月姫 SS やっぱりデート前(4/27)#2 (Side : Ciel) セブンが静かなのは、とても助かります。 この聖典はラテン語で書いてあるので、とても書き写すのは大変なんですよ。 わざわざ魔術的な力を込めるために、インクから何まで特注品でないとダメですし。 まぁ紙だってできれば羊皮紙の方がいいんですけど。 そこまでやると経費がかかりすぎまして――中性紙で代用です。 なんかものすごく情けないような気がしますけど、たぶん気のせいです。えぇ気のせいということにします。 チラリとセブンを見ると――窓から外を眺めています。 ほけらとして。 いえこんな言葉はありませんよ。 でも今のセブンをみていると――ほけら、というこの語感がとても似合っていて。 まったく――あんな顔をされると毒気が抜けてしまうじゃありませんか。 外の雨がそんなに珍しいのですかねー。 まぁセブンってあまりモノを知らないようですし。 たぶん、珍しいのでしょうね。 すると、今度は、にへらと笑って。 ……でもセブンにはいいませんけど。 そういうセブンって好きですよ。 なんていうか、お間抜けさんで。 かまっていないとダメなようで――。 というか、かまってやらないとセブンってダメなんですけどね。 最初みた時、セブンって目をぱちくりさせて。 なんて言ったと思います? なんて非道なことをするんですかー! カチンときましたよ、えぇ。 青黒い銃身。 バランスもよく、わざと大きくつくって威圧感を与えるようにして。 最初は連発式にしようと思いましたけど。 ページ数の問題で、単発の大型にして。 インダストリアル! という感じに仕上げたのに。 わたしはカチンときましたよ。 接近戦よりも射撃戦。射撃戦よりも遠距離戦。これが現代戦だというのに――。ナルバレックのようなことをいうもんだから、ちゃと講釈してあげたんですよ。 なのに。 改造なんて、ヒドい としか言わなくて。 思わず、殴り倒しましたね。 えぇしばきましたとも。 馬ですから、最初に甘やかすとつけあがります。 最初はちゃんと話し合いにしたというのに――。 言うことを聞かないので実力行使しました。 そうしたら、まぁ口ではぶつぶついうけど、従うようになりましたね。 やはり――最初が肝心ですね。 ちらりと見ると、セブンと目が合いました。 なんか引きつった笑みを浮かべています。 にっこりと笑い返します。 なのにさらに顔を引きつらせて――。 まったく! わたしがいつもいつも何かすると思われているなんて心外ですね。 きちんと改造するのには理由があるんですから――人を改造魔のように呼ぶのはやめてほしいものですよ。 だいたいこれ以上改造するとしたら、バレルをのばしてスコープをつけて、超遠距離からの狙撃とかになってしまうじゃないですか。 そこまでになると、セブンには悪いですが、別の銃器を用意しますよ。 だってそこまできたら、今までチューンしていた方向性と違いますから、別のをチューンした方がマシです。 まったく、セブンったら、まだ近代戦における重火器の選択についてきちんと勉強していないようですねー。 こんどきちんと講義しなくては。 なぜセブン――第七聖典があれだけ大型化しているのか、まだわかってないようですね。 あれは威圧という意味もあるんですから。 拳銃なんておもちゃです。しょせん拳銃なんて、ホルスターで上着の下に隠すための携帯用の護身武器なんですから。 最初から攻撃を仕掛けに行くのに、小型で段数を少ない銃器でいくなんてナンセンスです。愚かです。 それなら弾がばらまける機関銃や威力が大きい大砲を選ぶのがプロフェッショナルというものです。 普通は黒鍵ですね。 あれは数多く投げられますし。 当たった後には、火葬とかの支援も得られますし。 でも、中距離戦や、グールの群れなんかを吹っ飛ばすのには、やはり重火器ですね。 だからセブンは大型化して、威力を選択しました。 まぁ転生否定ということもあって、死徒相手には最後のトドメに使用できればよいので――。 あれ? 電話です。 こんな夜更けに誰でしょうか? わかってますよ、セブン。 もしかして――遠野くん、から? そう思うとちょっとドキドキしちゃいますね。 あ、槙先輩。 いえいえ今、手は空いていますよ。 え、デートのお誘い、ですか――。 あ、ご存知でしたか。 そうです、えぇ5月3日はわたしの誕生日です。 あ、でも――。 い、いえ、そうじゃなくて――。 本当にすみません。 せっかくお誘いしていただいたのに――。 すみません、予定が入っているんですよ。 えぇ、遠野くんと――。 キャンセル待ちだなんて――。 もぅ槙先輩、そういう風に卑下するものではありませんよ。 えぇ そうですとも。 でもすみません。えぇ格好良い先輩にお誘い受けたというのに。 はい、はいはい。 では。 おやすみなさい。 ふぅ――。槙先輩からでした。 あの人もこりませんねぇ。 卒業したというのに、時々こうしてお誘いの電話がかかってくるんですよ。 わたしには遠野くんという恋人がいるというのに。 でも、これだけ積極的なアプローチがあると、ついふらっとしちゃいますね。 遠野くんはこういうことができない人ですから――。 でも槙先輩、ゴメンなさい。 わたしと遠野くんは一緒に死線をくぐり抜けた間柄ですから。 わたしと遠野くんは――日本では赤い糸というんでしたっけ?――でしっかりと小指と小指が結びついていますからね。 あのあーぱー吸血種でも、それをひきちぎることはできません。 えぇそうですとも。 ……というか、うるさいですよ、セブン! |