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02/


 半場逃げるようにして中学を中退。
 その後、親のツテで浅上女学園というカトリック系の学園に転入した私は、
割り当てられた三人部屋で、彼女と運命的な出会いをした。
 三澤羽居。それが彼女の名前だった。
 頭の螺子がニ、三本飛んじゃってるんじゃないかって言うくらい無垢な笑顔
で、彼女はあたしをむかえてくれた。
「蒼ちゃんって呼んで良い?」
「あ、うん……」
 そのあんまりにも綺麗な笑顔に、一目でイカレてしまったあたしは、その後
の会話にも上の空で答えていた。
 正直、どんな内容だったかは良く覚えていない。
 以前の学校のこととか趣味のこととかを聞いてくる彼女に、うんとか、うう
んとか、そんな生返事を返しながら、あたしはずっと羽居という少女の顔に見
惚れていた。

 ちなみに、同室のもう一人は遠野秋葉という少女だった。
 こちらも稀に見ぬ美少女。それにどこかの財閥の会長の娘だとか。
 日本人形みたいに可愛くて、女の子らしいながらも誰にも負けない一本芯が
入ったその性格を、その言動を、あたしはどれだけ羨ましく思ったか……。
 といっても、そう思い始めるのはもうちょっと後のことで、最初の紹介のと
き、あたしの視線は羽居に固定されたまま動かなかったのだけど。


 羽居は見た目通りの……変なヤツだった。
 良く言えば無垢。悪く言えば馬鹿。
 どうやら彼女には悪意と呼ばれるものが無いらしく、いつも「のほほ〜ん」
としていた。
 たまに故意ではなく他人に迷惑をかけることもあったようだが、それも赦し
てしまえるほど、彼女の「のほほん」加減は強烈だった。
 異性はもちろん、同性とすら距離を置くようにしていたあたしにとって、羽
居はほんとうにありがたい存在だった。
 相手の真意を常に探りながら接しなければならない他の人間と違って、悪意
の無い羽居との関係は例えるなら飼い犬とご主人だ。
 無条件の信頼。無条件の笑顔。
 頭を撫でれば尻尾を振ってくれるのと同じくらいの、素直なリアクション。
 必然、あたしは彼女に惹かれていった。
 あたしは彼女に近づきたいと、本気で思った。

 幸いなことに……羽居もあたしに積極的に声をかけてくれた。
 といっても彼女の場合、それは特別なことではなく、誰にだって親しげに話
しかける性格なだけだったのだが。
 それでも彼女の間延びした声を聞くたびに、あたしは安心できた。
 まるで自分の全てを赦してくれるような、あの笑顔を見るたびに涙が出そう
になった。
 そこに救いがあった。
 あたしは、満足だった。

 こんなあたしだけれど、もともとはノリの良い明るい女の子をしていたのだ。
 相手も積極的に仲良くしてくれるのだから、二人の仲が近しくなるのはさほ
ど難しいことではなかった。
 あたし達は少しずつだけど親しくなっていった。
 最初はごくごく小さな変化。
 他の誰よりも、二人で話し合っている時間がちょっと長いだけ。
 なのに、あたし達の距離は加速度的に縮まっていった。
 その時間はどんどん長くなり、気づかぬうちに、あたし達はいつも二人で一
緒にいるようになった。


 まるで人生の春だった。
 中学生がなにを馬鹿なことをって思うかもしれないけれど、あたしにとって
羽居との時間は、本当に春の日の光の中に居るような暖かな時間だったのだ。
 その温もりは、万年雪のように積もり、日常を覆い隠していた冷たい地獄の
世界を、緩やかに解凍していってくれた。
 だから、あたしは失念していた。
 距離が近くなればなるほど……真実の闇は獰猛に襲いかかってくるのだとい
う事を。

 そして案の定――――
「あ……」
「あ゛……」
 バレた。


・・・


「……蒼ちゃん……ソレ……」
 突然、シャワー室に入ってきた羽居……その顔が驚愕の色に染まるのを見て、
あたしの心がひび割れた。

 見られた。見られた。みられた――――――――――

 もう、ダメだ。
 すべてを覆い隠す闇が訪れた。
 あたしは、自分の身体を庇うように膝を閉じ、背中を丸め、顔を伏せた。
 もう、ダメだった。
 この状況でいったいどんな言い訳が出来る?
 何もできない。
 出来ないから、一人で時間をずらしてシャワーを浴びていたのだ。
 コソコソと隠れるように入浴していたのだ。
 どうしようもない。
 見られたのなら。知られたのなら。
 結末は、決まってる。
「蒼ちゃん……」
「嫌だ! 何も言うな!!」
 何も聞きたくなかった。
 どんな言葉も。
 侮蔑も。
 嘲笑も。
 同情も。
 たとえそれが、優しい言葉であったとしても。
 どんな言葉も聞きたくなかった。
 言葉はあたしを傷つけるから。
 どんな言葉も、あたしの身体を赦してはくれないから。
 どんな言葉も、あたしの身体が異質であることを証明するだけだから。
 だから、何も……聞きたくなかった。 
 特に、羽居の口からは。
 好きな人だから、なおさらに何も聞きたくなかった。
 だけどこの状況で黙れといって黙ってくれる人間が居るわけない。
 顔を隠し、身体を隠しながら、それでも羽居が口を開く気配を感じ、あたし
は絶望を覚悟した。
「かわい〜」
「………………は?」
 今――――なんと言った?
 思わぬ言葉に、呆然と目を開けると……そこにあったのは目を輝かせている
羽居の顔だった。
「わ〜〜〜っ! 蒼ちゃんの、可愛いね♪」
「…………」
 この女は、やはり頭の螺子が飛んでしまっているらしい。いや、それどころ
か重要な歯車をなくしてしまったのかもしれない。
 振ったら、カランコロンと面白い音がするかも。
 どこをどうして、どう考えたら「可愛い」などという言葉がでてくるという
のか。
 まったく理解できない。数学のゼロの階乗が1になるっていうくらい理解で
きない。
 羽居のことだから、嘘や冗談、慰めで言ってるんじゃない。
 本音で「可愛い」と言っているのだ。
 股の少し上辺り。「女の子」の部分が終わった(前だから始まりかな?)辺
りのちょっと上から生え出しているソレは、小さくちょこんと飛び出している
ために一見可愛らしく見えるのかもしれないが、断じてそんな生易しい存在で
はない。 
 誰がなんと言うと、これはグロテスクな男の機関なのだ。
 だけど、そんな事などまるで分かっていない羽居は、さらにとんでもない事
を言った。
「これ、触ってみて良い?」
「だ……っ!」
「ダメ?」
 こちらを不安げな瞳で上目遣いに見上げながら、ちょこっと首をかしげるそ
の仕草はズルイ。
 土下座されたって絶対に赦せなかったことも、その仕草をみせられたら赦せ
てしまいそうだった。
「き、汚いから……」
「ぜんぜん汚くなんて無いよ?」
「でも……」
「ほら」
「わ、あっ!?」
 にゅるんと、閉じていた足の間から羽居の手が忍び込み、あたしのに触った。
 柔らかくてスベスベした指の感触が、包皮ごしに感じられる。
 あたし自身ですらほとんど触った経験のないそれは、突然のその接触に心底
驚いたようで、こちらの意識とは別にブルンと震えた。
 もちろん驚いたのはあたし自身も同じで、更に膝に力を込めて羽居の手の動
きを封じようとした。
「蒼ちゃん、ちょっと痛いよ〜」
「あ、ごめ……って!」
 羽居の言葉に慌てて膝の力を抜いた瞬間、待ってましたとばかりに羽居のも
う一方の手も滑り込んできた。
 分かっててやってるならまだしも、これを天然でやってのけるのだから恐ろ
しい。
「わぁ〜、プニプニしてる〜」
 羽居の喜声があがる。
 不思議だった。
 いつもなら、見るだけでも吐き気がし、触ろうもんならぞわぁと身体が鳥肌
立つというのに。
 なのに、羽居の指の温もりはまったくそんなモノを感じさせなかった。
 それどころではなく、なんというか……良く分からないが、ヘンテコな気持
ちにさせてくれた。
「……ん」
 もうすでにあたしの膝からは力が抜け始めていて、羽居の指の動きを制限す
る効果はまったくない。
 その性格同様、怯えることのない無垢な指使いに、あたしの腰がブルンと腰
が震えた。
「わ……おっきくなってく……」
「え?」
 言われたことの意味が良く分からず、あたしはそれまでそらしていた目線を
自分の下腹部に向けた。
 なんと……先ほどまで皮をかむって縮こまっていたアレが、でっかくなって
やがるではないか。
 保健体育の授業で、男性器が膨張する事くらいは知っていた。そしてもちろ
ん、自分のモノにもそういう機能がついていることも経験で分かっていた。
 だけど、まさかこんな状況で勃ててしまうとは、まったく思ってもみなかっ
たのだ。
「すごいね……」
 羽居がジっとそれを見つめながら、感嘆に似たため息を漏らした。
 そんなの、ぜんぜん嬉しくない。
 なのにあたしは、反論も反抗も出来ず、羽居のしなやかな指の動きに身を任
せていた。
 何故だか分からないけれど、離れたくなかった。
 その指の感触が離れていくのが、今はすごく嫌だった。
「んぅふふ〜♪ 先っちょの所、なんだお口みたいで可愛いね〜♪ それにこ
のモコってくびれたところもすっごい♪ ……わわっ、またピクピク動いたよ?
 これって蒼ちゃんが動かしてるの? 違うの? なんだかちっちゃな動物さ
んみたいだねぇ〜……」
 こんな小動物が居てたまるか!!
 あたしは思いっきりツッコミをいれたかったのだが、それ以上の羞恥心で顔
を真っ赤にしている状態なので、叶わなかった。
 羽居の口からあたしのソレの細部が説明されるたびに、自分の脳内で映像が
形成されていき……どんどん恥ずかしくなってくる。
 そう。あたし自身ですら、ここまでの状態は未知の領域なのだから。
「あ……」
 今度はなに!?
「なにか出てきた……」
「え?」
 羽居に言われて気がついた。
 あたしの男の部分の先端、なんだか口みたいになってる所から、透明な液体
が出てきているのだ。
「これって精液?」 
「ち、違う……と思う」
 あたしだって一応、精液が白い色をしてるって言う知識ぐらいは持ってる。
「えと……たしか気持ち良くなるとこういうのが出てくる……らしい」
 空覚えの知識を引っ張り出してみるが、もちろんこれがそういうモノである
という確信は無かった。 
「キモチイイの?」
「……ぁい?」
「これを触ると、蒼ちゃんは気持ち良いんだよね?」
 気持ち良い?
 あたしには良く分からなかった。
 ただ、羽居の指の感触をもっと感じていたいと……そう思っていただけ。
 この感覚が気持ち良いという感覚なのだろうか?
「じゃ、もっと気持ち良くしてあげるね♪」
 ニッコリとそう言うと、羽居はあたしの男の部分を包んでいた両手を、上下
にスライドし始めた。
 本能に仕組まれているのだろうか。
 いや、たぶんただ単に全体を撫でてあげたいという羽居なりの献身なのだろ
う。
 羽居にしろ、あたしにしろ、それが「そういう風」に扱うモノだとは知らな
かったわけなのだから。
「ん……んっ……」
 声が、抑えこもうとする理性に反して漏れ出してくる。
 羽居の両掌は柔らかくあたしのを包み込みながら、その全身を擦りあげてい
く。
 皮を引っ張りながらコシコシと、その奥にある神経を擦り上げていくのだ。
 たまに親指が敏感なカサの部分に引っかかるたび、あたしは電気が走ったみ
たいに身体をのけぞらせた。
 これはもう疑い様が無い。間違いなく快感だった。
「蒼ちゃん……なんだか綺麗……」
 そんな事言う羽居だって顔を真っ赤に染めて、めちゃくちゃ綺麗だった。
 先端から漏れ出したヌルヌルする液体のせいで、羽居の手が動くたびに粘着
質な音が響く。
 だけど羽居はそれを嫌がるどころか、むしろ一心不乱という表現が相応しい
ほど熱心にあたしのを擦りつづけた。
 それに比例して、指の握りが強くなっていく。
 最初はただ触れているだけだった指が、いつしかしっかりとあたしのを握り
締め、奥からなにかを搾り出すような、そんな動きに変わっていった。
「ハァ……ハァ……」
 荒くなり始めた羽居の吐息が濡れた先端を乾かすように拭きかかる。
 それがまた違った刺激になって堪らない。
 あたしは、自分の腰の奥で何かの準備が整ったのを感じた。
 来る……何かが。
 いや、何かは分かってる。つまりこれが――――射精の前兆なのだ。
 ダメだ!
 あたしは、ぬるま湯でふやけてしまった様にボーっとしてる頭をフル回転さ
せ、最後の理性を搾り出した。
 力の抜けた両腕を必死で動かし、羽居の動きを止めようとした。
「蒼ちゃぁん……」
 だけど、それよりも早く。羽居の、その鼻にかかった吐息のような声であた
しの名前を呼ばれた瞬間に……あたしの理性は吹っ飛んでしまった。
「うっ……あ! だめ! で、でる!」
「蒼ちゃん?」
 ガクガクと、腰が前後に揺れる。
「でちゃうぅ!!」
 あたしの悲鳴に驚いて、羽居の指の動きが止まった。
 でもあたしは止まれず、思いきり腰を突き出していた。
「うあぁぁぁぁっ!!」
 身体がブルンと震え、強烈な快感が脊椎を駆け抜けていった。
 
 ビュ、ビュビュッ

 音がするほどに白い液体が噴き上がった。
 
 これが射精なんだ――――
 
 寝ているとき以外で初めての射精に、あたしは呆然と納得した。
 なるほど。『彼』が性的な関係を強く求めた理由も、これなら分かる気がす
る。
 確かに、これはクセになってしまう快感だった。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
「これが……精子?」
「……あっ……」
 あたし同様、呆然とした声に羽居へと視線を向ける。
 羽居は、とんでもない状態だった。
 あたしが出した精液が……顔一面にこびりついている。
 ドロリと、液体というよりは半固形の粘液状のそれは、羽居の顔だけではな
く髪の毛にまで飛び散り、のらりくらりと重力に引っ張られて垂れ落ちていっ
た。
「変わった匂い……。それに……ん、にがぁいよぉ」
 顔から口元にまで垂れてきた白い精液を、羽居はなんの躊躇いもなく舌で舐
め取った。
 その姿を、あたしは止めることも出来ず、ボーっと眺めていた。


・・・


「ねぇ蒼ちゃん――――してみない?」
「はぁ? 何を……」
 シャワーを浴びなおした後、部屋に帰ってきて開口一番、羽居はワケの分か
らない事を言った。
 いったい、これ以上に何をする事があるというのか。
 あたしは分からずに首を傾げた。
 だが羽居はそんなあたしをもう一度ぶっ飛ばしちゃうような事を言ってきた。
「SEX」
「○%$&###|=$!?!?!?」
 なんて言おうとしたのか、残念ながら覚えていない。
 ただ、なんだか良く分からない奇声をあげたのだけは間違いなかった。
「せ、せ、せぇ……」
「うん。セックス」
「そ、それはつまり性別を意味するsexではなく?」
「うん。おしべとぉ、めしべをぉ、合わせるんだよ〜♪」
 その表現はどうかと思うが……。
「そんなのダメに決まってるだろ!」
「どうして〜?」
「どうしてって……そりゃ……そういうのは、好きな人同士がやる事で……」
「私、蒼ちゃんの事、大好きだよ?」
 そういう事を――――普通は恥ずかしがったりしちゃうものなのに、ハッキ
リキッパリ言っちゃうのが羽居のすごいところだった。
 あたしは、場違いな感想ではあるけれど……嬉しかった。
 羽居があたしの事を好きだと言ってくれた事に。
 だから、身体の繋がりを求めているんだという事に。
 好きだから抱きたい、抱かれたい。それはきっと、当たり前のことだから。
 だけど、あたしは素直にそれを喜べなかった。
 その感情は、所謂理性とか倫理観とかそういったものや、嫌悪感とか羞恥心
とか、いろんな感情が複雑に絡まりあっていて……一纏めにした言葉が思いつ
かない。
「でも……」
「私、蒼ちゃんの事、もっと一杯知りたいよ」
 なんで――――なんで、こいつは、こんなに綺麗でカッコイイんだろう。
 怯えて、疑うしか能のないあたしとはぜんぜん違う。
 なんだか、すごく馬鹿みたいだった。
 さっきの感情を一つで纏める言葉は、すごく簡単な一言だったんだ。

『恐怖』――――怯える心の言い訳を、あたしは必死に探しているだけだった。

 だけど、羽居となら、そんな恐怖にも勝てるかもしれない。
「蒼ちゃん……」
「……う、ん」
 いや、うち勝ってみせる。
 だって、あたしだって、羽居と繋がりたいと思っているのだから。


 羽居が服を脱いでいく。
 さっき、シャワー室でも裸だったのだが、良く見ていなかった。
 というか、それどころではなかった。
 でも、今はその目の前で行われているストリップショーから目を離せなかっ
た。
 羽居は恥ずかしがるわけでもなく、焦らすわけでもなく、さっさと服を脱ぎ
捨てていった。
 そして、ついにショーツまで脱いでしまった。
(うわ、いっちょ前にも生えてやがる……)
 目の前にある羽居の股の部分を見て、あたしはすこし驚いた。
 あたしなんてまだ産毛の濃いのがチョロチョロと顔を見せ始めている程度だ
っていうのに、羽居のソコは薄くではあるが十分に生えそろっていた。
 良くみると、羽居は随分と女らしい身体付きをしている。
 その性格が幼いから勘違いされがちだが、その肉付きはクラスでもトップク
ラスだった。胸がボヨンと飛び出してるくせに、腰だけはやたらと細い。
 それに比べあたしはというと、クラスでも飛びぬけて幼児体形である。
 自分の「ペッタンコ」と羽居の「ボヨヨン」を視覚対比し、なんだか悲しく
なった。
「良いなぁ……」
「蒼ちゃん?」
「いや、なんでもない」
 馬鹿な考えを、慌てて頭を振って消し去る。
「えっと……どうすれば良いんだっけ?」
「たしか……ここの穴に入れるんだよね?」
 ベッドに寝転んで、自分の股間を指差す。
 あまりの大胆さに、恥ずかしくないのかと疑問に感じたが、羽居の顔が真っ
赤に染まってるのを見て少し安心した。
 保健体育の授業で、一応その手の勉強はしているつもりだったが、実際やっ
てみると分かりにくい。
 こんな小さな穴に、本当に自分のモノが入るのだろうか?
 子供が出てくる場所なんだし、大丈夫なはずだけど……。
 手で持って狙いをつけ、あたしは穴の部分に自分の先端を押し付けた。
「い、入れるぞ?」
「うん」
 ごくんっと唾を一度飲み込む。
 あたしは、ゆっくりとおっかなびっくりな状態で、腰を押し出していった。
 手で支えている状態なので、正確に羽居の中へと沈んでいった。
 しかし、先端が少し沈んだところで、思わぬ抵抗を受けた。
「これが……処女膜なんだ?」
 女の子がもつ、初めての証。一回ぽっきりでなくなってしまう――実は膜を
再生する技術もあるらしいが、そんなのあたしが知るわけもない――大切な物。
 それを……羽居のそれを、あたしが貰うんだ……。
 そう考えると、何故か気分が昂揚してきた。
 羽居と一つになれるという喜びもあったけど、それとは別に、羽居のたった
一つだけの物を奪えるのだという興奮があった。
 あたしは、腰を一気に押し込んでいった。
「い、ぐぅ!」
「羽居!?」
「いっ……うぅ……!」
 初めては痛い。それはわかっていたことだ。
 分かってはいたけれど、目の前で羽居の苦痛に歪む顔を見せられた瞬間、血
の気が引いた。
「羽居!」
「ぐ、う……だいじょ〜ぶ、だよ」 
 顔を真っ赤にし、涙を流しながらも羽居はなんとか笑顔を返そうとしていた。
 それが逆に、あたしには痛々しく見えた。 
 こんなことならもっとちゃんと勉強しておくんだった!
 先ほどまでの興奮もどこかへ吹き飛んで、頭の中には後悔ばかりが通り過ぎ
ていく。
 こういう状況になるなんて想像もしていなかったから。なんて言い訳にもな
らない。
 要らない可能性がたとえどんなに大きくても、学んでおくべきだった。
 要る時になって後悔するのが、こんなにも強いのなら。

 せめて、少しでも早く終わらせよう。 

 だけど、そんな心配もすぐに杞憂となる。
 なにせ……羽居の中はその……すごく……心地良いのだ。
 最初はきつさだけが気になっていたけれど、徐々にその感触が伝わってきた。
 暖かくて、キツイのに柔らかい不思議な感触で、ヌルっとしていて、なんだ
か奥にツプツプとした感触がある。
 突き入れた腰を引き出す、ただその行動だけですらあたしは限界に迎えてし
まいそうだった。
 あたしは結局、腰を奥まで突き入れた状態で動けなくなってしまっていた。
「はね、い……」
「蒼ちゃん。出そうなの?」
 恥ずかしがっている余裕もなく、あたしは頷いた。
「良いよ、中で出して」
「え、でも……」
「良いんだよ。大丈夫だからね〜」
 何が良いのか、さっぱり分からない。
 だけどあたしにはそんな事を気にする余裕すら無かった。
 あたしのを押し出そうとするような膣の動きに、あたしは腰を動かすまでも
無く限界に辿り着きそうなのだ。
「蒼ちゃん……好きだよ」 
「あ、くぅ……はねぃい……」
 羽居のとどめの一言で、あたしはそんな情けない言葉と共に限界を超えてい
た。
 
 ビュ、ビュビュッ

「うあぁぁぁぁっ!」
 音が聞こえてくるんじゃないかって言うほど、強烈な……射精。
 腰が震えた。
 全身が硬直した。
 涙が出た。
 涎だって……あるいは鼻水だって垂れ流してしまったかもしれない。
 何が何だかさっぱり分からなくなるくらい――魂が抜け出たんじゃないかっ
てくらい――の射精だった。
 あたしは、すべてを羽居の中に吐き出していた。
 

 後始末――中で出しちゃった精液の処分とか――を終えたあとで、あたしは
謝った。
「ごめん」
「ん〜、どうして〜?」
「いや、だってあたしだけ気持ち良くなってさぁ……」
 羽居はあんなに痛い思いをしたのに……そう思うと悲しくなった。
「私は蒼ちゃんが気持ち良くなってくれて、嬉しいよ?」
「……っ」
 なんていうか……もう、頭がクラクラした。
 痛かったはずなのに。
 涙だって流してたのに。
 なのに、こんな綺麗な笑顔を見せられてしまっては、もうあたしの脳みそは
正常に動かなくなってしまった。
 そんなあたしに、羽居はちょこんと啄ばむようなキスをした。
 
 コンコンッ

「うひゃあ!」
 タイミングの悪い突然のノックに、あたしの心臓は身体から飛び出しちゃう
んじゃないかと思うほど跳ねあがった。
 もしかしたら、さっきまでの声が全部外に聞こえてたとか……。
 そしてシスター達がやってきたのだとしたら……。
 思い浮かんだその可能性に、あたしは一瞬にして血の気がひいた。
 もしそうだったとしたら、洒落にもならない。
 絶対、退学だ。
 退学にならない、理由がない。
 だけど、そんなあたしの不安をかき消すように、ドアの向こうから声が聞こ
えてきた。
「入って良いかしら?」
「遠野……?」
 聞きなれた声の主は、やはり遠野だった。
 扉を開けて入ってきた遠野は、あたし達の姿を見て一度だけ小さくため息を
ついた後、口を開いた。
「何をやっていたかは聞かない。それよりも、急いでシーツの処分と部屋の換
気をなさい。後、シャワーも。あなた達は気づいていないかもしれないけれど、
すごい匂いよ」
 一瞬、何を言われているのか分からなかった。
 だけど、冷静になって自分達の状況に気づいた後は……真っ赤になって、あ
たし達は遠野の言われたとおりにした。
 窓を開けると、外の空気と内の空気の匂いの違いに気づき、あたしはさらに
赤面した。
 ベッドのシーツを引っぺがし、大きめのビニール袋に詰め込む。後で共有の
洗濯所に持っていかなければならない。それが終わった後は、羽居と一緒にシ
ャワーを浴びなおした。
 あたしの方は顔を真正面から見るのは恥ずかしかったが、羽居の方はそうい
う気持ちは無いらしく、風呂の中でもじゃれ付いてくる始末だった。
 遠野が待って居ることを思い出さなかったら、また始めていたかもしれない。

 その後、部屋に帰ってきてからも、遠野は本当に何も聞かなかった。
 それどころか、必要以上に干渉しようともしなかった。
 それは私達にとってもありがたいものであったし、それに、その事で遠野と
疎遠になったというわけではなかった。
 遠野は私達に直接干渉しようとはしなかったが、それでも色々と世話を焼い
てくれていた。
 アイツはきっと生来の世話焼きなのだろう。ヒネクレ者のクセに。
 なんだか冷たい感じの遠野のちょっと可愛らしい一面を見れた気がした。




                                      《つづく》