「志貴くん……房中術って知ってるかな?」
「ボウチュウ……ジュツ?」
朱鷺恵さんの言うのは、初めての言葉だった。俺が繰り返すと、朱鷺恵さん
は頷いて話を進める。
「気功の一種で、内丹法……陰陽和合により内功を練る方法。こう言っても分
からないよね」
「はぁ……」
「その……房中はベッドの中ということで、男の人と女の人がえっちをするこ
とで、気を練る……簡単に言うとそんな感じかな?」
朱鷺恵さんが説明するが、俺は今ひとつわからない。
その、房中術というのが今の俺と朱鷺恵さんにどう関係するのか……もしか
して、その、朱鷺恵さんは俺とセックスをすることで……
そんな馬鹿な、と思って笑おうとしたが、朱鷺恵さんは至って真面目だった。
「本当は男の人が女の人の力を吸い取って練って高める技なんだけども、私も
遠野くんもそこまで高い素養がない……けども、私の力を少しでも今の遠野く
んに移せば、しばらくは遠野くんの身体が良くなるかも知れない」
「そんな……そんなことが出来るの?」
朱鷺恵さんは靴を脱いで、同じベッドの上に登る。
膝立ちになった彼女は、こくんと頷いた。
「だって、志貴くんはいつも琥珀さんと……えっちで」
「ああ……いやでも、あれは共感の力……」
「父さんが言ってたわ。『共感』の力は内功の素養を無視して莫大な量の力を
移し替えられる技とも、見方を変えれば考えられるって。だから、志貴くんに
は力を受け入れる用意があるし、私にも……まだ初歩だけども、術の心得があ
るの」
朱鷺恵さんはぽかんとする俺の上に被さると、また顔を近づける。
微かに瞳が潤んでいて、紅潮する朱鷺恵さんの顔は綺麗で、伸ばせる物なら
腕を差し伸べて……
いや、ダメだ、俺には琥珀さんが……
「……だから、私が言うとおりに……してくれれば志貴くんも……」
「と、朱鷺恵さん、俺には……琥珀さんが……」
つい抵抗しようとして琥珀さんの名前を口にしてしまい、俺は顔を曇らせる。
朱鷺恵さんは無私の献身をしてくれているのに、一体どうしてそれを無駄に
するようなことを言うのか?でもこういうことをするのは琥珀さんだけで、他
の女の人とするのは浮気で琥珀さんを裏切ることで、でも朱鷺恵さんは俺の初
めての人だし……
わからない。
でも、朱鷺恵さんは千々に思い乱れる俺に、優しく笑いかけてくる。
「琥珀ちゃんの為でもあるの……もしこのまま志貴くんが内力を失い続けたら、
体が持たないかも知れない。そうなると琥珀ちゃんは一人になっちゃう……琥
珀ちゃんを幸せに出来るのは、志貴くんだけなんだよ?」
そう言って、朱鷺恵さんは俺の鼻頭をちょん、と指で押してくる。
琥珀さんを一人にしてしまう――それだけは、決して許されないことだった。
俺は朱鷺恵さんの言葉に、胸からこみ上げるものを感じる。。
「私のことは良いの。もし琥珀ちゃんに問いつめられたら、私に襲われたって
言って……悪いのは、こんな事を思いついた私だから。だから志貴くん……」
「そんな……コトは……言わない……」
「志貴くん……今だけは、私の言うとおりにして……お願い、志貴くんのため
に、琥珀ちゃんのために」
そう言う朱鷺恵さんの瞳は、涙を浮かべていた。
俺は――どうしてこんなに、痛々しいくらい俺のことを考えてくれるこの年
上の人に否と言えるのだろうか?
俺は震えながら頭を起こすと、頷いた。
「そう……ありがとう、志貴くん」
「朱鷺恵さんこそ、そんなに……俺のために……」
朱鷺恵さんは謝ろうとする俺の唇を、そっと塞いでくれた。
二人の舌が小さく唇で交わされると、朱鷺恵さんが身体を起こした。
「志貴くんは楽にしてて……私が志貴くんのを大きくして上げるから」
するすると朱鷺恵さんの身体は俺の上を下がっていく。そして、その指がベ
ルトのバックルを触れる感触が臍の上に走り、隠すでもない俺のベルトとズボ
ンは朱鷺恵さんの手によって、難なく緩められる。
今まさに病人そのものである俺は、朱鷺恵さんのするがままにされていた。
でも、膝までズボンを下ろされて、トランクスに朱鷺恵さんの指が懸かると
流石にかーっと頭がなるほどに恥ずかしい。でも、俺は口をつぐんで朱鷺恵
さんの邪魔をしないようにしよう。
ずるり、と俺のトランクスは下がっていって、逸物が朱鷺恵さんの目の前に。
うわ……琥珀さんじゃなくて朱鷺恵さんだと、この恥ずかしさが……
「……志貴くんの、昔より……大きくなってるね」
「あ……朱鷺恵さん……」
朱鷺恵さんは笑いを含みながら俺の股間のペニスを触る。
そして腰に朱鷺恵さんはかがみ込むと、指で支えた半固の俺の先端に顔を寄
せて――
にゅるん、と朱鷺恵さんの舌と唇が、俺のペニスの先を舐め、含んでくる。
「朱鷺恵さん、俺の汚い……」
「そんなことないわ、遠野くんの男の子の香りがする……ふふふ」
俺のペニスをくわえながら、朱鷺恵さんは妖しく笑って見せた。
朱鷺恵さんの唇は俺の肉棒を包むようにして含み、舌がぬらぬらと亀頭に当
たる。粘膜の熱い感触に俺の股間は奔騰する。
身体は碌に聞かないのに、股間だけは別の生き物みたいに元気だった。感覚
は鋭敏で、朱鷺恵さんの暖かい唇が這い回る様を過たず伝えてくる。
朱鷺恵さんの舌使いは琥珀さんのような絶対の技巧はないけども、その代わ
りにねっとりと優しく包み込むように……
俺が首を起こして身体を見ると、朱鷺恵さんが目を瞑って俺のペニスを舐め
ている。その口に俺の肉棒がそそり立ち、朱鷺恵さんの頭が動くたびに、ずず、
と熱い官能が走り抜ける。
これで、朱鷺恵さんはどうするのか……
「んー、志貴くんの、硬くて……これなら大丈夫かな?」
「うん、ああ……」
にゅっぽん、と俺の肉棒が朱鷺恵さんの口から抜かれて、宙を指して聳える。
朱鷺恵さんは片手に俺のペニスを摘み、もう片方の手を……よく分からない
けども、朱鷺恵さんの腰がベッドの上で上がっていて、白衣の裾が妖しく動い
ている。
もしかして、朱鷺恵さんも……俺のをフェラチオしながら、自分であそこを……
そう思うと、かーっと俺の中を興奮の熱い流れが走る。どくんとペニスに新
しい血が流れ込み、よりいっそう奮い立つ。
「ね……志貴くん、ここが……わかるかな?」
「?」
朱鷺恵さんは手を股間から離して、俺の臍の下の辺りをそっと触る。
「……ここ?」
「そう……臍下丹田。私とするときには、ここに集中して……」
セイカタンデン、というのは聞いたことがある。気合いを入れるときとかは
ここに力を貯めると言うけども、それがこの房中術に々関係があるのか……
「分かった……その、朱鷺恵さんもも……いいの?」
「私?うん、大丈夫……」
ごそごそと朱鷺恵さんは腰に手を回して、白衣の下で……下着を脱いでいる
のだろうか?
口で俺のペニスの軸をくわえながら、朱鷺恵さんは甘い吐息を漏らして腰を
動かしている。脚を動かして何かを脱いでいたかと思うと、俺の視線に気が付
いたらしい。
「ふふふ……志貴くんにもして貰いたかったけど、今日はちょっと違うから……」
「ごめん、その、俺がこんな風で……」
「でも、その代わり志貴くんとこんな事が出来るんだから……また」
朱鷺恵さんはそっと呟くと、身体を起こす。
そこには……白衣をまだ腕を通したまま、胸元をはだけ、タイトスカートを
腰ほどに上げた朱鷺恵さんの身体が……俺の目に映った。スカートの裾が上がっ
ていて、白い白衣の裏地の中に、朱鷺恵さんの茂った陰毛の丘が……
喉の奥が詰まるような、興奮。俺は浅くなった息をしきりに繰り返す。
「じゃぁ……私は大丈夫だから……志貴くんのを挿れるね」
「あ……朱鷺恵さん……」
朱鷺恵さんは俺の身体を跨ぐと、腰を俺のペニスの上に合わせる。
俺が朱鷺恵さんに前戯をできないので凄く気ぜわしい様な気がするけども、
朱鷺恵さんが腰を下ろすのを感じていた。軽く片手で俺のペニスに手を添え
ると、亀頭にシャリ、と陰毛が触り、続いて朱鷺恵さんのあそこが……
まだ十分に湿っていないけども、暖かい粘膜の感触。
朱鷺恵さんは俺のものを腰の奥にある、膣口に宛っていた。そして俺のお腹
に腕を置いて、体重を掛けて自分の身体を貫くように、腰を下ろす。
ずぬり、と俺の先に朱鷺恵さんの身体を感じる。それは俺の亀頭を締め付け
るように……その中の肉は、湿って俺のペニスを包み込む。
「うん……ぁぁ……志貴くんのが……入ってくる……」
「ぁあ……おお……朱鷺恵さん……」
朱鷺恵さんは俺の腰の上に、自分を貫かせて腰を下ろしていた。
まだ十分に濡れていなかったせいか、少し辛そうな顔をしている。だがそれ
が余計に艶めかしく、俺を興奮させる。
朱鷺恵さんはもぞりと腰を動かすと、目を瞑って深呼吸をしていた。そして、
俺のお腹の上で手を動かすと、手をさっきの丹田の上に置く。
「志貴くん……目を閉じて、丹田の感覚を確かめて……」
俺は言われたとおり、目を閉じる。
俺の腰の上に朱鷺恵さんが乗っかっている体重を感じていて、その中に俺の
肉棒が朱鷺恵さんの体の中できゅうと締め付けられる感覚がある。そして、朱
鷺恵さんが手を当てている俺のお腹。
肌に触る朱鷺恵さんの手の平の下に……暖かい何かの固まりが、あった。ま
るで朱鷺恵さんの体温が俺の体の中に染みて、わだかまっているみたいな。
「……朱鷺恵さん、あった。固まりみたいなものが……」
「じゃぁ……その固まりを、お尻に動かして……そのまま背筋を使って首まで……」
《つづく》
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