セイバーは、そんな恥辱と快感の板挟みになっている美綴のことが、分かった。
　いや、分かるだけではない。自らもまた、この少女と何も代わりはしないのだと。
　足を抱いたまま、頷く。それでも繰り言の様な、啜り泣く美綴の声が漏れる。

「こんなの、こんなことされて……だめ、嫌いになるよね、アルトリア……あ
……ああ……私、せっかく好きになったのに、好きだって言ってくれたのに、
こんな淫らでアルトリアに……や、だ、め……」
「綾子、あなたのことは嫌いになんかなりませんです。それに――」

　セイバーが、身体をずらす。
　それは、足に隠れていた身体の中心を、敢えて美綴に見せつける様に。肩を
に足を抱いたまま、立膝のセイバーの身体は美しく輝く様に――そして、その
手が金の繁みに触れる。

「私こそ――綾子の足を舐めて、こんな風にしている……ん、です……」

　差し込まれた、白く細い指。
　それが足の付け根の中で、くにゅりと曲がってくつろげる。
　セイバーのクレヴァスの中を触れた刺激で、肩が竦み上がる。だが、それで
はなく。

「あ……アルトリア……」

　とろり、と――透明の蜜が、足の間からこぼれ落ちた。
　それがシーツを濡らす。まるで、澄んだ尿を失禁するみたいな、セイバーの
愛液。
　美綴は、立膝で愛液を濡らしている、愛しい少女の姿に、焼き切れるほどに
――

「濡れて……る……あ……すごい………」
「私こそ――私こそ綾子にイかされて、足を舐めながらこんなに……堪らなく
なってるのです、私こそ、綾子にこんな淫らで厭われぬかが――ああ……」

　くちゃり、とセイバーの指が動く。
　股間に宛った手が、くっと小さく動く。それは快感を汲み出すことに長けた
動きではなく、切なさがさせているかのごとき技巧のない動きであった。
　は、とセイバーの口が熱い吐息を漏らす。肺の中まで官能で灼けて、湯気が
立ちそうな吐息。美綴の抱きかかえている足で、胸を擦りつける様な仕草もす
る。

「ない、そんなこと、私たち――アルトリアも私も……すごく、えっちに……
あ……」

　指が、どちらが触れている指なのだか分からない。
　セイバーに宛われた秘所の指が、自分の指の様な気がする。人差し指の腹に、
つるんとした成熟途上のシンプルな形の襞が触れる、濡れた感触を覚える。
　美綴のよく売れた女陰に触るのは、セイバーの細くしなやかな指である錯覚。
それは蕾をくつろげて中を晒し、セイバーの緑の瞳に一番恥ずかしいところを
晒し出す。

　見つめている、見られている。
　指の快感よりも、恥ずかしい全てを見せ合っている快感。
　ショーツとスカートの下に覆い隠されていて、そんな所があることを普段は
意識もせずに顔を合わせている。でも……

「綾子……綺麗です、綾子の身体も、女性の箇所も……私に舐められてそんな
に……泣いているんですね、綾子のそこは……」
「う……ん、きゅんって……見て、ここ、私――」

　今は肌に何も覆わず、生まれたままの姿でいる。
　もう、服に包まれて顔を合わせても、お互いにこんな身体を宿していること
を意識しないでいられなんかない。それが快く、そしてコワイ。

　そして、お互いの一番秘密の場所が、こんなに浅ましく気持ちよくなろうと
している姿を見つめた。美綴が首を上げ、なんとかセイバーの姿を瞳に刻みつ
けようとする。そして、指は襞の上に盛り上がった包皮と核をめくり上げる。

　ぞくり――と、外気に晒される冷たさに、美綴は身震いした。
　いや、そんな温度ではない。こんなに奥に隠されている、自分の一番弱い部
分を剥き出しにする怯え。震える指が、そこを指さす。

「ここ……あ……見える？　アルトリア……」
「はい……見えます、綾子のピンク色の、小さなところが……」
「一番感じるの、ここ……いま、アルトリアにされて、充血してて……あ……
んんっ！」

　指が触れる、ほんの少し、つんと――
　途端に美綴の身体が跳ねる。一番敏感な場所を自分で触って、電流が走った
みたいに――暴れる身体にあ、とセイバーの小さく吐息を漏らす。

「気持ち……いいのですね、綾子………」
「ううん、でも……でも、私だけでしても……アルトリアに舐められたり、触
られたりするのに比べたら……ね、しよ……したい、アルトリア……」

　甘く溶ける声の中で、ねだる美綴。
　いつもは綺麗に上がり、意思の強さを示す眉毛と眦が緩んで、この上もなく
優しくねだる美綴。少女の身体は赤くなり、喘ぐ姿はセイバーをして、ふらつ
くほどに昂奮させる。

　セイバーもまた、膝を小刻みに奮わせていた。
　美綴が触るのと一緒に、セイバーも己のクリトリスに触れてみた。包皮の上
からであったが、それでも――膝が崩れ落ちるのを我慢するのが精一杯なほど
の、するどい快感。
　頭の中が、染まって何も考えられなくなりそうだった。自分の指が与えてく
れる快感に溺れて、このまま……だが、それに身も心も委ねる訳にはいかなか
った。

　白皙の美貌が、優しく頷く。
　瞳は真摯で、求めていた――身体を交わし合い、心を触れあった愛しい少女
に。
　自分一人で気持ちよくなんか、なりたくない。喩えそれが我欲の醜い姿であ
ったとしても、この少女を愛することに、許されることに偽りはない――

「はい……私も、したい……綾子……」

　こくんと。
　頷く様を見ると、美綴は溢れ出す涙を止められなかった。
　自分が惚れて、追い掛けて、無理に告白して、それでもお互いに持つ弱さを
許し合った彼女。美しくも清らかな彼女が、自分なんかとしたいと――共に快
感の中に歩みたいと、囁きかけてくれる。
　
　それは愉悦よりも、感動であった。
　この一瞬のために、今までの命とこれからの時間を燃やし尽くしても構わぬ
ほどに。
　それを望み、昇り詰めぬことは逆しまな罪になろうと。

「う……うん、嬉しい……私、アルトリアと……」
「はい……このまま……気持ちよくなりましょう……ああ……」

　吸い寄せられる様に、少女の腰が動く。
　濡れてひくひくと疼く女陰が、何を欲してすべきなのかを知っていた。足を
抱え上げたセイバーの格好、それは図らずも互い違いに足を組み合わせる格好
になる。
　二葉の松葉を組み合わせる様な、姿勢。このまま、セイバーは、美綴は自分
たちの一番切なく、感じる部分を寄せていって――

「あ……アルトリア……ね……お願い……」
「なんでしょう……？　綾子」
「手……握ろ……一緒に、怖いから……はぁ……」

　涙に頬を濡らす美綴が、唇を震えさせて囁く。
　伸ばされた腕、その先の、しなやかで力強く、だが今は求めて孤独な手。
　それに、繊細で細いセイバーの手が重なり、指を絡み合わせて――

「はい……綾子。私も……ああ、あなたの手は、こんなに温かい」
「うん……うれしい……あ、ん、アルトリア――」

　くっと、その手をたぐり寄せるように。
　少女達の重ね合わされた腰は、接触する。お互いの愛液が触れ合い、陰毛が
柔らかく擦れ合わされ、その下の襞が秘裂から押し出されて、くちゃりと襞を
絡め合う――

　こうすると、気持ちいい。それは経験や知識ではなく、ただお互いを求める
本能のままに。
　少女達のしなやかな肢体は、快感に浮かされ柔らかく、それでいて艶やかに
美しく。
　握り合わせた手が、絶対に離さないようにと強く、しっかりと繋がった。

「ああああっ……は、あ……」
「く……ああ、私の……私のここに、綾子の……綾子のあそこが触れてます…
…いっ、ああ……」

　控えめに腰を、ちろりと動かすセイバー。
　敏感な箇所どうしをこんな風に合わせれば、崩れ落ちたくなる感触にまみれ
る。叫びを上げ、がくがくと震える身体を持て余して倒れ、そのまま分からな
くなりそうになる。
　それでも、もっとと身体の奥底が求めている。これだけでイきたくないと。

「は……ね、私……今度は、私がして……だから、アルトリア、きもちよくな
って……」
「は……い……どう、すれ……ああっ、あああああっ！」

　こしり、と。腰がうねる様にセイバーに合わさる。
　下から腰骨を擦り合わせる様な、ひねり気味の動き。それは美綴が、恥骨と
陰唇でセイバーを擦り上げるような大きな動きだった。
　セイバーの喉が白く喘ぎ、悶える声を漏らす。感じるのはセイバーだけでは
ない、美綴もその繊細な箇所を擦りつけているのだから――

　がくがくと震える背中。
　脊髄の一枚一枚に快感が染み、解けてしまいそうになる。
　首筋まで、押し寄せる快感で脊椎の中が煮える。心臓が壊れて全身に毒の様
に粘つく熱い血を送り、肺は愛の香りに染まってなにも働きはしない。
　筋肉はただ快感の熱に酔い、全身の神経は擦り合わされる陰唇の興奮に染め
抜かれて、この身体が全ていやらしく濡れる襞に成りはててしまった様に――

「ああっ、ん……アルトリア……こう、ね、感じる……感じるの……？」
「うっ、ひい……ああ、そんな……そんなに動かしては、私は……ああ……ん
んっ！」

　攻められているセイバーの声は、悲鳴じみて懇願している。
　その高く綺麗で陶酔を秘めた声が、美綴をより興奮させる。はぁはぁと言葉
の間に染みる息は、それだけで誰もを狂わせずにいられない媚薬の香りがする。

　揺らぎ触れる身体が、倒れ込む。
　それでも握った手を離さないセイバー。空いた手は、快感に吹き飛びそうに
なる身体を支えるつもりなのか、しっかりとシーツを握りしめる。
　長い睫の目蓋が閉じる。目を開ければその瞳に差し込む光が強すぎるから。
　腰の奥底に、容赦なく快感が注ぎ込まれる。美綴の腰は、セイバーの感じる
箇所を触り、その淫液を体の中に流し込むようで――

「はっ、ああ……ああ……んん、く……いい、そんな……ああ、う、あぁはぁ
……」

　身体に染みこんだ美綴の愛液は、襞を通して子宮に堪る。
　実際に溜まる訳はないし、膣道を愛液が溢れる訳でもない。だがくりゅん、
と動く腰の動きのたびに、体の中にある女性の器官が悲鳴を上げる。

　こんなものがあるということを、かつては意識すらしなかった。
　胸は小さく、剣を振るのの妨げには鳴らなかった。ましてや身体の奥底にあ
る子供を宿す器官などは、月の物がある前に女性であることを止めた、かつて
の自分にはあってもなくても構わぬものであった。

「ああ……綾子………ああ、私、私は………あああああっ……」

　だが、今は、それが全身を支配している。
　熱く疼く子宮が、神経を全て結びつける。自分の中に在る回路が赤熱し、心
臓ではなく下腹部に全てを結びつけられている様であった。龍の裔である自分
を意識したことがある、沸き上がる無尽蔵の力をどこか、快感に感じたことも
ある。だが――

「私……ああ……こんなの、は………いい、いい……ああっ、だ……うぁ……！」

　――今は、自らが女性であることしか考えられない。

　腫れ上がって快感を求める陰唇が、包皮の中で身を潜めるクリトリスが、奥
に繋がって愛液を滴らせ続ける膣道も、そしてその奥にある自分自身――子宮
も、身体をなんどももみくちゃにして、だらだらと溢れる快感を絞り尽くして
もなお、止めどもなく沸き上がり続ける。

　繋がる身体、握り合わせる手。
　今は愛おしい、快感の中で感じる体温はこの掌にある。
　心臓から伸びた細い、数少ないラインが手に伝い、美綴とセイバーの間をつ
なぎ合わせる気がした。それがあれば、身体が快感に滅びても、自分自身で居
られる――

「あ……んん……すごい、こんなの……私、私もきもちよくて……いいの……」
「綾子……綾子、私はもう……だから、だから許してください、私はあなたを
――」

　セイバーもまた、求めて腰を動かし続ける。
　快感を求めるのではない、そうしないとどうしようもないから。快感に快感
を重ね、共に手を取り上がり続ける。身体は女性、心は少女、求め合う物は何
も変わりはしない。
　だからこそ、互いの声を、息を、鼓動を感じ、それが少女達をなによりも歓
喜させる――

　美綴が、セイバーが、忘我の世界の中で。
　互いに身体は快感の中で曖昧で、合わさった秘所は溶けて相手に埋もれて。
　心臓と神経は、その一瞬のために狂った様に走り続ける。

　高く、早く、もっと、真っ白になるまで。
　
「アルトリア……いいよ、一緒に……一緒にいこ……」
「はっ、綾子、あああああっ、はぁあああああ！！」

　仰け反る。
　子宮が弾けて、身体が内側からめくれ上がる。
　神経がばらばらに解け、赤熱し、どこかの遠い世界に繋がる。

「ああああああ――――――」

　真っ白で――何処までも行ける。
　体は軽く、足は速く、手が遠くに差し伸べる。
　指に触るのは、愛おしい少女の鼓動。
　楽に――それは、至福で至聖の世界の彼方。

「あ……ああ……はぁ……」
「綾子……う………ああ…………」

　消え去った身体と、静かな時間。
　鼓動がやがて世界の戻り、身体を取り戻して美綴が美綴に、セイバーがセイ
バーに戻るその時まで、囁く声も、息も、鼓動もまた溶け合ったまま。
　互いに語りかけるのは空気と耳ではなく、溶け合った心に。

「好き……だよ……すごく……幸せ……」
「はい……私も、こんなに……怖いくらい――です。ああ、綾子……」
「いいの、ずっと……こうしてて、いいんだ……アルトリア――」

　少女達は、ただ静謐の中にあった。
　囁く言葉は優しく、そしてなんと美しく――