余韻が冷めた後、士郎に残ったのは後悔だけだった。
先ほどまでの出来事が異常だっただけに、今は驚くほど思考が冷えている。
(俺は、馬鹿だ)
歯をぎり、と食いしばりながら、自分の行動を呪う。
(そもそもここに来なければ、こんな事にはならなかった。なのに――)
すぐに遠坂を探すのを諦め、この教会へと赴いた。
そしてキャスターに見つかって、先ほどの箱に閉じ込められた。
後は――馬鹿みたいに目の前の光景に興奮して、なす術も無くセイバーを汚
してしまった。
そして思い出されるのは、先ほどのセイバーの言葉。
"はっ―――シロウ、お願いです、どうか―――”
彼女が、確かに自分を求めてきた、その言葉。
"どうか―――貴方を、私にください――――”
「――――っ」
わかっている。
あの言葉は、純粋な言葉ではないと、わかっている。
だが、それに心動かされた俺は――――。
(もし俺に、力があったなら――)
今すぐキャスターを殺して、セイバーを助けられるのに――。
そう考えて、自分の冷めた部分が『無いものねだりは止めろ』と警告してく
る。
(……そうだ、今の俺にできることと言えば)
せいぜい、時間稼ぎくらいだろう。何処まで稼げるのかは知らないが。
そこまで考えたとき、元凶たるキャスターが士郎に話しかけてきた。
「……どう? セイバーに――元サーヴァントに奉仕される気持ちは?」
「…………」
質問には答えず、ただ睨み返す。
殺意を込めて、これが返事だ――そう告げるように。
「まあ、怖い。そんなに怒らなくてもいいでしょうに。
それとも、あんまり好みに合わなかったかしら?」
「――――黙れ」
一息で、相手の言葉を否定する。。
それが勘に触ったのか、キャスターの顔が不機嫌な顔に歪む。
「……随分な口を利いてくれるわね、坊や。
それとも何? 私に今すぐ殺して欲しいのかしら?」
「……ただでは殺されてやらない。
せいぜい足掻いて、お前に傷の一つでもつけて死んでやるさ。
それに、俺が死んでもまだ遠坂がいる。あいつは、絶対にお前を倒す」
情けない事だが、事実として手足は動かず、魔力でキャスターに敵うはずも
無い。
ならばせめて、精神面で抵抗してやる――そう士郎は考えていた。
「……ふふ、情けない格好で吠えるわね。
だけど、その出しっぱなしのモノくらいしまってから言って頂戴。
格好すらつかないわ」
と、視線を士郎の股間部に向けながら冷笑する。
「ぐっ……」
言い返そうにも、手でしまうことはできないし、自分でも情けない姿だと士
郎は思う。
対するキャスターも裸なのだが、威圧感は桁違いなうえに、
(くそ……反則だろ、それは――)
正直、健全な青少年には刺激が強すぎる格好なのだ。
普段のフード姿からは想像もつかないような、その姿。
睨み返して、憎まれ口でも叩いてなければ、対峙すら難しい。
それを知ってか知らずか、キャスターは士郎へと話しかける。
「昨日の一件で証明されたけれど、貴方は自分の身より他人を優先するのが好
きみたいね。
単純な興味で聞くけれど、どうしてそこまで他人に拘るのかしら?
……他人なんて所詮、自分の為に利用される駒みたいなものよ」
最後の一言に含まれた感情は、自嘲。
それに気付かずに、なおも言葉を続ける。
「一方を助ければ、一方は失われる。そんな話は珍しくもなんとも無い。
もし自分と他人を計りにかけたなら、天秤は必ず自分の方へを傾く。そうで
しょう?
他人を助け、自分も生き抜く――そんな理想、抱くだけ無意味よ」
「――――違う」
反射的な反論。
だが、その一点だけは譲れなかった。
十年前の『あの日』から、衛宮士郎を構成してきたその理想を。
否定されるわけには、いかないのだから。
「確かにそれは理想だ。それに、手が届かないことなんて……とうの昔に、知
っている。
だけど、それに向かって走り続ければ、届かなくても近づける。
誰も犠牲にせずに、全ての人を助ける。
例えその理想が偽善でも、矛盾していても――俺は、それを貫く。
それが俺の――衛宮士郎の、生き方なんだ。だから――」
否定だけは許さない、と。
憎しみではなく、決意を持って士郎は言った。
そして、それを聞いたキャスターの表情が消えた。
何処までも静かで、何処までも深く――悲しい、憎悪の色を内に秘めて。
「そう……それが貴方を支える理念、という事ね。
道理で、貴方の行動が理解できなかったわけだわ。いいえ、もはや理解しよ
うとも思わない。
坊や、貴方はそのまま魔杖に変えてあげようと思ったけれど、気が変わった
わ。
自分の理想の愚かさに気付き、全てに絶望した後で――永久に、私の道具と
して使ってあげる」
キャスターがゆっくりと士郎へと近づいていく。
「誰かを犠牲にしたくない? そんなのは、犠牲にしたことの無い者だけが言
えるただの戯言よ。
故に、その理想は破綻している。自身より他者が大事、誰もが幸せであって
欲しい――そんなもの、ただの御伽噺。空想の産物に過ぎない。
それでもなお、そんな夢を抱き続けるのであれば――」
キャスターの指が、士郎の額をポイントする。
「その理想と一緒に、溺死なさい。――アブシュルトスと、同じように」
キャスターが何かを呟いた瞬間。
士郎は、自分の身体に歪な電流が走った事を感じていた。
「ぐ……あ、ああ、あ……」
「貴方、魔術師のわりには魔術抵抗がほぼ皆無ね。
簡単に制御できるわ……立ちなさい、坊や」
その言葉に反応したのか、士郎の身体が動いた。
手足の縛めは既に無く、それならば――とキャスターに挑みかかろうとして、
既に自分の身体が、己の意思で動いていないことに気がついた。
「――――っ!?」
「驚いているようだけれど、貴方程度の魔術抵抗では、私の魔術は防げない。
あのセイバーすら、既に身体の制御は私の手の中にあるのだから。
――あの箱の中で、その様を眺めていたんでしょう?」
邪悪で、淫猥なその笑み。
まるで浅ましい自分を全て見透かされたような、そんな錯覚に士郎は陥った。
「ぐっ――――」
「ふふ、貴方も男だもの。それが普通の反応でしょうね。
……けれどそれで、よく他人を守るなんて事が言えたものだわ」
キャスターの口から漏れる、罵りの言葉。
その言葉に酔いしれるかのように、キャスターの興奮は高まっていく。
「あの光景を目にしてもなお、その理想が折れないのなら……」
そして士郎の目の前に屈み込む。
目の前にあるのは、先刻の行為の名残を残した、白く汚れた彼の分身。
「徹底的に、それを粉砕してあげる。
自らの身をもって、決して拭えぬ罪の煉獄へと堕ちなさい――エミヤシロウ」
細くしなやかな指が、士郎の分身を持ち上げる。
そしてそのまま――先端が、キャスターの口に含まれていった。
「なっ――にを、キャス、ター、お前、」
「んっ……じゅ、じゅる……ふ、む……っ」
士郎の問いを無視して、キャスターは肉棒に纏わりついている白い残滓を嚥
下する。
そしてそのまま、舌で丁寧に全体を舐め上げていく。
「ふっ……凄く、濃い味、ね……溜まっていたの、かしら? ふふ……ちゅ、
は…ん、ぁ……」
亀頭の部分でざらついた感触を感じながら、士郎は呻いていた。
ゆっくりと、まるでその部分から侵食されていくように、快感が広がってい
く。
「ふっ……奥に溜まってる、のも……んっ、吸い出して、あげる」
そして、急激に吸い取られる感覚。
キャスターが口で先端を覆い、吸い上げたためだ。
「くっ……ああっ、うあ……っ」
「じゅ、じゅる……んー……は、ぁ……ふふ、やっぱり、溜まってたみたい、
ね…んっ、ちゅ……」
吸い出した精液を飲み込み、また焦らすような愛撫を再開する。
先ほどのセイバーの口淫は、荒々しい獅子のようだった。
だがキャスターのこれは、例えるなら蜘蛛。ゆっくりと獲物を快楽という糸
に絡めながら、次第に身体と思考の自由を奪い去っていく。
「あら……もう、濡らしているの? 感じやすいのね……ちゅ、ちゅる、んっ、
じゅ、ん―――」
先端から漏れた腺液が、容赦なく飲み込まれていく。
そして、舌が尿道のあたりを舐めあげる。際限なく漏れてくる腺液を、全て
飲み込もうとするかのように。
更に、沈黙していた右手の指が上下に動き始めた。しっとりと吸い付く、冷
ややかな指が心地よい。
「あ……大きく、なってきた、わね……ん…ちゅ、く……ん、あ……」
右手で肉棒をしごきながら、舌は先端からカリ、裏側を刺激していく。
と、キャスターが顔を上げて、士郎を見た。
「服は邪魔になるから、脱いでしまいなさい。
ただし、あまり動かないようにして……私の邪魔に、ならないように」
士郎の身体はすぐに反応して、まず上着を脱ぎ始めた。
腰の位置をあまり動かさないように、慎重に脱いでいく。
その間も、キャスターの愛撫は止まらない。
「あ……また、びくって、震えて……どう? 感じるかしら? ふふ……ん、
むっ」
先ほどまでとは違う、もっと強い快感が士郎を襲った。
キャスターが、口いっぱいに先端を頬張っている。
「うあっ……キャ、キャス、ター……」
「ん、ちゅ……んふ、んっ、ん………」
前後する顔と、それに伴って襲ってくる快楽の波。
それを感じながら、士郎はズボンを下ろす。
固定されていたベルトがはずれ、肉棒の下に引っかかっていた下着も一緒に
下りる。
だがその体勢のままでは、ズボンは膝上までしか下りず、身体が動きを止め
た。
それに気付いたキャスターは、一度肉棒から口を離し、手でシャフトをしご
きながら新しく命じる。
「は……あ、先に、全て脱いでしまいなさい」
靴と靴下を脱ぎ、膝上に残っていたズボンも脱ぐ。
完全な裸体になった士郎をみて、キャスターが満足げに目を細めた。
「思っていたより……逞しい身体、ね……。
これなら、少しは愉しめるかしらね……ふふ、あ、む……」
胴部をしごきながら、再び口内に肉棒を導いていく。
と、空いていた左手が肉棒の下に伸びて、陰嚢を包み込んだ。
「そこ、は……うわ、ぁ……くっ……」
「ん、んっ……は、ここも弱いみたいだったけど……ちゅ、どうかしら……」
指が動き、袋を揉み上げていく。
やさしく、壊れ物を扱うようなその手つきは、じんわりと、しかし確かな快
感を伝えてくる。
更に右手の指に込められた力も徐々に強く、はっきりと快感を生み出すため
に動いていた。
「は、ん……じゅ、んっ、ちゅ、ちゅる……はぁ、凄くたくさん…溢れ、て…
…んっ、んっ、ん……」
舌が更に激しく動き、膨張した肉棒から溢れた透明な液をさらっていく。
暖かな口内はまるで性器のようで、奥へ奥へと吸い込まれる感覚が、更に快
楽となって脳を支配していく。
絶え間ない快楽と、粘ついた嚥下の音――。
そのひどく淫猥な雰囲気にさらされて、士郎の肉棒は限界にまでそそり立っ
ていた。
「じゅ、む、ん……ちゅ、は、あ……そろそろ、いいかしら、ね……」
口を離し、屹立した男根を眺めながら、キャスターが言った。
ふぅ、と息を吹きかけると、びくん、と士郎が反応する。
「ふふ……もう準備は万全みたいね。じゃあ……」
キャスターが後ろを振り向く。
その目線の先には、いつから気付いていたのか――じっとこちらを見つめて
いる、セイバーがいた。
見られていた、と思うのと同時に、羞恥で顔が赤くなる士郎。
そしてセイバーもまた、赤くした顔を即座に背けて沈黙する。
だが、次のキャスターのセリフで、士郎とセイバーは青ざめた。
「さあ、坊や――――思う存分、セイバーを犯しなさい。
貴方の手で、セイバーの処女を奪うのよ」
「なっ――――!?」
士郎の顔が、驚愕に歪む。
セイバーもまた、呆けた顔でキャスターを見つめ――耐えかねたように、後
ろへと後退った。
今のセイバーを突き動かしているのは、恐ろしいほどの恐怖。
十万の軍勢を目の前にしても、微動だにしなかった騎士王が。たった一人の
青年を前にして、怯えている。
いや、正確には青年に怯えているのでは無く、避け様のない未来を青年へ見、
それに恐怖しているのだ。
そして、青年がゆっくりと動く。
その様は、獲物を目の前にした肉食獣――いや、もはやただの獣の動きだ。
顔は苦痛に歪み、必死で自分の身体を押さえようとしているのがわかる。
その葛藤を目の前にして、魔女は笑う。
ひび割れた剣と、半ばから折れた剣。
その二つをぶつけ合って、粉々になる様を想像して。
「ふふ、ふふふふふ、あはははははははは!
さあ最後のご褒美よ、坊や。貴方の元サーヴァントの味を、とくと味わいな
さい。
守るべきものを、その手で蹂躙する喜び。それが、貴方の理想に対する私の
答えよ。
――セイバーも、初めての男が坊やなら文句無いでしょう? 一生生娘のま
ま、飼ってあげようと思ったけれど――せめてもの情け、せいぜい愉しむのね
……くく、あはは、あははははははは!」
狂った嘲笑が、聖堂へと響き渡る。
哀れな二匹の羊を串刺しにするかのように、その声は確かな呪いとなって二
人の心を縛り付けた。
清められた聖堂で行われる、魔女による集会。
悪魔との契約の印が、青年から少女へ、そして少女から青年へと刻まれるそ
の瞬間が、刻一刻と近づいていた。
「さあ坊や、セイバーに一生消えない傷をつけてあげなさい。
今後、何かの拍子で貴方を思い出したときに、胸を抉り苦い味が口の中に広
がるような、そんな素敵な記憶を植えつけてあげなさい。
セイバーも、坊やがもし今の瞬間を思い出したら、後悔で死にたくなるよう
な素敵な声をあげて頂戴。
貴女の苦痛も、無力感も、そして快楽すら呪いとなるように――」
魔女が呪いの言葉を放つ。
哀れな少女は、壁に後退する先を奪われ。
哀れな青年は、魔女によって身体の自由を奪われたまま。
狂ったサバトが、始まりを告げた――。
(To Be Continued....)
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