くんも同時に放ったようだ。
 二人で抱き合ったまま動きを止め脱力している。



 二人だけの世界。
 最初はわたしの事を二人共意識していたのに、やがて脳裏から消え去ったら
しい。
 邪魔し難い雰囲気。

 でも、暖かく二人を見守るつもりなど毛頭無い。
 別に寝取られ女の悲哀を味わう為にこんな事をさせた訳ではない。
 
「安心しました」

 ぎょっとしたように二人でわたしの顔を見上げる。
 初めてわたしが一部始終を眺めていた事に気がついたように離れる。

「安心しましたよ、アルクェイド」

 優しいと言っても良い表情をしてみせる。
 嘘ではなく、本当に安心していたから、それが自然と顔にも出ていたかもし
れない。

「安心?」
「ええ、これでもアルクェイドとの事気づいてわたしも危惧していたんです。
 遠野くんを取られてしまうんではないかって。
 ですけど、杞憂でしたね。今はそんな心配は微塵もありません。
 遠野くんはアルクェイドなんかじゃまったく満足できませんから」
「……なんでよ」
「貴方では遠野くんを満足させる事は出来ません。
 いえ、たまにはいいかもしれませんが、その程度の価値しかありませんね」

 アルクェイドは何か反発しかけたが、自信満々なわたしの様子に反論を口に
できずにいる。

「理由が知りたいですか。
 つまりですね、貴方は遠野くんに何もしていないじゃないですか。
 ただ、遠野くんに可愛がられて、最後まで導いて貰って……。
 見惚れる様な体、本当に触れるだけで素晴らしいだろうとは思いますけど、
それだけが取り柄のお人形相手ではじきに飽きられてしまいます」
「え、だって、その……」
「そういう女の人の事をどう称するか知っていますか、この国ではマグロって
言うんですよ」

 あえて感情を込めず淡々と事実を述べる。
 果たして意味がわからないアルクェイドは反発を封じられて、首を傾げてい
る。

「ねえ、志貴、マグロって、あのマグロ? 魚の」
「……そうだな」
「なんでわたしがマグロなの、ねえ」
「アルクェイド、無知なあなたに教えてあげます。マグロは遠洋で獲られて冷
凍されたものが、水揚げされて市場に運ばれます」
「ふうん?」

 それがどう自分と関連するのかわからない様子。
 取りあえず口を挟まずアルクェイドはわたしの言葉を聞いている。

「そしてそうやって並べられて売られている姿が似ているので、ある種の女性
の事をマグロって呼ぶんです。
 つまり、男性と愛の営みをしている時に、一方的にしてもらうだけで何もし
てあげる事が無く、死んだマグロのようにどよーんと横たわっているだけの女
性の様を、そう表現しているんです」
「え、じゃあマグロって」
「もちろん誉め言葉じゃありませんよ。
 抱いてもつまらない女性の事を馬鹿にした蔑称なんです。
 わかりましたか、マグロのアルクェイドさん」
 
 侮蔑や挑発的な物言いではなく、冷静に事実を告げる口調。
 アルクェイドは明らかに怯んでいた。
 
「志貴、ねえ……」
「……」

 遠野くんとて、アルクェイドが床上手だと事実に相違する事を言えはしない。
 ただ黙る他無い。しかしそれはわたしの言葉への消極的な賛同である。
 それをアルクェイドは読み取ったのだろう。
 ほとんど涙ぐみそうになっている。

「わたしは貴方とは違いますよ。
 わたしは、遠野くんの為ならなんでもしてあげるし、いろんな遠野くんを歓
ばせて上げられる術があるんですよ。幸か不幸かロアのせいで思い出したくも
無いような経験もたくさんさせて貰ってますしね。
 貴方は遠野くんに何かしてあげましたか。遠野くんを気持よくさせて楽しま
せてあげましたか?
 いえ、そんな事が出来る訳がありませんよね、どうですか、アルクェイド?」
「わたしは……」

「では、見てなさい、あなたと貴方との差を」

 アルクェイドを手でどかして、座り込んだ遠野くんの前に跪く。

「遠野くん、今度はわたしを可愛がって下さい」

 にこりと微笑む。
 訳がわからない、という顔をしていたが、わたしのおねだりに遠野くんは反
射的に頷いた。

「まずは、準備ですね」

 アルクェイドの中に入って、アルクェイドの愛液と遠野くんのものにまみれ
てどろどろになった遠野くんのペニス。
 まださっきの余韻を残してはいるが、いつもの二連戦、三連戦する時の勢い
には欠け、幾分うなだれている。
 それを手で捧げ持つようにして、軽く先端に口づけする。
 そしてためらいなくそれを口に含んだ。
 いつもの、わたしと遠野くんの性交の残滓とは明らかに違う匂いが口に広が
る。
 それでも構わずに舌を動かし、唾液と共にそのどろどろを呑み込んでいく。
 遠野くんに残ったアルクェイドの匂いを消し去りたかったのかもしれない。
 ゆっくりゆっくりと喉の奥まで呑み込んではエラをはった後ろの柔らかい部
分まで戻す、そんなストロークを繰り返す。
 今はあくまで遠野くんを硬く大きくして可愛がって貰う為にしているのだか
ら、激しくはしすぎない様に気をつける。
 お口で気持ち良くなってもらって、口腔から溢れる程に精液を迸らせて貰う
のも大好きだけど、今は駄目。

 目を横に動かすと、アルクェイドがそんなわたしの姿をまじまじと見ている。
 驚いたような表情。
 やはりね……。
 こんな事すらした経験がないのだろう。いや知識としてすら知らないのかも
しれない。
 遠野くんも教えなかったんだ。

 ちゅぽんっ、と遠野くんのペニスを口から出す。
 唾液の糸を引いて口から現れたそれは、怒張と呼ぶに相応しい姿になってい
る。
 ちょっと誇らしい。
 どうです、びっくり顔のアルクェイド、貴方にこんな事は出来ますか。
 満足顔のわたしに対して当の遠野くんはちょっぴり不満顔。
 いい処で止められましたからね。
 大丈夫ですよ、これからが本番ですからね。
 
「遠野くん、挿入れてもいいですか?」

(To Be Continued....)