十二分な張りと硬度を取り戻したそれを秋葉は口から放すと、無言で志貴を見あげる。言われた通りのことはしたという意思表示なのだろう。

「ああ、ありがとう」

準備ができたのを確認すると、彼は秋葉をうつぶせに寝かせた。

「お尻を高くあげて」

命令通り、秋葉は膝を立てて二つの秘所が露わになる姿勢を自ら取る。
何の反応も見せず、ただ、淡々と志貴の命令に従っていた。
だからこそ、アルクェイドは彼女から激怒を感じてしまうのだ。

一方、志貴は純粋に秋葉の素直さを喜んでいるようだ。
彼は秋葉に近づくと、未だ彼が放った精が垂れている膣に亀頭をこすり付けその感触を楽しみ始めた。
すると、今まで聞いたことがない鼻に掛るようなくぐもった嬌声が部屋に響く。

「う、ぅん……ぁ、ゃ……ぁ」

秋葉のものだ。
挿入によって生れる刺激は秋葉にとって不満だらけのようだが、この種の柔らかな刺激は心地よいようである。特に、彼女のもっとも鋭敏な芽に触れられる度に声が漏れてしまう。それは、自分で慰める時と違って要領を得ないものだが、それでも感じるものは感じる。彼女の気分とは無関係に。

志貴はその反応を特に気にしなかった。
なぜなら、彼は秋葉がすでに何度も絶頂を迎えたと思い込んでいる。彼自身と同じく。
そうでなければ、無茶な要求などするわけがない。少なくとも、彼自身は女性を好んでいたぶる趣味はないし、キレた場合は自覚が無いので酷いことをしている意識もない。
だから、刺激に合せてわずかに跳ねる彼女の尻を見ていても、その変化の重大さにまるで気づかなかった。

「ふぁ…ぁ…ぅふ。ひん…ぁぁぁっ」

執拗に擦り付けていると、秋葉は鳴きながら腰をびくびくと跳ね上がた。そのたびに、彼女の中から彼が放った精が溢れ出し彼の陰茎を汚して行く。
その動きを面白く思ったのか、芽を重点的に亀頭の先で責め続けた。

「……ぁ。らめぇ……めぇ…なの」

次第に彼女の腰の動きが大きくなり、一瞬体が外れてしまう。
そして、再びバウンドして降りてきた下腹部と亀頭が当たる。膣ではないもう一つの秘所に亀頭の先が少し埋まってしまっている。

「ひあっ」

思わぬところに異物感を感じ、一瞬にして興奮が醒め冷静さが戻ったのか、秋葉は前に向かって倒れることでその刺激から逃れた。
慌てている秋葉とは正反対に、落ち着いている志貴は先程のアクシデントに興味を引かれたようだ。
しげしげと秋葉の裏門を見つめるとぽそりと呟く。

「……試してみようかな?」

早速、人差し指をぺろりと舐めると、秋葉の裏門に静かに埋めはじめた。

「ぎっ」

裏門をこじ開けられる感覚に、さすがに秋葉は低く悲鳴をあげた。触れただけで逃げ出したのに、いきなり指を埋められるなどとは予想をできるわけがない。
第二関節まで埋没させると、膣圧とは比較にならないほどの圧力が指を締め上げる。その感覚は彼の興味を引くのに十分であった。

「あ、秋葉。こっちも貰って構わないかい?」

一片の悪気もない声で志貴はそう語る。了解を得ようとしているのが悪気の無い証拠だ。

「嫌と言ったらやめてくれるんですか?」

そのどうしようもないほど冷たい声は、もはやただの観客となっているアルクェイドの心胆を寒くする。彼女はそれでも何かを言おうとしたが、結局やめてしまった。
もう、遅いのだ。
秋葉は言った。毒喰らわば皿までと。
なら、毒は膏肓に至ってしまっている。アルクェイドが何を言っても無駄だ。志貴自身の意志で止めるなり謝らなければ。

「つれないことを言うなよ。おまえだって楽しんでいるから素直になっているんだろう?」

その言葉に志貴から見えないものの、秋葉は顔に血が上って行く感覚を覚えた。たしかに、つい寸前までの愛撫で自分は感じていた。もう少しアレが続けば絶頂を迎えられたほどに。
楽しんでいたと言われれば、違うとは言い切れない。
こんな状況で、こんなに嫌な気分になりながらも、たしかにあの瞬間は夢中になっていた。
だからこそ、売り言葉に買い言葉の文句を叩き付けた。
自分自身の迷いを消すように。

「素直? そうですか。では『兄さんの見ている秋葉』の望むことをなさってください」

秋葉の言葉が終るやいなや、志貴は自分自身を静かに秋葉の裏門へと埋めていった。
どうやら「志貴の見ている秋葉」は、彼が望むことを喜んで受け入れるようだ。
部屋の片隅で、それを見ていたアルクェイドが「知〜らないっと」と口の中でモゴモゴ言っていたことを、秋葉の後ろの処女を奪うことに夢中の志貴が気づくはずもなかった。
潤滑液となるのは、亀頭にわずかに付いた血と精液と愛液の混合物だけ。そう、彼が裏門に入れる前に遊び感覚で軽く膣を責めていたときに付着したものだ。

それで、ほぐしてもいない秋葉の中に埋めて行く。彼にとってもきつい処女の膣圧を軽く凌駕する圧迫感はなかなか難儀なものであった。
もちろん、攻める志貴が苦痛を感じるのであれば、受ける秋葉のそれは生半可のものではない。

「ああぁぁっ。くぅっあっ」

痛い、苦しいなどの悲鳴すら遠い。言葉にならない声が喉から漏れるだけだ。

古い隠語に「天悦」と「大悦」という言葉がある。
その意味は、字を分解してみればわかるだろう。
「天悦」とは、「二人で悦ぶ」。つまりは男女の性交のことである。
二人で悦ぶことが、男女の営みの本義であるということだろう。
対して、「大悦」。これは「一人で悦ぶ」即ち、肛門性交や自慰を指す。
肛門性交で悦ぶのは攻める側のみ、受ける側は苦痛のみを得る。
それは、自慰と同じ孤独な快楽なのだろう。

志貴は、その孤独な快楽を心置きなく楽しんでいた。
秋葉の泣声は、破瓜の時のものより、高く、大きい。意志の力で抑えるだけ抑えてもなおも口をついて出る声。
それこそが純潔を奪うことの暗い楽しみ。
彼の中にある闇の部分は、喜びを貪り喰らい続けている。

ところが、ふいに、彼は秋葉から彼自身を抜いた。
終わったものだと、大きく息を吐いて呼吸を整えている秋葉をころんと半回転させて仰向けにする。

目を瞬かせている秋葉の太股の辺りで丸まっているパンティを足首まで下ろした。これで秋葉の足は広げることができるようになった。その足の間に頭を入れると両足を担いだ。そして、再び裏門に自身を埋めると突きはじめる。
志貴の目線からは、秋葉の顔と動くたびに膣から彼が流し込んだ精液が吹き出すのがよく見える。

思えば最初の性交の時は、志貴は彼女の顔を見なかった。
しかし、口淫の最中、彼は彼女の表情を楽しむことを覚えたのだ。
やはり、フィニッシュは心置きなく最大の快楽を得ようとしたのだろう。
そして、その考えは上手くいった。
腰を動かしながら見下ろしてみれば、苦しい体勢の中、彼を見つめながら必死に涙を堪えている秋葉の姿が見える。
その顔は、実に綺麗だ……と志貴には感じられたようだ。

一方、秋葉は志貴の見たように涙を耐えている。
だが、それは痛みを耐えているわけではない。
羞恥に耐えているわけではない。
ついさっきまで、泣くまいという努力が崩れたのはそんな体の刺激によるものではい。
それは志貴と同じく視覚による刺激のせいであった。

自身の体重と打ち付けてくる彼の勢いを、両肩と頭で受けるという無茶な姿勢を取らされている。目を瞑って全く別のことを考えるか、それこそ性行為に集中した方が楽だろう。
なのに、彼女は志貴から目が離せない。
がくがくと激しく振動する無理な姿勢の中でも、その視線は揺るがない。

彼女は見続けていた。
それは、彼の顔でもない。
それは、彼の目でもない。
彼女の心を揺らしているのは、「彼」ではなかった。

秋葉の感情を千々に乱しているのは、彼女の瞳を捕らえて離さないのは──志貴の胸に穿たれた大きな傷痕であった。
それは、八年前、彼女の危機を救ってくれたナイトが負った名誉の傷。
それは、命をかけて「あきはのにいちゃん」たらんとしたものの証。
それは──、今はもうない、優しかった七夜志貴の忘れ形見。

自分を護って逝った者は、奇跡か魔法か偶然かは知らないが蘇った。
それを秋葉はどんなに喜んだろう?
生きているだけで十分。そう思いつつも、彼女は彼を「兄さん」と呼んだ。
それは彼の今際の際の悔恨の言葉──、

『ぼくがほんとうの家族だったら、きっと、あきはをまもれるのに』
『くやしいな──あきはの兄ちゃんに、なれなかった』

に対する秋葉からの答え。
秋葉が自ら選んだ「兄」。
彼こそがただ一人の家族。

なのに。
それなのに。
この男は何をしているのだろう?
獣のように己の快楽を貪っている。嬉々としながら秋葉の尻を犯しているのだ。

『何よりも──誰よりも大切にするって、誓ったのに』

最後の力を振り絞ってそう言ってくれた、あの七夜志貴はどこに行ってしまったのか?
七夜志貴が遠野志貴となったことで、弱者を犯し弄ぶことしか能が無い汚らわしい「遠野」の男共と同じになってしまったのか?

胸を突き動かす衝動に秋葉の目頭が熱くなってくる。
孤独と背信と重責の中、たった一つだけあった拠所が、希望の灯が、今消えようとしていた。

「秋葉。あき…はっ」

かっての想い人と同じ声をした別の「モノ」が馴れ馴れしく彼女の名を呼ぶ。

「も、もう……」

あの優しかった面影を持つ「モノ」は終りへと向けて自らスパートをかけている。

「うっ。うぁ……」

吼える声と共に放たれた彼の精が、彼女の直腸に溜まって行く。それでも、まだ飽き足らないのか、引き抜いた彼自身を秋葉の腹に胸に、そして顔へと向けた。白い排泄物で、秋葉を汚すために。

秋葉はただ、それをじっと眺めている。
純潔を奪われてから、敢えて彼の為すがままにされていた。そして、彼を観察していたのだ。
目の前にいるのが、果たして自分の想い人であるかどうかを見極めるために。

三連続の精の放出で、さすがに男は力を使い果たしたのか、秋葉から体を放すと座り込んでしまった。
そこに横合いから声がかかる。

「志貴、もう、いいでしょ?」

アルクェイドの声だ。騒ぎの元凶はこの狂った宴が終りを迎えたことを知ったらしい。

「ああ、もう終わったから」

そう、男が言った。
だから、秋葉も返した。

「そうね。もう終わったわね」

そう、終わったのだ。長い夢が。

(To Be Continued....)