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「軽くイっちゃったねー。どう? 気持ちよかったー?」
「………………莫迦」

 ぼそりとそれだけ呟いて、蒼香は顔をそむける。そのしぐさをにこやかに見
ていた羽居は突然とある事を思い出した。

「ああっ!」
「…………………………何だ羽居。どうかしたのか?」
「―わたし、まだイってないよー」

 これこそ一大事! という表情でそう答える羽居の視線を、蒼香はさっさと外した。

「くだらん」
「くだらんなくないよー! 蒼ちゃんばっかりずるいよー」
「これはおまえさんが無理やりやってきたんだろうが」

 ようやく頭が落ち着いてきたのか、蒼香はいつものクールさを取り戻してい
る。そんな彼女に羽居は目をウルウルさせながら反撃を試みた。

「そんなー! わたしとの事は遊びだったのねー!」
「…………………………さっきの事なら、一から十まで遊びだったと思うぞ?」
「ひどいよー!蒼ちゃんばっかりキモチイイなんてふこーへー!」

 ぶーぶーとブーイングをしてみせる羽居を見て、蒼香はボリボリと頭をかいた。

『―ここで甘やかしたら、羽居の為にならない……』

のは、分かっている。分かっているのだが……

『ここで、ふんばれないんだよなぁ』

脳裏に、今は遠い同室の女の顔がよぎる。その表情は、

『あら、蒼香ったらまた? あなたもよくよく羽居が気に入っているのね』

何て言いながらからかう時のような、ニヤニヤとした笑いだった。

『…………うるさい。黙ってろ』

 本人を目の前にすれば絶対に言わないような台詞で頭から秋葉を追い出すと、
蒼香はむくりと身を起こした。

「―分かったよ。おまえさんも気持ちよくなればいいんだろう? ……手伝うよ」

…………もぞもぞ

「蒼ちゃーん。くすぐったいよー」
「うるさい。黙って触られてろ。大体、おまえさんが触ってくれって言ってきたんだろ?」
「そうだけどー」

………………ぐいぐい

「蒼ちゃーん。ヘンなところ押さないでよー」
「ん? ここじゃなかったか?」
「違うー」

……………………ぺちん!

「いたーい! 痛いよー、蒼ちゃん」
「………………ああもう!」

 ブラを取り、ジーンズを半脱ぎにした蒼香が身を起こす。彼女の体の下には、
中途半端に脱がしたせいで、膝に引っかかったショーツとセーターごしに下乳
部分だけ見えているブラが妙に煽情的な羽居がいた。

「蒼ちゃん、へたくそー」
「そりゃそうだろう。やった事ないんだから」
「うそー。一人でした事とかないの?」

 さすが月姫蒼香と言わんばかりの答えに興味津々となった羽居の視線を、蒼
香はうるさげに脇へのけた。

「何言ってる。あたしだってそれくらいは…… おっと!」

 あやうく本音をしゃべりそうになった口を、無理矢理押さえつける。そう言
えば、これは羽居の『取材の一環』だったのだ。

『記事に載ったりしたら、たまらんからな』

 もちろん、校内新聞用の記事である。教師陣も目を通す可能性があるのだか
ら、はっきりストレートには書かないだろうが、注意するにこした事はない。

「ほら、それより続きなんじゃないのか?」
「それよりー、蒼ちゃんの事が聞きたいかもー」
「話して面白い事はそんなにないぞ?」
「ううん、そんな事ないよー。どんな事でもいいの。蒼ちゃんの事、聞かせて
ほしいなー」

 まるですがりつくように話をねだる羽居を見て、蒼香にはピン! とくるも
のがあった。その閃きが、そのまま言葉となって空気をふるわせる。

「羽居…… おまえさん、遠野がいなくなって寂しくなったのか?」
「!」

 羽居の表情が、驚いた顔で止まる。

「遠野があたしたちを置いて行ったような感じがして…… 寂しくなったんじ
ゃないのか?」

遠野秋葉は、行ってしまった。分かってしまったから。 
天国では、たとえ店が閉まっていても言葉一つで欲しいものが手に入る事が。
彼女は天国への階段を買ってしまったのだ。兄と言う天国への階段を……。
友情がなくなったわけではない。それよりもっと大切な事に正直だっただけ。
でも、残された者は……

「そんな、そんな事ー、ないよー……」

 力のない否定が肯定につながる事を考えもせずに、羽居が呟く。そのあまり
にも裏表のない、心の動きが手に取るように分かる。何だか微笑ましくなって、
蒼香はクスリと笑う。

「―分かったよ。ほら、やり直しだ。今度は気持ちよくしてやるからな」

 それ以上追求するような事はせずに、蒼香は膝から下が動かないにもかかわ
らず、器用に羽居の体を起こす。そして、蒼香は羽居にくちづけた。
 それは、女子高でふざけた挨拶代わりに行われるようなものではない、優し
くて儚くて心が甘くとろけてゆくキスだった。
そして、蒼香の囁き。

「If there's a bustle in your hedgerow, don't be alarmed now, It's just 
a spring clean for the May queen」
「ん…… なーに?」
「後できちんと調べてみろ。それより、続きだ」

 「んん……」
「ん―」

 互いの舌が、互いの口の中を蹂躙する。そんな激しいキスに、二人は少しづ
つ高まっていく。数十秒の間を置いて、最初に動いたのは羽居だった。

「んんっ!」

 突然の感触に蒼香が狼狽する。しみの部分が冷たくなって、気持ち悪くなり
始めたショーツごしに、熱いものが触れているのを感じたのだ。

『?』

 見れば、何時の間にかスカートを捲り上げた羽居の秘所が、ちょうど蒼香の
秘所がある辺りに押しつけられている。

「ん……」

 まるで男性を迎え入れる時のような姿勢になった羽居は、キスを続けながら
、蒼香を下から抱きしめる要領で腰を押しつけてくる。それを少しの間観察し
た蒼香は、少しずつ腰を動かし始めた。これで、ちょうど互いの秘所が蒼香の
ショーツごしにこすれあう形になる。

『あああっ!』 

 漏れ出る声がハモる。そのまま飢えを満たすかのごとく腰をえぐるように動
かし、そして時折きつく押しつけ合う。

「―ふぁああ!」
「気持ちいい!」

 お互いの声に励まされるように、腰の速さは増していく。そして、布一枚を
隔ててお互いの真珠がキスをする。

「あああああっ!!」
「〜―〜〜―――〜ッ!」

 羽居の腰が跳ね上がり、蒼香は声にならない悲鳴をあげる。そして、羽居は
もどかしげに体を起こした。

「蒼ちゃん! これ、これ脱いで! お願いー……!」
「分かった! ちょっと、待って……」

 熱に浮かされたように羽居の言葉に従い、蒼香はショーツをずり下ろす。そ
れを待ちかねるように羽居は蒼香の体を抱きしめ、腰を押しつけた。

『――――――――――ッ!』

 邪魔者のいない、ファースト・キス。直接触れ合ったピンクの真珠は、先ほ
どとは比べ物にならない程の快感を杭打ち機のように叩きこんでくる。脳を駆
け巡る灼熱感に、二人は酔った。

「ああっ! ……蒼ちゃん、蒼ちゃん!」
「もっとか? もっと強くか?」
「うんッ、そう! もっと、もっともっと強くしてー! 気持ちよくして!!」

 目を閉じたまま、蒼香がうなずく。そして、まるでこういう事に慣れている
男性のようにスムーズに腰のスピードを上げる。

「ぁぁあああああああっ!」

 一定のリズムで行われる真珠のキスが回数を増した事で、羽居の背が反り返
る。快楽を求める体から溢れ出した熱気が部屋の温度を上げ、その温度が二人
の頭をさらに溶かしていく。

「あっ、ふっ、くぅっ、あああっ!」
「〜っ、―〜〜―ッ!! ――〜ッ!」

 最早言葉すら満足にしゃべれなくなった二人の頭は、ただ快感を求めて汗と
愛液に濡れる秘所を、そして敏感なピンク色の真珠を押しつけあう。そして、
限界は意外に早く訪れた。

「は、ね…… い。あたし、もう、もう〜―ッ!」
「いいよ! いいよっ! わたしも、わたしも、すぐにっ!!」

 筋肉は負荷の限界を迎え、二人の体はぶるぶると痙攣している。それでも止
まらない腰からの快感は、頭どころか全身の神経を焼き切ろうと加速度的に増
していく。
そして、限界が訪れた。

「いくッ! 蒼ちゃん! わたし、わたしィ―――ッ!!」

 羽居の腰が大きく跳ね上がり、秘所から大量の愛液が飛び出す。その熱さは、
蒼香の神経を完全におかしくした。

「はね、いィぃィッ―〜――〜〜〜―――ッ!」

 あまりの快感に、蒼香の腕が完全に力を無くす。羽居の体の上に沈む蒼香の
秘所からは、先程のお礼とでも言うように大量の愛液が噴出し、二人の体を温
めていった。

「―なあ、羽居」
「んー? どうしたのー?」

さっきの余韻が残っているのか、気だるげな羽居の視線の先には、効果線が入っ
ているのかと思うくらい暗い表情をした蒼香の顔があった。

「これ、どうするんだ……?」
「これ? これって、どれー?」

 蒼香の指差す先には、二人の腰辺りにしかれた薄手のシーツと、学生に不評
な独特の感触がするマットレスがあった。そう、腰の辺りにしかれた……

「どうかしたー?」
「莫迦! 濡れてるんだよ! これ以上ないくらい!」
「なんでー?」

 …………羽居の頭は、まだ正常ではないようである。普段よりも幼児化した
やり取りに頭痛を覚えながら、蒼香は湿って重い色になっている布を指差した。

「あたしたちが! ―その、なんだ。いろいろして…… 濡れたんだよ」
「そっか、それじゃあ、しょうがないねー」
「じゃない! この後これをどうするんだ!」
「どうしようかー?」

 どうにも先に進まない会話が続く。問題の解決からはどんどん遠ざかってい
くこの会話を、蒼香は内心で楽しんでいた。

『やっぱり、羽居はこうでなくちゃな』

 なんて思った瞬間、その思いはキシシ、という笑いになってポロリと外にこ
ぼれてしまう。

「ん? 蒼ちゃん、何で笑ってるのー?」
「いや、まあ、色々あってな」

 さすがに、『どうにもならない会話を繰り広げるおまえさんが帰ってきたの
が嬉しくて』なんて言う事はできない。とりあえずお茶を濁す蒼香の脳裏に、

「……Yes, there are two paths you can go by, but in the long run There's 
still time to change the road you're on……」

等と歌うロバート・プラントの姿がかすめていく。

『長い目で見れば、か……』

 秋葉は友達を忘れたわけではない。そして、二人は秋葉との縁を切ったとは
思っていない。

『ならば、分かれた道もまた出会うかもな』

 そう思えば、待っていられるような気がする。天国ではない、この寮ででも……

「ねえ蒼ちゃん。ねーねー蒼ちゃん! わたしの話、聞いてるー? さっきのす
ごく気持ちよかったからさー、もう一度やろうよー」
『―遠野、早く帰ってきてくれ…… でないと、体がもたん……………………』


                         (いい雰囲気をぶち壊したまま、了)