月姫 SS
またデート前(4/20)#4 (Side : Ciel)


 ふぅ、一言多いのはどうにかなりませんかねー。
  大丈夫です。
 暗示を使えば……。
 と思いましたが、セブンがいうのももっともです。
 セブンが指摘したというところがちょっとひっかかりますけど。
 でもまぁそうですよね。
 そんなんで作ったケーキなど、邪道の極みです。
 遠野くんにあげる甘いケーキはやはりちゃんとしたケーキで。
 ブランデーがきいた甘いヤツで。
 ふふふ、遠野くん、見てなさい。
 わたしがどれだけパテェシエの技量があるからみせてあげますからね。
 といっても問題は生活費で――。
 いえ生活費よりも、ケーキの材料代で――。
 ――こればっかりはどうしようもありません。
 仕方がありません。
 ここは報告書をでっち上げて、ナルバレックに送金させましょう。
 え、邪道じゃないかって?
 いえいえこれは正当ですよ。
 あのナルバレックからお金を出させる、とてもよいことではないじゃないですか。

 一番好きなこと?
 ああ――この手でその首をつかんで、相手の顔を見て、くびり殺すこと、かな

 なんて答えるようなヤツにお金とか権力とか持たせてはいけませんよ。
 だいたいあんな殺人狂が埋葬機関を束ねているということ自体間違っていますよ。
 ナルバレック家から代々選ばれているからといったって、アレじゃなくてもいいわけです。他に人材はなかったんでしょうかねぇ……。
 それでも、まぁ認めます。
 あのナルバレックがもっともすごい殺戮機械であることを。
 あんな見事な、殺すための機械なんて見たことありませんよ。
 埋葬機関は殺戮集団だから、もっとも素晴らしい殺人者がつくべきだ、ということでついたようですけど、それって問題ありませんか?
 あの技量は、もしかしたら遠野くんに匹敵するほどですよ。
 遠野くんには七夜の戦闘技量と直死の魔眼があるから、あれだけできるというのに。
 あのナルバレックはそれがないというのに。

 ……それましたね。
 今ナルバレックのことを考えている時間はありません。
 それよりもケーキの材料費。
 お金、現金、ジャパニーズ・マネーが必要なんです。
 セブンの、第七聖典の弾代がなくなった――では弾が送られてきてしまっておしまいです。
 正装時のペイントがなくなったといったら――ダメです。これもペイントが送られてきておしまいです。

 やっぱり衣装を返すのが一番なんでしょうか――。
 でも遠野くんがあれだけ興味をひいてくれたことなんてありませんよ。
 戦っていて傷ついた時にしか、あんなに興味をもってくれませんよ。
 そんな遠野くんが見れたチャンスです。
 このまま引き留めるには、やっぱりこういう地道なことの積み重ねが必要で――。
 うん、やっぱり返せませんね。

 はぁ、とため息をついてしまいます。
 いつもぼんやりさんで、ほんわかさんで、でもイザというところは鋭くて。
 なのに――なんであんなに優しんでしょうね。
 みんなに優しい、誰にでもやさしいというのは、それだけで罪なんですよ。
 わかりますか、遠野くん。
 だからみなさん、遠野くんに惹かれてしまうんですよ。
 あんな不浄ものでさえ、惹かれてしまう遠野くん。
 でも選んでくれたのは、わたしですよね。
 それを誇らしく思っていいですよね。
 胸はってもいいですよね。
 ねぇ――遠野くん。

 ……でもケーキの材料費はどうにかなりませんかねぇ……。


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