エピローグ

 カチカチカチ。
 歯車の音。

 その音が廃屋に鳴り響く。
 ひっそりとした静謐な廃屋の中で、唯一動作を感じさせる音。

 ボーンボーンと時計がなる。
 古びた柱時計。
 それが時刻をしらせて、また歯車を軋ませる。

 かちかちかち。

 埃一つどころか空気さえも凍りつき、動きがないような、静けさ。

 深く。

 暗く。

 ただ。

 静か。

 しかし。

 安楽椅子のきしむ音だけは聞こえない。

 聞こえるのは、

 かちかちかち、という。

 時計の音のみ――。

 二度と、安楽椅子がきしむ音が響くことはなかった。


back / index / postscript