夜。
 珍しく士郎は早々と床についていた。
 昔とは違う。
 無茶な魔術の訓練をして、倒れるように寝込む真似は、凛の指導のもとで不
要となっていた。
 それでも、あれこれと作業をしたり、セイバーに稽古をつけて貰ったりで、
それなりに夜が更けるのは普通だった。
 だが、今日は不思議と凛は士郎に言葉が少なく、早々に衛宮家に泊まる時の
寝室へ戻ってしまっていた。
 ではセイバーはと声を掛けると、たまには稽古無しで体を休めましょうとき
っぱり言われた。
 まあ、それもいいかなと士郎は従った。
 昼の間に乾しましたと言われた布団一式はふかふかで、心身ともに癒される
ような気持ち良さ。
 すぐに士郎は夢の中へ旅立ったのであるが……。

 ふと、目を覚ました。
 異常。あるいは違和感。
 体が脳に伝える変調により、覚醒が促された。

 おかしな感覚。
 但しそれは、マイナスを感じさせるものではなかった。
 苦痛や不快感などはとんでもない。
 むしろ快感。
 温かく、柔らかい感触、気持ち良さ。
 下半身がまるで蕩けるような快美感。

 下半身?
 快感?
 いやこれは下半身というより、端的に……。
 これは……。

 上半身を起こす。
 布団はめくられていた。
 そして、下半身は剥き出しにされ、開いた足の間には……。

「…………セイバー?」

 瞬時に完全に覚醒する。
 脳は混乱しつつも、体は鋭敏さを取り戻す。
 状況を理解はせずとも、とりあえずの認識をする。
 しかし……。
 夢であるとしか思えなかった。
 夜中に、セイバーが、人の下半身を剥き出しにさせて、性器を弄っている。
 夢、信じられない淫夢だった。

 呼びかけにセイバーは反応しない。
 足の間に蹲るようにして、顔を落しているから、視線も合っていない。
 無視しているのか、声が届かないのか。
 もう一度セイバーの注意を引こうとした時、波が起こった。
 体の中を走る快楽の波。
 
「んん……」
「ああッ」

 びくんと腰が動く。
 あまりの気持ち良さに。
 性器を弄られるという言葉で済むような、生易しい状態ではなかった。
 正確には、奉仕をされている。
 あるいは、セイバーに貪られている。
 量の手で。唇で。舌で。
 セイバーの口に、すっかり固く大きくなっているペニスは呑み込まれていた。

 ただ、口に含んでいるだけではない。
 呑み込もうとする動きと、吐き出そうとする動き。
 口蓋がペニスを擦り、柔らかい舌がペニスを滑る。
 どれだけ、そうされていたのか。
 現れた時の幹はセイバーの唾液で濡れ、それは根本からこぼれ落ちている。

 奥まで飲み込まれる。
 先端が触れているのは、喉の濡れ肉だろうか。
 セイバーの息が、ペニスに絡んでくる。
 口いっぱいになって、どこに余裕があるのか。
 舌だけはまったく自由な様子で、ぬめぬめとペニスに浮き出た筋を擦りつつ
動く。

「んん…ふぅッ」

 ちゅぽんと、一転してペニスはセイバーの口から飛び出る。
 それでも未練がましく、出てきた肉棒からさっきまでの快楽の穴まで、透明
の糸が繋がっていた。
 唾液と、そしてもっと粘性ある液体からなる糸。
 躊躇い無く、セイバーは小さい手で、それを拭った。
 まったく厭う様子は無い。

「セイバー」

 その優しげな様子は、同時に淫靡で、士郎の目を奪っていた。
 ようやく、声にセイバーは反応した。
 顔が自分の行為を見つめていた士郎に向けられる。

「はい、シロウ。
 起こしてしまいましか」
「ああ」
「それは、すみません」
「気にしなくていいよ。……じゃなくてさ、何やってるの?」

 ああ、とセイバーは表情を改める。

「シロウの精を頂きに……。
 目覚める前に済まそうと思ったのですが、慣れぬ事でうまくいきません」

 やや無念そうに。
 やや申し訳無さそうに。

 やっぱり夢だと士郎は思った。
 どう考えても正気の沙汰とは思えない。
 でも、夢の中でこんなにセイバーがリアルに見えるだろうか。
 この下半身の、ペニスの疼きは、本物でないだろうか。
 夢か、現か。
 答えの出なさそうな問いを持て余していると、セイバーから呼びかけがあっ
た。

「シロウ」
「うん、何だい」
「続きをしてもいいですか」
「続き……」

 セイバーが手で俺のに触れる。
 セイバーの口が、唇が、この張り詰めたトコロに触れてくれる。
 咥えて、しゃぶって。
 理性でなく、体がうんと答えそうになる。
 とっさに出た言葉に、自分でも士郎は感心した。
 あるいは、それだけ絡め取られているのか。

「俺には凛がいる」
「それは承知しています。
 本来ならば凛の許可を得るべきでしょうが、我慢できなかった……」

 懇願の目。
 まっすぐに士郎を見詰める視線。
 
「今だけ、シロウにこうする事を許して欲しい」

 抗う事が出来るだろうか、その瞳に。
 哀切な迄の願いに。
 もしも、凛が怖いからという理由だけであったならば、きっと抗えない。
 あとがどうなろうとも、その恐怖には目を背けようという気になったろう。
 だが、搾り出すような士郎の言葉は、やはり拒絶だった。

「ごめん、セイバー。
 女の子に恥をかかせちゃうかもしれないけど、やっぱり凛は裏切れない。
 凛に見つからなくても、俺はもう凛と顔を合わせられなくなる」
「……シロウらしいです」

 むしろ罪悪感に塗れたような士郎の顔。
 拒絶にはがっかりした顔をしたセイバーが、微かな笑みを浮かべた。

「ひとつ聞かせて下さい。
 士郎が拒絶したのは私の事が不快だからではないのですね」
「当たり前だろう。セイバーをにあんな事言われて、ぐらぐらしない男はいな
い」

 はっきりと言い切る。
 目に見えて救われた表情をするセイバー。

「凛に比べれば、無骨な体つきで、体つきも女らしいとは言えない。
 私は騎士であり、そんなものは無縁で良いのだが、それでシロウに嫌われる
のは……」
「そんな筈は無いだろう。
 セイバーき女の子だよ。それもとても綺麗な。なんでそんな事を言うんだよ」
「男でない事を呪いたくなる事もありましたが、その言葉は嬉しいです、シロ
ウ」

 少し考えて、セイバーは言った。
 懸命に妥協の道を探る意志が見え隠れする。

「私にされて、精を洩らすのが抵抗あるのならば、いつもシロウがしているよ
うにしてくれませんか。
 私は、そのお手伝いをします」

 セイバーの言葉に士郎は怪訝な顔をする。
 何を言っているのだろう。
 自分で。
 している。
 精を洩らす。
 なんで、要求しておいてセイバーは顔を赤くしているのだろう。
 数瞬、まじまじとセイバーを見つめ、天啓のように意図を悟る。

「それ、俺がオナ……」

 叫びかけて口を抑える。
 とかし、セイバーはこくんと頷く。
 
「士郎の精を私に下さい」

 くらくらした頭を何度もぽんぽんと叩く。
 どうにかなりそうだった。
 なんだって、セイバーは自慰行為を要求……。
 そこで士郎は若干の齟齬を感じた。

「もしかして、精を欲しいって、文字通りの意味?
 俺に抱かれたいとか、そういうのでなくて……?」
「もちろんです、士郎。
 それでは、完全に凛に不貞を働く事になるではないですか。
 例え士郎であれ、そんな事には従えません。絶対に」

 いや、俺から誘ったんじゃないんだけど。
 そう思いつつも、そうだろうな、と士郎は納得する。
 アーサー王と円卓の騎士の物語、その悲劇に繋がる最後の部分をぼんやりと
思い浮かべる。
 なんだか、脱力。それと認めたくはないけど、がっかり感。

「いいよ、セイバー。
 凛に内緒にしてくれるなら、それくらい。
 何の用があるのかはしらないけど」
「ありがとう、シロウ」

 満面の笑い顔。
 対する溜息顔。

 それではと、士郎はやや硬度を減じた己のものに右手を伸ばす。
 やや、気の入らない手の動きでペニスが擦られる。

「そうやるのですね、シロウ」

 小さな声。
 でも、息が、ペニスを撫でたよう。
 くっつくほどの近くで、セイバーがまじまじと見つめていた。

「あぅ」

 小さな呻き声が洩れた。
 セイバーが見ているという意識だけで、びくんと腰が疼いた。
 士郎自身にもわからない、体の働きで、バネ仕掛けのように、ペニスが跳ね
上がる。
 
「凄い、いきなりあんなに大きく。
 やはり、私などが触れるのではダメなのですね」

 何を馬鹿なと士郎は口にせず思う。
 セイバーのせいでこうなったんだ。
 信じられなかった。
 自分の手で行う行為。
 性行為の代償。
 何度か凛の体を知ってからは、ほとんどした事のない行為。
 馴染みとなって、そんなに過程に新たな感動などはない。

 なのに、自分の手でしているのが信じられなかった。
 セイバーの視線。
 感嘆の声。
 降りかかる息。
 それだけで、まるで違う快感が起こる。

 ダメだと思う。
 これはダメだ。
 さっき勘違いとは言え、死ぬ気のやせ我慢をしたのに。
 それが脆くも崩れる。
 目の前の甘い水に我慢できなくなる。

「セイバー」
「はい、シロウ?」
「さっき、手伝うって言ったよね」
「どうすれば、いいのですか、シロウ?」

 待ちかねたような言葉、目の色。
 士郎は、生唾を飲み込んだ。

「俺はこうやって根本から続けるから、先端をさっきみたいにしてくれる?
 セイバーがそうしてくれたら、嬉しい」
「はい。それならば私も都合がよい」

 都合?
 妙な言い方を怪訝とするよりも、嬉々として寄せられる唇に注意が向かう。
 
「うンン…、シロウ……」

 亀頭が、可憐な唇に触れた。
 その柔らかさだけで、張り詰めたものが爆発しそうだった。
 それを耐えて、士郎は手を動かした。
 全然違っていた。
 手のしごく動きで先端が揺れ、それをセイバーの唇が受け止め、擦る事にな
る。
 鈴口からとろとろと洩れた先触れがセイバーを汚しているのがわかった。
 セイバーは嫌がらない。

「もっと、セイバー」

 頷くが、セイバーは指示を仰ぐようにそのまま。
 どうすればいいですかと目が語っている。

「舌で……」


(To Be Continued....)