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「……どういう事です?」
「自分の手で自分の性感体を刺激すればいいんだ。首筋や胸、乳首に腹部、その下にある
場所までね、今風に言えば、オナニーと言えばいいのかな? その辺りはよく知らなくて
ね……違うかい?」
「……し、知りません」
 頬を紅潮させるシオンに、ズェピアはくっくっくと嗤った。
「シオン。君は騙しあいには向いていないね、そんな態度をすれば知っていると広言して
いるようなものだ。嘘はいけないよ?」
 志貴の首筋に手をかけるズェピア。無抵抗の相手を殺すなど普通の子供ですらできる行
為だ。冷たい手が首筋に触れているというのに、ぴくりとも志貴は動かない。
「――っ、解りました。止めてください! ……知っている、知っていますっ」
 悔しそうに、ズェピアの言葉を認めるシオン。エジプト生まれにしては白い肌が、興奮
で色づき始めている。
「そうか、君は随分と物知りなんだね、そんなことまで知っているなんて。どうやらかな
り好奇心旺盛のようだ。では……初めてもらおうか」
「…………はい」
 口をぎゅっと噤み、おそるおそる体を動かす。最低限の体の自由は戻っているようだ。
だが、戦いなどはできそうにない。身を起こしズェピアの前に立つ。
(初めてですね……こんな事をするのは)
 早くなる息を深呼吸で落ち着ける。
 知識を元に、実践へと移る。ゆっくりと両手で自分の胸に触れた。
「んっ……」
 緊張のためか、無意識に声を発してしまう。服の上からそうとは解らないが。シオンの
乳房は見かけよりも大きい、少し着やせするタイプなのだ。
 ゆっくりとこね回す。添えられた手によって乳房が形を変えていく。円を描くように右
の手で左乳房を、左の手で右乳房を。
 胸の前に房のように垂れている、綺麗に編み込まれた菫色の髪が、シオンの動きにあわ
せて生き物のように動く。
「はぁ……」
 肺から押し出されるように息を吐く。
 経験のないシオンの稚拙な愛撫では、なかなか身体は燃え上がらない。そもそも胸以外
にも感じる場所はあるというのに、そこには手を伸ばしてすらいないのだ。
 それでも月明かりの下、文句の付けようのない美少女が懸命に自らの身体を慰めている
様は、酷く扇情的だった。
 普段とは違い羞恥に顔を赤く染めている、冷静な顔とのギャップがえもいわれぬ興奮の
起爆剤となる。
 しかし。
「駄目だねそれでは、時間がかかりすぎる」
 無情にもズェピアは首を振った。
「ならば……どうすればよいと?」
 シオンは不安そうにズェピアを見る。本当は他のやり方の知識もあるのだが、それをす
るのは恐怖心が先に立った。未知への恐怖。理性ではそれをしたところで悪影響はないと
言っているが、本能がそれを拒否している。
「これを使うといい」
 ズェピアはエーテライトをシオンの前に投げる。
「君を縛っている私のエーテライトではないよ。それは君自身のエーテライトだ。それで
快楽中枢を刺激するといい」
「……っ、な……」
 余りの言いぐさにに絶句する。確かにエーテライトで脳を刺激すれば、身体を強制的に
発情状態にすることは可能だ。
 しかし――シオンには今までそうした経験がない。どこまでが通常の発情で、どこから
先が危険な領域か解らないのだ。最悪、一気に刺激し過ぎて廃人となる可能性もあり得る。
「君の手で、君が自ら望んでやるんだ。シオン・エルトナム・アトラシア。誰に強制され
わけでもなく――自分の意志でね」
 愉しそうに笑う。
 ズェピアの言葉は一切の逃げ道を封じる言葉だった。もし薬などで発情状態に陥っても、
『薬のせいで』という逃げ道が残ることになる。しかしシオンが自らの手で行ったのなら、
どのような言い訳も免罪符とはならない。  
 震える手でエーテライトを手にとる。
(……………………っ!)
 どんなことになるのか、想像もつかなかった。だがやらなければならない。
 一瞬でできるはずのコマンドを、何度も間違えつつ時間をかけて命令する。
 最後の命令を打ち込み終えた瞬間。

 どくん。

 大きく心臓が、鐘を鳴らした。

「あ…………かはっ!」
 シオンは大きく目を見開いた。
 今までに感じたことのない刺激が、全身を駆けめぐる。通常、人間の身体はまず身体を
刺激して、それから快楽物質を脳が分泌する。しかし今のシオンは全く逆で、まず脳を刺
激している。
 自然とは正反対の異様な感覚――通常の性感すらまだ開発されていないと言うのに、未
成熟なシオンにとってこの状態はあまりに酷だ。
 思わず大きく身じろぎする。
「あ………くあぁぁ!!」
 シオンは生まれて初めての喘ぎ声を上げた。それは恐ろしく淫靡で、聞いてるだけで赤
面してしまいそうなほど艶っぽかった。
 身じろぎすることにより生まれた、大きな刺激。シオンの乳首が上衣に触れただけで、
腰が砕けそうになるほどの愉悦が彼女を襲う。
 普段、シオンはブラジャーを着けていない。別に形が崩れようても問題はないと思って
いたからだ。しかし今回はそれが仇となってしまっている。
 ざらざらとした感触の夏用の上衣は、発情し敏感になった乳首に容赦ない責め具となっ
た。どっと噴き出した汗に濡れ、半ば透けた布越しに、つんと尖った乳首が垣間見える。
「随分と気持ちよさそうだね、その状態でさっきの続きをするんだ」
「この、状態で……?」
 答えたシオンの息は、本人の意思とは関係なく、熱く湿っていた。
 少し布が擦れただけで、あれだけの刺激だったのだ。それを自らの手で生み出す――。
 ぞくりと背筋が震えた。
 正直な所、シオンは先程の感覚が快感であるのかどうすら理解していなかった。あまり
に大きく、鋭い刺激に、分析する暇がなかったのである。
 だがそれは決して不快な感触ではなかった。 
 じんじんと疼くように、張りつめている乳首に、そっと手を当てる。
「……くぅぅぅぅ!」
 鋭敏な神経を伝い、悦楽が脳に直結する。服越しに少しだけ触れただけなのに、凄まじ
い快感がシオンを襲った。張りつめた乳首はまるで別の物質でできているように固く、ひ
くひくと震えながら、さらなる刺激を求める。
 とろけるような、甘い快感。
「……ぁ……はぁ……」
 触れるだけでなく、しこった乳首を擦り、こね回す。最初はぎこちなかった愛撫が、だ
んだんと激しいものに変わる。感覚が増幅された肉体は、刺激を与えれば与えるほど、大
きな愉悦を生み出す。
「うぅぁ……くふぅん!」
 大きく胸全体をなで回し、再び円を描くように動かす。先程までの恐怖が残る愛撫と違
い、完全に快楽を貪るための動きだ。同時に乳首を二本の指で挟み、引っ張るように抓る。
「ひぅんっ!」
 比喩でなく全身に電流が走ったような 
感覚。そのまま今度は押しつぶすように動かす。
固い癖に弾力を失わない乳首は、面白いように形を変えていく。
「や……やぁっ!」
 否定の言葉は何に対してか。快感で目が眩み、つうと涙が筋となって頬を伝う。その間
も愛撫は休むことなく、快感を高めていく。もっと、もっとと。
 それは留まるところを知らない。
 最初は服の上からの愛撫だけでよかった。むしろ服越しの衣擦れ感触が心地よかったも
のだ。だが、発情した身体はより良質な快楽粒子を求める。
(何故……酷く……もどかしい……)
 桃色の霧が渦巻く脳内で、シオンはそんなことを考える。服越しでは物足りない。もっ
と直接、身体を撫で回したい。そんな欲求が高まっていく。
 風が吹き抜けていく、夏の夜を冷やす心地よい風。しかし今のシオンを襲っている熱を
冷やすことはできない。
 タイを取り、胸元を大きく開けようとする。しかし手が震え上手くいかない。
 そこに、タイミング良く何かがカランと音を立てて転がってきた。そちらに目をやれば
冴え冴えと輝く一振りの刃物――七夜の短刀。
 夢中でそれを手に取り、一気に胸元を切り裂く。深い紫色の生地が引き裂かれ、質感の
ある白い双乳が露になる。
 ぷるんと震えるそれを激しく揉みしだく。
「やっ……は……っああ……ああああ!」
瞼の奥で星が瞬き、意識がちかちかと明滅する。汗の滴が輝き、シオンは朱の月明かり
の元で、淫らなダンスを踊った。唾液が上唇と下唇を結び、光の筋を作る。
(何……これ……初めての……ぁぁっ!)
 抑えきれない快感の波の前に、意識はまるで嵐の中に放り出された小舟のようなもので
しかなかった。
 自然にその手が股間へと伸びる。それに疑問を抱く暇も、余裕もシオンにはなかった。
 秘所が燃え上がるように熱い、その感覚をどうやって鎮めればいいのか――その知識だ
けはある。
 ミニスカートをたくし上げる。
 大事な場所を包む白いショ−ツは、触れもしないうちからおびただしい液体で覆われて
いた。布の半ば近くまでが変色し、その範囲はさらに拡大しようとしている。僅かに開い
た隙間から滑りを帯びた愛液が垣間見えた。 
(濡……れて……い……)
 視覚から入ってくる情報で、もう一段階、心臓が鼓動の速度を速めた。何もしないうち
から愛液を分泌する秘所、その淫猥な姿はシオンの心を捕らえて離さない。
 シューツの上から手を触れる。
「くうっ!」
 脳髄を直接灼かれるような刺激に、思わずシオンはのけぞった。
(気持ち……いい……)
 ぞくりとする感触。布越しですらこうなのだから、直接触れたらどうなってしまうのか。
恐怖混じりの好奇心が頭をもたげる。理性は侵食されつつあり、本能は好奇心と結託し淫
らなな快感を求めている。
 ショーツの中に、白い手が入り込む。粘度の高いゼリー状の液体がシオンの手に絡みつ
いた。それが自分の体が分泌したものなどとは――知識では知っていたが、シオンには到
底信じられなかった。
 くちゅり、と粘着質な音が響く。
「っあくっ!」
 指がヴァギナの入り口に引っかかった。ざらざらとした感触。普段は体を洗うときと用
を足す時ぐらいにしか意識しないそこが、確固たる存在感をもって自己主張していた。
 激しく熱を帯びた孔からは、湧き出すように愛液が流れて出てくる。
 それを止めるように、処女孔の中へ指を突き入れる。
「ああっ……んあっ!」
 まだ侵入者を知らない門は、潤滑油に濡れたシオンの指の前に無力だった。ぬるっと手
が滑るように動き、人差し指を飲み込む。襞の一つ一つが蠢くようにしおんの指に吸い付
いていた。
「や……いや……ぁ、あ……」 
 新たに認識した性感帯に、体が喜びの声を上げる。乳房から送られてきた快感の波動に
加え、今度は秘所からの強烈な刺激。その二つが相乗効果でシオンを高めていく。
 ぐちゅ、ぐちゅ、と指を僅かに動かすだけで、ヴァギナが嬉しそうに鳴く。きゅっと収
縮し、指を離すまいと締め上げる。
 膣の内壁はシオンの予想以上に起伏に富んでいた。小さな突起のでこぼこを擦り上げる
たびに。体が震える。
「はぁ……ぁ……」
 もはや、ズェピアが自分を眺めている事など忘れてしまったかのように、淫らに腰を前
後にくねらせる。その動きが男を誘う牝のものである事になど、シオンは気づいていない。
ただ流されるままに快感を求めると、自然にそうなってしまうのだ。
「……ん、……んふっ……くっ……」
 両の足で立ったまま身体を反らせて自慰を続ける。シオンの目は腰を突き出す形になっ
た自分の身体を見つめていた。
 左手で胸を揉み、右手でショ−ツの中をかき回す。手の形に盛り上がったショーツの白
い布。その奥で行われている秘め事が、見えそうで見えない。その絶妙な隠匿製がさらに
シオンを昂ぶらせる。
(なんて……いやらしい……)
 霞がかった脳内に、そんな言葉が浮かぶ。止めなければ、と最後に残った理性が警告し
た。このままでは彼女は恥ずべき場所の全てをさらけ出してしまう。
 それだけは、避けねばならない。名門としての、貴族としてのエルトナムの誇りが。こ
れ以上はしたなく乱れる事を許そうとしない。
 それに――年頃の少女としての、シオンの感情がこれ以上はいけない、と叫んでいた。
「ぅ…………」
 驚異的な精神力で、シオンは手の動きを止める。その心の強さは賞賛に値するだろう。
 だがまだヴァギナには指が飲み込まれたままで、乳首は挟み込まれている。文字通りた
だ動きを止めただけ。
 何かきっかけがあれば、またすぐにでも動き出すだろう。薄氷の上で踊るような、危う
いバランス。
「はぁ……はぁ……」
 荒い呼吸。熱く濡れたような、なんともいえない背筋がぞくぞくするような声。
(ぁ……つ……ぃ)
 途中で止めてしまったため。狂おしい熱が血管に乗り、身体中を駆け巡る。それもその
筈、まだ脳に対する発情命令は有効に機能しているのだ。それがなくならない限り身体が
静まる事はありえない。
 もっとも――脳に対する刺激を、止めたところでここまで出来上がった身体が素直に止
まるとは思えなかったが。
 僅かに動いただけで、崩壊しそうな理性のために、動く事すら出来ない。蛇の生殺しの
ような時間。
しかし……全ては無駄な抵抗にすぎない。
 積極的な愛撫こそ止まったが、まだ性感帯には手が張り付いているのだ。それはシオン
の肉体を「動かない」という事で持って攻めたてている。
(もど……か……しい……)
 シオンの心に浮かんだ空虚な穴。欲しいものがあるのに、それがすぐ目の前にあるのに、
尚且つそれが自分の手で自由になるのに――。
 それが動かないため、満たされない。
 小刻みに震える身体は、次なる悦楽を切望している。
 そして……。
「ん……あ、あああ……!」
 ついに、シオンの理性は完璧に崩れ去った。
 一か八か、右手を抜きエーテライトをコントロ−ルしようとした、その動き。
胎内に残っていた人差し指が、膣壁の天井を、がりと掻いてしまった。
 目がくらむような快感。待ち望んでいた感触に、体が一斉に反応する。
 もう――止める事は不可能。
「んあっ! そこ……」
 指を抜きさるどころか、さらに中指まで加えて、激しい愛撫をヴァギナに加える。発情
状態にあるとはいえ、処女孔は相当にきつい。一本でも厳しいのに二本目がそこに加わっ
ては、自由に動かす事すら難しい。
「あっ、あっ、あっ!」 

そえでも関節一つ分、指の先を動かして、より奥の部分を掻き回す。ヴァギナが伝えて
くる感覚は、二箇所、別々の場所が刺激されている事を詳細に物語っている。
「はっふっ、うぅ!」
 かなり乱暴に、ヴァギナに入った指を無理やり動かす。動きを止めるべく絡み付いてく
る肉襞を無理やり振り払う、その行為が激しい愉悦を生み出す事をシオンは知った。
「うぁっ、くっ……ぃぁっ!」
 二つの指を揃えて、まるで一つの棒のようにして激しく出し入れを繰り返す。かと思え
ば時間差をつけて、一本づつ交互に動かしたりする。
「はうっ……ぁぁん!」
 ヴァギナの中に入った指を開け、膣孔を広げようとしたり、また指を一つにして、今度
は回転させるように、激しく動かす。
 その度に、シオンは激しく身体を振るわせた。体の傾斜が弓なり、ズェピアの前に股間
を見せ付けるような、形になってしまう。
 じゅくじゅくと、妖しい水音が風に乗り辺りに響く。
 ヴァギナの入り口からは、少し血が垂れていた。処女膜が傷ついたわけでなく、入り口
の辺りが少し切れたのだろう。だが痛みよりも今は快感の方が先にたっているらしい。
「……きゃぁっ……! ……あ、あぅっ……はぁっ……!」
 甘い喘ぎはエスカレートし、少女の限界が近い事を物語っていた。乳房を縦横無尽に変
形させ、ヴァギナに激しく指を挿入する。その速度が目に見えて加速度を増していた。 
「んっ……ふっ……ひぁっ……あ、あァっ……!」 
 高まる身体は、ある一点へと快楽を収束していく。
 それが頂を越えようとした時。

 ――不意に、薄笑いを浮かべてシオンを見つめる視線があることを、思い出した

(……だ――!)
 まさにそれはシオンが高みへ上ろうとした瞬間だった。
 その視線の意味を理解し――慌てて止めようとする。しかし、淫靡な快感に支配された
身体は止まらなかった。むしろそれが引き金となり――。

「あっ! あぁぁぁ! っひぃはぁぁぁ!?」

 生まれて初めて、絶頂を迎えた。
 びくびくと体中が震え、全身がさざ波のように揺れる。見開いた目には大きくズェピア
の顔が写っていた。
 絶頂が終わり、体中が弛緩したその刹那。

「あっ、 だっ、だめっ!」
 突然シオンが自らの股間を押さえる。その顔には激しく動揺が浮かび、今までで一番顔
が真っ赤になっていたかもしれない。激しい自慰に敏感になりすぎた股間を、きつく抑え
る。
 だが時は既に遅かった。
 ちろちろちろちろちろちろちろちろちろちろちろ――。
「あっ、あっ、あ…………」
 流れる水の伝う音。黄金の液体が大腿を滑り、屋上の床に小さな水たまりを作る。止め
ようとしても止めらい。解放された液体は、その最後の一滴で尽くすまで、一時も止まる
事はなかった。


 数瞬の沈黙。
 荒い息づかい、シオンの呼吸音だけが辺りを支配している。町中にありながら、私有地
であるが故に外界と隔離されたシュラインビルの屋上は、この上なく静謐だった。
「くくくくくくくく…………………随分とお楽しみだったようだねぇ」


                                      《つづく》