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ふろむ・あんだー・ざ・すてあうぇい・とぅ・へぶん

                    関 隼


「うぅう〜、う〜うぅうー♪ あんしずばーいんなすてあうぇいとぅへぶんー♪」

……浅上女学院高等部一年に在籍する月姫蒼香にとって、それは殺人的な洗礼
と言って差し支えないものだっただろう。何しろ寮の自室に入った瞬間に聞こ
えてきたのが、すばらしく脳天気で、『α波でも出てんじゃないのか?』と言
わんばかりヴォーカルによって再現されたあの名曲だったわけで。それを聞い
た瞬間に彼女が倒れなかったのは、まさしく日ごろの精神鍛練の賜物であった
というしかなかった。

「羽居…………」

 うめくような蒼香の声に反応して、彼女に背を見せていた女生徒が、何やら
書き物をしていた机から身を離し、振り返る。

「んー?」
 そのウェイビーな茶色の髪と、人生を満喫していそうな天然フェイスの持ち
主といえば、浅上女学院女子寮には今現在蒼香の唯一の同居人である三澤羽居
しかいない。彼女は蒼香の激しい頭痛の原因など知らぬげに、

「あ、蒼ちゃんだー。おかえりー」

 と、蒼香を温かく迎えた。しかし、蒼香はその言葉を聞いていない。彼女は
くらくらする頭をおさえながら、それでも内なるロック魂に導かれるように羽
居の肩をつかんだ。

「頼むから『Stairway to Heaven』をそんな風に歌わないでくれないか……」
「えー? なんで? どっか間違ってた? 大体こんな感じじゃなかったっけー?」
「−いや、歌詞は合ってる。節回しも、まああんなものだろう。だがな、おま
えさんが歌うと …………ツェッペリンへの冒涜にしか聞こえんぞ」

 羽居のあくまで脳天気な答えに再び頭痛を覚えながら、蒼香は半ばあきらめ
たかのように彼女に背を向けた。とりあえず落ち着くための時間が必要だ、と
判断したのだろう。間仕切り用のカーテンを展開して、羽居との間に布の壁を
作る。

「大体、随分早いじゃないか。また何か仕事を受けてきたのか?」

 ごそごそと私服を取り出しながら問いかけると、羽居は嬉しそうに(いや、
いつだって嬉しそうなんだが)答えてくる。

「うん。新聞部のねー、記事書きのバイトー」
「おまえさん…… 確かそれ、遠野に禁止されてなかったか?」

 蒼香の脳裏に、羽居が嬉々としてゴシップ記事を書いた時の遠野秋葉の怒りっ
ぷりがかすめていく。確か同室生だった遠野秋葉は、そのバイトだけ羽居へ禁
止令を出し、羽居もおとなしくそれを守っていたはずだが……?

「だってー、もう秋葉ちゃんいないもん」

 カーテン越しにそう答える羽居の声からα波が減ったのを感じて、蒼香は一
瞬セーラーを脱ぐ手を止めた。

「――そうだったな」

 迂闊だったな、と内心で舌を打つ。遠野秋葉が愛した兄の通う高校へ電撃転
校してから、もう一週間になる。校内で見かけない事に慣れ始めてはいても、
寮に帰ってくればベットが一つ、ぽっかりと空いている事にはまだ慣れてはい
なかった。どこかに秋葉がいるような気がして、未だにそうふるまってしまう
のだ。

『どうするか……』

 会話が触れてはいけない話題に行ってしまった事を内心で後悔した蒼香は、
急いで話を次の話題へ展開させようと努力を始める。

「そ、それで? 今は何の記事を書いているんだ?」
「今はねー。ゴシップ記事だよー」
「――おまえさんなぁ…………」

 努力したのは自分とはいえ、帰ってきた返答がこれだ。再び沸き起こる頭痛
に耐えながら、蒼香はジーンズに足を通した。

「よりによってそこを引き受けるか?」
「だってー、一番わりがいいんだよー?」
「割がよければいいってもんでもないだろう?」
「えー? でも、人気あるみたいなんだよー。わたしの記事」
「………………まあ、独特だからなあ」

 一度ならず羽居の文章を読んだ事のある蒼香は不必要な発言にならないよう
に言葉を選ぶ。そんな努力をしていたせいか、彼女はまったく気づかなかった。

「でもねー。今、煮詰まって困ってるんだー」

 その声が、妙に近くから聞こえてきた事を。                 

「え?」

 耳のすぐ近くで響く羽居の声に、蒼香は一瞬反応が遅れる。

「だから蒼ちゃん、助けてくれないかなー?」
「な…………!」

 確かな気配を感じて振り返った蒼香の背後には、何時の間にかカーテンの内
側に入ってきた羽居の姿があった。

「莫迦! 着替え中だぞ!?」
「一生のお願いー」
「おまえさんの一生のお願いは入学以来聞き飽きた! ……ってそうじゃなく
てだなぁ!」
「ホンのちょっとでいいからー」

 何ともかみ合わない問答が続く中、羽居はじりじりと蒼香との距離を縮めて
いく。そろそろ危機感を覚え始めた蒼香は、自然と戦闘体制をとっていた。

「やめとけ、羽居…… いくらおまえさんでも、これ以上怪しい事をするんなら、
あたしにも考えがある」

 そこらのライブハウスにたむろうチンピラ相手に鍛えた脅しは、確かな力と
なって相手の歩みを止めるはずだった。……相手が三澤羽居というスーパー地
球人でなければ、だが。

「スキありー♪」
「うわっ!」

 自分より身長が低いものへの下半身タックルと言う難易度の高い技で、羽居
は蒼香を秋葉のいなくなった空きベッドへ押し倒した。

「うふふふふー」

 羽居は喜色を満面に浮かべながら身を起こす。その手は、がっちりと蒼香の
腕を押さえつけていた。浅上でも五本の指に入る戦闘能力を有する月姫蒼香と
言えども、自慢の脚を振り回せない状況―つまり密着戦―になれば、体格差で
羽居にすら負けてしまう、という事だろう。

「おいっ! はなせっ! 羽居!」
「だめー」

 もがこうとする蒼香の訴えをあっさりと却下して、羽居は自分の顔を蒼香の
それへ近づけていく。徐々に視界を埋めていく羽居の顔、特にいたずらっぽく
輝く瞳を見つめながら、蒼香はなおも抵抗を続けようとする。

「羽居! 『助けて』って、おまえさん一体何をする気なんだ!?」

 答えを返そうとする羽居の、『気』が変わったような気がした。

「ねえ蒼ちゃん、キモチイイ事は好きー?」
「へ?」

 体の動かし方、瞳、すべてが唐突に湿気を纏っていく羽居とその言葉に、蒼
香の頭は混乱状態へ陥る。

「こうやってー、触わられたりするのー」

 羽居の手が、さわ、とシャツを着る前の蒼香の肌を撫でていく。

「わっ!」
「もー! 蒼ちゃんたらムードないー。そんなリアクションじゃ、記事になん
ないよー」

 純粋にびっくりした蒼香に口を尖らせて、羽居が彼女を責める。

「記事って……! おまえさん、まさかあたしのゴシップをでっち上げる気か!?」
「ぴんぽーん」
「莫迦っ! やめろっ! やめろって!」
「こことかー、どうかなー?」

 羽居の手が、ブラジャー越しに蒼香の小ぶりな胸をすっ、と掠めていった。

「あっ!」
「ふーん。蒼ちゃんって胸弱いんだー」
「…………莫迦! ああっ!」

 無遠慮にブラの中へ侵入した羽居の手が円を描くように蒼香の肉をこねる。
それを続けると、徐々にではあるが、蒼香の体から力が抜けていく。

「こうやってー、つまんだりしてみるのは、どうー?」

 羽居の指がこれまた遠慮なく蒼香の乳房の頂上をつまむ。

「うあっ!」
 その刺激は痛みすらを伴って伝わった。蒼香は、自分の乳首が勃起している
のを感じた。

「脹らんでるよー、蒼ちゃん。……かーわいい」

 含み笑いをもらす羽居はさらに指先でこする。思わず背が反った蒼香の反応
を楽しむように、羽居は胸に咲く桜色の粒を引っぱった。

「あうっ」

 さらに力が抜けていく。抵抗しようと思ってできない訳では無かったが、蒼
香は羽居の胸の蹂躪を許した。きゅううっと乳首を締め上げられる。

「うああっ!」

 頭を横に倒してその痛みに耐える蒼香の首筋、きれいなラインを描いて鎖骨
へと溶ける筋肉を隠した皮膚に、羽居の舌がぺろりと悪戯していく。

「おいっ……! 羽居、そんな、所…… 舐めるな……」
「ふふっ。蒼ちゃんの、汗の味がするよ……」

 羽居の舌はぺたりと首筋に張り付いて、蒼香の描くラインを丁寧に上ってい
く。こそばゆいのと快感のちょうど中間を走るようなその舌使いは、蒼香の全
身を緊張させる。舌が顎の下に達した時、耐え切れなくなった蒼香の筋肉はつ
いにぶるぶると震えだした。

「―〜〜―〜ッ!」
「キモチいいー?」

 自分の成し遂げた事が嬉しいのか、羽居は蒼香の顔を覗き込んでそう尋ねてくる。

「っはあ、はあ、はぁ…………」

 だが蒼香は息を荒げるばかりで、答える事ができなかった。

「もー、答えてくれないならいいもん。続けちゃうんだから」

 羽居は唐突に自分の唇を蒼香のそれに重ねると、片手を彼女の股間に伸ばし、
ジーンズの上からそこを軽く押した。指先が、ごわごわする布地からショーツ
のラインを探り当てる。羽居はそれに沿って優しく蒼香の腰周りを撫でだす。

「お、おい…… やめろ、羽居…… 人が、来たら……」
「関係無いよー」

 羽居は蒼香のジーンズを留めていたボタンを外しながら、彼女の耳たぶを噛
んだ。蒼香の体がビクン! と震える。それでも抵抗を試みる蒼香の手は力が抜
けていて、羽居の手をつかむのが精一杯だった。

「ほら、蒼ちゃん。気持ちいいでしょー。感じて、ね?」

 そう言って、羽居はショーツの上から、蒼香の丘の裾野にあるピンク色の真
珠をフードごとこね回し始めた。

「ふゃぁん!」

 自分の口から今まで出したこともないような可愛い声が出た事に驚くヒマも
なく、蒼香は布越しに打ち込まれる快感に心拍数を上げさせられ、体の内側か
ら生まれる熱気で思考を朦朧とさせていく。羽居はこれがチャンスと見たのか、
秘所を責めると同時に乳房に愛撫を加え、さらに首筋に舌を這わせた。

「ほらー。こうすると…… どう?」

 羽居はショーツが湿りだしたのを確認してから、指を二本、まっすぐに伸ば
した。そして、そのまま指を秘所に押し当てる。

「あああああっ!!」

 ショーツの布ごと、羽居の指が肉を割って中に入っていく。強引で優しい刺
激―いや、今の蒼香にとっては最早快感だ―に脳みそを揺さぶられて、体が
『かあっ』と熱くなる。

「やめ…… ダメ…! もう……!!」

 口がうまく回らない。快感のトンネルの出口は、もうすぐそこだった。

「いいよー。そのままいっちゃいなよー」

 あくまでものんきに答えながら、羽居の指が速度を増した。中も、胸も、
……体中がかき回されている。それは、蒼香を強引にトンネルから追い出す最
後の一撃だった。

「イっ! 〜! くあ…… ―〜っ! ―〜―〜ッ!」

 蒼香の背が今まで以上に反り返り、腰も大きく突きだされる。二度、三度と
突きだされた秘所からあふれた液がショーツにシミを作っていく。やがて体全
体の力が抜けて、蒼香はベットに腰を落ちつけた。
自分の下で熱く息を吐いて胸を上下させている蒼香を微笑ましく見つめながら、
羽居はその体を母のように撫でた。

「軽くイっちゃったねー。どう? 気持ちよかったー?」

                                      《つづく》