その言葉に導かれて、いきりたって脈打つそれを彼女に押し当てる。
 先にあたる柔らかく湿った感触がたまらない。

 「……違うわ、もっと下よ」

入り口を求めて、下に下げる。
 先のその感触だけでイきそうになる。

「――そう」

 熱いねっとりとした彼女の声。
 脳髄をかき乱すような熱いとろとろな声。

「……そこよ」

その声に抑えきれず、挿入した。




















月姫18禁SS


そして――情





















 それは飲み込まれていった。
 俺のは、朱鷺恵さんの中に埋没していく。どんどん入っていく。
 こんなにも、こんなにも入っていく。
 その光景を食い入るように見る。見てしまう。
 よく書かれているように、いれたとたん出してしまうようなことを考えていたが、それは杞憂だった。というより、快感が強すぎて、感じすぎていて、出なかったというのが正しいのかも知れない。
 ともかく初めて入れた時、いきなり放出することはなかった。
 入れたというのに、あまり感触がなく、なんか暖かいだけで。

   入ってるのか?

 つい、そんなことを思ってしまう。
 でもぬるぬるしていて、暖かくて、包まれていく感じがする。
 そう考えたとたん、突然、快感が押し寄せてくる。
柔らかくしなやかな女の躰に溺れていくという感触は、とても淫らで、とても気持ちよいてもので。
でもその柔らかで淫ら感触よりも、その淫靡な、俺が入っている、という光景に興奮した。
 そして暖かく濡れぼそったそれが、俺のを締め付け、撫であげ、こすり、しごいていた。
 そして引き抜く。
 俺が彼女から出てくる、ぬめっとした液体をつけて。
 その光景に脳髄が沸騰する。

「朱鷺恵さん!!」

吸い付くような肌とその温かさに感動した。
受け止めている女陰。白い肌。揺れる乳房。そしてあの綺麗な顔。
 たまらない。
 たまらない。
 たまらない。
 女の人がこんなんだって――。
 それだけで、腰をふるった。
気持ちよくて、たまらなくて。
10秒でも、1秒でも、一瞬でも、刹那でも女を味わいたくて腰をふるう。
 彼女は俺を優しく抱きかかえる。
 俺は彼女の胸に頭を埋めながら腰をふるう。
 熱く、とろけていく。
 淫らに、蕩けていく。
 快感が腰から脊髄を駆け抜け、脳髄を灼く。
 とまらない。
 とめることができない。
 もっと味わいたい。
 この柔らかな肢体を
 この暖かな女の体を
 このしなやかな朱鷺恵さんの躰を
 もっともっともっと味わいたくて
 腰をふるう。
 ふと朱鷺恵さんを見ると、そこには柔らかく微笑む貌があり。
 薄桃色だった顔は興奮して真っ赤となり、潤んだ瞳で俺で見ていた。
 頭が真っ白になってくる。
 全身が熱く震える。
 酸素を求めて口を大きく上げる。
 が足りない。
 息ができない。いや息する時間さえもったいない。
 彼女に抱きかかえられたまま、この愛おしい『女の躰』を抱く。
 腰の奥がむずむずする。
 むず痒い痛みがたまってくる。
 それがたまらなくて、我慢する。
 我慢すればするぼと、むず痒くなり、それが気持ちよい。
 甘い吐息が耳に聞こえる。
 しなやかな躰を抱きしめる。
 淫らな女を貫き、こね回す。
 たまらない。
 腰の奥にだんだんとたまってきて
 その圧力に背を押されて。
 気持ちよくて。
 わからなくて。
 いや、しかし、もしも、あぁ……
 なにを考えているのかわからない。
 真っ白になっていく。
 頭の中がそれだけになっていく。
 真っ白な快感に溺れていく。
 乱れていく。
 そして、とうとう我慢できなくなり、俺はもっとも奥へ突き入れる。
 そして放つ。
 つりそうなほど放出する。
 今まで我慢してきた、なにかが吐き出されていく。
 柔らかい襞の中に、あの白くねっとりとした粘液を吐き出している。
 体が震えて、魂まで消え去りそうになる。
 そのまま死ぬのかと思うぐらい、おもっいっきり出した。
 彼女は出しきって震える俺をそっと抱きしめてくれた。
 ……………………。
 ………………。
 …………。
 ……。




























「――志貴君? 」

いつもの、凛、と澄んだ声がする。
少しうとうとしていたらしい。
え、と胡乱な頭で返答する。

「もう志貴君は初めてなのに、あんなに……初めてだから、あんなに張り切ったのかな?」

 突然なんてことをいうのだろう。
 赤面する。
 そんな俺の様子を見て、彼女は笑う。

「わたしね、多分、志貴君とこうなるとわかっていた」
「……朱鷺恵さん」

あの茶色い大きな瞳は俺を写してくれて。
あの桜色の唇が俺の名前を紡んでくれて。
あの女性らしい澄んだ声で名前が呼ばれている。

彼女は床から上半身を起こして、のびをする。

「ね、志貴君、ご飯食べる?」

お姉さんの顔だった。もしかしたら姉さん女房の顔なのかもしれない。

「ふふふ、男の人って、こういうことした後ってお腹へるでしょう? 簡単なものしかできないけど――いい?」

そんな慣れた朱鷺恵さんの態度にさらに赤面する。
赤くて熱くて、でもとても心地よい。

俺はその言葉に頷く。

「ふふふ、ちょっと待っていてね」

そうして彼女は出ていった。
















 テーブルの上には和風の食事が並べられている。
 ダシ巻き卵、おひたし、お新香、魚の煮付け、おみそ汁にご飯。
簡単なものといっていたが、しっかりとした料理で――。
 味付けはちょっとあっさり目。
 でもそんなことよりも、こうして朱鷺恵さんと向かい合って食べるのはとても恥ずかしかった。
 でも、嬉しかった。
 まるで夢のようだった。

 朱鷺恵さんはまるで新妻のように、甲斐甲斐しく醤油をとってくれたり、ご飯をよそってくれたりして――まるで新婚のようで。
 あんなあとだから、もっと気恥ずかしくなってしまって。
 笑う朱鷺恵さんが目の前にいて、
 なんて心地よい。
















「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」

 ふたりでなんか照れてしまい、ちょっと笑う。

「……ねぇ志貴くん」
「なんですか、朱鷺恵さん」
「わたしね――」

あの日溜まりのような笑顔。

「こうしてね、えっちの後に好きな人に食事を作るって、夢だったんだ」

 思わず咳き込む。
 なんていうか、照れて俯いてしまいそうになる。
 そんな俺を彼女は目を細めて見ている。

「だから……」
「だから?」

見てみると、浮かべているのは――あの日溜まりのような笑顔ではない。
 イヤな予感に胸が突かれる。
 そしてその美しい唇で言葉が紡がれる。

「これで――おしまい」

甘い響き。でもそれは酷く残酷な響き。

 ワカラナイ
 コノ ヒト ハ ナンテ イッテイルンダ

「おしまいって……」
「そう、おしまい」

囁くように、物思いに耽るように言う。

「わたしって、ほら、なんていうか物事に流されちゃうから」
「流されてって……」
「志貴君が、逃げたとき、わたしわかったのよ。わたしに憧れているだなぁって」
「――――――」
「で、そのままこうでしょ? わたしってバカよね」
「違う。違うよ!」

必死に否定する。この形にならない感情に突き動かされて。
でも彼女はかぶりをふる。その瞳はしっかりと見据えていて――。

「ううん、そうなの――わたしはバカなの。それでいいの」

 なんて柔らかな拒絶。
 なんて断固たる拒絶。
 なぜこんなことをいうのだろうか――。
 どうして?
 わからない。

 ――でも本当にわからなかったのか?
    そんな予感はしなかったのか――

 それさえも、わからない。

「でもね、志貴君としてよかったな」

 その言葉が胸に刺さる。
 まるで自分に言い聞かせるような、そんな声――。
 あの澄んだ声がなんて――切ない。
 その言葉に否応ナシにわかってしまう。
 わからされてしまう。

くすり、と彼女は笑う。とても鮮やかで儚くて――。

「初めての女性だから、のぼせているのよ」
「違う! それは違うよ、朱鷺恵さん!」

彼女はかぶりをふる。

「実はね、志貴君。わたしが貴方を弄んだのよ」
「弄ぶだなんて……」

 彼女のその茶色い瞳は俺をうつしてはいなかった。
 その澄んだ声は名前を呼ぶだけで、熱くなく。
 ただ虚ろで。

「そうよ。お姉さんの誘惑、なのよ。つまみぐいなの。
 ――ふふふ、わかる?」

 …………。
 …………。
 …………。
 …………なんて哀しい声。
 ちゃんと目の前にいるのに、
 いるというのに。
 なんて遠い……。

「――――――」

声が出ない。

 ただ時間がながれる。
 お互い何も云えない。どうかしてしまいそうな沈黙のあと。

「――ね、わかって、志貴君……」

 つぶやくようにいった。
 哀しいような、切ないような、とても儚い笑顔で。

 ただ気持ちだけを押さえ込んだ。
 イヤだと言いたかった。
 俺のこと嫌いなの?
 なんで抱かしてくれたの?
 なんで拒絶しなかったの?
 なんで
 なんで
 ナンデ?
 どうして?
 喚きたかった。

――気が狂ってしまうか、と思った。
   いっそ気が狂えたらどんなに楽だろう、と思った――。

 喉が震えて声がでない。

「ね――志貴君」

 年上のお姉さんは、俺の急所をピタリとやんわり押さえつける。
 何もいえない。
 何も言い返せない。

 胸にある、もやもやした形にならないものが吐き出される。
 無限の愛おしさと優しさをこめて、俺は言った。
 ただ一言。

  あぁ、と――。

 彼女が、あのトキエという惹かれる名前をもつ彼女のために、俺は笑った。
 たぶん笑えた。
 笑えたはずだ。

「……ゴメンね、志貴君」

 彼女はなぜか謝った。

 そんな彼女が愛おしくて、さよならという最後の優しさをこめて。

「ううん、そんなことないよ」

 俺はかぶりをふる。

「朱鷺恵さんと出会えてよかったし、その思いは今でも変わらない――」
「わたしもよ、志貴君」

彼女ははかなげに微笑む。

「わたしも貴方と出会えてよかった」























 外へ出てみるとすでに真っ暗。
夜風が少し寒く、でも心地よい。

 これでおしまい
 それだけがわかった。
 夢の終わり。

「――志貴君」

そういって彼女は手を差しのばしてくる。
そのピンクの爪と白い指先は変わらない。
変わらないのに、なんて胸が苦しいんだろう。
死んでしまいそうだ。

 おずおずと手を伸ばす。
 これで最後だということがわかるから。
 これでお別れだから。

朱鷺恵さんはそっと、まるで怯えるかのように触れてくる。
今度は俺の方がかまわずきっちりと握手する。
 そして見上げていた彼女を見下ろす。
 その茶色い大きい瞳は潤んでいた。
 でも、そこにはしっかりと俺の顔がうつっていた。
 ――心臓の鼓動が止まった。
 それで十分だった。


 ほら朱鷺恵さん


心の中で目の前の女性に呟く。


 見つめられると、まだ俺の心臓はとまっちゃうんだよ。


 そして病院から離れる。
 空には綺麗な月と星々。
 星が綺麗に散っていて、輝いていて。
 星降る夜、という言葉が似合う、そんな綺麗な夜空。
 後ろには朱鷺恵さんがいる。
 ずっと見ているという確信めいたものがある。
 でも振り返らない。
 背後の夢を永遠に失わないために――。






















 それから朱鷺恵さんは都会の学校へと行った。
 俺は高校に――もちろん有彦も――受かった。
 遠野志貴の生活は、以前とまったく変わりがない。
俺は結局胸の中に埋めようのない穴を持ったまま、それでも以前のようにやっていける。
 というが、耐えていける。
 それが高校に進学しても、朱鷺恵さんと離ればなれになったとしても、である。
 まぁそれなりに楽しくやっている。
 と思う。
 でも。
 有間の家にいても、
 学校にいても、
 有彦とつるんでいても、
 乾家にいても――。
 常に朱鷺恵さんの
 あの白い指先とピンクの爪が頭の中にあった。
 あの暖かく、しなやかで柔らかい感触だけが。
 それだけが、朱鷺恵さんが残してくれたものだった。





















 いつも乗るバスの風景は変わりなく、
 いつもの商店の角を、
 いつもの交差点で
 いつもの人がブザーを押し
 いつもの停留所で止まる。
 なんて変わらない、ぼんやりとした時間。
 月に一度の定期検診。
 そして朱鷺恵さんがいない病院へ向かう。





















 ふと、夜、思い出す。
 もし朱鷺恵さんに我が儘をいったらどうなっていただろうか――。
 もしあの時、聞き分けのない子供のように駄々をこねたら――。
 でもそれはすべて終わったこと。
 もう過去の話。
 ただ思い出すだけの出来事。
 夢は終わったことを痛感する――。



















 長く祈るような息を吐く。
 ――もし俺が大人びた子供でなかったら……。
 そんな夢想をする。
 ただ夢想に過ぎないというのに。
 それはとても甘美だった。



















 この形にならないものがなんなのかわからない。
   憧憬だったのか――。
   恋愛だったのか――。
   それともその狭間の感情だったのか――。
 ……わからない。
 でもそれはやはり形にならないもので、俺はそれを形にするのはやめた。



















 そして眠りにつく。
 あの惹かれる名前――トキエをそっと呟いて。
 明日こそ、この思いが消えることを祈って。

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