Interlude 2
気が付くと、床の上に倒れていた。
視界に入る風景には見覚えがある。ここは柳洞寺。忘れるはずも無い、私が
死ぬべきだったところ。取り返しの付かない過ちを犯したところ。
「シロウ! シロウは……」
上体を起こし、周囲を見回すが、シロウの姿は無い。
言いようの無い不安に襲われながらも、立ち上がる。そう、私がまだこの世
界に在るのなら、立ち止まっている暇はない。
立ち上がると、何か硬い物が落ちる音がした。
反射的に目を向けると、シロウの短剣が足元にあった。どういうバランスで
落ちたのか、直立して独楽のように回り、そして倒れた。
この剣の先にシロウが居る。
私とシロウの縁は剣だ。まして、この短剣は、シロウが私を繋ぎとめたもの
だ。だから、この短剣の示した先にシロウが居る。そう信じた。
短剣を拾い上げ、その切っ先が指していた方へと駆け出す。
少し行くと、大きな池があった。しかし、シロウの姿は無い。
と、水面が揺れた。波紋が広がり、その中心に、指先が見えた。
見つけた。
まるで空を掴もうとするかのように、シロウが腕を伸ばしていた。
抱き上げると、力なく私にもたれ掛かり、それでも苦しげに水を吐いた。
生きてる。
急いで岸に上がり、出来るだけ水を吐かせる。
呼吸はしているが、肺に水が入っているかもしれないし、体温も低い。急い
で手を打たないと。
教会に運べば……いや、あの神父は既にサクラに治癒魔術の全てを使ってし
まった。
「リンの家に運びます。急ぎなさい」
いつの間に現れたのか、ライダーが立っていた。敵意はなく、その言葉に偽
りも感じられない。
「今、士郎を助けられるとすれば、リンしかいないでしょう。イリヤをフォロー
に向かわせます」
「リンも無事なのですね?」
「失血が多く、肉体へのダメージは深刻ですが、魔力の充填とともに回復に向
かっています。命に別状はありません」
良かった。シロウは助かるだろう。そして、シロウが目覚めたときに側に居
て欲しい人達も生きている。
私は……裏切り者は、その「側に居て欲しい人」に含まれはしないだろう。
そう思うと、胸に剣を突き立てられたような痛みが走る。
だが、シロウが生きていればそれ以上は望むべくも無い。私が望んだのはシ
ロウを守ること。シロウが助かれば、それで私の望みは果たされる。それ以上
の何かを求める必要も資格も無い。
シロウを抱き上げ、遠坂邸へと走り出す。シロウを助けるために。
(To Be Continued....)
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