2/

 「さあ――――楽しみましょう、志貴」

 志貴の記憶からは想像も出来ないような妖艶さで、シオンが唇を綻ばせる。
 初心な少年なら一息に魅了されてしまいそうな濃密な女の香が、案山子のように膝立ち
でふらつく志貴の身体を見えない風で倒そうとする。
 もっとも、ただ捨て置かれただけでも長くは身体を支えていられそうにない。
 立っているという実感さえ、夢の中のようにおぼろげで頼りなかった。
 感覚を置き去りにされた不自由な身体は、シオンの両手に支えられて優しく床の上に横
たえられる。

「し、シオン……よ、せ……」

 喉を震わせるだけでも、今の志貴には桁外れの重労働だった。
 質の悪い風邪にかかったように、しゃがれた弱々しいうめきが漏れる。
 シオンはそんな志貴を僅かな憐憫を込めて見下ろすと、すぐに瞳の光を好奇のそれへと
変えた。

「昂ぶらせてあげますよ……志貴。そう、糸を紡ぐようにゆっくりと――――確実に」

 シオンは寝かせた志貴の上にのろのろと移動すると、ちょうど腰の真上辺りで膝立ちの
姿勢になる。
 頬を紅潮させ、とろんとした表情で志貴を見下ろしたシオンは、唐突にナイフのような
サディスティックな笑顔を浮かばせた。

「触覚に訴えるのはまだ時期尚早ですね。先ずは、視覚から。
 私のこの身体で――志貴を、高めてあげます」
「あ――――」

 志貴が静止する暇も与えず、シオンはするりとネクタイを解き、次いで紫の上衣が羽衣
のように床の上へと舞い落ちる。
 白いワイシャツの布地が目の前に現れ、薄布の向こうにはっきりと感じられる異性の膨
らみが志貴の脳髄を刺激する。
 見てはいけないと思っても、その通りに目が離せるものではなかった。

「ふふっ……そうです。よく見ていてください……」

 取って置きの宝を見せつける愉悦の声で、シオンは上から一つずつシャツのボタンを外
していく。
 ……ひとつ。
 花の茎のように細く滑らかな首のラインが明かされる。
 ……ふたつ。
 鎖骨のラインから双丘へと降り立つ谷への入口へ至る。
 欲望より遥かに慎ましく、緩やかに開放されていく花園。
 純白の海の奥から肌の色が覗くたびに、志貴の身体を熱いものが走る。
 ……みっつ。
 蕾が開花するように布地が肩口を滑り、熟れた果実のような乳房の半ばが顔を出す。
 だが――――
 シオンはそこでぴたりと指の動きを滞らせた。

「っ――――」

 気付かずシオンの姿に魅入っていた志貴は、唐突に中断されたステージにはっと身を強
張らせる。
 シオンは呆けた志貴を心底愉快そうに眺めて、

「焦らないで。見て欲しいのは、ここだけじゃないんですから……ね?」

 危うい均衡で隠された膨らみをそのままに、両手を腰に伝わせて下ろす。
 身体の線をなぞって滑る指が、シオンの女性的な肉感を志貴に改めて意識させる。
 眼球は不可視の鎖でシオンに繋ぎ止められてしまった。
 もう、目を離そうと意識することさえ手遅れだ。
 指先がスカートの裾に触れ、するりと中へ潜り込んだ時、志貴はとうとう喉を鳴らした。

「感じますよ……志貴の、視線を。さあ、もっとよく見て。私で、昂ぶって……」

 シオンは腰をやや曲げるようにして強調し、志貴を見つめながらスカートの中で二本の
手をもぞもぞと忙しく動かす。
 シオンが身につけるスカートは極端に短いなりに着衣としての機能は果たしており、志
貴が最も渇望する部分をすっぽりと隠して遠ざけている。
 その、手に触れるならあまりにも頼りないはずの薄い壁が、浅ましい想像を掻き立てる。
 秘匿された内側で、両手は下着を引いているのか、あるいは薄布の奥に潜って自ら慰め
ているのか、柔らかく張った尻を揉みしだいているのか。
 すべてが不確かで、確かでもあり、すべてにおいて蠱惑的な蜃気楼。

「は……ぁっ」

 シオンに自ら促されるまでもなく、志貴は際限なく昂ぶっていく。
 硬直した視線の先で、ゆるゆるとシオンの手がスカートから這い出てくる。
 ……指の間に、縞模様を帯びた三角形の薄布を絡めながら。
 釘付けの志貴の視線に合わせるように、パンティはシオンの脚線を緩慢に滑り落ちる。
 志貴は気付いていないが、シオンは指を動かしながら志貴の口から零れる熱い吐息をじっ
と面白そうに観察していた。
 そして、ワイシャツの花弁と同じく、パンティも膝の半ばを下りた辺りでその動きを止
めた。

「では、第二段階――触覚に移りましょうか。もう少し、近くに行きますね」

 言って、シオンは膝立ちのまま上体を寝転んだ志貴に傾ける。
 息が吹きかかるほど近くにシオンの顔が現れ、志貴は心臓が大きく跳ねたような気がし
た。もう少しどころじゃない。これでは密着だ。
 胸板にワイシャツ越しの乳房の感触が伝わって、背筋がぞくりと震えた。

「志貴は痛みには強そうですが……ふふ、これはどうですか?」

 シオンがくい、と首を振ると、丁寧に織り込まれたおさげ髪が招かれたかのように傍ら
へ現れ、指がその先端を書道の筆宛らに握る。
 そして、まるで字を描くように志貴の首筋をつつ、と滑らせた。

「っ、く……!」

 全身をぞくりとした感覚が駆け抜けて、志貴は痺れたように身を震わせる。

「……やはり、こればかりは志貴でも耐え難いですか。でも、まだまだです」

 くすり、と笑うと、シオンは髪の筆を耳の裏側、穴の内側にまで忍ばせて箒のようにさ
わさわと動かす。
 その度に志貴は対応し難い種類の快楽で神経を打ち据えられ、悶絶する。

「う、うっ……はっ、くぁぁっ……!」

 耳の穴に侵入した髪の毛が“の”の字を描くように暴れ回っていたかと思うと、不意に
引き抜かれてシオンの熱い吐息が吹き込まれる。
 耳も充分な性感帯に成り得ることを、志貴は自ら責められることで痛感する。
 感覚を集め煮詰めて、それを耳の穴から中へと流し込まれていくようだった。
 むず痒いような快楽は、脳を直撃して踵を返し、また耳から飛び出していく。

「可愛い……志貴。今の声、もっと聞かせてください」

 また首筋に快感。しかし今度はくすぐったい感じばかりではなく、生暖かいぬめりがの
ろのろと顎の真下辺りを這っている。

「え……?」
「んん……ッ、ふ、んッ――――」

 鼻にかかったシオンの声。
 先程までよりかなり下でシオンの頭が揺れ動いている。
 舌が。ピンク色の濡れた肉が、蛇のような妖しさで志貴の首を撫でまわす。

「う、くっ……!」

 淡い熱を帯びた感触は、髪の筆よりも明確で解かり易い刺激を志貴に伝達し、段階的に
興奮を底上げする。
 ゆっくりと、しかし確実に昂ぶっていく志貴の姿に、シオンもまた身体の熱を滾らせる。

「――――次は、んっ……味覚を、加えます」
「み、かく……?」

 頭を起こしたシオンは、腕に纏ったリングからエーテライトを引き出して適当な長さに
切断すると、なにを思ったのか唇でそれを挟み込む。
 状況を飲み込めない志貴の唇に、唐突にシオンの柔らかい指が入り込んできた。

「ん、っ――――!」
「少し……口を開けていてくださいね」

 人差し指と中指が口を上下に押し広げ、開いた唇にシオンの咥えたエーテライトが侵入
してくる。
 先端が志貴の舌に乗ったのを確認すると、

「は――――んんッ……」

 シオンは顎を下げて軽く口を開き、舌を滑り台のように斜めに突き出す。
 はぁはぁと熱っぽい呼吸とともに舌が揺れ、傷つけられた花の茎から樹液が染み出すよ
うに、ねっとりと潤んだ唾液が溢れてか細い糸を浸す。
 とろり、とろりと螺旋を描き滑り落ちる薄白い粘り。
 十センチそこそこのエーテライトが不思議なほど長く感じられて、じわじわと伝い落ち
てくるシオンの唾液から志貴は目を離せない。
 やがて粘液は目線をさらに下り、志貴の口内にぽたりと届いて弾けた。
 酷い渇きに蝕まれていた志貴は、一も二もなくその潤いを喉に通す。

「ん――ふふっ……志貴が、私のを……」

 喉の動きを恍惚とした顔で見つめると、シオンは志貴の真上でまた雫を幾つも垂らす。
 雛に餌を与える親鳥の熱心さ。けれど行為はあまりに淫蕩で。
 渇きに浮かされるまま、志貴は貪るようにシオンが齎す蜜を飲み干した。

「そろそろ混ぜてもらってもいいかね、シオン」

 濃厚な前戯を眺めていたズェビアが、シオンの背後に膝をついて窺う。

「ええ。貴方がどんな趣向を凝らしたのか、興味があります」
「なに、趣向というほどのものじゃない。君のアイデアの延長に過ぎないが……快楽は三
人に分別なく配給されるだろう」
「それは……楽しそうですね。遠慮なく始めてください」
「では、僭越ながら――――シオン、君には感覚の、少年には聴覚の快楽を。
 そして私はヴィジュアルで楽しませて頂くとしよう」

 ズェビアは仰々しく会釈をして、次の瞬間には獣の荒々しさでシオンのスカートを腰上
までたくし上げる。

「きゃっ……」

 捲られた下衣の奥からは、官能的にくびれた剥き出しの尻が現れる。
 本来そこを覆っているはずの薄布は、主自らの手で膝まで下ろされている。
 ふるりと揺れる豊かな肉に指を滑らせると、ズェビアは嗜虐的な笑みを浮かべてシオン
に囁いた。

「シオンは禁忌の刺激がお気に召しているようだからね。
 今夜は――――こちらをたっぷりと可愛がってあげよう」

 長く伸びた爪が尻の谷間を滑り、その奥にある小さな蕾につん、と触れる。

「ふぁ、うっ……!」

 シオンが志貴の上でびくりと跳ねて、よろめきながらズェビアを振り返る。
 吸血鬼は貴族的な優雅さで首をかしげて、

「お好みでなかったかな?」

 と大袈裟におどけて見せた。
 シオンは羞恥に僅か俯きながらも、はっきりと首を横に振る。
 快楽の契約が交わされ、今実行される。

「とはいえ、君は常日頃からこちらを使うほど色に溺れる性質ではないな。
 まずは、初心な花にたっぷりと教え込んでやらねば紳士的ではないだろう」

 ズェビアがぱちんと指を鳴らすと、長く鋭い爪を宿していた人差し指がもぞもぞと蠕動
して――――毒々しい肌をした蛇に姿を変えた。
 蛇は大きく痙攣して、ごぼりと口から大量の鮮血を吐き出し、自らの血で全身を真っ赤
に染め濡らす。
 それでも目は爛々と輝いて、ズェビアが腕を近づけると赤黒い舌でシオンの尻をぴちゃ
ぴちゃと舐めてきた。

「血塗りのディルドーと言ったところかな。太さは考慮したつもりだが、気に入ってもら
えれば嬉しいね」
「あ、あ……」

 蠢く蛇に――否、ソレに滴る朱に困惑交じりの歓喜を浮かべるシオン。
 そして、首を擡げた蛇は、赤いぬめりを纏いながらシオンの蕾へと入り込んだ。

「んくぅ――――はっ、んぁぁぁぁッ……!」

 未開の地を蹂躙される感覚は、快楽よりも痛みが勝っている。
 本来まだ受け入れがたい容積が入り込めたのはひとえに血のぬかるみの助けであって、
シオンの内部はまだ蛇の太さを収められるほどに弛緩してはいない。
 だが、そんな事はお構いなしに生きたディルドーは尻の中をずるずると動きはじめる。

「んんんっ……!」
「さあ、調教の時間だ。少年を悦ばせてやらねばならないからね、しっかり声を上げてくれ」

 ずぬ、と指が進んで、シオンのさらに奥深くへと蛇が潜っていく。
 蛇は絶えず脈打ちながらごぼごぼと鮮血を吐き出し、シオンの菊座を浸して潤滑させる。
 そして充分な滑りが生まれると、長い舌を突き出して粘膜を舐りだす。

「はんんっ……くぅ、あっ、はぁぁっ――――」

 シオンは窄まりを無理矢理に押し広げる質量に顔を顰めていたが、溢れんばかりに内側
へ注ぎ込まれる鮮血が摩擦を和らげ、身体を支える両手に走る震えにもじわじわと痛みで
はないものが混じり始めていた。
 粘膜から直接に伝わる鮮血の歓喜が、シオンの身体を艶かしく高めているのだ。

「あ……ふっ、お腹で、動いて……こんな、すごいっ……!」

 いつしかシオンは志貴の胸に顔を伏せ、尻を突き上げてびくびくと菊座の刺激に身を震
わせていた。
 胸板に切なく焼けた息を吹きかけられて、志貴も弱々しく背筋を痙攣させる。

「う……シオ、ンっ、もう、やめ――――」
「いいえ……私からもプレゼントがあります。ズェビアは聴覚を。
 私は――――最高の触覚を、志貴へ」

 胸板のベッドに寝転んで、気怠げな笑みを浮かべるシオン。
 尻に好色な蛇を咥え込んだまま、胸から臍を伝って頭が下がっていく。
 けれど蜂蜜のように潤んだ視線だけは、志貴を決して離さなかった。
 
「っ――――」

 シオンの頭が下腹を越えてズボンの上で止まった時、志貴は期待と安堵の入り混じった
息を吐き出した。
 シオンが何をしようとしているかは直感的に感じられたが、正直言って今の志貴にはそ
れに反応できる体力さえ危うい。
 情けない話だが、興奮はしていても下半身はまるで反応してくれない。
 そちらにまで回せる余力が残っていない。
 だから、シオンの目的は徒労に終わるだろう。
 それに安心して、同時にどこか残念がっている自分の欲望に恥じ入る。

「ん……元気がないですね。少し血を貰いすぎましたか。
 でも、大丈夫。楽しめるように、してあげますから」

 志貴の安堵を嘲笑うかのように、シオンの手の中で光が舞う。
 左手にリングから放出したエーテライトを絡め、シオンは顔の前でズボンのファスナー
に手をかけて下ろし始める。

「し、シオン! だから、俺は……」
「大丈夫、と言いました。私にはこれがある――――おわかりですね、志貴?」

 シオンはファスナーの奥から張りを失った志貴のペニスを取り出して、左手のエーテラ
イトを注射の針のように近づけていく。

「――――――!」

 ――――まさか。
 “私にはこれがある” “おわかりですね、志貴?”
 そういうことか。
 シオンならば、エーテライトならば、確かに“大丈夫”を作り出すことができる。
 ……ああ。たとえ志貴がいかに疲弊し脱力していようとも。
 残酷な未来を理解した瞬間、現実はそれを忠実に模倣する。
 触手のように伸びた細身の糸が、僅かな感触さえ与えずに萎えたペニスに接続される。
 途端。

「ぐ、ッ――――――!?」

 虚ろな全身はそのままに、男根にだけ異常なほど顕著な感覚が復活する。
 幾千もの舌で愛撫されているような圧倒的な快楽が陰嚢から亀頭までを満遍なく包み、
疲れ果てていたはずの性器はぶるぶると震えながら首を上げはじめる。

「快楽中枢を直接に刺激しました。意思とは無関係に勃起が始まっているでしょう? 
 徳を積んだ求道者は快楽すら制御するというけれど……志貴のここは、禁欲的ではない
ようですね」

 面白がるように呟いて、シオンはようやく臨戦体制に入りだしたペニスを愛しげに指で
撫でる。
 男根の脇、脚の付け根あたりにシオンの頭が寝転んでいて、極上の繊維のように滑らか
な髪の感触が志貴に甘い刺激を与える。
 そして。

「は――――ぁんっ」

 はむり、と、女の唇が半立ちのペニスを横から咥え込んだ。
 シオンの頭が緩慢に揺れ動いて、まだどこか軟い竿にねっとりと唾液の筋を描く。
 視界に飛び込む、その淫猥な映像。ズェビアの言葉を借りるならヴィジュアルか。
 シオンが自分の男根に唇を這わせているという現実が、志貴の脳髄をぐちゃぐちゃに掻
き回す。
 先程の快楽は強烈だったが、快楽だけだった。
 だが今は、気持ち良さこそ淡いものの股間で蠢くシオンの姿がある。
 ぴちゃぴちゃとグロテスクな己自身に舌を這わせるのは、よく見知った少女であるとい
う背徳の実感がある。
 
「う、ううっ……!」

 なんて現金な身体。
 疲労困憊し尽くしていたはずが、股の間で寝惚けていたかのように起き上がる肉の柱。
 ひくひくと震えながら膨張していくペニスを、シオンはとろんとした瞳で見上げる。
 竿を挟み込んだ唇がすぅ、と下に引かれて、唾液交じりの生温い感触が陰嚢のあたりま
で走り抜ける。

「おやおや、劣勢のようだな少年。ならば助け舟を出そうか。
 そら……ご馳走の続きだ、シオン!」

 ズェビアが高らかに吠えて、人差し指を付け根までずぶりとシオンの菊座に飲み込ませ
る。

「んァ――はっ、あぁぁぁぁんっ……!」

 もう随分弛みはじめた内部を滑り、直腸にまで入り込んでシオンの中で蛇が暴れる。
 生物が侵入できるはずもない部分を紛れもない生物の舌で嬲られ、未曾有の快楽にシオ
ンは狂おしい喘ぎを漏らす。
 ズェビアはあくまで容赦無く、槍で突くように一つ、二つと何度もシオンの尻を征服す
る。

「ヒヒ……いいね、素晴らしい緩みだ。どうやらこちらの才能もあったということか。
 しかし――――メインディッシュに際してはまだ仕込不足だな。
 安心するな、シオン。まだまだまだ弛緩し解放させてあげよう」
「んっ……望む、ところです。志貴も――――あッ、まだ……勃ちきって、いない、みた
いですから……」

 濃密な唾液で竿をびしょ濡れにすると、シオンは首を持ち上げて上からペニスを覗き込
む。視線を感じて志貴は身を竦ませたつもりだったが、実際には膨れ始めた亀頭が早く来
いとばかりにぴくりと揺れただけだった。
 果たして、その挑発はシオンを見事招き寄せる。

「……触って欲しいんですね。ええ、存分に滾らせて、吐き出させてあげます」

 挑戦的な眼差しを向けると、シオンは祈るように瞳を閉じて、ペニスの先端、鈴口のワ
レメにひたりと口付けをする。
 唇同士のキスそのままに、ペニスの中心に開いた空洞を強く、強く吸い立てる。
 それは、志貴にあまりにも強烈な刺激となって降り注いだ。

「が、っ――――! う、くぁぁッ……」

 口づけられたまま、志貴の腰が仰け反って跳ねる。
 結果的に高さを増したペニスがシオンの唇に押し付けられる格好になり、シオンは抵抗
することなく唇を開いて赤黒い亀頭を口内へと招き入れた。
 ぬるり、と湿った感触が先端のカーブを滑り落ちてくる。
 一気に降りてくるかと思えば硬さを確かめるかのように僅か引き戻され、さわさわと擦
られた後に雁首まで一気に進む。

「う、はっ――――ぁく、くっ……!」

 もはや興奮も勃起も志貴の自制を振り切ってしまっていた。
 上目遣いに自分を見たままちゅるちゅると口の中でペニスを弄ぶシオン。
 その背後で、見せつけるように持ち上がった尻の谷をズェビアが蹂躙する。
 ぐちゅ、ぐちゅ、と、鮮やかで卑猥な水音が響いて、肛辱の激しさが耳に焼きつく。
 奇しくも宣言通り、ズェビアは聴覚で以て志貴に快楽を与えているのだ。

「ん……むッ、はぁっ……。 ふふ、素敵……」

 強張りが全体に達し、逞しく天へ持ち上がったペニスを眺めてシオンが破顔する。
 シオンもまた、甘美に過ぎる触感で志貴を昂ぶらせ、射精へと導こうとしている。
 茸のようにくびれたカサの下を滑る舌先。
 破裂せんばかりに膨らんだ亀頭をなぶる唇。
 揺れ動く、美しく紅潮したシオンの顔。
 すべてが麻薬的に、志貴の興奮を膨張させつづける。
 ――――射精が近い。
 ペニス以外の感覚がほとんどないだけに、そこに表れる変化は敏感すぎるほどに認識で
きた。
 張りつめた屹立が脈打ち、透明な腺液を滴らせる。

「ん、んっ……」

 シオンの舌が蠢き、尿道を通って染み出した先走りを丁寧に拭い取る。
 亀頭に伝わる断続的な震えから、シオンも志貴の射精が近づいていることを悟った。
 しかし愛撫を緩める気配などまるで見せずに、亀頭を咥えた唇を窄めて円を描くように
くるくると揺らしながら激しく吸引する。

「は――――あぁっ……!」

 志貴が感極まった声を漏らし、ペニスに一際大きな震えが走った、その時。
 くるりと輪を描いたエーテライトが、男根の根本にきつく巻きつけられた。
 次いで、遠慮のかけらもない圧迫が股間を襲う。

「かっ―――――!」

 暴力的に押しとどめられる射精。
 快楽は充分に供給され、もう爆発してもいい、爆発しなければならないのに。
 射精するはずのペニスがギリギリと締め付けられ、喉元まで出かかった白いマグマが逃
げ場をなくし、根本に蓄積して暴れている。

「ふふふ―――ひとりだけ先に行くのはずるいですよ、志貴。
 まだ……出させてなんてあげません」

 シオンは左手でエーテライトを操り、ペニスを圧迫したまま空いた右手で竿をきつく握
り締める。
 そして、射精を封じたままずりゅずりゅと上下へ乱暴に擦りたてる。

「うわ、あぁぁぁぁっ……!」

 行き場をなくし、志貴の中で暴走する甘い感覚。
 快楽は溜めに溜めた後気兼ねなく放出できるからこそ快いのであって、満タンのまま捨
て置かれたのでは生殺しの地獄だ。
 膨らみきってぴりぴりと震える風船を抱えるのに似た焦燥。
 もう無理だと分かりきっているのに、破裂の幻視がはっきりと見えるのに、吹き付ける
空気は止まらない。
 シオンの指は、淫らに、熱心にアクセルを踏み加速していく。
 本来なら喉を鳴らすべき淫靡な光景に、しかし志貴の背筋は震えて。

「――――――あ、ぐっ」

 前触れなく、これまでとはまったく異質の感覚が志貴を包み込んだ。
 指の第一関節を曲げる実感さえ失せていたはずが、今は全身で単色の刺激を例外なく受
信している。身体の、内側から。
 ……それも決して心地好いものではなく、吐き気のするような倦怠感。

「こい――――つは」

 知っている。遠野志貴は、この反吐の込み上げるような侵蝕を理解している。
 何故なら。

(こいつは、弓塚の時と、同じ……!)

 志貴は、一度これと同じ痛みを味わっている。
 痛み。そう、痛みだ。
 本来自分自身が支配しているはずの血管に、まったくの別人の血が入り込んで暴れるの
だから、それが快楽になるはずもない。
 おそらくは最初の吸血の時。
 シオンは無心に志貴を吸い立てながら、急速に目覚めていく吸血鬼の本能で志貴の中へ
自分の血を注ぎ込んだのだろう。
 もうあれから随分な時が経っている。
 ……シオンが注ぎ込んだ異形の血が、身体を巡りだすのに充分な時が。

「く、っ――――――!」

 拙い。
 その危険さを理解できないほど志貴は愚鈍ではなかった。
 即座に、考え得る最短最適の解決策を実行する。
 いや――――実行、しようとした。
 かつての危機を脱したように、体内を巡る毒のみを直死し破壊せんと思考した。
 そこまでで限界。
 戻ったのは感覚だけで、体内を侵蝕する異物をこれ以上なく実感していても、ナイフを
握るどころか手を動かすことさえままならない。
 濁りに浸されていく身体を、人形のように座して待ちつづけるしかない。
 恐怖(ココロ)があるだけ人形より残酷だった。

「ふふっ、すごい……私の手の中で心臓みたいに脈打って。もう少し擦ったら破裂してし
まいそうです……」

 シオンは志貴の苦悶などどこ吹く風で、ペニスを弄ぶのに熱中している。
 本来なら血を殺す絶好のチャンスだというのに、肝心の身体が動いてくれない。
 焦りと口惜しさで目が眩みそうになる。
 だが、結局のところ今の志貴に出来るのは、心を凛として体内の異形に抗うことだけだ
った。

「く、そッ……この、節操無し……」

 シオンの指で機嫌よく立ち上がった自分自身を憎々しげに眺め、歯を食い縛る。
 その抵抗を嘲笑うように、シオンの艶かしい叫びが耳を犯す。

「んんぅっ……! さぁ、ズェビア……! 
 私も、志貴と同じ高さへ――――連れていって、くださいっ……!」
「――――承知」

 にやりと邪悪な笑みを浮かべ、ズェビアはシオンの懇願に応えた。
 菊座の蛇を膨張させ、奥の奥までを押し広げながら舌と血とでねっとりと舐り、それ
に飽き足らずもう一方の手を慰める者のないシオンの秘裂へと忍ばせる。
 つぷりと、指先がぬかるんだ亀裂に飲み込まれた。

「はぁぁっ、んぁ、あふぅっ……! ズェ、ビアっ、そっちはっ――――!」
「なに、こちらもいずれは彼を食むのだろうし、準備をするに越したことはない。
 君はただ、気をやり過ぎないように心していれば善いだけだ」

 不敵に笑うと、ズェビアは両手をシオンの股間でもぞもぞと蠢かせる。

「――――ん? ああそう、君はまだ生娘だったね」

 指先に抵抗を感じて、ズェビアは得心がいったとばかりに首を傾ける。
 ぱっくりと開いた入口の周りを指先で擦り、じわじわと刺激を中に伝える。

「鮮血の恩恵とはいえ、なかなか盛大に濡れているじゃないか。卑しいね、君のここは」
「んんッ――――――!」

 探るように飲み込ませた指が、シオンの襞に左右から挟みこまれる。
 シオンは熱っぽい吐息を漏らし、細長い異物の感触にひくんと背を震わせる。
 ズェビアの言葉通り、そこには未通であるが故の恐れよりは寧ろ緩やかに込み上げる
艶が見え隠れしていた。

「こんないやらしい唇では、気を入れていないとあっさり飛んでしまうぞ?
 それでは興醒めだ、耐える姿でも愉しませてくれたまえよ」

 秘裂では飲み込まれた二本の指が男根さながらに襞を押し広げ、菊座に飲まれた蛇はズ
ェビアがくちくちと引っ掻くように指を曲げるたび、猫が甘えるように頭を内壁へと擦り
つける。
 また、血が弾ける。
 シオンの尻の中で蛇が鮮血の珠を吐き出し、直腸へ流し込み、粘膜へ舌で塗りつける。
 ごぽ、とピンク色の液体が菊門から溢れ出す。
 ズェビアは前への刺激はあくまで処女膜を傷つけない程度に留め、濡れた粘膜をしつこ
いほどに愛撫してシオンの興奮を高めてやる。
 来るべき破瓜の瞬間のために、入念な準備をしてやらなくては。

「んぁ、あっ、あぁぁぁッ……! んッ、無茶な、ことをッ……! こん、な、気持ちが、
良すぎて……あっ、はぁぁぁんっ……!」

 二つの穴を一度に、それも気違いじみた激しさで攻め立てられ、シオンの下腹にどろり
とした感覚が急速に膨れ上がる。
 ぐちゃぐちゃと肉がぶつかり、愛液が弾ける。
 その浅ましい音楽を奏でるのが自分の身体と知って、興奮はブレーキを忘れて高まる。
 ゆらゆらと腰が動き出して、前後に咥え込んだ指へピストン運動を咥えていく。
 くちゅくちゅと、淡い水音が何度も夜の神殿に響き渡った。

「あっ、ぁは――――んっ、うぁ、あくぅっ……!」

 腰を根こそぎに抉り取られそうな激しい注挿。
 そして、尻から注ぎ込まれる大量の新鮮な鮮血が、変化したシオンの身体を内と外から
めくらめっぽうに昂ぶらせていく。
 そもそも女性の肉体、特に後ろの穴などは鍛えるといって簡単に鍛えられるほど単純な
作りではないのに、粘膜が血という極上の快楽刺激を受けることによって、通常では考え
られない練度で解れ潤んでいる。
 その証が、狂ってしまうのではないかというほどに高まる嬌声に顕れていた。
 志貴も、今にも狂いだしそうだった。

「ぐっ……うぅっ、ああぁぁっ……!」

 快楽に対する反射、突き詰めれば生理現象である射精を堪える――否、強制的に堪えさ
せられるだけでも神経は蝋燭の如くに溶け落ちていく。
 その上、志貴は血管を駆け巡る吸血鬼の毒に気力で抵抗しなければならない。
 無間地獄のような一秒の連続。
 シオンに支配されるより先に脳が焼ききれて、廃人の仲間入りをしそうだった。
 もう一分だってもたない。
 思いきり射精できるならシオンに支配されるのも構わない――――そんな自堕落な妄想
まで浮かんでくる。
 ――――駄目だ、何を考えてる!
 耐えろ、耐えろ、耐えろ。呪文のように念じて、砕けんばかりに奥歯を擦り合わせる。

「はぁ……んぁ、あっ、志貴――――し、きぃっ……!」

 汗だくになり、上体を支えきれなくなってシオンが志貴の腿の上に突っ伏す。
 それでもペニスを握る指だけは離さず、爆発に近付いていく自分の興奮を伝えるように
何度も何度も擦る。
 ずりゅ、ずりゅ、ずりゅ
 既に充分すぎるほど溢れた腺液がシオンの指に絡み、さらにその指がペニスに絡んで粘
ついた音を立てる。

「うぁ、あぁ……あくっ、シオン、シ、オンっ……!」

 あまりに激しい手の愛撫に、志貴は疲れも忘れて腰を反らせる。
 射精を待ちきれず涎のように溢れる濁った粘液。
 志貴の腿の上に寝転んだまま、亀頭から幹へとろとろと垂れてくるそれを呆けた顔で見
上げ、指だけは正気のまま――否、それ以上の熱心さで動かすシオン。
 そして、シオンの穴を満遍なく弄びながら快楽に揺れる尻を眺めて恍惚するズェビア。
 ここにも契約は誤りなく遂行され、志貴、シオン、ズェビアは一人の例外もなく三位一体
のエクスタシーを享受する。
 殊に、それまで性に対して積極的でなかった分、シオンの愛撫は度を越えて強烈だった。

「凄い……こんなに腫れて、脈打って、それでも出せずにまた膨れて……んっ! それにこ
の匂い……血とは違うけれど、頭に、染み込んで……」

 強すぎるくらいに竿を握り締め、五指を絡めて扱きたてる。
 緊張しきったペニスの表面が、シオンの熱っぽい摩擦でさらに張りつめる。
 
「は……っ、くっ、シオン、指……!」

 指が、と喉まで出かかっても巧く舌が回らない。
 勃ちきった志貴の竿を上から下へと忙しく往復するシオンの指。
 下に引かれれば痛いくらいの刺激がペニスの付け根にまで突き刺さり、
 上に戻される度にシオンが作った指の環が雁のくびれをこつこつと啄木鳥のように突付
いて、それが堪らない快感をもたらす。

「はぁ、はぁ、はぁぁぁっ――――――!」

 通常ならもう何度射精しているのか、放出できないザーメンは体内を逆流して血の代わ
りに全身へ、脳へ、意識へと白く流れ込んでいるようだった。
 頭が、回らない。何も考えられない。
 シオンを裏切った後ろめたさも、そんな彼女を救ってやれない無力さも、アルクェイド
の安否も、何もかも消えていく。白く、白く、白く。
 じわりと、闇が志貴の中で密度を増した。
 脊髄がばきばきと凍り付いていくような悪寒。魂まで腐り落ちてしまいそうな不快。
 犯される。侵される。冒される。
 毒蜂に刺され、ひくひくと仰向けに痙攣する蜘蛛の幻が視えた。
 
「んは……ぁ、あッ……! く――――るッ、お腹、昇って……! や、あぁぁっ……!」

 シオンの身体が感電したように跳ね、ズェビアの指を振り解こうとするようにくねくねと
丸い尻が揺れる。
 溜めに溜め込んだ感覚は、ついにシオンの許容限界を越えようとしている。
 あとは、盛大に弾けるだけだ。
 ひくひくと耐えるように震える尻の丸みが、孵化を始めた卵の痙攣のようだった。
 
「ククッ……人生初の絶頂を迎えるわけだな、シオン。いや――人の生などとうに終わっ
ているか。よろしい、オードブルはそろそろ済ませるとしよう」
「あ……」

 その言葉に、シオンが期待で表情を弛ませる。
 シオンも志貴と同じく、既に限界以上の快楽を身体に詰め込んでいる。
 あと少し、たった一つでも新たな刺激があればすべてが溢れ出してしまうだろう。
 ……ズェビアは、一体どんな方法で自分を爆発させるのだろう。
 そう考えるだけで、シオンの残った理性が磨耗する。
 ペニスを捕えたエーテライトが緩みそうになるのを、慌てて押し留める。
 そう――――弾けるなら、二人一緒でなければ嫌だ。

「さ、あ……志貴っ……私の、前で――――弾けてしまって……!」
「君もだよ、シオン」

 シオンの指が最後の摩擦を始め、ズェビアもまた両手を蜘蛛のように蠢かせる。
 膣を弄る指がちゅぷちゅぷと何度か出入りしたかと思うと、ビーンズのように膨れた
肉の宝石を探り当てる。
 ――――ズェビアの唇が歓喜に歪む。
 ――――シオンは、はぁ、と喉を大きく震わせる。
 菊座では、内部をもぞもぞと波打った蛇が暴れ回り、鮮血で蕩けきって敏感になった
粘膜をじっくりと舌で舐っていた。

「さあ、二人とも――――最高の歌を聴かせてくれたまえ」

 狂った紅色の双眸と裂けた唇が夜を彩る。
 そして。
 ズェビアの指が熟れたクリトリスを押し潰し、
 つぷりと、鋭い蛇の牙がシオンの粘膜を引き裂いた。

「あ……ぅ、んっあぁぁぁぁぁっ――――!」

 シオンが享受する人生初の感覚の爆発。
 二つの性感帯で同時に訪れたそれはあまりに激しく、シオンは全身をぴくぴくと震わせ
ながら放尿するように尻と膣から体液を弾けさせた。
 急速に浮遊する感覚の海で、シオンは縋るように志貴のペニスを握り締める。
 企みも何もなく、強く、強く。
 無邪気な刺激は、けれど残酷に志貴の限界を追い立てる。
 立て続けに、志貴にも絶頂が訪れようとしていた。

「は――――――っ」

 白く弾けそうになる意識を、必死の思いで繋ぎ止める。
 駄目だ。こんな状態で射精を迎えてしまったら、押さえつけていた悪魔ももろともに解
き放たれる。
 快楽も、苦しみも、一切がそれで終わってしまう。
 だから。この白い感情がどんなに苦しかろうと、屈して、しまう、わけには

 ――――思考は、最後までは許されなかった。
 悪魔はとっくに微笑んでいて。
 絶頂し志貴のペニスの傍らに倒れ伏したシオンの指から、張りを失ったエーテライトが
するりと抜け落ちた。
 それが、自分の緊張の糸なのだと、志貴は何故か理解してしまった。
 同時に、ナニモカモ破裂する。

「うっ――――あぁ、あぁぁぁぁッ……!!」

 志貴の身体がくの字に仰け反り、限界を超えて膨れ上がったペニスから異常な量の精液が
真上に噴出する。
 びゅく、びゅく、びゅくとあからさまな異音を上げながら、まったく治まる様子を見せず
に白い噴水を天に吐き散らす。
 それは幾つもの放物線を描いて再び降り注ぎ、志貴の腹から腿のあたりまでを次々と汚し
ていく。

「はぁ……はぁっ……すごい、志貴のが、雨、みたいに……」

 未だ絶頂の余韻を受け止めきれず脱力するシオンにも生臭い白濁の雨が降り注ぐ。
 豊かな髪に、うなじに、頬に、ねっとりとしたゼリー状の粘液がぶつかっては弾ける。
 シオンはふらふらと頭を起こし、活火山のように痙攣しながら射精を続けるペニスへ濃厚
に唇を寄せた。
 精とともに魂魄まで下界へ吐き出すような脱力感に押し潰され、志貴は情欲の限りを白い
粘りにして延々と吐き続けた。


(To Be Continued....)