「どうぞ、志貴。使ってください」
鼻先にそれはある。
シオンが今の今まで穿いていた下着、ショーツ、ぱんつ、スキャンティ……。
まじまじと見つめてしまう。
無理もない。
俺には別に、女物の下着単体に過度の思い入れは無い。
どっちかと言えばその中身の方が大事だ。
だけど、目の前で脱がれたシオンのものだと思うと……。
まだ温もりが残っていたりするのだろうなあ。
いつ穿いたものかは知らないけど、例えば今日一日身につけていたのだとすると。
シオンの……。
ふらふらと手を伸ばしかけて、慌てて自制する。
「悪いけど、シオン、これは受け取れない」
よし。
惜しそうな声になっていない。
願わくは顔にも残念そうな表情が表れていませんように
「私のではダメですか」
心なしかシオンの表情が……。
やっぱり拒否されると女性としての矜持とかが傷つけられたりするのか?
「いや、シオンだからとかじゃなくて。
俺は下着をあれこれする趣味は無いからさ。それだけだよ」
「志貴はショーツにはあまり関心が無いのですね」
「無い。まったく無い。うん、そうなんだ」
力強く頷く。
お、シオンの表情が少し柔らかくなり、それから……、え?
またもじもじとし始めたのは何ゆえだろう。
「わかりました。
では、正直なところ、下着より恥ずかしいのですが……」
シオンがまた何やら始めかけている。
止めようという意思と、何をするのだろうという期待が、俺の中でせめぎ合っていた。
結局はその葛藤から座して待つといった感じになる。
で、シオンは……。
シオンは……、ニーソックスをするすると下ろしていく。
何をするつもりだろう。
しゃがめば楽そうだけど、今は下着をつけていない訳で、足を突っ張っている。
その姿は逆にノーパンな状態を想像させ、これはこれで堪らない気分になるけど。
お、裸足になった。
なんだか始めて見たな。
小さい爪。
ふうん。
え、シオン。何、これ?
「靴下です。これなら……」
真っ赤になって、それを俺の手に載せようとする。
俺も機械的に手を出しているし。
「待った。ストップ。シオン、待ってよ」
「どうしました。
ああ、もちろん左足もすぐに」
「ちがッ」
叫びかけて息が詰まった。
落ち着け。
深呼吸。
すぅーーーー、はぁぁぁ。
「……シオン。俺は、そういう趣味は無いよ」
「え?」
「だから、下着にも靴下にも、ついでに口紅のついた煙草とか、ハイヒールとか、そういった
フェティッシュな趣味は無いってば」
「おかしいですね。事前に入手したデータでは……」
「それ、ソースを明らかにした上で確認が必要」
「そうですか」
シオンが残念そうな顔をして、ふと視線を落として愕然とした顔をした。
うん?
ああ。
今のどたばたで、すっかり萎えちゃっている。
しょぼんと。
「これでは、精液採集が……」
焦りと困惑が見える呟き。
そうだな。
シオンにとっては必死な事なんだよな。
「シオンがしてくれたら……」
「はい?」
「シオンみたいな女の子が手とかで手伝ってくれたら、もっと早く大きくなるし、すぐに射精
すると思うけどなあ」
頭に浮かんだ事をそのまま考えなしに呟いていた。
そして、自分の言葉にぎょっとした。
女の子に対して、なんて、最低な言葉。
さすがにシオンも非難するだろう。
なんとか謝って……。
「よかった」
「へ?」
ところが、シオンは喜んで……、というのは違うな。そうだな、安心したような顔。
どういう事だろう。
「志貴からそう言ってくれるのなら好都合です」
「……」
疑問符。
「最初からそのつもりだったのですが、さすがに私からそう言うのも躊躇われますし」
「……本気?」
「はい。経験が無いので勝手はわかりませんが、志貴の為に頑張ります。
私に志貴の射精行為を手伝わせて下さい」
「……はい」
呆然と頷く。
シオンは妙に嬉々として、動き始める。
さっきシャーレを出した鞄から、何か取り出している。
「一応用意しておいたのですが」
「ええと、ゴム手袋?」
シオンが出したのは、透明なゴム手袋だった。
ごわごわした掃除とかに使うヤツではなくて、科学実験にでも使うような代物。
あるいは、映画とかで金庫破りとかが使っているみたいなモノ。
薄くて、つけていても素手でいるのとさして差異は無さそうだった。
「志貴が私の手が触れるのを好まないなら、これを使用します」
「どちらてもいいけど」
「では、直接触らせて貰います」
「お願いします……、うう」
なんで、こんな事になっているのだろう。
そんな疑問をよそに事態は進展した。
ベッドの端に座って。
その前にシオンは膝まづいて。
広げた足の間に潜るようにして。
そしてシオンは手と顔とを近づけた。
俺のペニスに。
その行動に躊躇いは見えなかった。
「随分と熱を持っています」
シオンが両の手で包むように俺のペニスに触れている。
少しひんやりとしたシオンの柔らかい手の感触。
それだけで、反応する。
シオンのほっそりとした指。
そこに埋もれるような少し黒ずんだ赤い肉塊。
指が動く。
擦るように。
弄ぶように。
転がすように。
撫でるように。
愛撫と言うより、触れるだけの動き。
でもその感触は心地良い。
とても、気持ち良い。
「あッ。……動きました、志貴」
「う、うん」
指に翻弄されるのに異議を唱えるように。
ペニスが姿を変えていく。
大きく、長く。
膨らんでいく。
瞬く間に、シオンの指を弾くほどに屹立した。
シオンは驚いて手を離し、そしてこれ以上の劇的な変化は無いと判断したのだろう。
また、両の手を寄せてきた。
再びシオンの柔らかい手の感触が幹と袋に触れる。
なんでこんなに、自分の手と違うのだろう。
さっきより少し積極的な動きをもって指があちこちに触れる。
人差し指がつうーっと幹に沿って動いた。
雁首のくびれで止まる。
敏感なところをちょんちょんと突付かれ、ぴくんと腰が動く。
「それでは、始めますね」
そう言うとシオンの右手が柔らかく幹を握った。
微妙に握り加減を調節している。
これでよしと判断したのだろう。
その握った形の手が動き始めた。
幹を上下する。
皮ごと中の芯のようなところを擦りあげて。
掌だけがペニスに摩擦を与えて。
「こんなに硬くなるんですね。痛くは無いのですか?」
「平気。もっと強くてもいいくらい。うん…そう、それくらい」
なんて快感。
もちろん手の感触や、摩擦の快美も声が洩れそうなほどだった。
それに、そもそもシオンがそんな真似をしている事が。
そのペニスに奉仕している姿が、頭をくらくらとさせていた。
その刺激でますますペニスは膨張していく。
体内の見えない部分も溶かされ、喘いでいる。
赤黒い亀頭の先端が湿り気を帯びてきた。
快感に尿管が促され、淫液を滲ませてきていた。
先触れの少し粘りがある汁がこぽりとこぼれ出した。
シオンが驚いた顔で見つめている。
その事にまた反応する。
ぴちゅり。
また、浮かぶ。
シオンの指がその露を突付いた。
細く糸を引く。
「精液では無いですよね?」
「うん」
「男の人でも濡れるって、こういうのを言うのですね」
自分の手の行為でこうなったと自覚はあるのかな。
シオンの手の動きは緩やかになっていた。
くすぐったさの強い動き。
「もうすぐだよ。
シオンの手、凄く気持ちいいから」
「……」
シオンは答えない。
少し照れているのかな。
やっぱり冷静を装っているけど、経験も無しで男のモノに触れているんだし、恥かしかった
り変な気持ちになったりもしているのだろう。
おあッ。
無言だけど、シオンの手の動きが変わった。
右手でしごいてくれるのはそのままに、左手が加わった。
はちきれそうな竿の部分に引っ張られている袋の部分を、下からすくうような手つきで触れ
ている。掌に載せて少し持ち上げているような感触。
それだけなのに、ペニスに受ける快感が倍加している。
固い幹とはまるで違う変な手触りが興味を引いたのだろうか。
確かめる様に、袋の皺や、中の玉をシオンは掌で味わっている。
軽く握られるとが、背中に感電したような快感が走る。
シオンのしごき揉みほぐす手の働きで、絞られるように腺液が込み上げる。
「おかしな…匂い」
シオンの鼻が触れそうなほど赤黒い亀頭に近づく。
頂点からカリの方まで、顔を傾けながら動く。
すっと通った鼻梁の線が、僅かに動く。
おかしな匂いと言いながら、別に嫌がる事無くシオンは好奇心を満足させている。
「あ……」
また、鈴口からとろっと露のような膨らみが湧いた。
そして自らの重みでこぼれかける。
亀頭の筋を垂れ落ちていく。
さっきと違い、シオンの両手はふさがっていた。
嗅覚の探索をしつつも、右の手はずっとシャフトに絶妙な摩擦を与えていたし、左手は転が
すように袋とその中の玉を弄んでいた。
だから、その時に一番近かったのは……。
シオンの舌だった。
伸びる、赤い舌。
先端を、舐める。
ペニスの中でも敏感な部分が、柔らかく濡れた肉片で嬲られる。
今にも爆発しそうだったところに与えられた一撃。
木の棒を倒れるまで積み重ねる遊び、ぎりぎりの均衡を崩す最後の一片。
完全な至近距離。
おまけにこちらとしても予想外な暴発。
スローモーションのように見えた。
びくびくと動いたペニス。
ペニスが脈打ち。
まだ触れたままのシオンの舌を跳ね除ける程の放出。
舌先から弾ける飛滴。
そして、シオンの顔に降り注ぐ。
髪に。
瞼に。
鼻に。
頬に。
唇に。
ねっとりと付着する白濁液。
透明な部分が雫のように伝い落ちる。
どろりとした濃厚な部分がさらにシオンの顔を汚そうと滑る。
さすがに、シオンもいつもの表情を崩している。
呆然とした驚きを含んだ顔。
固まっている。
でも、こちらも同じようなもの。
精液にまみれたシオンの顔を見つめて、あんぐりと口を開けて呆けている。
とっさに何も出来ない。
恐ろしいほど高密度な沈黙のひととき。
「うん……」
《つづく》
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