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「うん……」

 小さく、シオンが声を上げ、片方の目を瞬きした。
 それを機にやっと動けた。
 とっさに辺りを見て、シーツの端を掴んだ。

「ごめん、シオン、ごめん」

 ごめん、と何度も言葉にしてシーツを顔に当てた。
 とりあえず、シオンの顔を綺麗にしないと。
 そう思って、額を頬を顎を拭う。
 手に湿り気が伝わってくる。
 別な箇所を取って、またシオンの顔に軽く当てる。

「志貴……」
「え?」

 あまりに夢中で、シオンが何か言っているのに気づかなかった。

「シオン?」
「志貴……、嬉しいのですが、全部拭き取っては……」
「へ?」
 
 半ば顔を隠しているシーツを恐る恐るどけてみる。
 シオンの顔は当惑の色を浮かべていた。
 俺の顔を、そして俺が手にしたシーツに視線を向ける。

「せっかく出して貰ったのに、それでは……」
「あ、ああ」

 何を言っているのかちょっと理解できず、そしてそもそも何の為の行為だったのか思い出す。
 そうだ、精液採集の為だった。
 そうなると、タオル代わりに拭き取って布地に染み込んでしまうと、使い物には……。

「ごめん、シオン」

 さっきと別の意味で謝罪の言葉が口から自然に出る。
 あんな真似までされて、顔を汚して、それで結局無駄になってしまうとは……。

「志貴、そんな顔をしないで下さい」
「でも……」
「私もこうなるとは思っていませんでしたし、志貴が悪い訳ではありません。
 それに全部が全部、拭われた訳ではありませんし……」

 顎を伝う精液の塊をシオンは指で拭った。
 そのまま濡れた指先をシャーレの縁にこする。
 こそげ落ちた粘液が付着する。

 その様をほけっとして眺めて、慌てて手伝う。
 まだ確かにあちこちに残ってはいる。
 何度となく、指がシオンの顔や髪を動き、その度に採取したサンプルは量を増した。
 だけど出した量からすれば、ほんとに微細。

「これくらいですかね。後は拭くしかないですね」

 シャーレをしげしげと見つめてシオンは呟く。
 冷静だったけど、やや残念そう。
 俺も少ししょぼんとする。
 同じように自分の出した精液を眺め、小さく溜息をついた。

 うん、まだちょっと付いている。
 肩の方に垂れたのか、飛んだのか染みがある。
 機械的にその精液を指ですくって、そのままシオンの唇をつつく。
 え?
 ああ、何気にいつものような真似を。
 ごめんと謝って指を引こうとすると、それより先にシオンの唇が指先を飲み込んだ。
 ちろりと舌がかすめたのがわかった。
 指先を吸われる感触。

「美味しいものではありませんね」

 背筋がぞくりとした。
 そんな真似をされるとは想っても見なかったから。
 真面目な顔でペニスを刺激してくれたさっきよりも、ずっとぞくぞくとした寒気を感じた。

「服にも飛んでしまいました……、こんなところにも」

 シオンは今度は自分の服のあちこちに目をやっていた。
 ほとんどはその端整な顔で受け止めたものの、直接飛んだり顔から垂れたりで多少は着てい
る物も被害を受けている。
 下手に擦ると染みになるからか、軽くぽんぽんと叩いて汚れを取っている。
 肩。胸の辺り。

「ああ、こんな処まで……」
「……」

 シオンは無造作に胸をはだけていた。
 そんなに晒すようにしている訳では無いが、何しろ間近だ。
 胸の谷間と、丘陵を隠すというより飾るようなブラジャーも垣間見える。
 意外と大きいんだ。

「あッ」

 シオンが不躾な視線に気づいたのだろう。
 ぱっと顔を赤くして、両手で胸を隠す。

「ご、ごめん」
「い、いえ……。つい。私が不注意でした。
 志貴?」
「うん?」
「なんで、こんなに……」
「シオンのそんな可愛くていやらしい姿見たら、嫌でもこうなるよ」

 いつの間にか、俺のペニスはまた臨戦体制に入っていた。
 シオンの驚嘆の目が少し嬉しい。
 どことなくシオンの様子が違う。
 さっきの事務的な態度が、少し崩れている。

「シオンはこんなの見ても平気なんだと思っていた」
「平気じゃありません。
 志貴はどう思っているのか知りませんが、私だって女らしい感情や羞恥はあるつもりです。
 本当はさっきだって、心の内では動揺していました。
 こんな男の人のものに触れたのは初めてなんですから」
「でも隠していたんだ。なんで?」
「志貴にこんなお願いをするのに、私だけ恥かしがっている訳にはいきません。
 本当は志貴だって嫌だったでしょう?」

 どうだろう。
 でも、シオンが見るのも嫌だと言う態度で同じ事を頼んだら、無碍に断りはしないだろうけ
どちょっとブルーになったかもしれない。
 それに途中過程はどうあれ、シオンにして貰ったのは男としては嬉しかった……と思う。

「それに今は……」
「今は?」

 頬が少し色付いている。
 それを眺めながら言葉を促す。

「わかりません。でも少し頭がぼうっとしているようです。
 あんな真似をして、志貴の匂いを感じて、そしてまた志貴を見ているから……。
 これは初めての事で上手く自分でも分析できません」
「ふうん」

 言ってて恥かしくなったのか、こほんと咳払いして、シオンは少し表情を変えた。
 冷静さを少しだけ取り戻す。

「あの、志貴……。
 これは、また射精出来るのですか?」
「うん。もう一回くらいは平気だと思うよ」
「お願いしてもいいですか」
「喜んで」

 ペニスをぺたんとしゃがんだシオンの鼻先に近づける。
 微妙なシオンの表情の揺れ。
 
 さっきとは違う。
 絶頂を迎えてろくに拭ってもいないままの姿。
 先のほうだけでなく、亀頭から筋の方が濡れている。
 立っている俺にも、少しむっとする匂いが窺える。
 そんな吐精の跡を濃厚に湛えたペニスを突きつけられている。
 手を伸ばすのも躊躇われるのではないだろうか。
 
 実際、シオンは少しの間、まったく動かなかった。
 俺も別に促しはしない。
 そうしていて、ようやくシオンは恐る恐る手で触れてきた。
 
 さっきより火照っているからだろうか、冷たく感じる手。
 ぐちょりとした感触をシオンは不快に思っていないだろうか。
 表情からは窺えない。
 でも、そろそろと手を動かし、まさぐるとも両の手で擦るともつかぬ仕草でペニスに対して
明らかな愛撫を行っている。
 三度、四度と幹を手が往復する。
 軽い感触。
 まださっきの快美の残り火がくすぶっている今は、強い刺激よりもこの程度に抑えられてい
る方が心地よい。
 尿管に残っていたのだろう。
 根本から送るような手の動きで、濡れた鈴口から精液の残滓が滲み出てきた。

「舐めて」

 じっとそれを見つめるシオンに、自然と声が出た。
 シオンは俺をちょっと見て、頷く。
 舌が小さく伸びる。
 手が止まり、変わりにシオンの顔が近づく。
 震える唇がかすめそうになり、僅かに離れていた舌がもう少しだけ前に突き出された。
 つんと精液の露を舌先が続く。
 危うい均衡が壊れ、精液が動く。
 シオンの下にこぼれ落ちる。
 そのままシオンは舌全体を亀頭に押し付けるようにして、舐め上げた。
 ぞくぞくとするとんでもない快感。
 ふっと腰が軽くなる。
 出したばかりでなければ、さっきのようにシオンの顔をめちゃくちゃにしていただろう。

 いつの間にか止めていた息を大きく吐き、荒く空気を求める。
 目は釘付け。
 シオンの舌に乗った白濁液が唇の中に消えるのをしっかりと凝視しつづけた。

「やっぱり、変な味と変な匂いです」
「そうだろうね」
「でも、嫌ではありません」

 喉が小さく動いたのを見届ける。
 シオンはまたペニスを絶頂へ導くべく、そろそろと手を寄せた。

「ねえ、シオン」
「はい、何でしょう、志貴?」
「シオンの実験にはさ……、俺の精液に混ざり物があったらダメかな?」
「モノによりますけど。どんなものでしょう。
 うん、例えば……、女の子の唾液とかは?」
「……大丈夫です」
「そうか。
 じゃもう一つ。やっぱり一度出したから、すぐにもう一度ってのは時間がかかるみたい。
 長いこと、手を動かすと疲れるだろうし、出来れば俺も違った刺激を受けた方が良いと思う
んだけど、どうかな?」
「私はこの手の事は不慣れですから、志貴の判断の方が的確だと思います。
 こうした時にはどうすれば良いと思いますか?」
「そうだね……、口でされたらあっという間に達しちゃうだろうね」
「そうなのですか……」

 言葉自体はそらぞらしいが、シオンの目に熱っぽいものを感じていた。
 シオンも俺に対してそう感じているだろう。
 会話はそれで終わりだった。
 俺はまたベッドに腰掛けた。
 そしてシオンを待つ。
 シオンは膝立ちで近づいてきて、俺の足の間に入った。
 屈むようにしてまず、手を伸ばした。
 シオンの手がペニスの根本を押さえる。
 それだけで期待にびくんと震える。

 シオンの顔が近づく。
 さっきよりもゆっくりと。
 じれったくなるほど緩慢に。
 でもそれが、早くと言いたくなるやきもきする感じが、たまらなく興奮を誘った。
 
 小さな唇。
 今は閉じられている。
 普段は俺なんかには理解が及ばない深遠な言葉を出す口が今は押し黙っている。

 近づく。
 もう少し。
 もっと近づく。
 あと、紙一重。
 もう、触れ……ない。

 止まった。
 息が洩れた。
 俺とシオン。同時に。
 素晴らしいお芝居の間に溜息をつくみたいな俺と。
 いよいよ出番と言う事で小さく息を吐くシオン。

 そして、亀頭の先、傷のような小さい口に、シオンの唇が当てられた。
 その、言いようのない柔らかさ。
 小さい声とも吐息ともつかぬ空気が撫ぜる。
 まだ、キスもした事ない女の子に、こんな処で唇を合わせている。
 どきどきしている頭の片隅でそんな馬鹿な事を束の間考える。
 ほんの束の間。
 そしてそんな余裕は消え去った。
 いきなり、シオンは口を開けてペニスを飲み込んだ。
 
 濡れている。
 熱い。
 快感。
 柔らかい。
 舌。
 唾液が絡む。
 粘っこい。
 揉まれる。
 擦られて擽られる。
 気持ちいい。
 歯が軽く当たる。
 頬の肉が亀頭を包む。
 
 なんて、なんて凄い感触。
 一度にいろんな処が刺激され脳がパンクしそうだった。
 それだからだろう。
 射精に体の機能がついていかなかったのは。

 まさかいきなり咥えられるとは思わなかった。
 シオンの知識には、フェラチオも当然入っていたのだろうけど、その過程までは理解してい
なかったのだろうか。
 もっと唇であちこち触れたり、舌であちこち舐めたり、そんな事をわくわくと期待していた
だけに、全然レベル違いの快感の津波は反則であり、暴力的ですらあった。
 

「待って、シオン。駄目だ、出ちゃうよ……」

 そのまま、ぎこちなく唇で幹をしごき始めたシオンを慌てて止める。
 悲鳴じみた声。
 よく考えたらおかしな話しだ。
 射精の為の行為なのだから。
 でも、シオンもその快美な拷問を中断してくれた。

 小刻みに息を吸い、吐く。
 気を紛らせて強烈な排出欲に耐える。

「もう少し、ゆっくりやってくれる?
 勝手なお願いだけど……」

 口がふさがったまま、シオンは行動で答えてくれた。
 強く吸う力が、唇の締め付けが、舌の蠢きが、弱まる。
 微弱な圧迫と、暖かく濡れたものに浸る心地よさだけが残る。
 ゆるゆるとシオンが上半身を前後に動かす。

「気持ちいい……、シオンの口。
 暖かくて柔らかくて、口の中の全部蕩けそうだよ」

 口の中でもごもごと空気が動く。
 じゅると唾液をすする動きも伴っている。

 口戯に身を委ねて、シオンのその姿を眺めるのも素晴らしかった。
 改めてみると信じがたい光景だった。
 やや上気した顔。
 俺の前に跪くような格好。
 股間に顔を当てて、反り返ったペニスを深く咥えて。
 まったく、信じられない。

 まあ、どれだけ疑わしくても、この絶え間なく与えられる快感が夢幻の訳が無い。
 でも、もっとこれが本当だと確かめたくて、俺はシオンの頭に手を伸ばした。
 ふらりとした髪を手で撫ぜる。
 さらさらとした感触。

 夢じゃない。
 確かにシオンはここにいる。
 何度となく頭を撫ぜる手を、シオンはそのままにしている。
 小さく鼻を鳴らし、口から声を洩らすのは言葉としては伝わらないけれど、シオンがそれを
決して嫌がってはいないとは感じられる。
 むしろ嬉しそうにすらしている。
 それに力づけられて、手をさらに動かす。
 髪を伝って、小さな耳に触れ、滑らかな肌の感触の頬をそっと撫でる。
 首筋、そして鎖骨の辺りの窪み。
 そこをさらに下へ行けば、シオンの胸。
 さっきくつろげされたそこはまた、閉じている。
 さすがにそこへ無遠慮に手を入れる訳にはいかない。

 でも……。
 またペニスが脈打つ。
 シオンだってこんな事しているんだから。
 言い訳のように心の中で呟いて、服を柔らかく押し上げた膨らみに触れた。
 感触は単なる布地。
 それも薄いレースとかでなく、何枚も重なったもの。
 でも、その奥の胸の柔らかさと丸みはきちんと手に伝わった。
 軽く押すと潰れてたわみ、でもやんわりと押し返すその掌から広がる快美感。
 シオンはやや非難するような目をしている。
 あるいはそう見える。
 でも、殊更に嫌がる素振りは無いし、ペニスへの奉仕は淀みなく続いている。
 
 それに勇気付けられる。
 強くしないようには気をつけながらも、シオンの胸を飽く事無く弄り揉み続けた。
 直接目にしたい、触れたいとは思ったけれど、これはこれで魅惑的だった。
 布越しであるが故に、よりシオンの胸の形や柔らかさに集中する。
 胸の先端の突起が感じられるような気がする。
 気のせいか?
 シオンも胸の先を尖らせて硬くしているとしたら……。
 見たこともないシオンのピンク色の乳首がツンと突き出した様を想像する。
 ちょっと手を動かせば、実際に目にする事は出来る。
 シオンもそれを許容するかもしれない。 
 心なしかしゃがんだシオンの脚がもじもじと動いているような気もする。
 シオンだって少しは感じ始めているのい゛はないかと思う。
 なら、いっそもっと……。
 でも、そこまではしなかった。
 服の上から楽しませてもらうに留めた。
 自分でも不思議な線引き。
 あくまで、シオンのお願いに応えているという状況を壊したくなかった。

 シオンが慣れて来たのか、少し動きを変えた。
 ぎこちなさが薄れている。
 俺の反応を見ていろいろと力の加減や舌や唇での触れ方をどうすればよいのか判断しているのだろう。
 それにシオン自身が行為への怖れみたいなものを減じたからというのもあるかもしれない。
 とにかく、より気持ち良くなっている。
 最初の、刺激が強すぎて痛みですらあった快感の激流からすればずっと弱い。
 でも、弱めてくれと悲鳴を上げた時からは気がつくとずっと強くなっていた。
 気がつくとペニス全体が強弱の波はあれ、非常な悦びを与えられている。
 ただしそれが性急な射精感に繋がっていない。
 痺れと気持ちよさだけが持続していて、実際に口戯を受けている処だけでなくて、腰や下腹
までが蕩けている。
 ずっとこうしていたい。
 そんな事を思う。


 だけど、それに反する思いもまた生じている。
 さらにと望む気持ち。
 もっと呑み込んで欲しい。
 もっと強く吸って欲しい。
 もっと舌で嬲って欲しい。
 もっと唇で責めて欲しい。
 もっと歯で噛んで欲しい。

 いや、ただ受け身でなくて。 
 喉奥まで突きたくなる。
 頭を固定して腰を振り立てて、シオンの口を貪りたくなる。
 奥へ奥へとより強い快感を求めるオスの本能。
 それを理性で推しとどめる。
 男のモノを触れるのも初めてなシオンに、そんな酷い真似は出来ないという気持ち。
 
 そうこうしているうちに、終局を迎えた。
 何度かの波の果てに、やって来たむず痒さの頂点。
 あ、もう駄目だ。
 
「シオン、出るよ」

 小さく叫ぶ。
 シオンにペニスを吐き出す間を与える。
 しかしシオンは口を開こうとしない。
 声が聞こえなかったように、そのまま唇で締め付けている。
 舌がねっとりと亀頭の縁をねぶった。

「出すよ」

 言い訳のような宣言。
 まだ、何とかシオンをやんわりと押しのける事は出来た。
 でも、シオンがそのつもりなら。
 ここに突き入れたまま、シオンの唇と舌を感じたまま、出したかった。
 さっきシオンの顔を汚したものを。
 今度はシオンの中に。

「くッッ」
「…ん……ッ」

 刺すような快感。
 どくんと強く脈動。
 そして、それに呼応するようにシオンも小さく呻き声を上げた。

 どくん、どくん、どくん。

 一瞬ではなく、射精は何秒も続いた。
 あるいは続いた気がした。
 シオンの口だけではなく、喉も胃もお腹も、体中を満たしてしまうほどの量が迸ったような
気がした。
 それほどの腰が抜けそうな脱力感。
 そして圧倒的な快美感。

 シオンの口に打ち込んだ太い杭を抜く事も忘れて、しばらくそのままの姿勢でいた。
 動いたら、ふにゅふにゃと崩れそうだった。
 立っていなくて良かった。

「あ……、シオン……、平気だった?」

 ようやく、シオンを思いやる余裕が生まれる。
 ゆっくりと腰を引いた。
 シオンは唇を閉じたまま。
 まだ敏感なペニスは抜く動作で擦られ、びくびくと震える。
 強く引き抜いたら、その摩擦でまた達したかもしれない。
 出るものがあったのかどうかはわからないけど。

 …ちゅぷん。

 そんな音を立てて、ペニスはシオンの唇から離れた。
 唾液とも腺液ともつかぬ糸がまだ、離れがたく繋がっていた。

 シオンは口をきつく閉じたまま。
 そして、こっちを見て何かを伝えようとしている。
 手が背後を示して……、ああ、これか。
 邪魔にならないよう離していたシャーレを手にとる。
 はいと手渡すと、シオンは受け取り自分の口元に運んだ。

 シオンの口が開く。
 口の中は、どろどろとした白濁液が満ちていた。
 溢れそうなほどの量。
 もちろんそれは今放出したばかりの俺のもの。
 それと、ずっと俺に奉仕をしてくれて溜まっていたのであろうシオンの唾液。
 ピンク色の舌がその中から伸びた。
 シオンが口をもごもごと蠢かすと、その混合体はでろりと舌を伝ってガラスへと落ちた。

 それだけを見れば汚らしくすら思えるのに、無性に興奮を誘う光景だった。
 こぼれ落ちない分は、縁でこそぐようにしている。
 舌がシャーレで動くのも、妙にエロティックな感じを与えた。
 唇はてらてらと濡れ光り、口の端には泡立った白いものがこびり付いている。

 しばらくして、シャーレは蓋をされて傍らに置かれた。
 吐き出して、それでも残った分は……、シオンが飲み込んだのが見えた。
 あくまで残り滓にすぎないけど、男が出した精液をシオンが飲み込む姿。
 それも俺の放出したものを……、そう思うとたまらなかった。
 少し顔を顰め、喉が動くのを、俺は瞬き一つしないで見届けた。
 
 何もかも、ほんの一時間前には予想だにしなかった事だった。
 シオンの訪問も。
 奇妙なお願いも。
 シオンの顔を汚した事も。
 シオンに奉仕された事も。
 そしてシオンの口に激しく射精した事も。
 それを出すのと、飲み込むのを見る事も。

 ぱたんとベッドに倒れて力を抜いた。
 顔だけはシオンに向けて。
 
 俺が放心している間に、シオンは乱れた服を整えて、口の周りも拭っていた。
 もっとも服を脱いでいた訳でもないし、元の姿になるのは造作も無い。
 立ち上がり、部屋を出る素振りを見せながら、シオンは俺に言った。

「また、ご協力をお願いするかも……」

 語尾が微妙に終わっていないまま、シオンは俺をじっと見た。
 顔と、そして体を。
 少し頬を赤く染め、彼女にしては口ごもり気味に言葉を続ける。 

「いえ、きっとお願いするでしょう。
 その時には……」

 そして、俺に問うような目を向ける。
 俺は頷いた。

「ああ、いいよ。その時は、喜んで協力させてもらうよ。
 シオンの為だからね」
「もっと志貴にとって効果的な方法を、調べておきます」
「……期待しておく」
「では、おやすみなさい、志貴」
「うん、おやすみ……、じゃないのかな、シオンは。
 あまり根を詰めないでね」
「はい」

 既に普段のシオンに戻っていた。
 手に、獲得物を大事に持っている事を除けばだけど。

 ゆっくりと扉が閉まる。
 なんだか急に眠くなって、自然と欠伸が洩れた。
 眠ろう。
 るうけっこうな時間だ。
 起きたら、夢かと思うのかな。
 そんな事を思いながら、俺は快い疲れを癒す為にもぞもぞと毛布にもぐった。

  《了》
 
 







―――あとがき

 最初のシオン18禁SSがこんなの……。
 正確には初めてじゃないかもしれないけど、某キューブはSSとは言い難いから。
 
 阿羅本さんを始め、他の方が「設定から起こすので長くなる」みたいなコメントだったので、
じゃあ、そういうの無しの馬鹿な短いヤツでも書こうかというのが出発。
 確かに馬鹿になってますけど、だらだら続ける悪癖が出てますね。

 えろっちさに乏しいし、精液、精液とやたらと連呼されると気持ち悪い方もいるでしょうが、
少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。

 着衣したままで終わるのが書きたかったんだよ……とちょっと良い訳。


  by しにを(2003/4/9)
 


                                      《つづく》