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  魍魎だ。
  水から這い出た鬼が、床に組み敷いた女の骸を食らっている。
  領地へと踏み込んだわたしには見向きもせず、緩慢にもぞもぞと蠢いている。
  宵闇の中、すべてを曝け出した女の骸だけが奇妙に白く明るい。
  ごくり、と喉をなまぬるい唾液が零れた。
  頭に霧がかかってぼやける。
  目の前に魍魎がいて、女を咀嚼している。
  私は、境界を越えてしまっていた。
  ここは既に異界――魍魎の棲む匣だ。

  だが、待て。私はまだ現世を意識できる。
  意識は変革しきっていない。
  あちらへ踏み込んで、頭の芯まで染まってはいない。
  つまり、私はまだあちらとこちらの境界上にいるのだ。
  私にはまだ名前がある。
  シオン・エルトナム・アトラシア。
  それは冷静なる思考の名だ。
  こちら側での最大の武器は、まだ手の中にある。考えろ――――

  そう。あくまで冷静に見るなら”魍魎が居る”という前提からして矛盾なのだ。
  魍魎は境界的であり、一定に属さない――或いは、境界そのものだ。
  人は己という匣の中に魍魎を収める。
  あちらもこちらも諸共に、たった一つの果敢ない線を境界に持っている。
  異界もまた己の内に在る。頭の中に在るのだ。
  その線――境界こそが魍魎なのだから、ソレは己の中にのみ存在する。
  目に見えるはずはない。
  つまり、人の骸を食らう鬼などは、存在するはずがない。
  これは幻視。他愛のない幻だ。

  「あ――――――んんッ……」

  白が動いた。
  弱々しい悲鳴を上げて、倒れ伏した女の身体がぴくりと跳ねる。
  女もまた、死体などではなかった。
  だが、思いのほか私はやられていたらしい。
  女の上の魍魎は、未だに消えない。
  人とも獣ともつかない姿で、息を吹き返した金髪の女に食らいつこうとする。
  二本の角をにょっきりと生やした、赤黒い子鬼。
  ああ、あの物語に記されていた通りのいでだちだ。
  ……そして。ソレが私に気付いた。
  
  「――――シオン」
  「え?」

  魍魎が、私の名を呼んだ。
  それはおそらく幻視を破壊する最後の鍵になった。
  私を知っている化物など、居ようはずもないのだから。
  そして、世界は急速に正常化する。
  ここは鬼の渦巻く異界ではなく、志貴の部屋に戻る。

  「あ、アトラスの女だぁ」

  床に倒れていた女もまた、私を知っていたようだ。
  もっとも、アトラスの女とはまた乱雑な括り方ではあるが。
  美しいブロンドの髪を掻き揚げ、寝転んだまま赤子のように首をかしげて
  私を見たのは――――

  「ひ――――姫君!?」

  ……信じられない。
  目の前に寝転がっていたのは、私にとっての目下の天敵である異形――吸血鬼。
  それも、世界に蔓延る”後付け”の新人(ルーキー)どもとは根本から異なる、
  一次的な存在。産声から血色で生粋の、吸血鬼中の吸血鬼。
  真祖と呼ばれる者たちの姫――アルクェイド・ブリュンスタッドに他ならない。
  更に私を驚かせたのは、彼女が一つの布さえ纏わず、熟れた洋梨のようにくびれた
  胸も、健康な薔薇の茎のような腿も、あられもなく曝け出していたことだ。

  「俺もいるんだけどな、シオン」

  続けて、魍魎が――否、姫君の上に圧し掛かっていた影が、また口を開く。
  だが、私ももう異界から放たれた。
  改めて姿を見れば、選択の必要もなく影は遠野志貴――この部屋の主だったのだが。

  「え、っ……?」

  まだ、私は異界に居たのだと思った。
  ようやくまともに見た部屋の中では、まるで予想だにしない光景が広がっていたから。
  
  志貴と姫君が、ぴたりと密着している。
  隙間もないくらい、みっしりと接触している。
  けれど、姫君は全裸で、その上に乗った志貴も――――また全裸。
  しかも、志貴は姫君の腰辺りへと跨っているから、
  ……結果として、志貴の腰が豊満な肉の谷間にぴたりとくっついている。
  それだけでも頭が眩眩したというのに、志貴の股間では陽物が痛々しいほどに勃起して、
  その肉の柱が姫君の豊かな乳房に挟み込まれていた。
  ただ挟まれているのではない。姫君は、自ら両手で胸を寄せて固く張りつめた肉の棒を
  自らの肌で摩擦し、愛撫している。
  その、あまりに淫靡な視界に、不覚にも用意していた言葉を忘却してしまった。

  「あ、あ……志貴、姫君、一体何を……」
  「んっふっふー、志貴の大好きなコトだよー。ね、志貴?」

  秀麗な容姿に不似合いなほどの無邪気さで笑って、姫君は再び挟み込んだ男性器を
  自らの胸で弄ぶ。
  ぐにゃりと歪んだ肉の鞠がリズミカルに弾んで、赤黒く膨張した亀頭がずるりと擦れて
  乳房の間に消えてはまた勢いよく突き出す。
  
  「っくぅ……! 相変わらず強力だな、おまえのオッパイは……」

  志貴は強い快感に顔を歪め、自分も波打つように揺れる姫君の胸を掴んでたっぷりと
  揉み、押し潰すようにしてペニスを圧迫させる。

  「まるで吸血鬼らしくないっていうか……これだけエロでかいと、どっちかっていえば
   吸精鬼って感じ」
  「むーっ。私サキュバスじゃないもん。しょーしんしょーめー吸血鬼、それも
   真祖のお姫様なんだから」
  「いや、分かってるんだけど。おまえのこのさ――――セクシーな胸が、悪い」
  「ん、っ――――――!」

  志貴が人差し指で姫君の乳房を弾き、ぱちん、と重みのある音が響く。
  特に感覚の集中した突起を打たれて、真祖の姫は甘ったるい悲鳴とともにベッドの海で
  背中を仰け反らせる。

  「でも、認めるよ。確かにコレは俺の大好きな遊びだ……だから、続きといこうぜ」
  「んっ……うん。正直な志貴には、ちゃんとしてあげるから……」
  「あ――――」

  そして、二人は淫らな摩擦を再開する。
  身を乗り出した志貴が更にペニスを密着させ、それに対抗するように姫君の摩擦は
  素早く、絡みつくような艶かしさを増していく。
  ずりゅ、ずりゅ、ずりゅ、
  二つの肉と肉――塔の如くに高く固く屹立したペニスと、むっちりと膨らんだ乳房が
  戯れるように、けれど熱っぽくぶつかり合う。
  ぶるぶると歓喜に躍る姫君の膨らみは、表情は、なんとも蠱惑的だった。
  ……どこかが、疼く。

  「くっ……アルクェイド、もっと、強く……!」
  「んんッ……はぁっ、こう……?」

  喘ぎながら、姫君は両手で左右から乳房を圧迫する。
  圧倒的な肉感がペニスを押し潰し、大きな乳房にすっぽりと覆い隠してしまう。
  上から乳房を押さえ込んだまま、胸でなく身体そのものを上下に揺らして、
  ペニスを逃がさないままに激しく摩擦する。

  「はぁ……あぁ……あんんッ――」

  姫君の呼吸が、熱く荒くなる。
  無理もない、今や志貴のペニスは彼女に張り付かんばかりの距離で、
  文字通りに密着しているのだろう。
  それを全身で愛撫しているのだから、
  志貴からの熱がすべて直接に感じられているはずだ。
  熟れた果実のように膨らんだ肉の奥で暴れているモノを想像して、顔が熱くなる。

  二人の行為は、時を増す毎に色濃いものへと進化していく。
  
  「んぁ――――やぁっ、志貴、先っぽは……ダメ、だってばぁっ……」

  志貴は、姫君に淫らな奉仕をさせたまま先端に揺れる二つの突起をしつこいほどに
  捻り、押し潰し、爪の先で引っ掻いて攻め立てる。
  その度に乳房を握る指がひくりと震え、姫君は形の良い顎を反らして声を震わせる。
  性感には個人差があるというが、姫君にとってのそれは特に胸元へ集中しているらしい。
  
  「さあ……早めに一回して、その後はじっくり――でいくかな。
   そろそろトドメをさしてくれ、アルクェイド……!」
  「あ――――あぁぁんッ、志貴ぃっ……!」

  志貴の指がくるりと滑り、捻子を巻くように二つの乳首をくびりあげる。
  姫君は感極まった声で部屋を濡らし、はぁはぁと忙しく呼吸しながら胸を揺さ振る。
  その、表情。
  普段の霊気さえ帯びた不遜さ、高潔さはどこにもなく、ぼんやりと蜜のように蕩けた
  瞳で胸元のペニスを見つめ、憑かれたように両手と胸、全身を使って志貴に快楽を
  捧げている。
  潤んだ瞳。汗の浮かんだ流麗な鼻先。呆けたように開かれ、熱い息を漏らす唇。

  「く、ッ!」

  志貴が小さく唸って、滑ったペニスが姫君の眼前へずるりと突き出す。
  ひくり、と頷くように亀頭が震える。
  その下で、姫君がほぅ、と顔を緩ませる。
  その舌で、肉棒の先端をぺろりと撫でる。
  
  「うぁ――――アル、クェイドっ……!」

  粘りと白が弾けた。
  志貴のペニスが痙攣し、ホースが水を放つように精液を姫君へ浴びせかける。
  開き放しの口の中へ、鼻の頭へ、整った金髪へ、叩きつけるように白濁液が舞う。
  驚いたことに、姫君は嫌な顔一つせずにそれを受け止め、あまつさえ指や舌で
  すくって戯れるのだ。

  「んふ……いっぱい。志貴、これだけは弱いもんね」
  「そりゃ、吸精鬼の姫様のパイズリだからな。なかなか我慢できるもんじゃないさ」
  「だからきゅーけつきだってばー。そういうこと言うと、また虐めてやるんだから」
  「ふーん……いいんだ? 二回目も胸で、さ」

  姫君相手にもまったく怯まず、志貴は挑戦的な笑みで返す。

  「あう……それは、良く――――ない」
  「ふふふ、素直でよろしい」

  たった一言交わしただけで、姫君は大人しく飛び散った精の始末に引き下がる。
  人間など指先一つで解体してしまう真祖の姫を、志貴はあっさり制圧してしまった。
  私は――――そんな二人の姿に見惚れたまま、案山子のように立ち尽くす。
  ……身体が、熱い。
  どこが熱を発しているのかもわからないくらい、身体中が焼けそうだった。
  ようやく魍魎から解放されたというのに、先程までよりもっと頭が働かない。
  ただ、志貴と姫君を見ていたら、
  身体のあちこちが痺れるように疼いたり、
  体温が不可解に上昇したり、そのくせ寒くもないのに足が震えたり、
  志貴の顔を、見ていられなくなったりする。

  「っ……は、ッ……」

  熱い。どうしてこの部屋はこんなに熱いのか。
  おかげで下着に汗が染みて気持ちが悪いし、少し息苦しい。
  ……いや、違う。
  熱いのは――――熱を発しているのは、この私自身だ。
  ……どうして?

  「そうそう……シオン。ほっぽりだしでごめんな」

  志貴がやっと姫君から離れ、私へ近付いてくる。
  ただ――彼は全裸のまま、一度放出したというのに股間の持ち物は萎える気配もない。
  私は目のやり場に困って、逃げるように目を逸らす。
  耳元へ、それとわかるほど熱を帯びた志貴の声が届く。

  「何をしてるんだ、ってさっき聞いたよね。いいよ、今から教えてあげる」

  笑って、志貴は私の手から何かを奪い取った。

  「え――――」

  それは、シオンの最大の武器。
  斬撃、捕縛、拘束、そして情報の蒐集までをも担う滑らかなる牙。
  エーテライト。
  そして志貴は、その先端を自らの頭部へと深く差し込む。
  瞬間。

  「あっ……!?」

  不意に、膨大な量の情報が脳へと雪崩れ込んでくる。
  前触れ無しだったこと以上に、そのあまりの内容に意識が凍りつく。
  
  舌。唾液。指。爪。乳房。捕獲、圧迫、摩擦放出。
  淫裂 陰核 くちり にちゃり 男根女陰
  はぁ はぁ はぁ はぁ
  奉仕 略奪 虐待 陵辱 隷属 嗜虐被虐
  鎖 荒縄 首輪 手錠 粘液 錠剤 針 強制嬌声
  白濁白濁 ザーメン愛液 涎涙糞尿血液

  映画のように絶え間なく変わり続ける映像。
  それを、脳は最も端的な単語で理解しようとするから、無秩序な尻取りのように
  無数のコトバが意識を埋め尽くしていく。
  その中に、いつも女と男がいる。
  それは姫君であり、彼女だけではない。
  埋葬機関の代行者。秋葉。翡翠に琥珀。幼い少女――あれは姫君の使い魔か。
  まだ終わらない。私の情報にはない女性達と、そして志貴が必ず一組に、
  一糸纏わぬまま千変万化に絡み合う。
  そして――――

  「そうだな、シオンとも――――もちろん色々したい」

  裸の私が志貴に組み敷かれ、その逞しい陽物で下腹を貫かれる幻視。
  それを視たと同時、同じ場所が熱く甘く痺れた。

  「あぅ……んっ――――!」

  下肢から力が霧散して、発熱する股間を押さえたまま、私は体重を支えきれずに
  床へ座り込んでしまった。
  ダメだ。まださっきの映像が頭で回転している。
  六番、五番、四番……どれも正常じゃない。
  アタマもカラダも、熱にやられてぴくりとも動かせない。
  それでも、スカートの中、下着の奥の亀裂だけは、溶けてしまいそうに疼く。
  ひりひりと、じわじわと、熱を強めながら。

  「はぁ……あッ……」

  押さえているだけではまるで収まらない。
  指を立て、スカートの中に忍ばせて引っ掻くように下着をくすぐる。
  それだけで、意識が根こそぎに吹き飛びそうだった。

  「神経糸から志貴の考えてることを逆流させたのね。
   相手の情報を絶対的に引き出せるのは優秀だけど、こういう時に選択の余地が
   ないのは減点よ。おかげでその娘、へろへろじゃない」
  「わざわざへろへろにしたんだよ。
   言っただろ? シオンとも色々したい――――ってさ」
  「……それは私をほっぽってその女とするって意味だと思うの」

  ぎろり、と危険な眼差しで姫君が志貴を睨む。
  志貴はといえば、悪びれた風もなく私と姫君を交互に見て――――

  「別に放ったりはしないよ。要はさ、攻め手が二人になれば済む話だろ」
  「…………?」

  志貴の言葉が、よくわからない。
  ……彼がこれから何をしようとしているかは、よく分かったが。
  
  「……へえ。それはなかなか面白い提案ね、志貴。
   うん、面白いわ。今夜はそれを試してみましょう」

  姫君のぎらついた瞳が、志貴から私へ移動する。
  紅い、血のように紅い眼球に、どろりとしたものが走ったように見えた。
  私の背筋も、目に見えないものに震えた。
  腰が抜けたまま膝を折る私に、志貴と姫君がにじり寄ってくる。
  ……得体の知れない恐怖で、カラダがぞくりと震える。
  そして、見上げた私の頬を指で伝って、志貴が諭すように囁いた。

  「覗きのお仕置きだ、シオン――――これから、二人で君を犯す」

  言葉の意味を理解する暇もなく、志貴は私を抱き上げてベッドへ放り投げた。

  「きゃっ……!」

  衝撃は柔らかいシーツの海に受け止められたが、ただでさえ身体の自由が利かない
  私は、手足をばたつかせることもできずに宙を泳ぐ。
  そこへ、姫君が肢体を揺らしながら乗り込んできた。

  「さあ、お楽しみよ……ええと、シオン――――だったかしら」

  剥き出しの肌を隠そうともせず、真祖の姫は超然と私を見下ろして嗤う。
  そして、突き出した人差し指でルージュを引くように私の唇をなぞった。
  味を確かめるようにぺろりと指先を舐めて、それに鋭い音が続く。
  ――――姫君の人差し指が、そこだけ異質に変化していた。
  吸血鬼が得意とする肉体の変性により、指は残り四本の倍はあろうかという長さの
  鋭い爪に姿を変えた。

  「っ……姫、君っ……!」
  「大丈夫、殺したりなんかしないわ。……ちょっと身軽になってもらうだけ」

  ひゅ、と渇いた音が走った。
  反射的に目を閉じると、生まれた闇のどこかで何かの千切れるような音。
  そして、急に肌寒くなった。

  「綺麗な肌ね。シエルよりいい線いってるんじゃないかしら」

  何故ここで代行者の名が出てくるのか。
  それに、肌?
  肌、寒い……?
  直感で、すかさず瞼を上げる。

  「あーあ、ばっさりやっちゃって……。
   脱がす楽しみってのもあるんだぞ、アルクェイド」

  残念そうな志貴に、絶句。
  彼の視線は、襟元からスカートの裾まで真下へ両断された私の身体に釘付けだった。
  羞恥で頬が焼けそうになる。

  「知ってるけど……この前着たままでした時は、結局最後は脱げなんて言って、
   うまく脱げないまま最後までしちゃったじゃない。
   そういうのがないように、手間を省いてあげたの」
  「そういうのこそが、燃えるんだけど。まあ――ストレートも楽しいよな」
  「し、志貴、姫君! いいかげんにやめてくださいっ……!」
  「やめてくださいって……まだ肝心なことはなにもしてないよ」

  にやりと笑って、志貴は切り裂かれたシャツの胸元を左右に開く。
  二つにされたブラが滑り落ちて、乳房が外気と志貴の目に暴き出される。

  「や、っ……!」

  両手で隠そうとするが、身体が巧く動いてくれない。
  動くより早く、志貴の両手が無遠慮に私の胸を鷲掴みにする。

  「あ、はぅッ……!」

  熱い。志貴の指が熱い。
  触れられた私も、溶け崩れてしまいそうなくらい熱い。
  
  「ん……やっぱり、なかなかボリュームあるな。形も俺好みだし。
   思う存分、玩具にさせてもらっちゃおう」
  「や、志貴っ……!」

  志貴が指先に力を込めると、痛み混じりの感覚が乳房全体を押し潰していく。
  志貴の手に滲む汗が、私の汗に絡んでぬるりと滑る。
  獲物を探る動物のように、五本の指がぐっと胸を圧迫し、
  かと思えば振り子のように左右へ捻ってくる。
  その感覚――誰かに身体を弄られるという行為が、信じられないくらいに気持ちがいい。
  
  「うぁ……あッ、んくッ、あぁぁっ……」

  声が漏れるのを、止められない。
  自分の口から出たとは思えないくらい、揺らいで甘く濁った喘ぎ。
  
  「でも、私のほうがおっきいもん。でしょ、志貴?」
  
  どこか勝ち誇ったような姫君。
  大きい――――とは、乳房のことを言っているんだろうか。

  「んふ……いただきまぁす」

  甘ったるい声が響いて、

  「きゃ、んッ――――!」

  腿の内側に、ぬるりとした感触が動いた。
  それは一度で終わらず、ずるずると緩慢に蠢きながら、足を昇ってくる。
  くちゃ、くちゃ
  水の弾けるような音がして、何か柔らかいものが肌をしつこく撫でている。
  それがくすぐったくて、股間の熱を更に強める。
  かさかさと、何が足で蜘蛛のように蠢く――――?

  「ひ――――――ぁっ?」

  首を持ち上げ、足元を見て凍りつく。
  金色の蜘蛛が、もぞもぞと腿の辺りを這いまわっていた。
  いや、違う。ぼやけた頭がまた幻を見せているのだ。
  もう一度――――心を落ち着けて、よく見ろ。

  「んぁ……はんッ、汗の、しょっぱい味がする……」

  そんな、わけのわからないコトを呟いて、裸身を私の足に摺り寄せるようにした姫君が
  こちらに目を合わせた。

  「ひ、姫……あぅッ!」
  「聞いてるかしら? 私は血を吸わないけれど……他のものなら、ちゃんと吸うのよ」
  
  白い美貌の吸血鬼はうっとりと頬を弛ませ、獰猛な牙を月明かりに光らせて――
  鋭利なそれではなく、可憐な薔薇のような唇で、私の内股を吸い立てた。
  ちゅく、ちゅく、ちゅるるっ
  水音が震え、蛭のように吸いついた唇がずるずると足を昇ってくる。
  
  「あく――――うぁ……あっ、はっ――――!」

  腰から下が、焼け落ちそうなくらいに熱している。
  五本二対の指先に灯った火種は瞬く間に燃え上がって膝を駆け上がり、
  溶岩となって腿を溶かし、どろりとした熱の飴はすべてが股間へ流れ込む。
  熱い、熱い、熱い――――切なくて、むず痒くて、どうしようもなく淫らな気分。
  そんな苦悶を見透かすかのように、晒し者のように残った股間の薄布へ、姫君の
  赤い赤い舌が滑る。

  「ん、んっ……!」

  足の付け根から臍へと上る起伏をなぞるように、舌はゆっくりと移動する。
  舌の先端がくねくねと左右に揺らめき、布の上から熱くなった股間を弄ってくる。
  その感触に、自分の指先で疼きを誤魔化していたことを思い出して一層顔が熱くなる。
  姫君は舌で布越しに亀裂を探り当てると、そこだけを執拗に上下に舐め始める。
  ちゅる、ちゅると卑猥な音が響く。
  それ以上に、私は下着の中の異状を気取られないかと気が気ではなかった。
  ……とっくに自覚はしていた。
  果敢ない薄布の下は、粗相でもしたかのようにじっとりと潤んでいる。
  姫君はわかっているのかいないのか、キスをするように唇を押し付け、

  「ふぅ――――んッ、んぅっ……」
  
  亀裂の真上から、唇で思い切り吸いついてきた。

  「ひぁ、あっ、ああぁぁッ……!」

  強烈な吸引が秘裂の周りをぐいぐいと締め付け、だらしなく弛んだ内壁を刺激する。
  これまでの愛撫どころではない直接的な快感が頭に突き刺さる。
  キモチが 良すぎて、思考が振り切れてしまう。
  蜜が。カラダの奥から、どろりと熱いものが染み出してきて、しまう。

  「あ……はっ、んぁ、ああぅっ……!」

  電気を流されたかのように全身が震えて、右手に握っていたエーテライトを思わず
  取り落とす。
  股間で忙しく躍動していた姫君の目が、そちらへ注がれた。
  すぅ――――と、紅の双眸が三日月のように細められる。
  また、背筋が震えた。

  「ね、志貴。私とっても良いこと思いついちゃったよ」
  「うん?」
  「今夜は、パペットショウで楽しみましょう」
  「パペットって……人形劇? よく分からないぞ、アルクェイド」
  「んもう、にぶーい。志貴だって、一時期シオンの操り人形してたでしょ――コレで」

  姫君が拾い上げたのは、先程落としてしまったエーテライト。
  そして、彼女の言葉の意味を理解して、身体がぎしりと引き攣る。

  「今夜くらいは、パペット役が交代しても面白いんじゃないかな?」

  貴族らしくない笑い方で、姫君が期待に満ちた眼差しを志貴に送る。
  その先で、志貴もまたにたりと唇を歪めた。
  ……ああ。なんだかひどく、嫌な予感が――――

  「名案返しだな、アルクェイド。
   なるほど、木乃伊盗りを木乃伊にしてみようって遊びか。
   だけど、これってシオンでなきゃ使えないんじゃないの?」
  「妹ですら使えるのに、私が使えないと思う?
   この娘ほど自由自在にはいかないけど、ちょっとした操作くらいならお任せだよ」
  「ほほう……それじゃ、お手並み拝見しようか」
  「はーい♪」
  「ちょ――――ま、待って、待ってくださいっ……!」

  姫君は暴れる私を片手で軽々と持ち上げると、首の後ろへエーテライトを突き刺す。
  常人には感知できないその感触も、長年付き合ってきた私には確かな違和感として
  認識される。

  「う――――あっ?」

  右腕が吊られたようにぴんと持ち上がり、五指を握り、中指と人差し指を突き出し、
  続けてすべてを広げる。
  それらを全て自主的に行なった実感がありながら、指を動かそうとした意志が
  まったく存在しない。

  「ぐー、ちょき、ぱーってね。どう志貴、見直した?」
  「え、今のはアルクェイドがやったのか? こりゃいよいよ本格的だな」
  「さてさて、志貴はどんなギニョールがお好み?」
  「思いのまま、って奴ですか。となれば精々面白くしたいな。どう遊ぼうか……」

  志貴はこちらをじろじろと眺めながら何事か思案している。
  その間も、姫君は私を操る腕を休めない。
  胡座をかかせ、左右の手で先程の三つの動きの繰り返し――確か、ジャンケンと
  いう遊びをしている。
  ただ、どういうわけか三度に一度は同じ目が出るのだった。
  私はというと、まったく実感の伴わない活動に戸惑いを隠せない。
  それはそうだ。私はいつも、これを他者に強要する側の人間だったから。
  我が身に受けて初めて解かる。
  意志と途絶された肉体は、まったく不如意で自分のものとも思えない。
  空っぽの器。胡乱な虚。魂の脱け殻。糸に吊られる人形。
  そうだ。姫君の言う通り、私は他人を操る人形遣いのようなものだった。

  (気持ちの良いものでは、ないですね……)

  私はあくまで自律で活動しながら、その背後に存在するのは他人の意志だ。
  ……なんだろう。この構図は、なにかに似ている。
  糸に捕らわれた人形。操られるまま、糸を伝ってふらふらと踊る。
  糸に捕らわれた昆虫。操られるまま、糸を滑ってずるずると落ちる。
  その先には、牙を向いた斑模様の女郎蜘蛛が――――

  「あ――――」

  辻褄が合った。
  望むべくもないことを、望んでするという矛盾。それは。
  琥珀から借りた最後の一冊、絡新婦を題にしたあの物語を繰る、広く巧みな糸。
  介在する二次的な意志によって成立する偶然。
  自主的な破滅への奉仕。
  あの美しすぎる蜘蛛の罠に、よく似ているのだ。
  意識が白濁する。
  また、異界が近寄ってくる。絡新婦が手招きしている。
  けれど、視えたのは背筋が冷えるくらいに悪辣な志貴の微笑みだった。

  「ショウっていうからには魅せ場がないとな。それじゃあ、
   文字通りに見せてもらおうか――――可愛い人形さんが、自分でしてるところをさ」

  姫君が、私の小脇に腰掛けてくすりと笑う。

  「自分で――って、志貴、前に私にもさせたじゃない。
   でも、確かにこの娘がしてるのって興味あるかな。いいわ、始めましょう」

  しなやかな指先が、虚空でも字を描くようにくるりと回る。
  そして、私ではない意志が身体へと送り込まれてくる。

  「あ、っ……」

  胡座をかいたまま、少し痺れかけていた足がゆっくりと左右へ広がる。
  膝が持ち上がり、下肢がアルファベットのMを描くように曲がって、その結果に
  私ははしたなく股間を曝け出す姿勢になる。
  今度は、両手が動き出した。
  左手が剥き出しの乳房を掴み、志貴がしたようにぐにぐにと形を歪めて揉みしだく。

  「んっ、くぅ、ふあぁっ……」

  残った右手は、喘ぎの零れる唇へと昇って、緩く開かれた口内へと侵入する。
  人差し指と中指が、駄々を捏ねるように舌の上で激しく暴れる。

  「ん――むっ、ふぅ……んんっ、ぅんッ……!」

  苦しい――――呼吸が、できない!
  唇までが意思とは無関係に窄まり、入り込んできた二本の指にじゅぷじゅぷと
  舌を絡めて吸いつく。
  不可欠な酸素よりも、直立した指先が好ましいとでも言うように。
  生暖かい唾液が指に絡んで、えも言えない艶かしい気分になってしまう。
  肺の中から、次第に空気がなくなっていく。
  窒息を間近に感じた時、粘ついた糸を引きながら指が引き抜かれた。
  ……いや、引き抜いたのは私か。そして、ここにも糸。

  「はぁ……ぁんっ、はぁッ……」

  唇を離れた右手は首から鎖骨を伝い、貪欲に乳房を撫でる左手の横を過ぎて
  臍へと至る。
  ……まだ、止まらない。
  その更に下、心臓のようにどくんと躍動する下腹。
  恥部を覆い隠す最後の防壁――小さな三角の薄布へ、私の指が潜り込む。
  淡い茂みを掻き分け、その奥でひくひくと蠢く肉の谷へ、爪先が触れた。

  「あぁぁッ……!」

  小突くように、ほんの少し触っただけなのに。
  それだけで全身に凝った感覚が爆発しそうになる。
  だというのに、姫君は心の準備などさせてくれない。
  まっすぐに立てた指を、無遠慮に身体の中へと飲み込ませる。

  「あぁ……んッ、擦――れっ……」

  指と膣が互いに擦れ合って、お腹の奥を直接触られるような強い快感が襲う。
  自分で触れることなど考えもしなかった膣の中は、外からでは想像もできない
  くらいに熱を放っている。
  下着を染みさせていたわけだ。
  亀裂の中は、シャワーでも浴びせたように熱い液体で水浸しになっている。
  けれど水ではない。これは――――私が快楽して漏らした蜜だ。

  「ふふっ、ぱっくり広げて御覧なさい」

  姫君の命に、傀儡の私は二つの指で亀裂の入口を左右へ開いていく。
  夜気が粘膜に触れて、背筋がぞくぞくと震えた。
  そして――志貴が、私の広げた場所をねっとりと凝視している。
  ごくり、と喉が唾液を嚥下するのが私にも解かった。
  
  「グッドだ、人形遣い。でも、まだまだ過激にいこう」
  「ん――――それじゃ、そろそろ動かして、シオン」

  姫君がくん、と糸を揺らすと、再び閉じられた指が秘裂の中へ沈む。
  今度は入口を超え、奥の奥まで深々と。
  高熱の槍が、私の中を突き刺した。

  「んは……ぁッ、あッ、あぁ……んんッ……」

  根元まで沈んだ指は勢い良く引き戻され、また打ち付けるように沈む。
  まるで杭を打つかのように、挿入れては戻し、挿入れては戻しの繰り返し。
  その一度一度に、意識を霧散させるような甘い陶酔が篭っている。
  ずぐ、ずぐ、ずぐ
  ぬかるんだ肉の海を、二本の角が荒々しく征服する。
  やがて、何も考えられない頭には、一つの感覚が反復する。
  きもちいい、
  キモチイイ、
  キモチイ、

  「あっ、あぁぁぁっ……い――――気持ち、いっ……!」

  それが言葉になるのに時間はかからなかった。
  頭の中で我慢するには到底大きすぎる征服感。
  どうしようもなく、底無しに、気持ちが良すぎて。歌ってしまうのだ。
  
  「そうそう。指を曲げて、引っ掻いて……沢山奥を突いて。
   そうしたら、膨らんでくるから」
  「随分と堂に入った説明だな、アルクェイド」
  「何言ってるのよ。志貴が私に細かく注文つけるから、
   そんなとこまで覚えちゃったんでしょ」
  「……薮蛇だったか。まあそれはそれとして――思った以上にそそるな、これは」

  志貴がもぞもぞと揺れ動く私の下着を――その中の指を視線で嬲る。
  観客を意識したのか、胸を弄る左手も、股間で蠢く右手も、一層容赦なしに
  身体を攻め立ててくる。
  息が荒くなって、喉が震えて、声が巧く出せない。
  情欲の浮いた瞳で近付いてくる志貴に、抗えない。
  自慰を命じられた人形は、ただはしたなく自らを指で弄るだけだ。

  「……俺も手伝うよ、シオン。
   アルクェイド、シオンを膝立ちにしてくれ」
  「ん? わかった」

  がくんと視界が高まって、志貴の望み通りに私は膝で身体を支える。
  そして、広がった股の下に、志貴の身体が寝転んできた。

  「し……志貴? なにを、しているんですか」
  「ここからだと、シオンがしてるのがよく見えるのさ――――さあ、続けて。
   それにもう一つ、」

  志貴の頭が、やや後ろへ――――背中のほうへ移動する。
  やや遠ざかった声も、やっぱり笑っていた。

  「この姿勢じゃないと、手伝いづらいんだ――――」

  ぞろり、とした感触。
  続いて、電撃的な感覚が膝をぐらぐらと揺らした。
  なにかが、尻の谷間を滑っていった。
  いや、過ぎてはいない。二つの肉の谷間を、ちろちろとくすぐって―――いる?
  
  「んぁぁっ――――――!」

  信じられなかった。
  志貴は、背後から。
  下着越しに、私の、お尻を――――

  「ん……そろそろ下着が邪魔だな。ちょうどいい姿勢だし、もう脱がせちゃうぜ」

  志貴の両手が伸びて、脇から下着を掴んだかと思うと、
  そのまま立てた膝の辺りまで、勢いよくずるりと引き摺り下ろされた。

  「きゃぁぁっ……!」

  志貴の顔がある臀部も然ることながら、くちゃくちゃと指を飲みこんで水音を立てる
  秘裂を露わにされて、恥ずかしさで頭が混乱する。
  
  「うん……可愛いお尻だね。これで――じっくり遊べる」
  「や、やめて、そんな……志貴っ……!」

  志貴の顔が持ち上がっていく。
  だが、私には両手を動かすことしか許されない。
  今度は直接に、尻の肉へ志貴の濡れた舌が触れる。

  「んぁ、熱いっ……し、志貴、そんなに……動かさないで、くださいっ……」

  狭い谷間をあちこちへ舌が暴れ、一面を唾液で浸していく。
  生温い粘つきと肉の感触で、後ろのほうにも熱っぽい感じが生まれてくる。
  
  「じゃ、このまま最後まで行くか。
   アルクェイド、人形劇もクライマックスで頼むよ」
  「オーケイ。でも、私も混ぜてもらうからね」

  姫君はエーテライトを弄んだまま美しい裸身を私に近づけてくる。
  そして、胸を弄る私の手が豊かな乳房に触れた。

  「ほら……ね? 私のほうが大きいでしょ」

  姫君は楽しそうに笑って、
  ――――その笑顔のまま、急速に私へ接近してきた。
  避ける暇もなく、私は姫君と顔から衝突する。
  だが、思ったほどの衝撃は感じられず、その代わりに唇へ淡い感触。
  姫君が、濃厚な口付けで私の呼吸を略奪していた。

  「んッ、んん――――んぅっ!」
  「んふ……むっ、ぅん……ふぅ――――」

  舌と舌が絡まって、姫君の唾液がとろりと喉に絡まる。
  普段からは想像も出来ないほど蕩けて潤んだ瞳が、ぼんやりと私を見ている。
  けれど、彼女の指は弛緩しない。
  最後の高みへ、私を持ち上げるために。

  「んんっ……! 深く――――入ってぇっ……」

  滑り込むように、並んだ二つの指がずるりと膣を突き崩す。
  そこへ、志貴の舌が追いついてきた。
  お尻の谷間、その奥にある小さな窄まりを、ぬかるんだ舌先が突付く。
  そんな、場所をされたら、私は――――

  「ふぅ、ふぅ……んッ、んむぅっ……!」

  姫君は顔を押し付け、左右に激しく振り動かして大胆な口付けをする。
  私の舌も蛇のように動いて、姫君の唇や歯茎をなぞる。
  ――それが、エーテライトの命令によるものなのか、自分の意志なのかは
  もう解からなくなっていた。
  ひょっとしたら、快感に誑かされた脳が心からそれを望んでいるのかもしれない。
  ……ああ、でもそれはないだろう。

  私は羽虫だ。
  姫君という金色の大蜘蛛の巣に捕らわれ、死に至るまでの僅かな時を踊る羽虫だ。
  私は糸で吊られた肉人形。
  姫君は、美しくしたたかな女郎蜘蛛。
  彼女の理に囚われた私は、意思などなく意思のままに操られるだけだ。
  もう――――考えるのはよそう。
  考えることさえ、私には自由では無いのだから。

  「あぁんッ……!」

  不意に、姫君が甘ったるい悲鳴を上げる。
  見ると、私の足元から伸びた志貴の指が姫君の股間でいやらしく動いている。
  うっとりと陶酔した目が私を見て、口の中で再び舌が暴れ出す。
  志貴も、私の下で熱く息を荒げている。
  誰一人、ただの一つさえ、健常な精神は消え果た。
  あとは、どろどろに上り詰めるだけ――――最高潮(クライマックス)だ。
  鏡に映したように呆けた顔を向かい合わせ、私と姫君は中空で舌を絡め合わせる。
  半開きの二つの唇から、顎を伝ってとろとろと唾液が零れた。

  「んん、んッ、あはぁぁんっ……!」
  「ふぁ……あっ、あぅ、そこぉっ……!」

  姫君を弄くる志貴の指。
  私を舐める志貴の舌。
  私を慰める、私の指。
  どれもが加速する。止まらずに、終わらずに、速く、強く、はしたなく。
  意識は白く、ただ貪欲に悦楽だけを求めて。
  気持ち良く、きもちよく、キモチヨクキモチヨク――――
  指先が豆粒のように膨らんだ突起を探り当て、それが姫君の言っていたものだと分かる。
  
  「あはぁぁッ――――志、貴ぃっ……!」

  姫君がびくびくと震えて背を反らせる。
  彼女の中の突起も、おそらく志貴によって摘み上げられているのだ。
  そして、志貴の舌は巧みに私の尻を撫で、ぞくぞくするような感覚を絶え間なく注ぐ。
  もう――――限界、我慢していられない――――!

  「いいよ――――我慢するな。イッちゃえ、シオン」

  優しい声で、志貴は私の窄まりへ濃厚に口付けた。
  それで弾けた。
  私はもう迷わずに、指に触れた突起を押し潰して――――

  「んぁ――――あぅっ、ふぁぁぁぁぁっ……!」

  どちらの声が早かったのか。
  私と姫君は互いを追うように上り詰めて、抱き合うように崩れ落ちる。
  耳のすぐ近くで、はぁはぁと姫君の息遣いが聞こえた。
  ……それも次第に遠ざかる。
  身体から力という力が抜けて、幽霊にでもなったような気分。
  その、柔らかい綿に包まれているような感覚の中で、私は意識を喪失していく。

  (あ、れ……?)

  白く溶けていく中で、どこかにこつ、こつと足音のようなものを聞いた気がした。



                                      《つづく》