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「志貴。お願いです。志貴の精液を研究用のサンプルとして提供して欲しい」

 ………随分風情が無くなったな。
 
 志貴はそう偽らざる感想を持ち、顎に手をやって唸る。
 シオンが一人で寝室にやってきて何も言わずに精液が欲しい――というのは
なんともミステリアスかつエロチックで志貴の内心の興をそそるものがあった。
 だが、こうも長々と説明されたあげく、サンプルとして提供、などと言われ
るとムードは台無しであった。平易な言い方をすると――萎える。

 志貴の何とも優れない顔色を、萎えているのではなく躊躇っていると解釈し
たシオンは顔色を曇らせて、俯き加減になって志貴の様子をうかがいながら、
小さく呟く。

「…………」
「――――――――――――――――――――――随分無理な依頼であるとは
承知しているつもりです」 

 それがわかっているのならもうちょっとやり方がないか?
 と志貴は口に出しそうになったが、すぐに詮のないことだと考えた。このや
り方は居間からずっとシオンがシミュレートにシミュレートを重ねた結果の行
動なのだろう。シオンとのつきあいでその辺もだいぶわかったつもりの志貴で
あった。
 ただ、彼女にはこの志貴の「萎える」という世間のオトコノコの感情を計算
していなかっただけのことだ。故に結果がこうなっている。

 シオンは志貴の反応を待っていた。
 志貴はベッドに腰掛けたまま、苦虫をまとめて噛みつぶしたような顔をして
いた。
 志貴に一つある考えは、このまま立ち上がってシオンを追い出し帰れと叫ぶ
ことであった。だが、そういう断固とした態度を取ることを控えたい志貴であ
った。

 ――そんな目で俺を見られるとなぁ

 自分に向けられるシオンの真摯なまなざしを感じると、無碍には扱いかねる
志貴。
 ただ真摯というのはたぶんに研究者としての情熱を含むのだろうが。胸元に
ぎゅっとベレー帽を抱くシオンを見ると、哀れにも思えてくる。

 ――シオンはシオンなりに真剣なんだから、仕方なくもあるのか

 志貴は顎をなでながら、長く息を吐く。
 そして眉間に皺を寄せながら、暗い寝室の中に立つシオンを眺める。そして
ゆっくりと尋ね始めた。

「シオンが本気で俺をからかっているわけではないと言うのはよくわかった」
「……いつ、私が志貴をからかったことがありました?私は常に志貴に……」
「いやまぁ、それは置いておいてだ、シオン。その……精液は俺じゃないとダ
メなのか?」

 志貴の質問に、シオンはまずは何を当然のことを聞く?というような疑いを
顔に浮かべた。
 だがそれはやがて頬が赤く染まっていき、彼女に恥ずかしさを催させると消
えていって……

「私に、志貴以外に精液の提供を頼める男性がいるとでも?」
「いや、シオンの姿格好ならこの町にはごまんと提供を申し出るボランティア
が居ると……」
「そ、そんな売女のような真似ができるか!私を誰だと思っている!理論と計
測の院の継承者である私にそのような夜鷹のように袖を引いて見知らぬ男性の
精液を搾り取るような恥知らずな真似をしろと!」
「そういうシオンが今している真似も随分だと思うけどねぇ……」

 途端に激発して八重歯をむき出しにして怒鳴り散らすシオンに、志貴はすね
るように言い返す。はっとシオンは自らの言動を顧みると、困惑して目線を左
右にさまよわせた後に、素早く引き締まった錬金術師の顔になって――

 いや、本人はしたつもりであるが紅い頬だけはそのままだった。
 志貴に何度も精液をせびる自分のはしたなさにようやく気が付いたかのよう
な――

「と、ともかく!」
「ふんふん」
「……その相槌には誠意が感じられません、志貴。とにかく秋葉はこういいま
した。『兄さんの精液は美容と健康に効果がありますの』と……」

 その言葉がシオンから漏れた瞬間に、志貴ががっくり項垂れた。
 自らの妹とはいえ、あまりにもあまりな言動をする秋葉に対して絶望的な疲
労感に襲われたように。ああ、美容と健康のために精液を飲まれる俺の立場は
何だ、健康食品か何かか――そうぶすぶすと心臓が焦げた黒い煙を肺から吐き
ながら愚痴りたい志貴。

「……と、言われた以上は志貴の精液の効能を確かめないことに始まりません。
これが論理的思考というものです」
「…………ふーん。まぁ、そういうことにしておこう……」

 志貴はゆっくりと首を上げて呟く。
 なにかシオンがやってきてからと言うもの、骨まで染みる疲労感に苛まれる
ような志貴の思い動作であった。

「じゃぁ……シオン。質問だけど……その、俺からどうやって精液を採取する
気だ?」

 志貴はおそるおそる尋ねる。そう、これが最大の問題なのだ……男性である
以上、勃起と絶頂を感じないとその性器から射精できるものではない。もしか
して自慰をしろ、などという屈辱的提案をされるのではないのかという志貴の
怖れ。

 ――さすがにそういわれたら、切れても罪にはならないよな

 自慰のじの字でも口にした瞬間に、身体の支配権を七夜志貴に譲り渡してし
まうおうかと考える志貴。だが、シオンはその提案を予想していたといわんが
ばかりに。
 シオンは今まで抱きしめていたベレー帽の中を探ると、そこから何かを取り
出した。

「それは考えてあります。これを――」

 シオンが取り出したのは、ちいさなビーカーであった。
 理科実験室にあるような50ccのビーカーがシオンの手に握られて現れると、
志貴は口元をゆがめる。悪い予感がする――限りなく悪い予感が。
 そして、その手にはいつものように金のブレスレッドが輝いて――

「これを志貴の男性器にあてがっておいてください」
「それだけじゃ出ないぞ、男性の身体は」
「わかっています。その状態で私が志貴の脳髄にエーテライトを接続し、勃起
中枢と射精中枢を刺激して志貴に射精を――」

 志貴は文字通り目をむいた。
 なぜならシオンのアイデアというのは、志貴の予想を遥かに下回る内容であ
ったからだった。こんな話を聞くぐらいならシオンを捕まえて窓から放り投げ
ておいた方が良かった、と思わせるほどの。

 シオンの手のひらに載ったビーカー
 このようなものに遠野志貴の16年の人生の尊厳の全てを否定されるくらい
であれば。

 志貴は飛び上がるように絶叫―――した。

「だぁぁぁぁあああああああああああああ!却下!却下!カットカットカット
カットカット!」
「な、なにを突然ワラキアの様なことを言う!志貴!?この提案は志貴の身体
に負担が少なくもっとも確実に精液の採取が出来る方法なのですよ?」
「そんなんやじゃぁぁぁ!お前のエーテライトに操られて秋葉と戦ったのもイ
ヤだったが、こっちの方が100倍イヤだっ!拒否だ!断固として拒否だ!お
れのっ、俺の男としてのプライドと存在をあまりにもアッサリと全否定するな
シオン!だぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!」

 立ち上がり飛び上がり吠え狂うだけで飽きたらずに志貴はベッドの上を転が
り跳ねまくりながら肺腑のつづく限りの怒号を上げた。この声たるや屋敷中に
響き渡り、眠れる遠野の森の全ての生き物をたたき起こすのではないのかと思
われるほどの。

 シオンはさっと緊張した面持ちになると、ほとんど狂ったような有様の志貴
に飛びかかる。

「志貴!静かにしてください!もし秋葉や翡翠に聞きつけられたら……」
「き、き、聞きつければ良いじゃないか!俺はシオンに襲われて無理矢理精液
搾り取られて犯されるって秋葉に泣きついてやるぅぅぅ!恥も外聞も知ったこ
とかぁぁ!」
「お、落ち着け志貴!私は志貴を犯しはしません!いったいどうしてそんなに
嫌がるんです……痛い目に遭わせる訳ではないと説明したのに……」

 シオンはなんとか転がる志貴の身体をベッドの上に押さえ込む。
 志貴はしばらく身体をじたばたさえていたが、やがて力尽きたようにぱたり
と動かなくなる。心配を隠しきれないシオンがのぞき込むと、志貴はゆっくり
首を起こす。

「――――――――――――――――――――――」

 志貴は泣いていた。目を見開き滂沱の如く涙をはらはらと頬にこぼしながら。
 その異様な泣き方を初めて目の当たりにしたシオンは、口ごもる。
 志貴はうーうーと唸りながら、その涙に濡れた瞳に爛々と炎を燃やして……

 あまりの異様な様に、シオンも表情には出さないが気圧されるほどの。

「……シオンがどうしてもエーテライトで俺を射精するというのなら、俺は戦
う。たとえお前の拳銃に蜂の巣にされても戦う、身体が八つ裂きになっても戦
う、よしんば負けてもアルクェイドや先輩に助けを乞うてでも戦う」
「――姫君と代行者は困ります。しかし、志貴……教えて欲しい。
 なにが……そんなに気に入らないのか?」

 シオンはベッドの上に志貴を押し倒すような格好になりながら、精一杯の誠
意を込めて志貴に問うた。ただ、その手にはまだビーカーが握られたままであ
ったが。
 志貴は眼鏡を外して目元を拭って、はぁぁぁぁぁ、と深く深くため息を吐く。
それはあまりも情けないと言い出しそうな、尾羽打ち枯らした風情の。

「シオン。シオンには男のプライドというものがわかっていない」
「……男性の誇り?」
「だから、射精というのは男性の尊厳の根元なんだよ。これを女性に奪われて
恣にされるというのはあんまりにも……それもエーテライトで否応なく射精さ
せられるのは……」

 志貴は食い込みそうなほどの厳しい視線を間近のシオンに浴びせかける。
 志貴の口から紡がれる言葉を、シオンは一言も聞き逃すまいとしている。一
見詰まらさそうな顔で志貴に覆い被さっているようだが、注意は志貴に向いて
いる。

「……そんなコトされるくらいならいっそ殺されるか去勢された方がましだ」
「随分とはっきりと言い切りますね……そうか、男性にはそういう心理があっ
たとは計算外ですねな」

 シオンは志貴の切々たる主張を耳にすると、低く呟く。
 しかしシオンの下にいる志貴にすれば、そんな一番重要な要素を抜いていっ
たい何を考えていたのだシオン、と泣きたくなるような情けなさを味わってい
た。

 だが、心の中に溜まりきった情けない心境を吐露しきってから――ようやく
志貴は気が付いた。自分の上にシオンが被さり、その線が細いが柔らかい身体
が押しつけられているということに。
 ごくん、と志貴は唾を飲む。

 シオンは志貴の様子が変わったことには気が付いていない。志貴の上に相変
わらず乗っかり、身体を密接させながら――そうしないとまたいつ志貴が暴れ
出すかわからない不安からか、黙って志貴を見下ろしている。
 長いシオンのお下げが、志貴との身体の間に挟まる。

「……志貴の主張は理解しました。であれば、志貴の尊厳と意志を最大限尊重
するためには……いや、志貴はどうしたらいいと希望するのです?」

 珍しくもシオンが志貴に問うてきた。
 いつもなら彼女の速い思考で別の行動の選択肢が与えられるのであるが、ま
だ慣れない男性の心理をもてあまし気味である様に。

 志貴は袖で目元を拭うと、また眼鏡を目頭に乗せる。
 そして、身体の上にぺたりと触れるシオンの身体の、熱い体温を感じながら。

 ――シオンにあんな事を言われた以上、男性の沽券として

 志貴は二度三度と深く息を吸うと、高鳴る心臓を押さえ込みながら。
 その心の中に思いついた考えを頭で考え、悪くはないと思いながら。
 口元に不意に、笑みが浮かぶ。

「?」

 シオンはその志貴の笑いを目の当たりにして、目を細める。
 シオンがその笑いの正体を突き止める前に、志貴の口元が動いて――

「そう……だなぁ。シオンが精液を欲しいというのなら、考えなくもない」
「そうか、研究への協力は感謝します」
「だけども、その……提供の方法に条件というか、こうじゃないといやだ」

 志貴は先ほど泣き叫んでいたのが嘘のように笑っていた。
 突然の志貴の表情の変化と、なにが志貴をこうも変えるのか。シオンはそれ
を推し量ろうとする。だが志貴の情動を推測するというのはきわめて困難なこ
とであり――

「条件……条件とは?」
「……俺の精子を出すのを、エーテライトなんて無粋なものじゃなくて」

 無粋という言葉にわずかにシオンが眉をひそめる、が

「――シオンの手と指でやって貰いたい」

 志貴の、大胆な提案であった。
 シオンはその提案を耳にすると頷いて――頷いた後に顔色が急変する。めず
らしく心的動揺を明らかにした、足下を刈られたようなあっというような表情。

 志貴はシオンの顔が、いつにもなく青ざめたのをみて内心快哉を叫ぶ。
 ああ……もっと、シオンをいじめてみたい。志貴の心の中にそんなサディス
ティックな喜びが宿った。その相手が抱きしめれれば折れそうな身体の、可憐
なシオンであればなおさらに。

 ふ、ふふふ、と志貴は低く笑いを漏らす。
 わずかな間に攻守ところを変えたシオンが、志貴の上から慌てて飛び退く。
 だが、ベッドの上に腰が抜けたようにぺたんとベッドの上に座り込んでしま
った。ミニスカートから足がすらりと伸び、ニーソックスに包まれた足がカモ
メ座りになっていた。

 シオンの口が言葉をしゃべろうとし、それに失敗したように空回りしたが…


「な……何をいったい言うのです?志貴?」
「だってねぇ……シオンが必要なのは俺の精液なんだろ?それを採取するのシ
オンの手づからでやって貰わないと」

 志貴はにやにやと余裕の笑いを浮かべてそんなことをはぐらかすように。
 シオンはその志貴の言葉嬲りに打たれるがままになっていた。いくらでも論
破できるが、自分は者を頼む立場である以上は――その制限下ではシオンの得
意の弁も立つものではない。
 シオンは苦しげに口を開く。

「……そんなことを私にしろというのですか?志貴は……」
「いやぁ、協力というからにはそれ位してくれても罰は当たらない……と思う
けど」

 志貴は口笛でも吹き出しそうなほどにはしゃいだ素振りを見せていた。
 シオンが黙り込んでベッドの上で固まっているのを志貴はいかにも優越感に
ひたった眼差しで眺めていたが、志貴の中ではまだまだ加虐的な思いが頭をも
たげている。
 よほどエーテライトで射精、という一事を根に持っていてその反撃をしつく
すまで手をゆるめたくないような――

「ああ、そうだ、シオンが俺のちんちんに触るのが嫌だというのなら、俺が自
分で出しても良いけども」
「――本当です?志貴」

 シオンはビーカーを抱えたまま、志貴に顔を上げる。
 だが、志貴にはまだまだあのいやらしくも何かを考えている笑いが口元に乗
っかっていて、それはシオンにも良い結果を予想させなかったのであるが。

「でも、俺は空中を眺めながら自慰できるほど達人じゃないからなぁ……なに
かこう、オカズがないと」
「オカズ、というのはオナペットのことを指しているのですか?それなら志貴
の部屋に隠してあるポルノグラフが……」
「いいや。シオンが俺のオカズになってくれないとダメ」

 ――志貴はいったい、なにを?

 真顔ですごい提案をする志貴に、シオンは文字通り色を失った。
 女の子座りになっているシオンは、その言葉を聞くと背中から力が抜けたよ
うにへなりと腕を垂らし、半ば放心状態になってしまっていた。こんな事を言
う志貴が信じられないというあからさまな瞳を向けているが、志貴は相変わら
ず絶好調のはしゃぎっぷりで。

 志貴はにやにやととろけっぱなしになる顔のままで、いつにもなく正体を失
っているシオンを眺めていた。こんな破廉恥な提案をすればシオンは怒り出し
て逃げ出すかと思った――それもまた一興だったが、今の任務と信条に板挟み
になっているシオンもまた言いしれぬ風情がある。

 ふんふふんふふーん、と鼻歌混じりの志貴の、勝利のメロディーが部屋に気
抜けて流れる。
 シオンはベッドの上に座り込んだまま、信条の混乱でお得意の分割高速思考
もできない困惑のなかで……ひどく無防備な格好のままで。
 志貴が急変した理由が自分の言動にあるのであろうが、その原因を分析しき
れない。

「……だから、シオンに出来るのは二者一択。シオンの手で俺から出してくれ
るか、俺が出すからシオンは俺の目の前でストリップしてくれるか」
「――ほかの選択肢もあるだろう」
「ああ、シオンが諦めて帰るというのも手だと思うけど」

 志貴が意地悪そうにそうほのめかす。
 だが、シオンにはそれを取るコトが出来なかった。錬金術師としての使命感
と重要な研究に対してむざむざ引くことは彼女のプライドが許さない。だが彼
女の女性としての感覚は志貴にそんなことをするというのは論外であると大声
で主張しており――

 シオンはベッドの上で身動きも忘れたように座り、志貴にその瞳を向けてい
る。
 菫色の瞳には読みとりがたい彼女の複雑な感情と思考で煙っていたが、志貴
は余裕でそのシオンを見つめていた。志貴にはどんな搦め手でシオンが攻めて
きても、この二つの選択でごり押しする気であった。

 無闇な意志の力は時に全てを凌駕する――秋葉やアルクェイドと言った面々
とのつき合いでその辺を嫌と言うほど熟知している志貴であるのだから。

「……ここまで言って引き下がる私だと、志貴は思ってないんでしょう?」
「ご明察恐れ入ります、シオン。じゃぁ……どっちがいい?あ、あと戦うとい
うのもあるけども俺は本気で抵抗するからね」

 志貴はそんな剣呑なことをしゃべっているが、顔は笑っていて。
 シオンは放心していたような背筋にようやく力を居ると、前屈みになって志
貴を恨めしそうに上目遣いで睨む。だが志貴は動じる様子を見せず、むしろそ
んな詰問するような眼差しすらも心地よいといわんがばかりに。

 シオンの脳裏は二つの選択肢を、そしてそれ以外の選択肢を必死になって探
す。理性が二つの選択肢を受け入れ、どちらがより彼女にとって望ましいもの
であるのかを計算するが、何分抽象的すぎる要素――それも、彼女の感情論と
いう一番分析しにくいファクターであるだけに、延々と続く思考には結論の糸
口が見えずに。

 シオンはやがて己の心に問うた。
 シオンの中のシオンは……エルトナム・アトラシアでないシオンは、志貴を
――
 志貴に視姦されるよりも、志貴に触れあいたいと。なぜなら彼女の心は志貴
を求めていたからこそ、無意識下で精液の研究を志貴に持ちかけ、ナンセンス
であると一笑に付さずにいたのであるのだから。

「――――――――――――――――――――――」

 シオンは長く口を閉ざしていた。
 だがやがて、目に意志の光と取り戻すと、志貴に向かって身を乗り出すよう
にする。
 志貴もシオンの変化に気が付いたのか、にやけ笑いを顔から消して聞く。

「――――――――――――――――――――――」
「……どう?シオン。今日のことは聞かなかったことにしても良いけども」
「――いや、志貴……私が……私が志貴の精液を採取します。だから……」

 シオンはそう、迷いながらも口にする。
 志貴はそんなシオンの弱々しくも健気な様子だけで、体が熱くなるのを感じ
る。今のシオンは抱きしめ、押し倒したくなるほど誘っているような色気があ
って……本人がそう悟ってないだけに。

「……男性の身体のことはまだわからないから……痛くしない自信はありませ
んが、志貴がそれでも良いというのなら」

 志貴はそんな、ちぐはぐなシオンの言葉に満足げに頷く。
 我が本願成就せり、と密かに快哉を叫びながら、シオンのこれから始まる手
淫の痴戯に心を躍らせて。

「じゃぁ……始めようか、シオン」


                   

                                      《つづく》