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 唐突にアルクェイドの唇が志貴を急襲した。
 柔らかい唇の感触、舌がすかさず志貴の口を割って口内へと侵攻する。
 舌自体が唾液にまみれていたが、それに続いてとろりとアルクェイドの口内
から流し込まれる。
 普段の情交でもよく交わされる情熱的な口づけ。

 しかし、志貴は慌てて離れようとする。
 だが、唇は固く合わされたまま。
 アルクェイドが志貴の後頭部をしっかりと押さえていた。
 逃れられず受け入れるしかなかった。

 アルクェイドの口から注がれる甘い唾液を。
 志貴の放ったものが濃厚に混じり白く濁っているであろう唾液を。
 半ば無理矢理に注ぎ込まれる。
 アルクェイド自身の分泌した唾液と混じって薄まってはいるが、それでもな
お青臭い匂いが口に広がる。
 
 ようやくアルクェイドの唇が志貴のそれから離れた。
 粘りのある唾液の糸が別れを惜しむようにつうっと二人を結び、それ自身の
重さで下に落ちて消えていく。

「吐き出したらダメよ、志貴」
 
 静かな声が志貴の動きを止める。
 まさに志貴は口を開き、口の中のそれを吐き出そうとしていた。

「わたしは、それを喜んで呑んでいるのよ。それを志貴は嫌だって言うわけ?」
「自分のだぞ、全然違うだろ」

 そう叫びたかったが、志貴の口はアルクェイドの注いだ精液混じりの唾液と、
自分の内から分泌される唾液とで、口を開くだけでこぼれそうだった。

「呑みなさい」

 冷たいと言ってもよい口調。
 救いを求めるような表情を浮かべる志貴に、まったく斟酌しない態度。
 いつの間にかアルクェイドが変わっていた。
 怖いアルクェイドに。 
 そしてアルクェイドのまとった雰囲気の強さが、志貴の反抗心を萎えさせる。
 自分の出した精液を?
 
「自分のは嫌なの? 志貴のとわたしのが混ざったペニスの後始末を舌で私は
しているけど、それはどうなの。それに志貴はわたしのを弄って、こんなに濡
らしてとか言って目の前にかざした後で口で舐め取らせたりするの好きだよね、
あれとも違うの?
 わざわざ薄めてあげたんだよ、それでも嫌だと言うの?」

 例え口にして抗議したとしても、そんな反論を受けそうだった。
 アルクェイドの志貴を見る目が少し細くなる。
 きつくなるアルクェイドの視線に耐えがたくなり、志貴は呑み下した。
 喉を下る時の感触に顔が顰められる。
 口の中の残り香を消す為に、志貴は唾液を分泌させては呑み込んだ。

「よく出来ました」

 一転してアルクェイドはにっこりとする。
 さっきとは別人のように。

「次はね……、今ね、志貴に分けちゃったから、実を言うと物足りないんだ」

 今の行為を経てなお、屹立したままのペニスを喜色を浮かべてアルクェイド
は見つめている。
 志貴の股間に顔を埋めるようにして、四つん這いになっる。
 さっきの名残りで亀頭はてらてらとしている。

 ためらいなく嬉しそうにアルクェイドは口に含む。
 温かい柔らかい感触。
 圧倒的な快感が押し寄せる。
 まださっきの余韻で敏感になっているペニスには、むしろ苦痛なほど。
 志貴は逃れたいと言うように腰を捩る。

「アルクェイド、もっと優しく……」

 しかしアルクェイドは志貴の言葉を聞いているのかいないのか、動きを緩め
ようとはしない。
 志貴は歯を噛み締めて耐えるしかなかった。
 しばらくそうしていてようやく体が順応した。
 受ける性感の波を味わう余裕が生まれる。
 そして気がつく。

 いつもよりなんだかアルクェイド、下手だな……。
 そんな感想が志貴の頭に浮かぶ。
 もちろん大きな快感はあるのだが、それは結果として生じているだけであっ
て、より積極的に志貴のそれを高めようとしている訳では無いように思える。
 アルクェイドが自分の為に、その行為を楽しんでいるだけ。
 そんな一方的な動きのようにも思える。

 それにさっきからやたらと歯が。
 その度に少し醒める。
 唇で挟む動作の時にも歯で軽く噛まれている。
 それは痛みもさる事ながら、恐怖すら感じさせた。
 傷つけられるどころか、食いちぎられるのではないかという恐怖。
 そんな真似をしてもおかしくない雰囲気を、今日のアルクェイドは纏ってい
る。
 まただ。
 甘噛みと言うには強すぎる痛みに志貴は顔を顰める。

「痛っ」

 思わず声に出る。
 アルクェイドが視線を上げる。
 笑っている。
 その表情を見て志貴は悟った。
 意図的なものだと。
 
 すうっと背筋に冷たいものが走る。
 さっきとは違った意味で、急所を握られてアルクェイドに行動を支配されて
いる。
 さっきからアルクェイドはちょっと変だ。
 普段のアルクェイドとは明らかに違う。
 血が出るような真似は絶対にしないだろうけど、でも……。
 先回りした痛覚を覚える。
 アルクェイドの笑みが意味ありげに見える。

 怖い。
 なのに、何故。
 こんなに興奮しているんだ?

 衰え萎んでもよさそうなものだが、よりペニスは力強くなっている。
 もうすぐにでも射精可能な程に高まっている。
 いつもなら、そのままためらいなくアルクェイドの口の中で弾けさせている。

 だが、今日は?

 今のアルクェイドがそんな口内発射を許すだろうか。
 いや、さっきのじゃ足りないと言って自分からしゃぶり始めたんだから、怒
りはしないだろうけど。
 でも、さっきみたいに口の中に出した精液を口移しで注がれたら。
 それは嫌だ。
 さっきの何ともいえない感触はまだ残っている。

「志貴」
「ん?」

 アルクェイドが口からペニスを出し、話し掛けてきた。
 その間も、指が鈴口の上におかれ、ぐりぐりと刺激している。

「出してよ、呑みたい」
「……」
「今度はわたしが呑みたいの。それとも嫌だと言うつもり?」

 慌てて志貴は頭を振る。
 アルクェイドはよろしいと頷くと、口戯を再開する。
 
 ためらいつつも志貴は肉体の欲求に従った。
 さっきまでの一本調子で激しいだけのアルクェイドの口戯が、変化していた。
 いつものように志貴を絶頂に導く為の、勘を得た動きに変わっている。

 根本から袋の方まで伸びるアルクェイドの指。
 縦横無尽に亀頭の表面を、裏の筋を、鈴口の奥をちろちろと這い回るアルク
ェイドの舌。
 幹を、亀頭とのくびれを往復し締め付けるアルクェイドの唇。
 そして、歯が、頬の内肉が、口蓋が、信じられないほどの快感を引き出して
いく。

「っっ、出るよ、アルクェイド」

 いつもなら、アルクェイドの頭を手で押さえて、アルクェイドが苦しくない
程度に、より深く喉までペニスを突き入れるところだ。
 しかし手が使えず転がった状態では、せいぜい腰を突き出す事しか出来ない。
 それでも志貴の最後を悟ったのか、アルクェイドの駄目押しが来る。
 口をすぼめ、強く志貴を吸う。
 唇がぎゅっと締め付ける。
 そして、歯がはちきれそうな亀頭に食い込む。

「うわぁぁっ」

 その苦痛で志貴は果てた。
 びゅくびゅくとさっきと変わらないほど多量に放つ。
 その瞬間にアルクェイドに強く吸われる。
 アルクェイドはその迸りを全て口で受け止め、呑み込んでいく。
 気持ちいい……。

「いっぱい出た……。凄かったよ、志貴」

 満足そうな声のアルクェイド。
 志貴は疲労困憊してベッドに顔を埋めている。
 自分のペースで事を進めない事がこれほど疲れるとは思わなかった。
 それに全て出し切ってしまったような消耗感。
 アルクェイドも満足したようだし、少し休みたかった。
 いい加減腕の手錠も外して欲しい。

「さてと……。私ばかり楽しんじゃったから、今度は志貴の事楽しませてあげ
ないといけないよね」

 顔を上げる。
 アルクェイドは笑顔。
 だが、志貴は怖いものを感じる。
 何か違う。
 このアルクェイドはいつも自分が知っているアルクェイドとは違う。
 外観は特に変化が無いのに、まるで別人のように……。

「いや、いい。もう充分に堪能した」
「そんな事ないよ。いつもの志貴なら、私が悲鳴上げてても何回もしないと収
まらないじゃない。いいんだよ、遠慮しなくて」
「……」

 志貴は蒼褪めた。
 始めに言われた「志貴の事、苛めてあげる」ってそういう事か。
 要はアルクェイドの思うが侭に体を弄ぶと言う事。
 手で、口で絶頂を迎えさせられ、今度は何だ。

「待て、アルクェイド」
「うるさいわよ、志貴」

 息を呑む。
 スイッチが切替ったようにアルクェイドの表情と雰囲気が異なっている。
 さきほどの目に見えぬ異常ではなく、外にまで変異が感じられる。
 不敵な笑み、冷たさを含んだ志貴を見るその瞳の色。

 どくん、と心臓が鼓動を打つ。
 プレッシャー。
 今、目の前にいるのはいつものぽやっとしたアルクェイドではない。
 いや、最近の人畜無害に思えるアルクェイドがおかしいのであって、そもそ
もは……。
 そうだ、目の前にいるアルクェイドは、ネロ・カオスに対峙したり、シエル
先輩と本当の殺気を叩き付け合っていた時のアルクェイド……。

「嫌だとでも言うのかしら?」
「……」

 口を開いても言葉が出ない。
 体を動かす事も出来ない。
 魔眼で体を縛られた訳では無い。
 単純に圧倒的に威圧されているだけの事。
 蛇に睨まれた蛙はこんな感じだろうか。

 志貴が身動き取れなくなっていると、ふっと、プレッシャーが消え失せた。
 優しいと言っていいほどの表情で、アルクェイドはにこにことした笑みを湛
えていた。

「志貴は遠慮してるだけだよね。だって、こんなに体は正直だもの」

 なんて事。
 志貴は自分の体を疑った。
 なんでこんな、進退窮まるほどの重圧感に耐えていたその時に、こんな……、
痛いほどに勃起しているんだ?

「うん、じゃあ始めるよ」
 
 動揺している志貴に構わず、アルクェイドは体を滑らせ志貴の隣に横たわる。
 ぎゅっと志貴の体が抱き締められる。
 布越しでも柔らかく大きなアルクェイドの胸の感触が感じられる。
 志貴の胸に押し当てられたわみ、そして押し返す魅惑的な感触。
 その柔らかく重みのある感触がむにゅむにゅと志貴の胸から腹の方へと下が
っていく。
 志貴の胸にはアルクェイドの顔が当たる。

「あっ、くぅぅ」

 異様な感触。
 志貴が視線を下げると、アルクェイドが乳首に吸い付いていた。
 痛みはない。快感というのとも違う。どこか痒みにも似た痺れるような感覚。
 
「ああっ」

 今度は少し痛いくらいに甘噛みされた。
 悲鳴を洩らしかけるが、必死で抑える。
 アルクェイドの行為に異を唱える真似をしてはいけない。
 そんな恐怖にも似た感覚が頭にある。
 舌でちろちろと乳首を舐められ、空いている方も指で転がされる。
 じんわりと異種の感覚が目覚める。
 認めたくないが快感に近い。
 必死に悲鳴と、そして喘ぎ声を押し殺す。

 ひとしきり志貴の乳首を堪能すると、唇を押し付けたままアルクェイドは下
へと移動を始めた。
 脇腹をぬめぬめと唾液の糸を引きながら通過し、腰へ、そして太股の付け根
近くまで進んで、止まる。

「志貴、膝立てて、そうそう」

 アルクェイドに体を引っくり返され、腰を支えられる。
 志貴は、言われた通りに膝を立てる。
 四つん這いに近いが、両腕は後ろに回っている。
 顔と肩とで上半身を支える姿になっていた。

「丸見えよ、志貴」

 かあっと志貴の頬が紅く染まる。
 普段は見せない、排泄器官をアルクェイドの目に晒している。
 自分がこんな格好をさせられるとこれほど恥ずかしいものなのか。

「え?」

 異種の未知の感覚。
 とっさに何が起こったのか志貴にはわからない。
 何か濡れたものが、当てられている。肛門に、何だ、これ?
 志貴の頭が消化し切れない感覚に戸惑う。
 
 くぐもったアルクェイドの声。
 息が当たる。
 そしてお尻に当たる柔らかい感触と、両足を掴むアルクェイドの手。
 わかった。
 舐められている。
 アルクェイドにこんな、こんな不浄の場所を。
 舐められている。舐められているよ。

「やめろ、アルクェイド、なに考えているんだよ」

 もちろん今まで志貴は、そこまでアルクェイドに望んだ事は無い。
 アルクェイドにしてもそんな真似を今までした事は無い。
 志貴からは受けている行為だから、それも数多い愛撫の手段の一つと、アル
クェイドは承知してはいるのだろうが。

 志貴のやめろと叫ぶ言葉に、アルクェイドの舌は止まらない。
 皺の一つ一つをなぞる様に動く。
 周辺に動き、蟻の門渡りから、硬く隆起している志貴の根元を舐めまわす。
 穴の淵で蠢かし、振動を内奥に伝わらせる。

「汚いだろう、やめろよ」
「汚くなんてないわよ、志貴のだもの。それよりどう? 普段わたしはこんな
感じなんだけど、お気に召したかな?」
「……」
「うーん、志貴の顔が見えないなあ」

 志貴の腰を掴み、アルクェイドは無造作に体勢を変えた。
 仰向けで体を丸めた姿勢。志貴の目の前に股間が位置している。
 さらにその上からアルクェイドが覗き込んでいる。

「ふうん、志貴、可愛い顔してる。
 こんな格好させられて感じてるんじゃ恥ずかしいよね」

 志貴の顔近くでぶらぶらと直立したペニスが揺れている。
 つんと、アルクェイドがそれを突付く。
 そしてその手を志貴の方へ伸ばす。
 人差し指が志貴の唇をノックする。

「舐めて」
「え?」

                                      《つづく》