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 自分の上に重なる大きな男性の身体。
 まるで天蓋の様に私を覆う――シオンはそう感じていた。自分がその舌で無
防備に横たわり、上に志貴の身体が被さると殊更に感じる。
 志貴の何気ないふれあいの中でも感じるシオンであったが、今はその腕の舌
にいる。志貴はシオンの唇に、再び己の唇を重ねる。

 ちゅ、と唇が音を立てる。
 シオンは腕を差し伸べて、志貴の首を抱いた。目をつぶり、初めての唇の感
覚に集中する。乾きはなく、あの身体の中が焼けるような激しい苦しみもない。
志貴の首筋を抱き、唇同士を触れあわせる感触に安らぎに似た感情を覚える。

 すでに、錬金術師であるエルトナム・アトラシアの姿はない。
 一人の少女であるシオンに立ち返り――いや、生まれて初めて錬金術師とい
う枷から放たれて、生のシオンとして命の脈動を感じる。

「ん……?」

 志貴の舌が、にゅっとシオンの唇を割って忍び込む。
 シオンは一瞬この異物に唇を硬くして抗おうとしたが、すぐに力を緩めて受
け入れた。愛戯で舌を使う、と性魔術にはあったが初めての、ちょっとおかし
く思えるくすぐったいような。
 シオンも控えめに、志貴の舌先をつん、と口内で迎える。
 ああ、こんなに違うんだ――と志貴の舌の力強さに実感するシオン。

 二人は接吻しあい、しばし首の角度を変えてお互いの唇を確かめる。
 志貴の舌は情熱的にシオンは応える。ちゅぱりぷちゅり、と音を立てて唾液
を混ぜ合うように舌を戯れ合わせる。

 シオンは志貴の首筋にぶら下がっていた。こうして志貴の首を抱いて、くっ
ついてしまって己の中に堪った熱い情欲を志貴の身体に流し込んでしまいたい
ように。
 目をつぶり、敏感な唇の先鋭ですらある感覚に酔うシオンであったが――

 志貴の腕が優しくシオンの身体を下ろす。
 そしてその手が、薄く肋骨の浮き上がったシオンの脇に触れる。その手がシ
オンの身体の身体をかろうじて隠すワイシャツの中に。

「うっ、ああっ!」

 志貴の手が、シオンの胸に触れる。ほどよく形よいシオンの乳房を裾から包
むようにして志貴は触る。柔らかい、女性ならではの肉体の繊細な感触。
 シオンは初めての――愛撫に唇を離して声を上げる。そして、微かに笑いな
がら胸を触る志貴の顔を伺うような瞳で見つめると。

「志貴……私の……身体は……天性の美姫である真祖に比べれば貧相なもので
しょう?」
「貧相?とんでもない」

 志貴はそんな、気後れを抱いているシオンを安心させるようにまた唇を奪う。
 恨みがましい、そんな卑下する言葉を口に浮かべたシオンはまた口を封じら
れて。

「んっ、んぅ……」
「……まったくもう、そんな可愛くないことをいうシオンには、お仕置きだ」
「お仕置き……あああっん!」

 シオンの身体はびくん、と強く痙攣する。
 志貴は意地悪そうに告げると、親指と人差し指で小さな乳首の突起を摘んで
いたのだ。
 サクランボの種のようにちょこんと綺麗な胸の丘にある乳首は、志貴の指に
締め付けられ、揉まれるようにふにふにと動くと――

「ああっ、んっ、ああっ志貴……そこは……いっ……やめて……」
「ダメ。もっと可愛いことをシオンが言うまでする」
「そんなこと――んんぅ!」

 志貴は両手でシオンの胸を抱くと、両手で今度はシオンの胸を責める。
 手の平と残りの指で柔らかな乳房を揉みながら、二本の指は同じようにシオ
ンのその可憐な乳首を責め立てていた。
 志貴はシオンに覆い被さり、唇と舌でシオンの口腔を貪る。

 シオンは身体を弓なりに反らせて、その容赦のない責めに耐えていた。
 胸の上に這う志貴の手は、まるでシオンの身体に快感と苦痛の毒を塗りたく
る様に動く。自らの手でもほとんど触ることの無かった両の乳首は、きつく思
うほどに摘まれ、こりこりと動かされている。苦痛な筈なのに、それは背骨に
響くほどの鋭い官能を引き立てて――

「んっ、ん……はぁぁっ、志貴……ふぁぁ!」
「ふふ、だんだんシオンのちくび、硬くなってきたよ……こんなにお仕置きを
されても感じちゃうんだね、シオンは」

 志貴はシオンのことをちくりちくりと言葉でいたぶる。
 シオンは志貴の身体の下に敷かれ、抵抗することももはやままならない。そ
してその手でシオンの胸を快楽に開拓するかのようにこねくり回していて、指
先にその確かな反応を感じ取っていて。

「ねぇ、シオン?錬金術師もこんなことをされたら、気持ちいいって予測して
いるの?」
「志貴……そんな……常には……あああっ!」
「だよねぇ、でもこんな風にシオンが可愛い声を立てるとは俺は知らなかった
けど」

 志貴の人差し指が、くりくりと円を描くようにシオンの乳首を動かす。
 円の下弦から上弦に移るときの、乳首に持ち上げられるような強い力が掛か
るときにシオンの喉がひくひくと震える。
 今まで感じたことのない、屈辱と快楽がないまぜになった、腰の融けるよう
な泥にもにた感覚に沈みながら喘ぐ。

「志貴……なんで、そんな事を私に……ひゃぅ!」
「それはね、シオンが可愛いから」
「では、なぜこんな辱めを私に……」
「それはシオンが可愛いことを言わないから。だからね」 

 志貴はちゅっとシオンの頬にキスをすると、手の平でシオンの乳房をふにゅ
りと絞るように揉み上げて――

「ああああっ、はぁん!」
「こんなに可愛い声を立てているのに、可愛い言葉を聞かせてくれないから…
…悪戯したくなっちゃうんだよ。ね?」

 そう言って志貴はくくくっ、と小さな笑いを浮かべる。
 嘲られた――とはシオンは感じなかった。ただ、悪戯好きの少年に戯れかけ
られているような、そんな相手を前に四角四面に振る舞い自分が愚かだと思う。

 ――不思議だ。いつもの理知的な自分は何処に行ってしまったんだろう

 錬金術師であったシオンが思い出せないシオン自身。
 でも、そんな志貴を――喜ばせてあげたいという気持ちだけは彼女の心に宿
る。
 志貴が喜んでくれれば、自分の中の志貴を欲しい本心も満たされる。

 と。シオンは志貴の顔を見つめて、いつもよりも倍ももどかしい舌を動かす
と。

「志貴……私は……初めてだから、やさしくしてください」

 シオンは精一杯にその心の中の言葉を口にする。
 志貴はそんなシオンの、ぎこちない言葉を一言も聞き逃さなかった。その顔
を満面の笑顔で埋め、今まで快感に責めていた乳房をするっと手放した。

 ワイシャツの下でいやらしげに蠢いていた手は抜かれ、その薄い布地にぽっ
ちりとシオンの起った乳首が映る。志貴は手で長いシオンの髪を掻き分け、お
でこを撫でると。
 そこに、優しくキスをした。

「―――あ」
「よく言えました。じゃぁ、ご褒美を上げる」

 志貴は驚いたシオンに優しく語りかけると、ふたたび手をワイシャツに潜ら
せる。
 シオンは身を固くして、先ほどの胸への強い刺激の再来に耐えようとするが
……
 志貴の手は、シオンのワイシャツの前をはだけていた。

「あ…………」

 シオンは今や全裸も同然の自分の身体が志貴の目の前に晒されていると知る。
 ワイシャツはめくられて、ぶるんとした張りのあるシオンの乳房があらわに
なっている。横に顔を背けるシオンの小さな傷跡の残る首筋から鎖骨、そして
胸元――硬く尖った先端も初々しい胸に、そのまますっと細くなる肉付きの薄
いお腹とヘソ。
 そして曲線を描く腰の少女らしい筋に、ぴったりと合わされた太股。へそか
らなだらかに下がる下腹部には薄く生えた恥毛があり――

 風呂場でも見られただろうし、この部屋に連れられて来る途中にも見られた
だろう。
 だが、この初夜の褥で志貴の腕に組み敷かれ、じっと肌の内側まで見られる
というのは――まだ熱く志貴を求めるシオンの奥底が覗かれてしまうような、
錯覚。

「…………」

 シオンは志貴から目を反らして、ぞくぞくする視姦の興奮を押し隠そうとす
る。
 それに、志貴のいうご褒美とはなにかを――

「……あっ」

 志貴の手は、再びシオンの胸に触れる。
 だが、先ほどのような玩具にして戯れるようなある種残酷な責めではなく、
大事な物を受け取るかのような優しいタッチ。さわり、と胸に触れる志貴の指
に、シオンは声を上げる。
 そして志貴の顔がゆっくりと身体に向かって下がっていった。
 
 志貴はシオンの胸の上で、間近につんと尖った乳首を見つめている。そんな
に知覚で凝視しないで欲しい、というシオンの嘆願が漏れる前に、志貴のその
舌がにゅっとシオンの胸の先端を――

「ひゃぁっ!あっ、はぁ、ああああ……」
「さっきは手荒くしてごめん。だから……ああ、シオンの胸がこんなに硬くし
ちゃって……」

 志貴はシオンの胸を優しく絞りながら、乳首を舐める。
 ざらついた、それでいて唾液に濡れた熱い舌でぬるりと敏感な先端を舐めら
れるシオンはシーツを掴んで堪えた。今までの指戯にはない、くすぐるようで
染み通る感覚情報の氾濫だった。
 シオンは志貴にねぶられる胸を突き出すように身悶えしながら。

 ちぴちゅぷりと舐める舌の水音と、シオンの口から漏れる音が――

「あっ、うう……はぁ、あああっ……志貴……」
「ああ、感じてるんだねシオン……いいよ、シオンの胸は。こんなに綺麗で敏
感で……アルクェイドにも負けないよ、うん」
「そんな、真祖と私を……あっ、はぁっ、んんぅ!」

 シオンは時折志貴の口からもたらされる言葉に身もだえしながら、身体を波
打たせて反応する。両手で胸を揉まれ、志貴の口は右から左へとシオンの乳首
を舌で舐め、くすぐっていた。
 まるで胸だけ、別の感覚系が目覚めて脳と脊髄に狂ったかのように甘酸っぱ
い快楽を流し続けるかのような。

 シオンは髪を身体にまとわりつかせ、眉を寄せて押し寄せる官能に抗する。

「う……ふぅ、はぁ……ああ……ああっ!」
「うーん、シオン……」

 志貴は顔を上げると、はぁはぁと肩で息をするシオンの顔を見上げる。
 喘いでいる浅ましい表情を見つめられたことにシオンは恥じて、もっと頬を
赤らめて目をそらしてしまうが、その様子を志貴は観察していた。

 志貴は、苦しそうにも見えるシオンの顔に向かって、戯れ掛けるように

「……もっと可愛い声で可愛いことを言ってくれないかな?」
「そ、そんな……恥ずかしい、志貴」
「胸をいじられただけでこんなに震えるシオンだから、ここを……しちゃうと
どうなるかな?ふふ」

 志貴はシオンの胸をマッサージする手を外した。
 そして、そのまま絹のように滑らかな肌を伝って志貴の手が下がっていく。
おへそのあたりを波打つようにして下ると、そのまま股間にまで繋がる下腹部
に――
 シオンはその志貴の手の動きの先を知って、慌てて止めようと手を伸ばすが。

 志貴のもう片手が、それを読んでいたようにしっかと受け止めた。

「くっ、ああ……志貴、そこは……その先は……」
「可愛いね、こんな風にして恥ずかしがるシオンは……んー、どうしようかな?」

 シオンはそんな、ふざけるような志貴の口調に怒りよりも困惑を感じていた。
 志貴は何を欲しているのか?優しくしたかと思うと責めるし、責めたかと思
うとねっとりと甘く愛撫する。このまま志貴という波に翻弄され続け、舵を失
った小舟のように漂うしかないのか。
 先が見えない――事に対するシオンの、本質的な不安。

 そんな思いに駆られている間にも、志貴の手は下腹部の上で円を描いていて。

「……どうして欲しい?シオン」
「それは……そう言うことは志貴の方が詳しいでしょう……」
「確かにそうかもしれないけど、シオンが嫌がることはしたくないしね」

 志貴はシオンを気遣うような様子を見せているけども、その実はシオンを言
葉で弄んでいた。こんな、志貴に常ならず弄ばれる自分にシオンは、情けない
ような――それでいて、もっと志貴にいたぶられたい被虐的な快感を覚えてい
て。

 志貴の手が少しでも下に下がれば、シオンの大事な部分に触れる。
 今も志貴の手が柔らかいシオンの恥毛に触れていた。さわり、と柔らかなお
腹の下を触られると無防備な身体の部位である為か、このままどうされるのか
のいくつもの恐れと迷いが心の中で入り乱れて。

 ――いや、私が望むのは一つしかないのに

「んあっ、ああ……ふぅ……ああ……」
「ね?シオン?俺はシオンがされたいようにするから……ふふふふ」
「……」

 シオンはいやいやと軽く首を振るが、やがて身体に加えられる刺激に耐えか
ねるように、瞳を潤ませて身体の上の志貴に向かって。

「……志貴。私の……その……それをさわって……撫でてほしい」
「……それ?どこかな?シオンの?」

 志貴はシオンに、それのことをどうしても口に出させたいとばかりに鼻をふ
んふんをひくつかせて聞いてくる。そんな、子犬のように耳と尻尾を振りそう
に期待してシオンを見つめている志貴を、シオンは両手で顔を隠して指の隙間
でちらりと見て。

 真っ赤な顔を見られたくない。でも、シオンは泣きそうな目元だけを微かに
覗かせて、ううう、と恥ずかしそうに迷っていたけども。
 志貴は無言で、手も舌も止めてシオンの言葉を待ちかまえていた。

 シオンはなんとか、その瞬間を引き延ばそうと呟く

「この国の言い方はよく知らない……」
「そんなことはないよ、なんならエーテライトで俺の中を読みとってでも良い
から」
「馬鹿……あああ、もう……志貴……お願い、許してくれ」

 シオンは首を振って、志貴に哀願する。
 そんな弱々しい仕草が志貴に慈悲の心を起こすことはなく、むしろ――もじ
もじとした可愛らしさを強調されているかのようで、志貴の中にわき起こる悪
戯な心を刺激するばかりで。

「んー、じゃぁ、教えてあげるよ」
「え?志貴――」

 志貴はにやりと笑うと、すっと身体を上げてシオンの耳元に顔を近づける。
 長い髪を掻き分け、綺麗なシオンの耳朶に口づけする様に唇を寄せる。耳に
息が掛かるくすぐったさにシオンは身をすくませるが、その耳に囁かれた言葉
に比べれば――

「―――――――!そ、そんなことをこの私が!」
「あ、なんだ、やっぱり知ってたんだシオン。じゃぁ言えるよね?」
  
 シオンは慌てて抗議するが、それも志貴の余裕満々の笑顔に受け流されて。
 泣きそうな顔でシオンは志貴をすがるように見つめるが、志貴はうんうんと
頷くばかり。シオンは、手の平の下でわななく唇から……

「……お○んこに」
「聞こえないよ、シオン?」
「志貴……私の、私のお○んこに触れて、かき回して……お願いします……」



                                      《つづく》