泣きながらも真祖の姫君は愛しい者を抱きしめる。
 アルクェイドは自分の気持ちがわからなかった。
 今までそんなこともなかったのに。
 突然わからなくなった。
 先ほどの死徒。
 自分に殺されるためにいたような、あの死徒。
 わからない。
 死ぬということは、消滅するということは、もう逢えないということ。
 志貴に会えない。
 無駄なこができない。
 楽しい、と考える心も。
 哀しい、と思う心も。
 震える、この心も。
 すべてなくなってしまうということ。
 イフという話を考えてもわからない。
 とたん――怖くなった。
 怖くて、たまらなくて――だから志貴に抱きついた。
 この肌に感じられる温かい鼓動、吐息、力強く抱きしめてくれる腕。
 そしてアルクェイドと名前を呼んでくれる低い声。
 好き、という言葉だけがこみ上げてくる。
 大好き、という言葉だけになる。
 愛している、という言葉があふれてくる。
 志貴しか考えられない。

「……志貴……好き……大好き……」

 アルクェイドはただ、愛おしく思う男の腕の中で抱かれながら、そう呟き続けるだけであった。

「……いなくならないでね、志貴……ずっと側にいてね……お願い……」


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