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 朱鷺恵さんの腰が動き始め、俺の上でグラインドをし始める。
 ペニスのもたらす擦過の快感に惑いそうになるけども、俺はなんとかその固
まりを動かそうとする。手を伸ばして動かせる訳ではないからもどかしいが、
腹の底で息をするようにすると、だんだん固まりが落ちていくのが分かる。

 はぁはぁ、と朱鷺恵さんの喘ぎが漏れる。マットレスのスプリングが軋む音
がする。
 朱鷺恵さんが腰を動かし、俺のペニスの先からも何かが漏れ込んでくる様な
感じがあった。俺の仲の固まりが徐々にではあるけども、確実に尾てい骨から
脊髄を上がってくる。
 
 今までに感じたことのない不思議な感じだった。
 琥珀さんの力はまるで波のように身体に満ちるけども、朱鷺恵さんの力は渓
流みたいに細く、だけども確実に俺の中を流れ始めていて……

「朱鷺恵さん……だんだん上に……」
「そのまま……頭の上までいったら……今度は喉に戻して……」

 ずるずると体の中を熱い固まりが進む感覚は異質で、俺は恐怖すら恐れる。
 だけども朱鷺恵さんは俺のペニスを受け入れたまま腰を振っていて、このま
まだと……堪らずに朱鷺恵さんの中に出してしまいそうだった。
 俺は軽く首を振って、なんとか首の後ろを進む熱気に集中しようとする。

「あ……志貴くんのがびくんって……出したいの?」

 朱鷺恵さんが俺の様子に気が付いたようだった。熱気のせいで声が出ない俺
の様子を知ったのか、朱鷺恵さんは――

「うぁ!」

 俺の会陰を、朱鷺恵さんの指がぐい、と押さえた。
 突き立てるように、ペニスと肛門の間の肉を恥骨に押し込むように。
 その強い感覚に思わず俺の喉から声が漏れた。

「こうすると……出せないから。出しちゃダメよ、志貴くん……」
「うん……ぁ、はー、はー、はー」

 朱鷺恵さんとえっちをしても射精してはダメ。これは厳しい。
 でも、あそこを押さえられると出したくても出せない。それなのに朱鷺恵さ
んは確実な腰のグラインドを止めなかった。俺は朱鷺恵さんの言葉通り、出さ
ないように腹式呼吸をして耐える。

 熱く、気持ちいいけども、苦しいセックスだった。
 ここまでしなければいけないのか……これは厳しいけども、朱鷺恵さんは俺
のために……

 熱気は俺の眉間を下って喉に至る。顔の上にこんなモノが走る感覚は不気味
でもあったが。今ここで止めるととんでも無いことが起こりそうだった。
 このまま俺は熱気を顔から追い払おうと、喉から胸へと下げていく。

「そう……はっ、はっ……そのまま胸の真ん中へ、そしてお腹へ……丹田に戻
して……」
「うっ、はー、はー、はー……」

 朱鷺恵さんの切ない声と、俺の息が不思議に合う。
 ペニスの感覚は鋭敏になって、今にも朱鷺恵さんの中で迸ってしまいそうだっ
た。俺が呼吸する度にお尻がぎゅっと締まって、朱鷺恵さんの体の中で蠢く。
 朱鷺恵さんの体の中から、暖かい流れが俺のペニス越しに伝わってくる。

 熱気は鳩尾を下って、お腹の上をゆるゆると進む。
 そして、この熱気のあった、臍の下の丹田に進んでいくと……

「もう……すぐ……戻りそう……」
「そう……ふぁっ、はっ、はぁ……私も……もう……志貴くんのが気持ちよくて……」

 朱鷺恵さんは俺の会陰を押さえたまま、ぐんと背筋を伸ばしたようだった。
 俺のペニスは朱鷺恵さんの中を一際深くえぐって、奥の子宮口に当たる。
 そこはひくひくと震えていて、ここに思いっきり出せたらどれだけ気持ちい
いか……

 俺の熱気は、丹田にたどり着いて溶け合う。俺の体の中を、腰から背中、天
頂から胸に至る力の流れが出来る。そしてその源は朱鷺恵さんの体の中から……

 何故こんな風になるのかが分からない。
 でも、俺も朱鷺恵さんも、填り合った性器のもたらす官能には……

「いっ、いっちゃう……志貴くん、志貴くぅん!」
「は……はぁ……ははぁぁぁ!」

 俺は初めて……射精できない絶頂を体験していた。
 朱鷺恵さんは俺の身体の上で胸を突き出すようにして身体を突っ張らせて、
そのまま……オルガイズムに震えている。

 二人とも頂点に達して、俺の中の力の道に流れ続ける力は……俺の中に溜まっ
ていって……

「はぁ……ふうん……はぁぁ……」
「うぁ……朱鷺恵さん……」

 朱鷺恵さんが、ふらりと俺の身体の上に倒れ込んだ。
 胸に汗と香水の混じった、朱鷺恵さんの香りを感じる。朱鷺恵さんは俺の身
体の上に身体を伏せながら、目を閉じて快感の余韻に浸っていた。

「志貴くん……息をゆっくりと、落ち着けていって……」

 俺は朱鷺恵さんの言葉を聞きながら、呼吸を深く、ゆっくり取る。
 力の流れを乱すと、体の中から火傷をしてしまいそうな気がしていた。だか
ら、その流れをガスの火を絞るように、呼吸に合わせてゆっくりと絞ろうとしていく。
 流れ込む力を臍の下に溜め込むように、徐々に、確実に……俺の体の中に……

 俺は腕を伸ばすと、朱鷺恵さんの身体を抱いた。
 あ……動かなかった筈の腕が、いつの間にか動くように……

「朱鷺恵さん……大丈夫?」
「志貴くんこそ……このまましばらく、無理しないで……」

 朱鷺恵さんが膝を立てて腰を浮かすと、にゅぽん、と朱鷺恵さんの中から俺
のペニスが抜ける。射精できなかったペニスはまだ熱く硬いが、だんだん俺の
中の高ぶりが収まってくると、先に透明な先走りの汁を漏らしながらも縮んで
きて……

 両手で朱鷺恵さんを俺は抱きしめる。
 朱鷺恵さんは目を閉じて、俺の胸の上で静かに息をしていた。

「朱鷺恵さん……御免……疲れてるみたい……」
「志貴くん……身体、動くようになったんだ……成功かな?」

 俺は朱鷺恵さんの背中の上で、抱いた手を握ったり離したりしてみる。
 琥珀さんのセックスのときほどに圧倒的な回復は憶えないけども、ここに運
ばれた頃よりはだいぶまともになっていた。頭痛も微かになっていて、もう少
し落ち着けば立ち上がれるかも知れない。

 でも、俺は……朱鷺恵さんを抱きしめながら、言いようのない悲しみを憶え
ていた。
 朱鷺恵さんはまるで、俺を回復させる道具のように、俺に抱かれた……その
ことが哀しいし、それの力を受けてしまった自分が憤ろしい。
 それに、こんなに自分を想ってくれたこの初めての人に、返すことが何もで
きない……

「朱鷺恵さん……すまない、俺のために……無理をして……」

 いつの間に俺は泣いていたんだろう?
 わからない。

 俺は息を鎮めていきながら、朱鷺恵さんを抱きしめ続けた。
 朱鷺恵さんは俺の胸に顔を宛って、しばらくで横たわっていた。二人ともベッ
ドの上で、情事の後の疲れに酔っている。

 身体を起こすと、背筋に力が何とか入るようになっていた。
 俺は朱鷺恵さんの身体を抱いて優しくベッドの上に横たえ、その上に被さる。
 腕は体重を掛けると震えるけども、俺の身体をなんとか支えている。

 汗を掻き、とろけた瞳の朱鷺恵さんは俺の顔をぼーっと見上げた。
 疲れているんだろうか?先ほどの溌剌とした感じが無い……無理もない、俺
の身体をここまで回復させる替わりに、朱鷺恵さんが消耗したと考えれば……

 俺は、そんな朱鷺恵さんを見つめる。

「……どうしたの?志貴くん」
「朱鷺恵さん……続き、しない?」

 え?と首を傾げる朱鷺恵さんに、俺は語りかける。
 こんな……こんなセックスはよくない。朱鷺恵さんともっと触れ合っていたい――

「朱鷺恵さんとエッチをしたけども……あんなのじゃなくて、昔みたいに……
もう一度」
「……ふふ、志貴くん、ダメよ」

 朱鷺恵さんは寂しげに笑うと、そっと俺の頬に手を添える。
 朱鷺恵さんの指は冷たく、俺の涙がその細い指を濡らした。
 俺が泣いているのがおかしいのか、朱鷺恵さんはまるで――子供を諭す母親
のような慈悲に満ちた顔で、俺の見上げる。

「あの頃は私も志貴くんも自由だったけど、今の志貴くんには琥珀ちゃんがいるわ」
「あ……」
「そういうエッチは私じゃなくて、琥珀ちゃんにしてあげて……」

 朱鷺恵さんは体を起こして、俺の顔に唇を――
 俺の額に、そっと朱鷺恵さんの唇が触れた。

「朱鷺恵、さん……」

 朱鷺恵さんは俺の額にキスすると、するり、と俺の身体の下から抜けだした。

 朱鷺恵さんを逃してしまった俺は、心の中で独語する。
 俺には琥珀さんがいる。でも、朱鷺恵さんとこんな事をしてしまった。この
俺の胸の中にある悲しみは何なんだろう、無償の献身をしてくれた朱鷺恵さん
への憐憫なのかなのかなのか、琥珀さんへの裏切りの自責なのか。それともた
だ人肌恋しいだけの俺の卑しい欲情なのか。

 わからない。

 朱鷺恵さんはベッドに腰を下ろすと、手を伸ばしてベッドの脇のティッシュ
を俺に渡してくる。

「はい、志貴くん。もうすぐお昼休みだから……」
「う、うん……わかった」

 俺は知らず、朱鷺恵さんに背中を向けて情交の後始末を始める。二人ともご
そごそと拭い、服を探して付け、寄った皺を治したりしている。ただ、振り返っ
て俺はなんと言ったらいいのか分からない。
 わからない。
 だが、このまま保健室を出てはいけないような気がした。なにか、この胸の
中に踏ん切りを付けないと、俺は朱鷺恵さんにも琥珀さんにも会えない。

「私が、何でこの保険医の仕事を受けたのか、志貴くんには分かるかな?」

 パンプスのコツコツ、と言う音を立てる朱鷺恵さんが聞いてきた。
 俺は朱鷺恵さんに背中を向けたまま、その問いに耳をそばだてる。
 答えは……俺に会いに来るためではないだろう、それは自意識過剰だ。

「……残念ながら」
「ふふふ、この学校の保険医になれば、診療所にいるよりも男の子達と素敵な
出逢いが出来るだろだろうって、他愛もないことを考えてね……でも」

 俺は、意を決して朱鷺恵さんに振り返った。
 朱鷺恵さんは、手を背中に組んで白衣を翻して俺を見つめていた。
 
「良かったと思ってる。もう一度、こうやって志貴くんに会えたから」
「……こんな俺でも?」
「志貴くんは志貴くん、変わってないよ……でも、あの頃の志貴くんと違うの
は、心の中には琥珀ちゃんがいるんだなぁ、って。だから、今日のこともあの
日のことと一緒に、私と志貴くんの思い出にして」

 朱鷺恵さんは、俺に微笑み掛けた。

「チャイムが鳴って昼休みになったら、志貴くんはこう言って?」
「……どんな風に?」
「ありがとう、って……それで、保健室から……そう言ってくれれば、私も……」

 朱鷺恵さんの声が、微かに震えた。
 俺もベッドから降りて、朱鷺恵さんに向かい合う。

 二人の間に沈黙が流れた。

 俺は、これが……朱鷺恵さんのケジメの付け方だと感じていた。彼女も強く
はないから、こうやってケジメを付けないと俺との関係に溺れてしまいかねな
いと。
 いや、それは俺も同じだった。俺も琥珀さんの為にも、朱鷺恵さんとのケジ
メを付けないと……俺のためにも、琥珀さんのためにも、朱鷺恵さんのために
ならない。

 だから……


 ……キーンコーンカーンコーン


 チャイムが校舎に響き渡ると、俺は精一杯の笑顔を作って。
 朱鷺恵さんも、笑ってくれて。

「……ありがとう」
「うん、志貴くん。じゃぁ、お大事に……」

 俺と朱鷺恵さんの道は、奇しくも二度交わった。
 でも、二人はまた別の道を行く。
 もう寂しくはなかった。もう哀しくはなかった。

 最後に俺と朱鷺恵さんは握手をすると……俺は戸を押して廊下に踏み出した。
 この人がずっと笑ってくれると祈りながら……

                                 《fin》


《あとがき》 

 どうも、阿羅本です。今回のSSですが、皆様お楽しみ頂けましたでしょうか……



 ……すいませんすいませんすいません、朱鷺恵さんファンの皆さんごめんさいー、
こんな愛のないセクースの話になってしまった、と言うかなにをムキになって房中
術の解説しているんやぁぁぁ!というか、もう、ごめんなさい許して下さい(笑)

 結局アレか、朱鷺恵さんを出しにして琥珀さんラブラブの話書いているじゃん
俺、とか何か途中で絶望的な思いに駆られましたが、その、なんというか、かわいい
んだけどなぁ朱鷺恵さん、でも今回はその可愛さもなんかの不発というか……
海よも深く反省。

 古守さんの朱鷺恵さんSSにくらべるともー、ダメダメっす、愛がないっす、
そこに愛があるのか!立体忍者活劇乞うご期待!などと錯乱して叫び始める
程に……ぁぁぁうううううう、でも皆様の感想もお聞かせ願えればありがたいです〜

 ちなみに文中の房中術ですが、いい加減というか要約しすぎというか、こんな
ことしてもふつーはうまくいきません、というか受け側の志貴に内功の素養がないと
外丹法とはいえ房中術は……まぁ、お話の愉快なフレーバーとして(笑)

 それでは、これからは愛のないセクースはかかないぞー、と心に誓いながら
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいー、と(笑)

 でわでわ!!