(4) その剥き出しの糾弾の言葉にさすがの志貴も慌てる。 「あれはアルクェイドが悪いんだ。こいつが俺を凶暴にさせたから──」 「それなら、今は私が悪いんですの? 兄さんを凶暴にさせた私がみんな悪くて、兄さんは何にも悪くないとでも?」 秋葉の目の前には壁があるだけ。志貴は彼女のお尻を見下ろしている。視線どころか顔も合わさない奇妙な舌戦である。 「ああ、そうだよ。こんな姿を見せられておかしくならない男がいるかよ?」 「それを我慢するのが人でしょう? 我慢もできないなんてケダモノじゃないの!?」 開き直った兄妹の口喧嘩にアルクェイドはどうしたら良いのかわからず、ただおろおろとしている。 「我慢? そうか、でもこれからは我慢することがないぞ。いつでも愛し合えるんだからな」 「愛し合う? 笑わせないでよ。私のことを全然考えてない兄さんが『愛』なんて言葉を使わないで。兄さんのしようとしていることは、強姦でしょ! ただの排出行為よ!」 その一言で志貴はキレた。 彼の本来持つ獣性──それは遠野の名を持つ男性と根本はまるで変らない支配欲と嗜虐性──がその一言でストッパーを破って現れた。 「ああ、わかったよ。なら、おまえの中に排出させてもらうよ」 「勝手にすれば……ひぐっ」 最後まで秋葉は言葉を言えなかった。志貴自身が彼女の未開拓の膣に侵入したからである。異物感と、それに続く鈍い痛みに秋葉の顔が歪む。 志貴はかってアルクェイドにしたよりも、さらにゆっくりゆっくりと破瓜を為している。端から見れば楽しんでいるようにも見えなくもない。 いや、絶世の美女たるアルクェイドに比肩しうる美少女の純潔を奪っているのである。理性が麻痺している彼がその快楽に酔わないはずがない。 対する秋葉は唇を噛み締めたまま痛みに耐えていた。体がぶるぶると小刻みに震えている。 「大丈夫? 何でもいいから叫べば、少しは気が楽になるよ」 アルクェイドのアドバイスに秋葉は苦しげな息づかいながらも断固とした口調で言った。 「い……や…よ」 「え?」 「泣き…叫んだ…ら、兄さん…が喜…ぶだけ…じゃない」 ある意味、それは正確な指摘であった。支配・被支配の歪んだ一面を幼少期から見せつけられている彼女は、支配する者の残虐な愉悦を知っている。その暗い感情が性交の時に増幅されるということも、幼い琥珀を犯す父の姿を見て嫌というほど知っていた。 (──同じじゃないの。こんなの、お父様と同じじゃない!!) 秋葉が歯を食いしばって言葉を飲んでいるのは、彼女が口にした理由以外のものもある。 迂闊に叫べば、泣いてしまうだろうから。 悲しくてでも、ましてや嬉しくてでもない。それは悔しさだ。 彼女が志貴を兄と呼んだのは、この人だけが自分を裏切らないと信じたから。 自分を愛していると言いつつ、その歪んだ性癖と異常な行動から彼女を苦しめ続けた父や兄を彼女は家族とは認めなかった。 だからこそ、志貴を慕った。この人だけは、自分の真心を尽くしても足らない相手だと思っていたのに──。 苦しい体勢の中、秋葉は顔を横に向ける。その視線の先には、琥珀と翡翠の姉妹がいた。彼女たちはアルクェイドの術にかかっているためか、呆けた顔をして突っ立っているだけだ。 姉が陵辱されるのを見て男性恐怖症になった翡翠は、今の自分と志貴の姿を見たらどう思うだろうか? 今まで通り志貴に仕えることができるであろうか? そして、琥珀。 犯される者とそれを見る者。かってとは主客が逆転している。 在りし日の自分のように強姦されている秋葉を見たら彼女はどんな感想を持つであろうか? ──同じだと思うのではなかろうか? 二人は言うだろう。所詮、男は誰でも同じだと。 翡翠の恐怖は正しかった。 琥珀の乾いた絶望も正しかった。 そんな二人を見てきた秋葉は、そこから何を学習したのだろう? 志貴だけは違うという思い込みか? いや、たしかに違っていた。八年前の七夜志貴は。 今際の際に「あきはのにいちゃんになれなかった」と詫びた七夜志貴ならば。 だが、七夜志貴の面影を持つ遠野志貴は秋葉を組み敷いて腰を振っている。 (信じてたのに。兄さんだけは、私を裏切らないって信じてたのに) そう念じた秋葉の口中には錆びた鉄の味がした。 強く噛み締めた唇から流れた血。 血。 青い空と緑の草原に舞ったもの。 それは秋葉を守る騎士の証。 彼の返り血を全身に浴びるまで、その真心に気づきもしなかった自分。 今、秋葉が破瓜の血を流しているのは八年前の清算か? 胸に大穴を空けられた彼が受けたであろう痛みに比べれば、それは痛みとは呼べないものだ。 あの時の彼が、七夜志貴がしたのであれば喜んで受けたであろう痛み。 しかし、秋葉に喜びは微塵もなかった。 代わりにその胸の奥から湧き出してくるのは、大いなる疑惑。 七夜志貴と遠野志貴は果たして同一人物なのか? 昨日までは、いや、彼に犯されるまでは想像すらしなかったこと。 その疑惑が膨らめば膨らむほど、口中の血が苦く感じる。いつもは蕩けるような甘さを持つ血の味が、舌を、そして心を刺した。 今、秋葉は後背位という態位で犯されている。 ただでさえ男性側としては相手を犯しているという支配欲を刺激する態位に加え、下着は上も下もずらしただけ、さらに両手両足を服の切れ端で縛っていた。 そんな姿で、プライドが高い見目麗しい少女が、涙を堪えて痛みに耐え忍んでいるのだ。志貴の興奮はいやがうえにも高まっているようで、憑かれたように一心に腰を振っていた。 獣のような交合の最中、ふいにぽたたっという水音がした。 その変化に、志貴はふいに腰の動きを止めると、床を凝視しはじめた。 志貴の手により当人の意志とは無関係に高く上げられた秋葉の尻。その結合部から、初めて破瓜の血以外のものが床に落ちた。彼女の意志に関係なく分泌された愛液である。 「なんだ、秋葉も感じているんじゃないか?」 あっけらかんとした声で志貴はそう言う。 「志貴、それって凄い勘違い……」 アルクェイドはぶつぶつとそんな言葉を志貴に向かって呟くものの、彼はまるで気にせず、秋葉に向かって話し掛ける。 「秋葉の中、凄く熱くなってきているぞ」 「……そうですね」 秋葉は素直に答えた。 彼女の視界の端にいるアルクェイドが目を丸くしている。どうやら彼女は自分がそんな風に答えるとは思いもしなかったようだ。 言うまでもなく、秋葉は自分の体の変化はわかっている。自分の陰(ほと)が熱く濡れそぼってきていることがわからぬわけがない。そして、それを否定したところで、彼女と繋がっている志貴をごまかせないこともわかっていた。 「もっと、深く入れてもいいか?」 今までだって、情容赦無く責めていたのではないか? と、秋葉呆れつつ答えた。 「ご勝手に」 その言葉を了解と取ったのか、志貴は秋葉の腰をしっかり押さえると腰の動きを早めはじめた。 それまでは濡れてない中、文字通り無理矢理行っていた抽送だが、潤滑液で潤うことにより、それまでとは比べ物にならないくらいスムーズな抽送が可能なっていた。今では彼が思うがままに突けるわけだ。 それを受ける秋葉には、鈍くなってきた破瓜の痛みと異なる鮮烈な痛みが襲う。子宮口を叩きつける連撃が彼女の脳をミキシングする。 それは、喩えるなら杭打ち。 一撃、一撃、脳天に突き刺さるような衝撃。 根元まで一気に入れるストロークの長い突きを喰らうたび、秋葉の閉じた口からは「ひうっ」「ぐぅっ」とくぐもった悲鳴が漏れる。 その声をBGMに志貴は軽快に腰の動きを早めて行く。 何を思ったかふいに彼は腰の動きを止めた。そして尋ねる。 「秋葉、中に出していいか?」 その言葉の意味に秋葉は一瞬、泣きそうな顔をしたものの、わざと投げやりな口調で言った。 「好きに…すれば、いい…じゃない」 (To Be Continued....) |