「その……美綴殿、ど、どうするか知ってますか?」

 夕日の差す寝室で、セイバーが聞きづらそうに訊ねる。
 陽の光は弱り、茜に染まり格子窓と障子越しに差し込んでいた。敷かれた布
団の上に座り込むセイバーの白い体を、ほのかに赤く染める。

 バスタオルを巻いたままの、無防備な姿であった。
 胸元まで隠しているが、指一つであられもない裸身を晒す――それは、向か
い合う美綴も同じ格好だった。

「あー……」

 布団の上に、正座している美綴。
 彼女の肌もまた夕日に染まっているけども、赤の映え方が違う。セイバーの
それは白磁に明かりを映すようであり、美綴の肌は柔らかく暖かみを感じる色
であった。
 向かい合う美綴は、気恥ずかしそうに笑う。細い目が愛嬌を感じさせる。

「……女の子同士は私も初めてだから、あ、その……セイバーさん、経験ある?」
「い、いえ、私もその……殿方の悦ばせ方なら存じているのですが、ご婦人の
方はどうしたらいいのか知りません……」

 殿方の悦ばせ方、というひどく色、えかしい言葉を聞いた美綴が、え?と前
屈みになる。
 まじまじと顔を眺められ、セイバーは顔を赤らめる。美綴も聞きづらいこと
を聞いた、と言う様にぱたぱたと手で仰いでみせる。

「あ……あ、そ、そう。セイバーさんって男の人、知ってるんだ……」
「い、いえ、私は処女ですよ? 美綴殿。ただ知識として殿方の体はどうする
と感じるかを知っているだけで、殿方の方を閨房に迎えたことはありません!」
 

 慌ててそんな身の潔白を語るセイバーだが、何かを思い当たったのか彼女も
目線を彷徨わせ、もじもじと美綴に訊ねる。
 肩を剥き出しにした、タオル一枚の格好。戸は閉め切っているが、差し込む
夕陽が二人をひどく落ち着かなくさせていた。

「……美綴殿は、殿方はご存じなのでしょうか……聞くところによるとこの国
では美綴殿ほどの歳ではその、すでに殿方を存じ上げていると」
「なっ、そ、そんなことない……っていうのは恥ずかしいけど、まだ。
 まいったね、だって遠坂の方に先越されると思ってなかったから、私………」

 頭を掻いてやりづらそうに苦笑いする美綴。
 二人ともお互いに男性を知らない処女の身である――そんなことを確かめ合
ってから、その後の接ぎ穂がない時間が漂う。お互いに近づいていて、好きで、
肌がぴりぴりとお互いの感触で震えるもどかしい時間。

「ど……どうなんだろう、男の人って、その」
「わかりませんが、凛は最初は痛いばっかりと……あ、で、ですがこの様な話
をしてもその、女性同士ですることの足しになるとは思えませんが……」

 つい、別の方向に行こうとする話を慌てて戻そうとするセイバー。
 そんな生真面目なセイバーの様子に、美綴はおかしみを感じていた。可笑し
くもある好きになったことに間違いはない、誠実で真摯な相手であると。

「そうだよね、その……出てるところ無いから」
「あの……でしたら、どうしましょう? 女性同士でするのですから、痛いこ
とはないかと思われますが……」
「……そうだね、お互い身体のことはよく分かる……よね……ね、アルトリア
……」
 
 セイバーさん、と呼んでいた名前を真名で呼ぶ。
 その言葉に、ひくりとセイバーの肩が揺れる。声に宿る想いに気が付いたの
か。
 セイバーは背筋を伸ばすと、はい、と応える。

「私……アルトリアの身体、見てみたい……駄目かな?」

 僅かに恥ずかしさを噛む様に、美綴は訊ねた。
 あ……と、そんな美綴の願いを聞いて軽く口を開けるセイバー。先程は風呂
場で抱き合っていたけども、具にお互いの姿を眺めたことはなかった。
 す、と正座していた足を解くと、布団の上で立ち上がった。

「は……恥ずかしいよね、女の子同士でも。さっきはお風呂だったけど、寝室
だと……」
「いえ、私も……綾子に見て欲しい、私の全てを。
 ですが、この身体は決して美しいものではありません。綾子に比べれば見劣
りはするでしょうが」

 ううん、そんなことはない――と首を振る美綴の前で。
 はらり、とバスタオルを解いてセイバーは下ろした。身体を隠していたタオ
ル地の布は、まるで羽衣の様に舞って、落ちる。

「あ……………」

 美綴は惚けた様に、白い裸身に魅入る。
 金の髪を結い上げたままのセイバーの身体は、ほっそりとして可憐だった。
胸は控えめに膨らみ、そのピンクの突起が純白の肌に合わさりなんとも美しか
った。裸身はくねって曲線的な、いかにもな豊満な女性のフォルムをしていな
い。

 まるで少年の様な長い手足。足も細く、踝が締まって脹ら脛や太股もむっち
りとはしていない。どこか中性的で、大理石の彫像の様な息を飲む姿がそこに
はあった。
 ただ、少年と違うのは盛り上がった胸と、足の付け根に金の繁みだった。そ
こが、セイバーが少女であることを隠しようもなく物語っている。

「……綺麗……ん、やっぱり」
「そうでしょうか? 女性はやはり肉置きが良く、出るところが出ていた方が
美しい」

 注がれる美綴の視線に羞じるように、目を逸らして自らを語るセイバー。
 だが美綴は、身を乗り出す様にしてセイバーの艶やかな身体を見つめ続けて
いた。首筋の細さ、腰骨の見えるほどに細い腰、窪んだ臍、そして息を飲む深
い緑鋼玉の瞳に――

 美綴は頭を振ると、ほう、と感嘆の吐息を漏らす。
 それは自分が見た宝の価値が信じられずに、これが夢でないかどうかを疑う
幸運の持ち主のようだった。

「違う。ここまで引き締まってて綺麗な身体って、初めて見る……から。
 やだな、こんな綺麗なアルトリアをみると、こっちが恥ずかしくなって来ち
ゃう」

 肩を揺らして、ふざける様に笑う美綴。
 バスタオルの胸元を押さえて、正座を崩してぺたんと布団に座り込んでいた。
恥ずかしいというのは言葉の上だけでなく、気後れした様なもじもじとした様
を見せる。
 むしろこの場では、一糸まとわぬ姿を見せているセイバーの方が不思議と落
ち着いている。セイバーの声は、静かに寝室に響く。

「……では綾子も……私に見せてください、風呂場ではあまりよく観察出来ま
せんでしたから」
「あ……そうだね、不公平だもんね……んー、恥ずかしいなぁ……笑わないで
よ」

 そう前置きすると、美綴は立膝になってぱっとタオルを外した。
 思わせぶりにめくっていくことも出来たが、素早く身体を晒して見せたのが
美綴らしい潔さであった。セイバーは座って目線を合わせて、愛しい相手の姿
を目に収める。

「……笑いなどするものですか。
 もし綾子の身体を見て嗤うものがいれば、私が許しません」

 そう、頭を振りながらセイバーは断言する。
 セイバーの目から見ると、美綴の身体は称賛に値するほどに見事であった。
風呂場で衒い無く現れた時に見たのと、今こうやって二人で裸身を晒しあって
いるのは同じではないが、著しい変わりもまた、無い。

「ん……そう言ってくれると、嬉しいね」

 無駄のない身体。
 それが美綴の身体であった。鍛え抜いた細い筋肉の上に、適度な柔らかさの
ある女性の肉がのっている。だがぽってりと筆を油彩に点けるような練る様な
豊満さではなく、墨で早く書いた様な淡さなのに、それに色気が隠しきれない
ような、線。
 肩はしっかりしているが、それでも女性らしいなだらかさがある。胸も張り
のある綺麗な釣り鐘型で、ウェストに下りる線もセイバーのような急峻さはな
く、あくまで女性の身体なのだな、と思わせる。

 セイバーは自分の胸を抱く様な仕草をして、半ば憮然と語る。

「綾子の様な身体であれば、私も悩みは少なかったことでしょう。この様にご
つごつしていると、きっと心地良くないに違いないですから」
「ん……そうかな? ちゃんとアルトリアにも、柔らかいと思ったけど……」

 どこか僻んでいる様なセイバーに、美綴は微笑んで手を伸ばす。
 触るのは二の腕、その滑らかな白く、磁器のような肌を撫でる。

「ほら……ごつごつなんかしてない。こんなしなやかで……信じられないな、
あれほど強く触れるのにこんなに筋肉が少ないなんて……」
「あ……綾子……いえ、私は……」

 腕を撫でられる感触に軽く震えを覚えるセイバー。
 身体を寄せ合い、肩から腕に確かめる様に撫でられる。普段であれば武道家
として身体を見られているので何とも思わないのに、好きあった相手と裸身で
あれば尚更にそれは、愛撫の色合いを帯びる。

 撫でる美綴も、ひそかに息を飲んで、その手に感じるセイバーを覚えている。
 少年の様で、少女でもあり、しなやかで可憐――こんな身体の持ち主が居る
とは思えなかった。部活や稽古で同性の身体を見ることはあったが、ここまで
矛盾した均衡の美を表せはしない。

「あ……綾子……」

 セイバーは、熱く息を漏らしながら手を伸ばす。
 その手は、つんと尖った美綴の形の良い胸に触る。指が触れると、内側から
満ちているその乳房がくに、と歪む。

「んっ」
「あ、その、痛かったですか? すいません……」
「ううん、そんなこと無い……あ、私もアルトリアの胸、触って良い……」

 お互いに肩がぶつかり合うほどに近寄り、互いの身体を触れている。
 美綴の胸を指で確かめているセイバーは、これが女性の身体なのだと感じて
いた。自分のはこのふくよかさはないから、羨ましいとも感じる。
 そしてその相手から、自分の女性である箇所を触られる……どこか恥辱じみ
ていて、ふるりと身体を硬くしそうになるセイバー。

 くすり、と美綴がそんなセイバーを見て口元を緩ませる。
 指が近づけば、セイバーの身体が震えていくのを見ていた。そんな彼女を安
心させる様に首を寄せて、可憐な顔に近づいていく。

「ん……」

 キスする唇。
 柔らかく触った唇は、言葉にはならないが安堵を伝える。間近に見る二人の
瞳が頷きを交わし合う。美綴の指が、胸板の上で膨らんでいるささやかで仄か
な乳房を触る。

「あ……やわらかい……んだ……女の子なんだね、アルトリア……」
「は……ですが、綾子の方がこんなに……気持ちいいですか、私に、触られても」

 ふにり、と指でお互いの胸を振れあっている、美綴とセイバー。
 セイバーの指に触る美綴の乳房は、少女から女に変わりつつある身体の示す、
充実を感じさせた。このまま美綴はきっと自分の憧れる女になっていくのだろ
う、と、それは泣きたくなるほどに愛おしく、憧れる。
 美綴の触れるセイバーの乳房は、少女になろうとする一瞬の時間をつなぎ止
めた様な身体の柔らかさであった。自分が足早に通り過ぎていった時間に、彼
女はずっといるんだろうと――それは崇高で、遠く、眩しい。

「綾子……はぁ……ん……」

 唇を触れ、お互いの胸を愛撫する。
 指で撫で、胸の先端の突起を確かめ、乳房の柔らかさを指先に克明に刻みつ
けようとする。セイバーの胸は撫でられ、美綴の胸は揉まれていた。お互いの
指が動き、お互いの身体に触れるたびに、少女達の唇は甘い吐息を漏らす。

 その息を、間近で吸い、感じる。
 肌の立てるのは石鹸と微かなお互い固有の香り。目を開けば、甘くねだる瞳
がそこに見える。美綴の細い目の中にある情熱的な色、セイバーの緑の瞳の中
には微かな酔色。指が絡み、膝をもじもじとぶつけ合う。

「あ……ん……アルトリア……あは……ん……」
「く……ああ……これ、は……綾子……ふ、あ……あ……」

 唇を開けて、舌を舐め合う。
 可憐な唇から伸ばされた濡れた舌は、その動き故か形故か、ひどく卑猥に感
じられた。視界の隅にそれが映ると、本能がそれを自分の舌で探り、つつき合
う。唇は半ばだらしなく開いて、雫を垂らしあって美綴とセイバーは、舌を絡
め合う。

「ん……はぁ……ね……気持ちいい、アルトリア……私…………んん」
「いいで……す、綾子こそ……もっと、舐めさせて……んちゅ、あ……は……」

 舌をぬらぬらと絡め合う様は、愛する術を知らぬ少女達の戯れとは思えない。
 だが指の彷徨いは、まだお互いの身体を良くは知らぬ証であった。胸を触り
はするが、それ以上の愛撫の技を心得ている訳ではなく、しきりに感触だけを
確かめ合う様で――

「ん……は……」

 唇を離される。
 胸に手を宛ったままで、セイバーは美綴の顔を見た。むずむずとして、くす
ぐったい何かを抱え込んでいるけども言い出せない顔。
 それはきっと自分も同じことなんだろう、と思う。俄に何をするのか、逡巡
が胸を占めた。

 愛撫の指が止まり、瞳を覗き合う少女達。
 キスでも胸の愛撫でも、一旦途切れてしまうと何をするのか、すぐに思いつ
かないのだから。

「あ……ど、どうしよ……あの、もっと、私したいけど……」
「では……あ……その、舐めるというのはどうでしょうか?
 舌と唇でするのは感じると教わって……ああ、ですがそれは主に殿方であっ
て、綾子がその私に舐めれられて気持ちいいかどうかは保証の限りでは――あ
っ」

 しどろもどろに提案するセイバーの身体が、ぽんと押し倒された。
 美綴が、セイバーの身体の上に被さっている。なにも技を使って投げた訳で
はないが、ごく自然にセイバーを下に敷いていた。

「……わかった。じゃ、アルトリアを舐めてあげる」
「あっ、みつ、ではなく綾子、そんな綾子に私がされるというのは、私がしま
すので綾子が気持ちよくなって頂ければ、あ、あああああー!」

 被さった美綴の顔が、胸元に触れる。
 あは、と笑った美綴の頬に、青い果実の様な未熟な胸が触れた。身体に抱き
ついて、頬でふにふにと触ると唇を――

 つん、と尖ったピンクのチクビが優しく美綴の唇に包まれる。

「そこを、綾子――んっ、は……あ……私が……ああ、あ……」
「あん……んー……そうだよね、まだこんな風だから無理すると痛いよね、ん
……」

 舌でゆっくりと唾液を塗る様にして、美綴は舐める。
 まるで舌に甘さを感じているみたいに、目が細めて酔っている。唇が突起を
つつみ、柔らかさのまだ足りない胸の中に押し込み、離すと――つん、と尖っ
て震えている。
 セイバーは指をくわえ、自分の胸を舌で愛撫する愛しい人の姿を見つめている。

「あ……指でも……してください……綾子、こんなお願いをするのは……ああ
……」
「いいの、アルトリアだって気持ちよくなりたい……だもんね、わたしも……」

 セイバーの身体に自分の身体をもどかしそうに擦りつけながら、美綴は舐め
続ける。
 セイバーの背中が軽く弓に反る、それは美綴の舌が、指が動くたびに敏感な
セイバーの身体に快感が響くから。細いセイバーの身体は、美綴の逞しくも美
しい身体に抱きしめられ、まるで美しいハープの様に――

「ああ……は……いい、です……そこ……私、ああっ……」
「ちゃんと感じる……よね、嬉しい……ん……はっ、ああ………」

 美綴が確かめる様に訊ねると、こくこくと頷くセイバー。
 背中に伸びた美綴の手が、するりと脊髄の窪みをなで下ろす。それは良く張
った弓を撫でるみたいで、指に伝うのは漆の滑らかさではなく、肌のきめ細か
な柔らかさであった、が。

「はああああっ!」
「あ……もしかして、こっちのほうが……感じる? アルトリア?」
「あ……はぁ、あ……背中を直に触られるのは、私は慣れませんからくすぐっ
たくて……」

 思わぬ反応に顔を上げた美綴に、恥ずかしそうに呻く。
 くすぐったい――その言葉を聞いた美綴が何かを思いついたように、にんま
りと笑う。夕陽の中で笑う彼女に、全てを預けながらもどこか怯えるセイバー。

「あの、くすぐったいのときもちいいのは違います!」」
「ううん、そこは敏感だってコトだから――ふーん、じゃ……」

(続く)