月姫 SS やっぱりデート前(4/27)#1 (Side : Seven) みなさんお元気ですか、セブン、です。 今日は雨が降っています。 雨ってちょっとジメジメして嫌いです。 ほら、わたしの本体って本だから、湿気がヤなんですよね。 昔書かれたものだから、水に濡れるとにじんじゃうんですよ。 なのに、マスターったら、血でよく汚して読めなくしちゃいます。 だから、時折、マスターは今のように巡回にもいかず、写本しています。 え、コピーすればいいって? はい、わたしも現代文明の利器を用いれば、と思うんですけど。 なにか魔術的な要因があって、えっとマンドラゴラの根を煎じたものと神秘的な獣の羽根と深きモノの血をまぜたインクで書かないと「転生否定」の魔術結界がうんぬんといって……。 …… わたしにはわかりませんけど、まぁ大変そうですねー。 リビングの中央に魔法陣なんか書いてなにやら怪しげなことをしていますから。 ヘタに魔術なんか知っているマスターが悪いんですよ。 魔術なんかしらなければ改造だって思いつかなかったでしょうしね。 でも、マスターとこの美咲町にこられて、よかったです。 ほんとですよ。 まぁ。 ……。 マスターはこちらを見ていませんね。 こそっと言っちゃいますね。 マスターがいなければ、もっと良かったと思います。へへ。 羽を伸ばす、ってみんな言いますけど、わたしの場合、たてがみをなびかせるといった方がいい感じですねー。 ヴァチカンにいた時は、聖典として書庫にしまわれていましたからね。 外、なんて見れなかったですよ。 月に一度、お掃除に修道女の方がこられて掃除するだけ。 まぁあの時はぼぉっとしていたから、お話するなんて気はありませんでしたけど。 まわりの精霊たちとぼんやりとした会話をしていただけで。 まぁ楽しいかったですね――。 いいえ、でもやっぱり――。 ……マスター、こちらを見ていませんね。 一生懸命、写本していますね。 ――こほん。 でもやっぱり、マスターとこれてよかったかな、と思います。 でないと、雨も見ることができませんでしたしね。 雨ってなんだか綺麗で好きなんですよ、へへへ。 ほら、外の灯りでキラキラと反射して、静かに響くこの雨音がとても心地よいんですよ。 一度マスターにいったら、ダウン系ですか、なんて言われましたけど……ダウン系ってなんですかねぇ。 経費節減とかで、今はテレビもつけていません。 写本に書き写す音と、雨音のみ――。 静かですけど、心地よいです。 これが、ダウン系、ですか? え、違うんですか? 最近の言葉使いって難しくて――へへ。 こんなに静かなマスターはひさしぶりです。 いえ、いつもだって静かですよ。 静かに詩を読んだり、勉強したり――。 ただぺらりと頁をめくる音、書き写す音だけが響く。 静寂で。 真剣で。 マスターったら、思いついたら即実行っていう面があって。 だからつい本なんかみちゃったりすると衝動買いなんかしちゃって。 だからあの衣服も買っちゃったんですよねー。 なんておバカさんなんでしょうねー。 でも、そいう間の抜けたマスターって、好きですよ。 静かなマスターを見ているのは嫌いじゃありませんよ。 あんなに真剣に詩を、本を、勉強をしているマスターって。 …… こっちを見ていませんね。 こそっと言っちゃいますね。 可愛いんですよ。 あんなに怒りんぼさんで、ドス黒いオーラを放っていて、腹黒くて、偏食なのに――。 そんなマスターは、とても――。 ――そう、とても可愛いんですよ。 おバカさんほど可愛いって本当ですね。 こんな言葉を聞かれたら、もぅマスターにどんなことをされるのか、わかりませんから、黙っていてくださいよ。 わたし、マスターのこと、本当に、本当に、絶対に、絶対に好きではないんですから。 ………… …… ちらりとマスターを確認します。 あわわ、視線が合っちゃいました。 思わず、わらって誤魔化します。 マスターも笑いかえしてくれます――どうやらご機嫌のようですね。 あ、でも美咲町にこれたのは本当によかったな、と思っていますよ。 こんなに長い間、こういう書庫や倉庫以外で過ごすのって珍しくて――。 他の聖典さんのことは知りませんよ。 わたしは転生否定の聖典だから、そういうのじゃないと使われないんですよ。 死徒が完全浄化が終わるまで町にいるといっていますけど――。 本当はマスターって、志貴さんと一緒にいたいから。 ここって自然も豊かでとってもいい町なんですよー。 セブンも現代社会ついて学ばなくてはなりません なんていって、よく買い物についてこさせられるんですよ。 わたしは結界外なんで、買った品なんか持てませんけど。 でも外で楽しく注意されたり、解説されたりするのは、とても楽しいんですよ。 ウィンドショッピングというのですか、外からお店の中を覗いて、色々と買ったことにして楽しむ――あれっておもしろいですね。 はじめてでした。 わたしがすんでいた村には商店なんかなくて――。 農作業で自給自足でした。 年に何回か行商人がやってきて、取引して――。 一度だけですけど、とある行商人の方が飴をくれたんですよ。 黒っぽいなにかで、最初見た時なんだかわかりませんでした。 その方が、飴だよ、と教えてくれて。 おいしいものだといってくれて。 わたし、その時、もっていたお金をすべて渡して買おうとしたんですよ。 だって商人の方はそれで生計をたてていますから、貰うわけにはいきません。 でもわたしがもっていたお金ってほんの少しで――。 足りなかったんですよ。 そうしたら、その方が。 じゃあ来年残りを払ってね。 そういってくれたんですよ。 いいんですか、って尋ねたら。 笑って、君はウソをつくかい? なんて言って。 首を大きくぶるんぶるんとふったら。 じゃあ、これは約束だから、いいんだよ。 そういって、飴玉をくれたんですよ。 甘かったですよ。 こんなにおいしいものが、こんなに甘いものがあるなんて、って感激しました。 いつもはオートミールの薄いヤツばかり食べていましたし。 パンは一月に1度食べるぐらいで――。 秋の収穫の落穂拾いで、ひっそりと収穫祭なんかしたんですよ。 だから――。 自分ひとりで舐めずに、お母さんと半分こにしたんですよ。 お母さんはとても喜んでくれました。 でもわたしはもったいなくて、もっと細かく割って――毎日少しずつ少しずつ舐めて。 寝る前、今日まだ舐めることができることが嬉しくて――。 でも1週間も続かなかったですけどね。 でも、その行商人の方とはお会いすることはできませんでした。 その次の年といったのに、こなかったんですよ。 わたしはちゃんと貯めて待っていたのに。 その翌年も、翌々年も――。 だから、わたしちゃんと村長さんに頼んだんです。 だから、村長さんが払ってくれたと思います。 ちゃんと捧げられる前に頼んでおきましたから。 あれ マスター、電話ですよ。 |