Blue, green and bright


 空が、見える。

 見える、ということはまだ生きているのだろう。
 気が付けば、水の中。だというのに、不思議と苦しくない。生きてはいると
しても、もう、苦しいと感じることすら出来ないほどに壊れているのだろう。
 何があったのか、何をしていたのか、なぜ水の中にいるのか、もう何も思い
出せない。
 でも、苦しくないし、綺麗だと感じられる。だから、それでいい。

 水底から見上げる青い空は広く、澄んでいる。きっと日差しは暖かく、風は
気持ちいいのだろう。
 起き上がる力は無い。それでも、左手が疼く。疼きを感じられるなら、なん
とか動きそうだ。
 手を伸ばせば、指先ぐらいは、水面に届くかもしれない。最後に、日差しと
風を感じられるかもしれない。
 そう思うと、左腕が、まるで他人のもののように、勝手に動いていた。
 指先が、辛うじて水面に届いた。でも、それだけ。
 水面に指が届いても、指先だけでは日差しの暖かさなんて、風の柔らかさな
んて感じられない。なにより、腕は動いても、自分の体とは思えないほどに、
感覚がなかった。
 でも、満足した。
 自分がやってみようと思ったことを、最後までやったんだから。

 左手が、疼いた。
 疼きと共に、感覚も伝わり、水の揺らぎが感じられた。水面が揺れると、空
も揺れて見える。ああ、きっと、気持ちのいい風が吹いているんだろう。

 不意に、日が翳った。

 目に映ったのは少女の顔。その碧の瞳は、湖水のように深く、澄んでいて、
金の髪は暖かい日差しを思わせた。髪の揺れはそよ風の証。
 まるで、水と風と太陽の化身のような、とても綺麗な少女。
 その少女が、手を差し伸べてきた。きっと、助けてくれるのだろう。
 でも、この少女は、なぜ、うれしそうなんだろう。
 それは、救いの手を伸ばしているのに、救われたのは自分であるかのような、
そんな表情。
 そういえば、昔にも、そんな表情を見たことがあるような気がする。
 遠い昔、どこで、だれが見せたのか思い出せないけれど。
 でも、その人についていった先は、みんな、幸せなところだったような気が
する。
 だから、きっと、この少女についていけば、また、みんな幸せになれるのか
もしれない。
 だから、この少女についていきたい。みんなが、幸せになれるように。
 そうすれば、大切な約束も守れると思う。
 どんな約束か忘れてしまったけれど、それは、とても、幸せな約束だったは
ずだから。

 体が抱き上げられるのを感じながら、意識はゆっくりと沈んでいく……



(To Be Continued....)