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「舐めて」
「え?」

 思わず開いた志貴の口にアルクェイドの指が沈み込む。

「もっと舌を絡めて濡らしておいた方がいいと思うよ。少しでも潤滑剤があっ
た方が抵抗少ないから」

 ぴくと志貴の動きが止まる。
 アルクェイドの語る言葉の意味を解したから。

「そうだよ。志貴のここを可愛がってあげる」

 ぺろりとまた舌を一走りさせる。

「嫌なの?」

 目に怖い色が浮かぶ。
 頷きたいが頷く事が出来ない。
 志貴は自分を蹂躙する為の道具を丹念に手入れする。
 なんていう理不尽な、そして悲喜劇併せた状況。

 アルクェイドは志貴に指をしゃぶられくすぐったそうな表情をしている。
 どこか官能を刺激されているようにも見える。
 しばらく奉仕を受けた後、ちゅぽっと指が引き抜かれる。
 アルクェイドが志貴の体をさらに折り曲げる。
 可能な限り近く、志貴の目に映るように。
 そして濡れ光る指先を志貴の肛門に当て、力を込めていく。
 挿入が開始された。
 
 細いアルクェイドの指である。
 それほど圧迫感がある訳でも痛みが伴う訳でもない。
 しかし、志貴が感じているのは、圧倒的な違和感。
 異物が関門を潜り抜け進入する感覚。
 中から外では無く、外から中という馴染みの無い感触。
 それが志貴の頭ををおかしくする。
 
「根本まで入ったよ、ほら、志貴」

 それをこの目で見ているという事実。

「もっときついと思ったら結構余裕だね」

 アルクェイドの声がまた脳細胞に直接響く。

 無造作に指が抜かれ、第一関節が姿を現す辺りでまた押し込まれる。
 その抜き差し、入れられる違和感も、抜かれる時の排泄感覚にも似た感触も。
 ……耐えられない。

 しかし何に耐えられないのか。
 苦痛ではない。
 気持ち悪さとも違う。
 もしかして、快感に属する感覚なのか。
 そう認めると何かが終わる気がする。だから認めない。
 と言う事は快楽と認める事に耐えているのか。
 あはははは。

「なんだ、嫌がってるのかと思ったら、こんなにかちんこちんにしちゃって。
 志貴って、わたしの手や口より、こんな処弄られる方が、興奮するんだ。知
らなかった」
「違う」
「そうかなあ」

 じゅぼじゅぼと志貴の唾液と腸液にまみれたアルクェイドの指が勢いを増す。
 それにつれ、志貴のペニスがびくびくと揺れ動く。
 
「アルクェイド、この格好」

 あ、まずい。
 慌てて切迫した声を出す志貴。
 しかしアルクェイドは悠然とした表情を崩さない。

「何、志貴?」
「だから、こんな体勢だと苦しいから、起こすか寝かせるかさせてくれ」
「え、もうちょっとだけ」
「頼む……」
「うーん、なんだかわからないけど、志貴がそう言うなら」
「早く」

 ダメだ。
 もう耐え切れない。
 しかしアルクェイドの動きは止まらず、その姿勢も解除されない。

「あと5分我慢できたら言う事聞いてあげる。それぐらい我慢したらどう?
 全然こんな事されても感じてないんでしょ?」

 意地の悪い笑い顔。
 知ってて、もう限界だと知ってて、こんな真似を……。
 志貴の顔が絶望的な色を浮かべる。
 何とか体を動かそうと試みるが、さほど力を入れていないように見えながら
アルクェイドの拘束からは逃れられない。

「あああ……」

 志貴のペニスから三度目の白濁液が……、放出された。
 上半身を下に体を丸く二つ折りにしたような格好。
 当然ながら、放たれた精液は、天に唾した如く己に降り注ぐ。
 胸に、首に、顔に。
 その瞬間に顔は背けたものの、頬をぬらりと濡らす感触からは逃れられなか
った。

「なんだ、早く言ってくれればよかったのに」

 驚いたという顔でアルクェイドが志貴の歪んだ顔を覗き込む。
 口元が完全に笑っている。
 アルクェイドには珍しい種類の笑い。
 嘲笑。

「まさか嫌がってるお尻の穴を弄ってるだけで、射精しちゃうなんて思わなか
ったなあ、ごめんね、志貴」

 言葉が志貴の胸に突き刺さる。
 アルクェイドの声に泣きそうな顔をする。

「綺麗にしてあげる」
 
 アルクェイドの顔がさらに近づき、ちゅっと志貴の頬に口付けした。
 舌が動いたのが分かる。
 頬だけではない、首筋、耳、胸、降り注いだ精液を丹念に舐め取っていく。

「さすがに薄くなってる。水っぽい部分がほとんどだね」

 髪に飛んだ分などは指でこそげ取って口に含む。

「美味しい……」

 その妖艶な表情に志貴はぞくりとした。

「でも、幻滅したなあ。志貴がこんな変態だったなんて」
「……」
「お尻弄られて感じた事じゃないよ。私だって志貴にされたら気持ちいいもの。
 でもね、そんな目にあって、屈辱的な目にあって、泣きそうになって、それ
でなんでまだそんな状態なの?」

 え。
 志貴は自分の目が信じられなかった。
 なんで、まだ勃っているんだろう。
 三回も射精をしていながら。
 こんな情けない目にあいながら。

「まさか、まだしたりないの?」
 
 呆れたというアルクェイドの表情。
 何とも申し開きが出来ない。
 こんな節操無しに。
 気持ちとは裏腹にまったく萎えてくれない。
 みじめだと思うほどに、ますます血が集まっていく。

「でも私、もう疲れちゃった。
 そうね、志貴費一人でしたら」

 冷たい目で見下ろされている。
 取るに足らぬ地べたのゴミでも見るような目。

「遠慮しなくていいわ。私はもう手を出さないから、志貴は自分の手で慰めて
いいわよ。そのままじゃ志貴、苦しいんでしょ」

 言葉は優しげで寛大であったが、事実上の命令であった。
 自分の手でしごいてさらに射精しろという、自涜行為の強要。

 三回も立て続けに射精し、疲れている。駆使されたペニスは内側から熱を持って
ひりひりしている。
 しかし、やらなければ許して貰えないらしい。
 のろのろと従おうとして、志貴は改めて手が自由でない事に気がついた。
 アルクェイドを訴えるような目で見るが何も痛痒に感じてくれない。

「手が……」
「それだけあれば充分でしょう」

 両手首を揃えるようにして、右脇から手を差し伸ばす。
 体を捻じ曲げる。
 どうにか、ペニスに触れる事が出来た。
 手で握る。
 動かす為にさらに体を捻らせる。
 もがくようにして手の動きを始める。
 
 ペニスはひりひりと痛む。
 快感よりも痛みをすら感じる。
 しかし止められない。
 アルクエイドがじっと見つめているから。

「そんな格好までして夢中になって、無様ね、志貴」

 軽蔑したような言葉。
 確かに傍から見れば無様で浅ましく、そして笑いを誘う滑稽な姿であろう。
 
「ああ、オカズとか言うんだっけ、それが足りないよね」

 オカズ?
 志貴が見つめる中、アルクェイドが正面に座り、脚を開く。
 スカートは膝から上にまくれ上がり、太股が露わになる。

 ここに至るまで全裸に限りなく近い半裸の姿で手枷という志貴と対照的に、ア
ルクェイドは普段と変わらない姿をしている。
 胸も腰も脚も、その輝くような白い肌は、見るものを虜にする魅力的な曲線は、
まったく志貴の目に触れていない。

 それだけに、突き出されたすんなりと伸びた脚に志貴の目は奪われる。
 そして、捲くれ上がったスカートの中、アルクェイドの太股の深奥、合わせ目に。
 今日はどうなっているのだろうか。
 薄く透けている白いショーツか。
 漆黒の魅惑的なレースか。
 それとも申し訳程度に局所を覆うだけの紐状の。

 ……?
 !!!

 志貴の目が大きく開かれる。
 そのどれでも無かった。
 志貴の目に映ったのは、白くすら見える絹糸、薄紅色に染まった唇。

「何も穿いていないんだよ」

 駄目押しのようなアルクェイドの言葉。
 さっきから下着無しでずっと……。
 手で激しく擦りたてながら、体をのたうたせる。
 アルクェイドを見つめたままにじり寄る。
 もう少し、もう少し近くに……。

 しかし無情にも開かれた脚が閉じられる。

「ああっ」
「それ以上近づいたらダメ。そこでしなさい。そうしたら見せてあげる」

 志貴は激しく頷く。
 それを見て取ると、焦らすようにゆっくりとアルクェイドの脚が開いていく。
 さっきより広い角度に、秘裂がわずかに内から開く程度に。
 完全に自分の体の効果を知っている、そんな見せ方。
 
 うっとりと志貴は穴の開くほどの熱意を込めて見つめている。
 知らず手の動きが速まる。
 
「まだ、出ないの?」

 しかし一向に志貴のペニスは次の段階へ進まない。
 気持ちの高まりとは裏腹に、さすがに四回続けてだと何も出ない。
 志貴自身も、もどかしさを感じている。
 そもそも手の動きの自由が阻害されていて、単調な刺激しか与えられない事
も絶頂へ向う足を引っ張っている。
 せめて、手が自由なら……。

「アルクェイド……」
「何、志貴?」
「なんとかしてくれよ」
「嫌よ。もう疲れたって言ったでしょ」

 あっさりと志貴の懇願をアルクェイドは拒絶する。
 しかし犬のような目で見られ、アルクェイドはやれやれという顔をする。

「仕方ないわね、手伝ってあげる」

 足が伸びる。
 真珠のような爪、形の良い足の指。
 まさか。
 まさか、足で……。

 そのまさかだった。
 足の指が亀頭の先に触れる。
 突付き、押す単純な動き。

「ふぅぅぅっ」

 なんて酷い扱い。
 それなのに。

「あはは、少し大きくなったみたい。ぴくぴくって。
 ふうん、こんなので感じてるの?
 志貴って、最低ね」

 足の親指と人差し指が開き、ペニスのくびれを掴む。
 なんて酷い扱い。
 なんて酷い言葉。
 それなのになんでこんなに。
 こんなに感じているのだろう。
 あれほど自分の手で擦りたてていても、最後の一線を越えられなかったのに。

「出るよ、アルクェイド」

 叫ぶ。
 そして意識をせずに言葉が続く。

「出していい? 出していいだろう、アルクェイド?」

 懇願する。許しを乞う。
 アルクェイドに手助けして貰っているとは言え、自慰行為によって頂点に向
かったと言うのに、許可を求めていた。

「いいわよ、出して、志貴」

 足の指がきゅっと内側に丸まり、志貴のペニスの先端、鈴口の辺りを掴む。 
 そしてさらに足が押される。
 踵が、志貴のペニスにぶら下がる袋に触れる。
 睾丸が圧迫される。
 痛み。
 潰される事に対する恐怖。
 嘔吐感すら伴う、体のの叫ぶ悲鳴と警告。

 そしてそんな負の刺激による圧倒的な快美感。
 
「あ、あああ、アルクェイドーーー!!」

 弾けた。
 痛みすら伴う絶頂。射精。
 体力と気力もまた放出された
 ふっと意識すら束の間途絶える……。



           ◇   ◇


「あーあ、汚れちゃった。これで歩いたら床を汚しちゃうなあ」

 ぐったりとして横たわる志貴に声が掛けられる。
 目だけ向けるとアルクェイドが足を持ち上げ爪先を振っている。
 濁った水のような粘液が足の指を汚している。
 志貴の放った迸り。

 爪先が持ち上がる。
 そして近づいてくる。
 志貴の視界の正面に。
 触れるほど近くに。
 口元すれすれに。
 止まる。
 突きつけられる。

「志貴が汚したんだから、きれいにして当然だよね。
 さっきより薄いし、平気でしょ」
 
 ああ、その通りだな。
 ぼんやりと志貴の頭は濁っている。
 機械的に志貴の口がゆっくりと開く。

 ためらう事無く、アルクェイドは足の先を志貴の口にねじ入れる。
 息苦しく咳き込みそうになりながらも、志貴は受け入れる。
 舌を動かしアルクェイドの指を舐めて清める。
 口の中に、己の放った粘液が広がる。
 もう僅かに粘度を持った水のような薄く白濁した液体に過ぎなかった。
 が、まだ精臭を色濃く残している。
 しかし志貴はためらい無くそれを呑み込んだ。

 アルクェイドの足が引っ込められる。
 志貴とアルクェイドの目が合った。
 幾分、信じがたいものを見る目でアルクェイドが志貴を見つめている。

 その目を見た瞬間に、靄がかかった志貴の頭が、正気を取り戻した。
 むせる。
 肉体的でなく精神的な抵抗故に。
 涙が出た。
 こんな行為に対して。
 こんな行為を行っている自分の惨めさに対して。
 そしてそんな行為に悦びを感じていた自分に対して。

 堪えようもなく涙が流れた。
 止まらない。
 ぼろぼろと涙がこぼれ嗚咽が洩れる。

 と、アルクェイドが近づき跪く。
 まだ。
 まだ、何かされるのか。
 志貴は怯え、それでも逆らう事無く、アルクェイドに従う姿勢を見せる。

 志貴の体が起こされ、そしてアルクェイドに抱き締められる。

「え……?」

 柔らかく、暖かい感触。
 さっきとは違う。
 いつものアルクェイドだ。
 志貴は呆然とアルクェイドの抱擁を受ける。
 
「ごめん、ごめんね、志貴。ちょとやりすぎちゃった。ねえ、怒ってる、怒っ
てるよね。ごめんなさい、謝るから許して」
「なんで、どうして、……わからない」

 嬉々として志貴を嬲って楽しんでいたのに。
 このアルクェイドの豹変は志貴には、わからなかった。

「志貴が何か変わった事してって言ったから、わたし。ごめん、志貴に酷い事
してた」
「……。何でこんな事をしたんだ?」
「考え付かなくて困ってたら、妹のメイドさんが知恵を貸してくれたの。
 とにかく志貴さんを苛めてあげると悦びますよーって。
 普段志貴さんのなさる事を返してあげればいいんですって。
 そんな酷い事、わたしには出来ないから、自分に暗示をかけて……」
「……そうか、琥珀さんか」
「最初は良かったと思うんだけど、どんどん志貴の泣き顔見るのが楽しくなっ
て、自分でも何かなんだかわからなくなって。でも志貴が本当に泣いちゃうの
見たら正気に戻って……。
 ごめんね、志貴。もうあんな事絶対にしないから。許して」

 アルクェイドの方も泣きそうな顔で必死に謝る。
 ごめんね、ごめんねと繰り返して、志貴を抱き締める手に力を込める。

 しばらくそのままでいた後、抱擁を解いて志貴はアルクェイドを見つめる。
 何とも言いがたい表情の志貴。
 アルクェイドはしゅんとして志貴の言葉を待つ。

 志貴はゆっくりと、重々しく口を開く。
 そしてアルクェイドの耳を疑わせる言葉を口にした。
 志貴は、アルクェイドの目をまっすぐ見て、その言葉に答えた。

「…………………………いや、楽しかった。また、しよう」



《END》






―――あとがき

 志貴、すまない。

 ええと、アルクェイドです。
 無垢な姫君を篭絡して染め上げるというのも大変良いものですが、怖いアル
クェイドも好きなので、それ使って何かとか考えてて思いつきました。
 と言うかアルクェイド×志貴やりたかったのですよ。
 アルクェイド攻めと言うより、志貴受けですね。
 
 書き終わって思った事。
 琥珀さんだ、琥珀さん、琥珀さんですればよかった。……まあ、それは後で。
 それとちょっと本編の淫夢とコンセプト似てるなあ。本番なしで露出過少。
 
 あまり可愛いアルクェイドでなくてすみません。

   by しにを   (2002/4/10)