「はぁ……はぁ……はぁ……」
「はぁ……はぁ……はぁ……」

 秋葉の喘ぎ声とシンクロして、もう一人分の声がする。
 見ると、アルクェイドが秋葉の肩口に顔を埋め、背中を上下させていた。
 なんというか、苦しげに荒く呼吸しているように見えた。

 言わんこっちゃない!
 慌てて前に飛び出した。

「アルクェイド!しっかりしろ!」

 怒鳴りながら、アルクェイドの肩を掴んで引き起こす。

「え……?」

 アルクェイドが、きょとんとした表情で俺の引き攣った顔を見た。

「ちょっと、志貴、なにをそんなに慌ててるのよ?」
「慌てるに決まってるだろ!お前、今、吸血衝動が……!」

 俺がそう言ったとたん、アルクェイドが笑い出した。

「あはははは!ち、違うよ、志貴。
 わたしが妹の鎖骨を舐めたら、妹が反応して震えただけだよ。
 妹がまた可愛い声出すから、わたしもちょっとその気になっちゃったけど。
 それで、志貴ってばわたしが吸血衝動で震えてると思ったのね」
「あ――――なんだ。そうだったのか……」

 安堵のあまり、思わず脱力して呟いた。

「心配してくれてたんだ、志貴。わたしのこと」
「う……。あたりまえだろ……」

 ぽつりとそう言って、アルクェイドがソファから立ち上がる。
 あまりに強烈なうろたえぶりをアルクェイドに見せてしまった直後だけに、
照れ隠しにあさっての方を向いて応じた。

 次の瞬間。
「嬉しいよ、志貴!」
 どん、と、横手から白い物が凄い勢いでぶつかってきた。
 ようするに、アルクェイドが凄い勢いで抱きついてきたんだけど。
 首にアルクェイドの両腕が巻きつき、唇が塞がれる。

「んん……っ」

 アルクェイドの腕に力がこもり、さらに引き寄せられる。

「んふ……んぅ…………ふっ!」

 息も出来ないくらい、きつく。
 こっちも、夢中で応じる。
 噛みつくようにキスし、舌で舌を絡め取り、口腔を、歯茎を、探り回る。

「んっ……ん…はぁ……ぅふ……」
「ほらほら、秋葉さま、志貴さまとアルクェイドさまがらぶらぶですよー」
「……うらやましいです」

 琥珀さんの楽しそうな声。
 翡翠の変に冷静な声。

 秋葉は、なにも言わなかった。
 そのことに気づいて、ようやく本来の目的を思い出した。
 どちらからともなく唇を離す。
 息をすることも忘れていたので、とりあえず深呼吸。

「………………は――――」
「……わたしたちだけでしてても、意味ないんだよね」

 まだ俺の首に腕を回したまま、アルクェイドがくすっと笑う。

「妹にもしてあげないと」

 アルクェイドが俺から離れ、ソファの前に戻った。
 秋葉の肩を掴んで引き起こし、3人掛けのソファの中央に座らせる。
 アルクェイドは、秋葉の左横に片膝を突き、右手を秋葉の頭に回す。
 右手で秋葉の頭を引き寄せ、耳たぶに唇をつける。

「やめなさい。聞こえないんですか、アルクェイドさん。……やめなさい!」

 頭をアルクェイドの腕にがっちり固定されて動かせない秋葉は、耳の周りを
舐められながら、きつい口調でアルクェイドを制しようとした。
 だがそれも、アルクェイドに耳たぶをこりっと甘噛みされるまでだった。

「………………っ!」

 秋葉が首筋まで真っ赤にして、唇を噛んで声を呑みこんだ。

「あ。気持ちよかったのかな、妹?」
「……ち、違いますっ!は、離しなさ…いっ!」

 途中で秋葉の声が裏返ったのは、アルクェイドが左手で秋葉の鎖骨に沿って
つつっと指を這わせたせいだ。

「あはは。ここ、弱いんだね、妹」
「く、くすぐったいだけですっ!」
「ふーん、そうなんだ?」

 アルクェイドは秋葉の頭に回していた右腕を解くと、秋葉の左隣にすとんと
腰を下ろした。
 やおら秋葉の、ずり落ちたドレスから覗く薄い胸に左掌を持って行く。

「だったら、ここはどうかな?」

 薄い秋葉の胸を掌で覆い、じわじわと撫で上げ、撫で下ろす。
 そうしながら、秋葉の耳に唇を寄せ、からかうように訊く。

「ねーねー妹、気持ちいい?ねーねー、気持ちいい?」
「こ、こんなことされて、気持ち…いいわけ…ないでしょうっ!……あっ!」
「最後の『あっ!』はなにかな、妹?」

 アルクェイドが、秋葉のぴんと勃ち上がった乳首を抓るように摘みながら、
秋葉の耳元で尋ねた。

「………………」
「秋葉さまー、正直になった方が楽ですよー?」

 唇を噛んで声をこらえている秋葉に、右肩越しに身を乗り出した琥珀さんが
こちらも耳元に唇を寄せて声をかけた。
 耳に息を吹き込まれて、秋葉が、ぶるっと身体を震わせる。
 それでも、秋葉は、固く目を閉じて答えない。

「本当に、秋葉さまは強情ですねー」

 琥珀さんが身を起こしながら呟いた。

「でしたら、遠慮はいりませんねー」

 言いながら、琥珀さんがソファの背凭れを回りこむ。
 そして、すっと秋葉の右隣に腰を下ろした。
 そのまま、右掌で秋葉の胸を愛撫し始める。
 まるで、アルクェイドの動きを鏡に映したみたいに、左右対象の動きで。

「あ、あぁぁっ!」

 アルクェイドと琥珀さんが、左右から秋葉の胸に吸いついた。
 秋葉が頭をのけぞらせ、甲高い声を上げた。
 それまでぴったりと合わされていた秋葉の両脚が緩む。
 爪先が反りかえり、踵が床から持ち上がる。

「ん……う………っ」

 アルクェイドと琥珀さんは、横から舌で秋葉の乳首を重点的に責めながら、
ゆっくりと手を下に向かって滑らせて行く。
 ドレスの胸元の弛みをさらに引っ張って、下乳を撫でる。

「ふ…あ……あぁぁ……」

 アルクェイドの左手が、琥珀さんの右手が、秋葉のお腹を滑り下りて行く。
 平らなお腹を下り、お臍の脇を通過する。
 そこで、捲り上げられたドレスの裾にぶつかる。
 ふたりの手が、秋葉の腰のあたりで波打つドレスの裾を乗り越える。
 ふたりの指が、秋葉の太腿の付け根のあたりをくすぐる。
 しばらくそのあたりを前後してから、ふたりの指が、さらに下へ。

 ふたりの指先が秋葉の薄い翳りに隠れる。

「だ、だめ……っ!」

 秋葉が身体を強張らせて叫んだ。
 だが――――

「……え?」

 ふたりの指は、すうっと左右に別れ、秋葉の太腿の内側に滑り降りた。
 肝心なところを避けて、焦らすように、じわじわと。

「う…………」

 太腿を這い回るふたりの指先を、秋葉が肩で息をしながら見下ろしている。
 秋葉が膝を合わせようとしたが、いつの間にかアルクェイドと琥珀さんが、
秋葉の脚の内側に自分の足を挟み、脚を閉じられないようにしていた。
 秋葉の太腿の内側、付け根のあたりが濡れ光っているのがわかる。

「に、兄さん、み、見ないで!見ないで下さい!」

 じっと見ていると、秋葉が必死の形相で懇願してきた。

「見たいんだ。秋葉のそこ。……濡れてるのかな」
「い、嫌……っ!」

 涙を零しながら、秋葉が顔をそむけた。
 いや。顔をそむけようとした。

「いけません、秋葉さま」

 琥珀さんが、空いた左手で秋葉の顎を掴んで顔を正面に引き戻した。

「志貴さまに、もっと可愛いお顔を見て頂かないと」

 言いながら、琥珀さんが秋葉の既に濡れ切っているところに、指を――――

「やめて………」

 くちゅ。
 湿った音が聞こえた。
 琥珀さんが、既に濡れていた秋葉の中に指を差しこんだみたいだ。

「あぁぁぁぁぁぁっ!」

 これまで散々焦らされていただけに、これは効いたらしい。
 秋葉が頭をがくがく震わせながら絶叫した。

「あ。抜け駆けはずるいよー、琥珀」

 アルクェイドが秋葉の薄い胸から顔を上げ、頬を膨らませた。
 そうしながら、アルクェイドも、秋葉に、指を――――
 琥珀さんは手を引いてそこを譲る。
 いや。
 琥珀さんはアルクェイドに譲ったのではなく、また抜け駆けした。
 今度は、もうちょっとだけ上の、秋葉の一番敏感なところへ。

「あっ!そこぉ…っ!だめ……だめ!だめ!」

 秋葉がいやいやをするように首を振るたびに、長い黒髪が揺れる。
 さっきまで揃えられていた両脚が跳ね上がった。

「あ、あぁ…あぁ…あはぁ…あ………え……?」

 頭を大きくのけぞらせ、白い喉を晒していた秋葉が、不意に目を見開いた。
 もう少しで軽い絶頂に達する、というところで、アルクェイドと琥珀さんの
指が動きを止めたのだ。

「う…………」

 秋葉が膝を身体の方に引き寄せて両足を浮かせた。
 じれったそうな、太腿を擦り合わせるような動き。

「ねーねー妹、物凄い濡れてるよ。ほらほら」
「秋葉さまー、ここ、ピーンって勃ってますよー?」

 アルクェイドが、秋葉の股の間から左手を抜き、愛液で濡れ光る指を秋葉の
目の前に突きつける。
 琥珀さんは琥珀さんで、指の腹で秋葉のクリトリスを弄りながら、笑顔で、
それもどこか壊れた感じのする笑顔で、言った。

「う、嘘ですっ!」

 秋葉は固く目を閉じて、アルクェイドから顔をそむけた。
 本当は耳も塞ぎたいんだろうけど、琥珀さんに後ろ手に縛られていた。

「ふーん。まだそういうことを言うんだ、妹は」

 言いながら、アルクェイドが秋葉の頬を濡れた指で、ぷに、と突ついた。
 琥珀さんが小さくため息をつく。

「秋葉さまー、もう少し素直にならないと志貴さまに嫌われちゃいますよー」
「――――――っ!」

 琥珀さんにそう言われたとたん――――
 秋葉がぎくっと身体を強張らせ、目を見開いた。
 怯えた顔。
 縋るような、物凄く不安そうな目で俺を見る。

 秋葉に、なにか言ってあげないと。
 そう思った。
 兄として。
 秋葉の兄として、なにか、言ってあげないと。
 でも、この状況でなにを言えば?
 ――――わからない。
 わからない。わからない。
 わからない。わからない。わからない。
 わからない。わからない。わからない。わからない。
 わからない。わからない。わからない。わからない。わからないわからない
わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない
わからないわからないわからないわからないわからないワカラナイワカラナイ
ワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイ
ワカラナイ――――――

「志貴さま、混乱してますねー?」

 琥珀さんが俺の様子を見ると、袂を口元に持って来てくすくす笑い出した。

「やっとお薬が効いてきたみたいですねー」
「く、薬?」
「はい。先ほどの紅茶に、軽い向精神剤をちょっとだけ」

 あくまでもニコニコと、琥珀さんはとんでもないことをのたまった。

「紅茶にって…でも、みんな同じポットから――――」
「はい。そうすれば、なんの疑いもなく飲んで頂けますからねー。
 ですからお薬は、志貴さまのティーカップの方に塗っておいたんですよー」
「そ、それで?向精神剤って、一体――――」
「大丈夫ですよー。気分が楽になるだけのお薬ですから。習慣性も低いし」

 琥珀さんは、全く悪びれた様子もなく答えた。

「そそそ、そんな物騒な物を、どこで?」
「嫌ですね―、そんなの薬局に決まってるじゃないですかー」
「向精神剤って麻薬みたいな物だろ?なんでそんなのが薬局にあるんだよ!」
「きちんとしたお医者さまの処方箋があれば、普通に手に入るんですよ」

 言葉を切り、琥珀さんはふっと薄い笑みを浮かべた。
 いつもとは違う、光のない、昏い目。
 壊れたような、薄っぺらな、笑顔。

「……槇久さまが性格破綻者だったのは、志貴さまもご存知ですよね。
 ある時は衝動的に暴力を振るい、ある時はそれを思い出して自己嫌悪する。
 ほとんど二重人格みたいでした。
 それで、鬱の人格の時に衝動的に自殺なんかしないようにと、主治医の方が
処方されたお薬が、それでした」

「まさか――――さっきアルクェイドに言ってた『段取り』って………」
「はい。このことだったんですよー」

 俺が言い終わる前に、琥珀さんは大きくうなずいた。
 ――――楽しそうに。

 いつの間にか、いつもの琥珀さんに戻っていた。

「――――さてと。完全に効いてくるまで、あと少しかかるみたいですねー」

                                           《続く》