月姫 SS やっぱりデート前(4/27)#3 (Side : Seven) ほえ、志貴さんじゃないんですかー。 ねぇねぇマスター。 槙先輩って誰ですか? マスターったら、もてもて、ですねー。 マスターったら……悪女ですね……ふふ。 志貴さんと槙さん――二股ですか…… 品行方正である修道女や女祭ではないですねぇ。 バコっ 目の前がくらくらしまうぅぅ。 もーマスター。 そういうのは、なし、ですってば。 そうですよ、志貴さんも槙さんも、そういうのではなくて、お淑やかなマスターに惚れたんですから。 えーそうですよ。はにかんだマスターって、とっても可愛いですよ。 ……ネコを何十枚もかぶっていて。 ……守護精霊なんですよー。 もっと丁寧に扱ってくださいよー。 う゛う゛、可愛いって思ったわたしがバカでしたー。 マスターは鬼です、悪魔です、悪鬼ですぅぅぅぅぅ。 でもマスター、ケーキ代大丈夫だったんですか? え、もちろん5月3日のデートのことですよ。 志貴さんとふたりっきりで、いーなー。 わたしはひとりでお留守番ですね。 いーなー、いーなー、いーなー。 ……いたたたた。 もぅうるさいなら、口でそういってくださいよ。 いちいち……いえなんでもありません。 え、ケーキ代は大丈夫ですって? よくよく考えれば月をまたぐから、バイト代が出て大丈夫。 それに教材は借りて読むことにして買わないことにして、 ――って。 教材買わなくても大丈夫って、どんな大学なんですかー。 まぁマスターが入れたから三流もいいところ…… グギ ああああ、マスター。くびが、くびが……。 天罰じゃありませんよ。 人災ですよ。 マスター災ですよ。 ……いえ、なんでもありません。 でもマスター。バイト代が入ったから――。 え、だめですってまだ何もいってませんよー。 却下ですって……マスターぁ。 仕方がないですって、話ぐらいきいてくれてもいいじゃないですか。 あのぅ、キャロットケー……。 あぅぅ、却下ですって。わたしがなにを言おうとしていたのか――。 え、わかりますって。 キャロットケーキ、すなわち人参ケーキを食べたいというのでしょうって。 はわわー、すごいですね、マスター。 わたしの心も読めるんですか? それっくらい、わかりますって言われても――。 でもわたしも一緒に祝いたいのに、志貴……いえマスターの思い人の逢瀬のために身をひくんですよ。 この部屋でひっそりとひとりぼっちで待ってるんですよー。 マスターが楽しく志貴さんといちゃいちゃしている時に、わたしは押入の中で重くため息をついているんですよー。 電気が消えた部屋の中、ただ一人。 マスターはハッピバースデーなんて言われている時間には。 思わずカレー鍋の中の人参の数を数えちゃうぐらい、暗くじぃっとしているんですよー。 …………ねぇ……ダメですかー、ねぇーマスター。 マスターの作ったカレーっておいしいんですよね。 あれだけのカレーを作れるんだから、ケーキもとても上手なんですよね。 パテェシエを目指していたほどの腕なんですから。 ねぇマスター、わたしにも披露してくださいよ。 し……マスターの思い人だけじゃなくて、わたしにも。 ねぇったらぁ。 やったー。 へへへへ、楽しみです。 人参のケーキっておいしいんですよね? え、名前しか知りませんよ。 飴よりもおいしいんでしょうね。 え、飴ってなんだって? 知らないんですか、マスター――飴ぐらい。 あああ手を挙げるのはなしですよ。 でもわたしの知っている甘くておいしいものって、飴なんですよ、へへへへ。 ケーキって甘くておいしいんですよね。 へへへへ、楽しみです。 あ、そうそう。 5月3日のことですよ。 そうです、マスターの誕生日です。 同僚の埋葬機関の方々はそういうのは祝うコトなんてないでしょうか? 花束が贈られてきたりとかは――? え、ナルバレックさんは一応祝ってくれたって。 よかったですね。 え、違う。 誕生日祝いだって、死徒浄化の仕事を一人でやってこいって……。 …………はぁー。 たくさん殺せるから、殺戮を楽しんでこいって。 とても嬉しいだろうって――。 ………… …… … ……あのーマスター? もしかして、上司に恵まれていません? テレビで見たんですけど、スタッフササービスというのがあって、恵まれない方は電話を……。 はぁ。 そうですか。 それでも解決できない、と――。 難儀ですねー、マスターったら。 あ、だから誕生日ですよ。 もう1週間もないじゃないですか。 今日は土曜日で、もうすぐ22時になりますよね。 ということは4月28日になりますよね。 あのぅ――マスターのことだから、確認しちゃいますけど。 ……ちゃんと5月3日に志貴さんと約束されたんですかー。 |