月姫 SS
やっぱりデート前(4/27)#4 (Side : Ciel)


 ははははははははは。
思わず笑ってしまいました。
………………。
………………。
………………。
………………まだです。
うるさいです、セブン。
そうです、まだです。
ついケーキ代とか服とかばかりに気を取られていて、まだ遠野くんと約束していませんよ。
 もしすでに約束が入っていたら……。
 思わず青ざめちゃいますよ。
 時計を見るともうすぐ22時。
 遠野家は消灯時間が10時だと遠野くんから聞いています。
 早くしないと、電話のとりつぎさえ拒否されてしまいます。
 すぐに電話しないと。
 即実行です。

あ、遠野さんのお宅ですか?
シエルですけど。
こんばんわ、琥珀さん。
そうです、遠野くん――いますか?
えぇすみません。お願いします。

 ふぅいました。
 よく夜歩きするんですよね、遠野くんって。
 もぅせっかく夜歩きするのなら、うちにくればいいのに――。
 まぁ乾くんとつるんで繁華街を遊んだり、色々しているようですから――。
 でもあのあーぱーと会っていたら、赦しませんからね。
 その罪は断罪すべきです。
 遠野くんはちょっと図に乗っているところがありますからね。
 時々わたしが、怒っていますよ、とか、誘って欲しいんですよ、とかはっきり言わないとわかってくれなくて――。
 朴念仁すぎますよ、まったく。
 あ、今日、たった今、槙先輩から電話があったことをいって、遠野くんに反省をうながさなくては。
 こうやってマメに電話してくれる人がいるんですよ。
 恋人の遠野くんはどうしているんですかって……。
 困った遠野くんの顔が浮かびます。
 ふふふふ、困った遠野くんってキュートなんですよね。
 でも戦っているときは、雄々しくて、凛々しくて。
 そのギャップがとても魅力的で。
 そしてどんなに窮地にいても、なんかいつものペースで、なんでもないように物事を解決していくんですよね。
 一度死んだというのに。
 わたしと同じく死の向こうをくぐり抜けたというのに。
 なのに、遠野くんは自分を保っていて。
 ――とてもすごい、と思いました。
 かなわない人だなぁって。
 あんなものを見たら、ふつうヘンになりますよ。
 でも、遠野くんは遠野くんを保ったまま。
 えぇ遠野くんにはかないませんよ。

 遅いですね。
 でもこの待ち時間って、ちょっとドキドキしちゃいます。
 ふふふ、まるで告白のようです。
 もう体を重ね合った仲だというのに――。
 ドキドキしちゃいますね。
 遠野くん、暇、ですよね。
 ふふふふふ
 じゃあ、ちょっとだけ勇気を出して、志貴くんって呼んでみようかな。
 なんて思ったりして。
 ちょっと雑音が聞こえる電話に耳を当てながら。
 わたしは、遠野くんがでるまでの間を、とても楽しみました。

あ、遠野くん。
こんばんは。
いえいえ、先日は。
あのぅ実はですね。

ゴクリと喉が鳴ります。

あ、あのぅ遠……志貴くん。

きゃー言っちゃいました。
乙女はやっぱり覚悟ですね。
 ふふふふ
まるで告白しているようですね。
顔があつくなってきちゃいました。
ちょっとだけからかってみます。

今日たった今さっき、槙先輩から電話があったんですよ。
どういうことだかわかりますか?
えぇ、あの人からまたお誘いの電話なんですよ。

恋は駆け引きといいますけど、こういうのを楽しんでもいいですよね、遠野くん。

5月3日って、何の日だかわかりますか?
憲法記念日なんて、ボケはなしですよ――くすくす。
……もぅ、なんですぐに出てこないんですか、まったく。
わたしが生まれた日ですよ。
そうですよ、誕生日ですよ。
もぅ、恋人――キャー言っちゃった――の誕生日ぐらいきちんと覚えていてくださいよ。

――で、その5月3日のことなんですけど――

遠野くん、あいていますか?


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