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「わぁ、ぴくんってしたよ」
「おまえな……」

 弾んだ羽居の声と、対照的なあたしの疲れたような声。
 さっきまでの落ち込んだ羽居は、すっかりいつもの羽居に戻っていた。

「だって、可愛いよ、ほら」
「さっきは気持ち悪いとかグロテスクとか何とか言ってたろ?」
「蒼ちゃんのは、可愛いの。わたしよりちっちゃいし」
「まあ、体格の差かな」

 ふぅと溜息。
 さっきから羽居にの指が触れていた――、わたしの男性器に。
 そんなに強くなく突つく程度だが、さっきまでは恐々としていた様子がすっ
かり慣れたものになり、今や楽しそうにすら見えた。
 また、つんつんと幹の血管が薄く見えるところを指が突ついた。

「でも、安心した。わたしだけじゃなくて……」

 感情のこもった声。
 その言葉には、わたしも同感だった。
 どれだけ、羽居の姿を見て安堵したかわからない。

 あれから互いにその異常な姿を見せ合い、そして状況確認を行った。
 ぺたんと二人でベッド壁に背を預けて、座り並んだ格好で。
 どうも向かい合うのが気恥ずかしかったから。
 そうして、ぼそぼそと語り合ったが、原因はわからなかった。

 かろうじてわかったのは、大まかな時間だけ。
 二人とも朝には何もまだ起こっていなかった。
 羽居はお昼までは気付く事は無く、先に帰ってきて着替えをしようとして、
頭が真っ白になったのだそうだ。
 あたしは最後のテストの前、トイレの中で異変に気がつき叫びそうになった。
 絶叫する驚きすら通り越していたので、言葉は口を出ず、ただ全身の力が抜
けてふにゃあと崩れた。
 その後、半ば夢に在るようにふらふらと教室へ向かい、逃避するようにテス
ト用紙を埋める作業に没頭した。そして全て終わってしまい否応無く現実に対
峙せざるをなくなり……。

「胸も薄いし女っぽくなくてどうも他の連中と嗜好も違うし、実はやっぱり男
だったんだなって、絶望的な気分で、でも納得しそうになったよ」
「ええっ? 蒼ちゃんは充分女の子してると思うけど。
 そんな事言ったら秋葉ちゃんなんか、もっと男の子にならないといけないよ」
「遠野?」
「うん。秋葉ちゃんも今頃慌てているのかなあ、こうなって」
「よせ、ああ、ダメだ。凄く似合う、それ」

 こんな時なのに、あいつの顔、そして遠野が生やしてしまった姿を脳裏に思
い描いてしまった。
 二人でくすくすと笑う。
 ああ、笑えるようになったか。
 堂々巡りの思考の檻にいたり、絶望感に押し潰されるよりずっといい。
 あたしも、羽居だって……、羽居?

「何をしている、羽居?」
「え?」

 いつの間にか、羽居の動きが変わっていた。
 指が増えている。
 ためらいがちに伸ばしていた人差し指だけでなく、全ての指が加わっていた。
 そして少々物珍しそうにしていた顔に、もっと強い面白がっている目の輝き
が明らかになっていた。
 
 突つくと言うより、触れて探るように這う指先。
 時に手の平全体で包む様にして、軽くペニスを握ってしまう。
 ちょっと触れられるだけでも、ぴくんとする刺激があったのだけど、こうな
ってくると、その単発でなく断続的な感覚は、看過し得ぬほどの強さとなった。
 端的に言うと、……快感だった。
 こんな、変てこな男のものを弄られているというのに……。

「あれ、言葉が無くなっちゃったね、蒼ちゃん」
「うん?」

 悪戯っぽく羽居が囁く。
 うるさい。
 声にすると、変な吐息が混じりそうなんだ。

「もしかして、感じちゃってるのかなあ」
「な、何を……」

 図星。
 でも、そんな事、認め、きゃうう。
 びくんと体が跳ねた。
 
 不意打ち。
 ペニスを弄っていた手と別に、羽居はいきなりその下の谷間に指を差し入れ
てきた。
 予期せぬ刺激に、抑えていた声が洩れた。

「ほら、こんなになってるよ」

 指を目の前に突きつけられる。
 羽居のほっそりとした指の先が濡れている。
 指を擦り合わせ、開くと、細く糸を引く。
 あたしの、恥ずかしい粘液の糸。

 ふふふと笑って、羽居はその汚れた指先をためらいなく口に含んだ。
 そしてしゃぶり始める。

「蒼ちゃんのエッチな味がするよ」

 かぁーっと顔が熱くなる。
 羽居は唾液に濡れた指を、ペニスのてらてらとした表面に塗りつけた。
 さっきの指とはまた違う感触。
 しかし、ふにゃふにゃとしていたさっきとは違い、軽く押されても跳ね返す
ほどの……、って、ええっ?

 何、これ?
 
「あ、蒼ちゃん、これって……」

 羽居も驚いた顔をしている。
 しかし、握った手を離さない。
 だから、その柔らかい感触がそのまま伝わり続ける。

 あたしから生えたペニスに。
 羽居の手で、大きく膨らんで硬くなってきたペニスに。

「うふふ、蒼ちゃん興奮してるんだ」
「違……、あふぅ」

 赤味が増した先っぽを突付かれ、くにくにと弄られた。
 思わず、身悶えしてしまう。

「だって蒼ちゃんの男の子、こんなになってるよ」

 必死に抑えようとする。
 でもそんなあたしの思いは、まったく反映されない。
 むしろ逆に、慌て羞恥を感じるほど、頭をもたげる様にそれは大きくなる。

「凄い……」

 そんなあたしに構わず、羽居は上半身を乗り出し、ほとんどあたしの腰に被
さるようにして、そこに心奪われている。
 羽居の手がゆっくりと幹を上下に摩っている。
 ゆるゆるとした手の動きで幹の皮膚がずれ動いて、なんとも言えないむず痒
さをつのらされる。

 まずい。
 何がどうまずいのかわからないが、このままではいけないという本能的な危
険を感じた。
 どうしよう。
 どうすればいい。
 焦りすら憶えたあたしの目が一点を捉えた。
 
 ふうん?
 あたしの体が自然に動く。
 上半身が捻られ、腕が伸ばされ、手がそれを求め動く。

「ひゃんん」

 羽居の悲鳴。
 あたしの手は、羽居のペニスをやんわりと握っていた。

「んん? どうした羽居?」
「やだ、蒼ちゃん。はぅぅぅふッッ」
「なんで、何もしてないのに、こんなにかちこちになってるんだ、羽居のここ」
「それは……、蒼ちゃんの弄ってたら、なんだか体が熱くなってきて、あんん」

 わかる気がする。
 羽居の嬌声といやいやをする顔を見ていたら、わたしの股間のものはもっと
反応を強くしていたから。
 なんだかずいぶんあっさりと大きくにるもんなんだな、これって。
 そして、いざ羽居の愛撫が無くなってみると、さっはまでの焦燥感と裏腹に
物足りなくなってきた。

「蒼ちゃん、なんだか切ないよぅ」
「うん、あたしも……。一緒にやろうか。あたしが羽居のを可愛がってあげる
から、羽居もあたしのを、さ」
「わかった、して」

 互いに相手のペニスを握りあった。
 男のものなんて触れるのは初めてなのに、羽居のだと思うとなんの嫌悪感も
感じなかった。
 さっき羽居がしていたように、指で先端を突付いてみたり、ゆっくりと握っ
た手を上下に擦ったりしてみる。

 互いに、自分がされた事を相手に返し始める。
 手の平をペニスの先端にかぶせて円を描くようにこすったり、指でくびれた
処を丹念になぞったり。
 羽居が首を左右に振り乱すと、今度はあたしが仰け反って呻く。
 あたしが気持ちよさに声を洩らした後、羽居が甘い悲鳴をあげる。

 そうしているうちに、ペニスの奥がじんわりと痺れむずむずとしてきた。
 未知の感覚。
 でも、それが何であるかわかる。
 知識としてのみ頭にある、生理現象の兆し…………、しゃ、射精。

「羽居……」
「蒼ちゃん」

 声が重なる。
 羽居も同じなのか、それだけでわかる。
 言葉によらず頷きあい、手を動かし続ける。
 お互いに限界が近いと悟り、そこへ到る為にこの短期間に体得した事を全て
吐き出していく。

「ッッああ、……んんんッッ」

 いきなり何だかわからない感覚の爆発が起こった。
 呆然とする。
 今の、いったい何?

 射精……、したんだよな、今。
 あたしのから……、出たんだよな?
 気持ち良かった……、のかな?

 残った残滓は明らかに快感だったけれど、あまりに急激に高まりそして弾け
たので、その全てを認識し切れなかった。
 
 ちょうど羽居は上から包むようにしていたので、べっとりと卵の白身にも似
た白く濁った液体が、掌全体に広がっている。
 羽居は、その自分の掌とペニスを、呆然として交互に見ていた。
 なんともむず痒く、そしてどきどきとなる。

 そうだ、羽居は?
 自分が射精したのとほぼ同時に、同時に羽居のペニスも弾けた筈。
 見ると、羽居のペニスはまだ大きいままで、でもその丸い先端はさっきとは
比べ物にならないほど濡れている。
 先っちょの穴から、糸を引いて光るものが滴っていた。

 羽居が出したのは……、と視線を動かすと、床と、何の事はないあたしの腕
や胸に飛び散っていた。
 指先に絡めると、少しねばねばとして付着する。

「変な匂い……」


                                      《つづく》