ズェピアの声は、シオンの心にノイズを生み出す。雑音ではない、真実を指摘する言葉
を含んだそれは、耳を塞いでも対象の心を浸食し続ける効果を持つ。
初めての絶頂による疲労と、幾らか戻った理性のために項垂れたシオンは、大人びた冷
静な少女ではなく、年相応の未熟な少女でしかなかった。
「くっ――――!」
それでも心を奮い起こし、気丈にズェピアを睨み付ける……虚勢にしか過ぎないと解っ
ていながら。
しかし心の奥底では、激しい自己嫌悪に陥っていた、もし誰もこの場にいなかったとし
たら、情けなさのあまり、泣き出していたかもしれない。
(何も……いいかえ……せない……)
出来ることならこのまま消えてしまいたい――そんな風にすら、シオンは思う。
ズェピアの言うとおり、シオンは自ら掘り起こした快楽の前に負けたのだ。彼の命令は
エーテライトで快楽中枢を刺激すること、その後は何も言っていない。薄笑いを浮かべて
見守っていただけだ。
七夜の短刀を投げたときも何も言っていない、これみがよしに道具を置いただけ――全
てはシオンの意志なのだ。
(しかも……)
濡れて重く張り付いたミニスカートとショーツ、一瞬の油断が仇となり、失禁までして
しまった。他人の目の前で、もっとも憎むべき相手と、もっとも大切な友人の前で。
(志貴……)
幸い――と言っていいのか解らなかったが、まだ彼は目覚めていない。今の痴態を見ら
れたということはないだろう。少しだけほっとする。
だが彼が目覚めなければ、逆転はあり得ない、シオンにはどちらの方がいいのか、判断
がつかなかった。
「さて、ではそろそろ私が指導して上げようが。はしたない知識ばかり蒐集し、恥知らす
にもそれを実践する、淫乱な生徒にね」
シオンを嘲笑する言葉と共に、ズェピアが一歩動いた。それと同時に血のエーテライト
が辺りを追いつくすように広がる。
まるで、蝶を捕らえる女郎蜘蛛の檻のごとく。
「何を――? っ!」
身体に巻き付いてきた糸を咄嗟に振り払おうとするが、今のシオンの運動能力では到底
無理な事だった。超常の紅い糸はシオンの身体の一部だけを的確に拘束する。
「ぁ……ふぁ……くんっ!」
不意に走った鋭い刺激に、はしたない声を上げてしまう。
糸は破れた胸元から覗く双乳の頂――両の乳首に巻き付いた。固くしこった乳首をきつ
く締め上げられる、歓喜にわななくようにふるふると震える。
「その眺めもなかなかにそそるが――私としてはこちらの方がいいかと思うのだよ」
エーテライトが閃き、シオンの身体に幾筋かの線が走った。その次の瞬間。彼女の下半
身を守っていた鎧が剥ぎ取られる。濡れたミニスカートとショーツがただの布きれとなっ
て宙に舞う。
「や、め――ああああああああああああああああああああっ!?」
剥ぎ取られた下半身を隠す暇もなく、シオンは甲高い絶叫を上げた。
滑りを帯びた液体で覆われたシオンの秘所、そこから覗く小さな突起――クリトリスに
エーテライトが絡みついている。初めて触れられる器官が送る、重い快感。
感覚を刺激され、臨戦態勢にあった淫突起は、今まで自分に刺激が与えられなかった事
に抗議するかのように、脳へと快楽物質の分泌を促す。
シオンは許容量を大幅に越える刺激に抗うこともできず、びくびくと身体を振るわせて
二度目の絶頂に至った。
「は、ぁ……ぅ……くぁっ!」
足から力が抜け倒れ込みそうになるが、敏感な場所を拘束した糸がぐいと引かれたため、
倒れる事すらできない。危なっかしい足取りでどうにか身体を支える。
今のシオンの状況は、酷いものだった。
身体を覆うのは紫色の上衣とニーソックスのみ。その上衣ですら胸元は大きく切り裂か
れ、豊かな双乳が覗いている。大切な下半身を護る布はすでになく、野ざらしになった菫
色の茂みが水分を吸収し、てらてらと輝く。
頬は紅潮し、発情状態は継続している。全身を朱に染め、淫らな快楽に全身が犯されて
いる。立っているだけなのに、ぽたりと股間から雫が滴り落ちた。
そして――もっとも敏感な三つの突起を結び、トライアングルを描く紅い糸。
この上なく淫靡で、背徳的なオブジェ。闇の中で輝く芸術品。
「ふむ……大分いい姿になったね。体の方もかなり正直になってきたようだ。自分の目で
確かめるといい。君の下半身はもう完全にできあがっているよ、いやらしい液体が何もし
ていないのに溢れている。
これは愛液なのかな、それともさっき漏らした液体なのかな? どちらにしても恥ずか
しいものであることは間違いない……大した淫乱だね」
「……認め、ません……」
淫乱という言葉に反応したのか、シオンの目に強い意志の力が宿る。これだけ辱められ
ても、彼女はまだ屈服していない、心が折れていない。
悦楽に体が支配されようとも心までは堕ちまい、と。
その姿が凌辱者にとって最大の喜びであることを、彼女は知らない。簡単に快楽に身を
任せる素材では駄目なのだ。快感に濡れ、体中をわななかせながらも決して折れない相手
こそが、最高の素材なのだ。
「なるほど、認めたくはないか――ならばそれを証明して貰おう」
「証、明……?」
訝しげに呟いたシオンの声には答えず、ズェピアは腕を振るった。何千という犠牲者達
の血で作られたエーテライトが収束し、シオンとズェピアの間を結ぶ橋となった。それが
シオンの秘所より少し上ぐらいに、何の支えもなしに浮かんでいる。
「君が本当に淫乱でないというのなら、この上に跨ってこっちまで来るといい。勿論そん
なことをすれば君の大事な部分は激しく刺激されるし、これは血のエーテライト、どんな
形にでも変化する」
そこで言葉を切り、ズェピアは優しい笑みを浮かべた。
「ちなみに、自分が淫乱であることを認めるならしなくてもいいよ? だが君があくまで
自分はそうではないと主張したいなら、これを渡るんだね。ただしこちらに来るまでに一
度でも絶頂に達したら――それでアウト、だね」
「これを…………」
ごくりと唾を飲み込む。
収束した糸の大きさは、およそ親指ぐらいの太さ。これに跨るとなれば、秘所で挟み込
むようにしながら、歩かねばならない。
それが今のシオンにどういった影響を与えるか――リアルに想像できてしまう。
(あ……)
くちゅり、と秘所から恥ずかしい音が鳴った。不覚にも、シオンは想像だけで感じてし
まったのだ……さっきまでは性に未熟な少女でしかなかったのに。
それは当然ズェピアにも聞こえているだろう。
外面は変わらないが、雰囲気がより嘲笑じみたものになっている。
(……どう……しますか)
選択肢はシオンにある。今度だけは拒否する事も可能だった――ズェピアの言葉を認め
るなら、という条件がつくが。
断じて、認めたくはない。
シオンにとって、性的な快感は極めてレベルの低い、低俗な行為だという意識がある。
それに溺れる事を認めるなど、到底容認できるものではなかった。
それが例え口先だけの、この場限りの虚言であったとしても。
これはシオンと言う少女の弱点なのだろう。隠し事はできても嘘はつけない――正直者
なのだ、根本は。
ズェピアはそれを熟知しているのだろう。だからこのような罠を仕掛ける。
それを罠だと見破りつつも、シオンはそれに乗ってしまう。
「……そこまで行けばいいんですね」
「そうだよ、ただ歩いてくるだけでいい。簡単な事だろう?」
その言葉には答えず、無言でシオンは収束し、棒状になったエーテライトに跨る。
「んっ……」
体が沈み込む。秘裂を襲う冷たい感覚に、ぶるっと体を震わせた。剥きだしになった股
間にダイレクトに冷気を感じる。ひんやりとした感触はシオンの熱を冷ます役割はなく、
むしろ倍化させるための触媒に過ぎない。
「高い、ですね……」
棒の位置はその上に載ってみると、以外に高度があった。完全に足がつかない、という
事はないが、爪先立ちになってしまう。
その分だけ棒は、深くシオンの秘裂を蹂躙する。
体重を大地に上手く預けられない以上、跨った部分に自重を預けるしかない。
「くぅ……ぁ……」
再び鎌首をもたげてきた快感に、シオンは顔を赤らめながら耐える。シオンの未成熟な
秘裂には、本来物を挟むなどすれば耐え難い痛みが走る筈だ。だが今は自らの手で分泌さ
せた液体が、大事な孔を守る。
(……食い込みが……きつ……い……)
ダイレクトに、無慈悲に食い込む感触に、シオンの身体は敏感に反応する。
「無事乗れたようだね、では……こちらに来るといい。何、たかだか十メートル程の距離
だ、歩き始めたばかりの乳児ならともかく、君がこれないわけはないだろう?」
「……少し、黙ってて、下さい……」
嘲笑うズェピアを一瞬睨んでから、慎重に足を進める。
なにせ爪先立ちでは、殆ど足に力が入らない。自然、棒に擦り付けるようにしながら歩
く形になる。シオンの足取りは実に頼りなく、少し進むだけでも大変な労力を要した。
「や…はぁっ…あん…」
股間からはなんともいえない、むず痒い快感が伝わってくる。深く秘裂に食い込んだ棒
は、むしろ優しくシオンを刺激した。生まれて初めて感じる、優しい快感。
赤いエーテライトの表面を、半透明の液体が装飾する。どぎつい赤と、透き通るような
白。全く異なる二色であるが故に、それは月明かりの下でよく映えた。
少女が赤い棒の上を通過した後に、てらてらと蛞蝓が這った後のような筋ができる。
それはシオンがこの行為に感じている、雄弁な証拠。
「ぅ……んぁっ……」
どれほども行かない所で、シオンはその歩みを止める。徐々に高められた快楽の内圧が、
分水嶺を越えそうになったのだ。秘裂の入り口が銜える棒は、断続的にそこを刺激し、彼
女は自分も気づかないうちに再び高められていた。
「くぅ……」
肺から押し出されるような吐息を漏らす。
シオンを刺激するのは赤い棒だけではない、乳首とクリトリスを結ぶ淫猥な赤い糸。こ
れも少女の体を容赦なく責め苛んだ。じんじんと加えられる、重い快楽。
ともすれば快感に飛びそうになる意識を、少女は必死で抑えこまなければならなかった。
優しい快楽と無慈悲な快楽、別種の刺激が生み出すこれは少女の体を甘く蕩かせる。
――快楽に身を任せれるなら、どれだけ楽だったろう。未成熟ではあるが若く瑞々しい
身体は存分にその悦楽を堪能したはずだ。
しかしシオンにその意思はなく、快感を押さえこもうとすれば身体は反発し、肉体に更
なる攻撃を加える。
(絶……対……思い通り……には……なりません!)
目の前にいるあの男。憎むべき存在が仕掛けた罠に、身を委ねることは耐えがたかった。
驚異的な精神力。
だが、ズェピアの切れ長の瞳が嘲笑を含み、シオンを見下ろす。それを感じると少女の
身体は意思とは無関係に、昂ぶっていく。
「……っ……ん……!」
乳首とクリトリスは抓まれ赤く充血し、平素の倍程に膨れ上がっている。その姿をズェ
ビアは真正面から見ているのだ。
しかも、秘列に棒を加え、秘所を擦りつける様にして歩く様を。
情欲に濡れ、頬を高潮させたその様子が、ズェピアの瞳に写っている。それをシオンは
確認してまった。
(見られ……て……)
再認識した瞬間、ぞくりと背筋に何かが走る。
「……っ……ん……!」
思わず上げかけた嬌声を、すんでの所で抑える。しかし下の口は正直に快感に反応し、
更なる淫液を分泌した。
――見られると言う快感。
羞恥と言う感情は、人間が快楽を感じるためにもっとも有効なスパイスの一つだ。禁忌
を侵しているという背徳感。嘲笑されているという自虐。恥ずべき姿をどこまで把握され
ているのか解らない不安。
それが三位一体となり少女に襲い掛かる。
(ズェピア……ワラキア……あの男が……こんな私を……見て……る……)
マゾヒズム一歩手前の自虐的な刺激に、シオンの身体は震えた。
「――は……!」
ぐらりと体が揺れ、体が前のめりになってしまう。バランスを崩し、より深く棒が淫裂
に食い込む。
「はうっ……ぁぁん! っっっっっっっっ!」
糸で括られたクリトリスが、棒との間で押し潰される。その感触に、シオンの脳裏に光
が走った。快楽に耐えんときつく閉じられた目の奥で、白い火花が散る。
「だ……めっ……! うぁっ……!」
登りつめそうになる体を、すんでのところで地上へと引き戻す。淫らな液体が溢れ、大
腿を伝った。身体に力が入らず、倒れこみそうになる所を両手で棒に手を付いて堪える。
「……もうお終いかい? まだ一メートルほどしか進んでいないよ?」
「ま……だ……で……す」
搾り出すように、言葉を紡ぐ。快楽に打ちのめされた身体には、それだけの言葉を発す
る事すらキツかった。
「まだ……私は……負けて……いません……」
そんなシオンの様子を、実に楽しそうにズェピアは見つめる。
「なるほど、確かに先ほどはギリギリの所で踏みとどまったようだからね。まだ続けるな
ら参加資格はあるよ。しかし初めて間もなくでイキかけるとは……肉体が制御しきれてい
ないね、錬金術師としての研鑽を、最初からやり直すかい?」
「誰のせいだ……と……思って……るんですか」
ズェピアのあからさまな言葉は、シオンにとって酷く恥ずかしいものだった。
『イク』という単純な一言、それにシオンは激しい羞恥を感じている。だから今も歪曲
的な表現を使った。
その心理が手に取るようにズェピアには解る。
――ここまでの痴態を晒しておいて、些細な事を、と思うかもしれないが、彼女にとっ
ては重要な事なのだろう。
「しかし……それは反則だ。腕を付いてしまっては面白くない」
ズェピアが腕を振るうと、空中を赤い線が走り少女の両腕に巻きつく。前のめりになっ
たっ体が引き起こされ。腕が後ろ手にまわされた、そのまま糸は少女の両腕を拘束する。
「くぅあっ!」
引き起こされた際にまたも敏感な突起が刺激され、少女は喘ぐ。後ろ手に拘束され、快
感にわななく姿をズェピアは満足そうに見つめた。
「さて……それでは再開といこうか?」
「ぅ……」
のろのろと、シオンはまた歩き始める。今度は腕でバランスを取れないので、先ほどよ
りもさらに危なっかしい。
足に力が入らず。爪先立ちになった下半身は快楽と疲労で痙攣するように震えている。
汗の玉が身体中に散らばり、月光を受けて輝く。
(……気持ち……いい)
先に進むにはそうせざるをえないとはいえ、いつの間にかシオンは赤い棒に股間を強く
擦りつけながら、歩いていた。一歩歩くごとに優しく湧き上がる快感を、いつの間にか求
めてしまう。
くちゅくちゅと漏れる音に、耳まで真っ赤になる。しかし、それすら半ば倒錯気味の快
感に置き換わっていく。
「はぁ……はぁ……は……」
自慰をした時のように、頭の中が霞がかっていく。ピンク色の霧が、冷静な思考力を奪
いさる。
それでもシオンは道のりの半ばまでを踏破した、鋭敏になった肉体は嬉しそうに淫蜜を
噴出し、赤い棒を輝かせる。
絶頂を迎えてはいけない、イってはいけない――それだけを心の中で唱えながらとてつ
もなく淫靡な行進を続ける。
「あ……と……すこ……」
そう呟いた時。
不意に棒が形を変えた。親指ほどの太さの棒から、細長い糸へと形を変える。 そして、
凄まじい力で上に引っ張り上げられた。
まるで下の淫猥な口で糸を捕食するかのように。
「うああああああっっっっ!!?」
予想だにしない変化、認識力の低下したシオンは咄嗟に対応できなかった。足が完全に
床から離れ宙に浮く。今までとは比べ物にならないほど深く食い込んだ淫裂から、ごぽり
と音を立てて、淫液が溢れ出す。
そして、頭の中が白く染まり――。
「ダメッ、いやっ、あああああっ!」
必死に快感と戦う。もう喘ぎ声を抑えるだけの余力もない、どれだけ恥ずかしい言葉を
喚き散らしても、この悦楽を外へと逃がさなければ、内側が破裂してしまう。
「ふふ、随分と気持ちいいようだね――お気に召していただいて何よりだ」
「……ズ……ェ……ビアッ!」
襲い来る悦楽に抗いながら、シオンはズェピアを睨み付けた。
その手から伸びるエーテライトが、赤い棒から赤い糸へと変化している。
「ひ……怯……もの……!」
その言葉にズェピアはさも心外だといわんばかりに肩を竦める。
「おやおや、君は聞いていなかったのかな? 私は言ったはずだよ――これは血のエーテ
ライト、どんな形にでも変化する――とね。
最初に提示したルールを使っているだけなのに、卑怯呼ばわりされるのは少々不快だ。
ゲームとはそういうものだろう? 確かに提示したルールをその相手が聞いていなかっ
たからと言って、その責はルールを使用した人物のものになるのかい?
きちんと聞いてなかった、理解してなかった、忘れていた――これはルール確認を怠っ
た相手のものだよ」
「……こ……の……っ!」
唇を噛み締める、確かにズェピアの言い分は正しい。悦楽に溺れ、言われた事を忘れか
けていたシオンが悪いのだ。もっとも、腕を縛られ不安定な状況で歩く事を強制され、そ
の状態では覚えていたとしても、何が出来るか疑問だったが。
「くううっ……うっ……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
全体重が細い糸の上にかかる。優しい愛撫は鋭く切り裂くようなものへと変化し、シオ
ンの身体を、脳髄を痺れさせる。
もう、一歩も先に進むことなどできない。今の悦楽に耐えるだけで精一杯。
「……ふむ、その状況では歩けないようだ。流石にそれはこちらにも落ち度があるだろう
ね……少しだけ補助をしてあげよう」
意地悪くズェピアは嗤う。
「――っ! 駄目、ダメで……」
不吉な気配に気づき、シオンが制止の声を上げるのを無視し。
ズェピアが腕を振るい、エーテライトを操った。
三つの敏感な淫突起、快楽の源泉を司る器官を結ぶ、トライアングルに新たな糸が纏わ
りつく。
そして――それを思いきり手繰り寄せた。
「はぅぅっぅぅぅっくぅっっっっっっ!!」
凄まじい快感の爆発。
限界まで高められた淫突起が、凄まじい力で引っ張られていく。締め付けはいっそう激
しくなり、まるで引き千切れるような痛みがシオンを襲う。
しかしそれすらも肉体は快楽信号に変わっていく。既に痛覚神経は淫らな欲望によって
その働きを完全に奪われているのだ。
「だめぇぇぇぇぇぇぇえぇっ! ぁ、ぅぃっあ! くふぁあああっ!」
糸に犯されている。弄ばれている。今のシオンは比喩ではなく蝶のようだった。淫らに
うねり、羽ばたき淫液という名の燐粉を撒き散らす。
そうして淫らに身体をくねらせながら、シオンは赤い糸の上を滑っていく。
着実にゴ−ルは近づいている。しかしシオンの肉体も限界をとっくに越えていた。
ゴールを迎えるのが先か、シオンの体が折れるのが先か。ズェピアという名の終着点は
近づいてくる。
「あ……はぁ…ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
シオンは身体を仰け反らせて、三つの淫核が掘り起こす悦楽に抗う。二人の間の淫らな
綱引き。膨れきった淫突起は真っ赤に膨れ上がり充血している。もしこの場に平均的な吸
血鬼がいたとしたら――首筋ではなく、もっとも神経と血液と淫液が集中した、そこから
血を飲むのかもしれない。
(も………………すこ…………し……)
朦朧となる意識のなかで、シオンはこれならば何とかなるのでは、と思った。
しかしそれはあまりに甘い考え。
いまシオンの身体を握っているのは、彼女ではなく、憎むべき吸血鬼なのだから。
吸血鬼は、ほんの少しだけ手を動かす。
張り詰められた糸を弾く――ただそれだけ。
生まれ出でた振動が、糸を伝わっていく。
そしてそれは少女の身体へと到達し――。
「あふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!」
少女の最後の防壁を突き崩した。
びくびくと身体中を痙攣させながら。
シオンは三度目の絶頂を迎えた。
――夜が明ける。
血のように朱い月が、空の向こうへと沈んでいく。真夏の夜の夢の終わり、幻影の月は
その姿を夢幻へと帰す。タタリは極少数の人間を傷つけるだけで収束した、今までの被害
に比べたらそれは比べるのも馬鹿らしいほどに小さい。、
少し強くなる朝日を浴びながら、仰向けに寝転がり、シオンはぼうとそれを見つめてい
た。
――よく、耐えられたものだと思う。
あの後ズェピアの責めは苛烈を極めたが――何故かシオンの処女に手を出す事はなかっ
た。
これは上々の結果といっていいのかもしれない。あの状況で、純潔を守りぬくことが出
来たのだから。
傍らを見れば、志貴がまだ倒れている。結局一度も彼は目覚める事がなかった。傷が予
想以上に深かったのか、それともズェピアが何かしたのか。
しかし、生きている事に間違いはない。よく見れば規則正しく胸が上下している。
心底から安堵する。こんな姿を見られなくてよかった、と。
吹き抜けいく風が、露出する肌に心地よい。今日も暑くなるのだろうが、まだこの時間
は夜の涼気の名残がある。
「夜が明けるね……よく耐えたものだ、シオン。少なくとも私は君が壊れても構わない、
いや壊すつもりで遊んだのにね……」
「……馴れ馴れしく喋らないで下さい」
空想具現化による効果が終わり、再びズェピアは現象に回帰した。あの黒い球体が朝日
が投げかける光から隠れるように、建物の影に浮かんでいる。
「――早く現象に戻りなさい、貴方の時間は終わりです。ここで滅ぼせなかったのは歯噛
みするほど口惜しいですが、いずれまた現われる時が貴方の最後です。現象としての情報
体としての特性は解析しました。
――次は、完全に滅ぼします。あらゆる手段を持って私は貴方を滅ぼす方法を探して見
せる」
決然と宣言する、シオンはもう負ける気はなかった。死にたいほどの辱めを受けた分は、
必ず報復してやる。負けっぱなしでいるほど、シオンという少女はお人よしではない。
ズェピアが実体を失うまで耐え抜いた。もう彼はシオンに手を出す事はできない。次の
タタリの出現する三年後まで、決着は持ち越される――。
そう、シオンは思っていた。
「――ハ、ハ、ハ、ハ、ハ」
黒の球体が、ひび割れるような声を上げる。妙に歪んだその声は、ズェピア・エルトナ
ム・オベローンのものではない。
ナンバー十三・ワラキアの夜、死徒二十七祖に連なる存在。
「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ――ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
心を揺さぶるような哄笑。夜明けが迫る空にそれは恐ろしく不吉に響き渡った。心臓を
直接掴まれるような、本能的な悪寒。
世界が翳り、朝日が力を失っていく――そんな錯覚すら覚える。
「――何が……可笑しいのですか!」
こみ上げて来る不安を押し殺すために、シオンは声を張り上げる。
「愉快だ、痛快だ、傑作だ――本当に素晴らしい! シオン、君には舞台女優としての素
質があるようだ。この状況で、あの責め苦の後で、そんな台詞を吐けるとは――。
三年前、君を吸血鬼にしたのは半ば遊びだったが、それがまさかこんな結果を生むとは!
つくづく君は私を楽しませてくれる。それもこれ以上ない極上のものだ!
君には礼を言おう、そして――」
「もう暫く――私に付き合ってもらう」
ジジ、ジジジという音。黒い球体の表面に雷光のような線が幾本も走る。それがやがて
球全体を包み、一瞬の後に消え去る。
跡形もなく、まるでそこに何もなかったかのように。
その後に残ったのは一人の金髪の男――。
ズェピア・エルトナム・オベローン。
「――な」
あまりの出来事に、シオンは言葉を失う。
有り得るはずがない、朱い月はその姿がを消した。次に駆動式が敗れるのは千年後、そ
れまではズェピアという固体でなくタタリという現象である筈――。
それがどうして――今ここに存在する。
「――まさか」
ごくりと唾を飲む。錬金術師としてのの冷静な思考、それが今はマイナスに働いた。高
速思考により導き出された解は、現実逃避すらシオンに許さない。
夢や、白昼夢の類、そう決め付けて思考停止してしまえるなら、どんなによかったか。
「――まさか――駆動式を自ら解いたというのですか――!?」
それしか答えはありえない。外部からの干渉でワラキアをズェピアに戻すには、擬似的
な契約の終了――朱い月の出現を必要とする。しかしワラキアが自らその式を放棄したの
なら――。
「その通りだよシオン、私はズェピアへと完全に戻った。君も聞いていただろう? 真祖
の言葉を、どうやらこの方法では第六法へと至ることは出来ないらしい。ならば――この
方法を続けるの理に反する。
もっとも、あの姿を捨てるのに多少の抵抗がなかったわけではない、随分と長い付き合
いだからね」
言葉をきり、呆然とするシオンをズェピアは見やる。感情が抜け落ちたような、無表情。
それが彼女の受けたショックを物語っている。
「それを断ち切らせてくれたのはシオン、君だ――。ここまでの素材がいるなら、再び現
世に戻るのも悪くはない、
長い思索の旅になるだろうが、傍らに玩具があれば少しはマシだ。
初めて君に――感謝を送ろう」
「――っ!」
ズェピアの言いたいことに気が付いたシオンは脱兎のごとく駆け出し、志貴を背負う。
疲れきった身体を叱咤し、身を翻すとそのまま虚空へ――。
あられもない姿が、陽光の元に晒される。下半身は完全に露出し、胸元を大きく切り裂
かれ乳房が露出した姿が、初めて太陽の洗礼を受ける。
しかしそんなことに構っている暇はない。
無謀としか思えない逃避行、まず逃げる事を最優先。その判断は間違っていない、だが。
「ふふ……」
宵闇の外套で身を包んだズェピアの姿が、そこにはあった、戦いの時に見せたワープ移
動、あれで追ってきたのだろう。
エーテライトを取り出し、シュラインビルに巻きつけることで、減速を図ろうとしたシ
オンの身体が硬直する。
既にその身体は志貴もろとも、外套に包まれようとしていた。
「ズェピア――――――――――っ!」
最後の抵抗とばかりに、ブラックバレルの引き金を外套の下で引く。シオン最大の武器
が咆哮し――。
次の瞬間、辺りからは全てのものが消えうせた。
シオンも、志貴も、ズェピアもいない。彼らがいた痕跡は屋上に残る戦いの跡だけ。
まるで全てが夢であったかのように、後には何も残らない。
一つの夢の終わり。
長きに渡る悪夢は真の目的に達する事無く、終わりを告げる。
幻影の黒き月は、自らの存在を断ち切った。
それが新たな悪夢の始まりなのか。
あるいは今度こそ良き夢となるのか。
それは誰にも解らない。
だが、これだけは言える。
サキュバスの見せる淫らな夢に――望まずに囚われた一人の少女がいる事を。
幻影の月の物語は終わりを告げる、そして――。
錬金調教伝SION、開幕――
後書き
どうも、初めまして。D・RAINと申します、以後よしなに。
MBやってシオンに結構ハマったので、この文を書きました。にしても息抜きのつもり
で書いて、こちらがメインになっているのは何故だろう?(笑)
……ま、深く考えたら負けですな、こういうことは、うん。
しかし最後で思いきり爆弾を踏んでしまいましたが……。
とりあえずD式錬金調教伝SIONの序章として見てください。今のとこ他の所はなに
の関係もありません(笑)
どうしても、このイメージが離れなかったのです。月姫人気投票掲示板の投稿が〜。
でもそ掲示板のイメージのままというのもアレなので、とりあえず話の序章という形に
してみました、上手く言ってるかどうかは別ですが。
この作品を掲載してくださるMoongazerさんと、錬金調教伝SIONの元イメ
ージを描かれた、新夜様と皇 征介さんに捧げます。
ちなみにこんなの書いておいてなんですが、続編の予定は……ありません、今の所(笑)
私自身がHPを持っていないので、掲載場所がないですし、Moongazerさんに
頼れるか解りまりませんから(いや、初投稿ですし)
……誰か本気でこのゲーム作ってくれないかなぁ、テキスト書けって言われたら書くの
に(←見果てぬ夢)
それでは、ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました、機会がありました
らまたいずれ――。
文責;D・RAIN
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