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 03/


 この一件以来、あたしの生活は変わった。
 今までみたいにどこか自暴自棄的な生き方を改めた。
 二次性徴が始まる前の、あの頃のナチュラルな自分に戻っていった。
 そうなっていくと、毎日が楽しくなった。
 学校の勉強もやってみればなかなか楽しいし、シスターの説教も――まぁ、
楽しくは無いが我慢できるようになった。
 周りのクラスメイトとも交友関係を持つようになった。
「月姫さんって、最近なんか良くなってきたね」
 なんて、言われることもしばしばだった。
 これはなんというのだろうか?
 愛する者、愛される者の余裕ってやつ?
 クラスメイトとの何気ない会話に付き合うのも怖く無くなっていった。
 いろいろ性的な知識を手に入れる事が出来るのもありがたい事だったし。
 毎日、あたしを苦しめ続けてきた余分な「アレ」の事も、徐々に気にならな
くなっていった。
 あたしの生活は、本当に大きく変わった。

 それは全て、彼女がそばに居るからだ。
 羽居と一緒に居られれば、何をしていても楽しかった。
 羽居もいつも楽しそうに笑っていてくれるし、あたし達は本当に幸せだった。
 当然、そんな中であたし達は性的な事も続けていた。
 最初は遠野の事も気にして、バレないように、バレないようにとやっていた
のだが――もちろん、バレている事だろうけど――それも次第に変わっていく。
 人間、慣れという物があって……止める者の居ないあたし達の関係は、ずん
ずん突き進んでいった。

 あたしはそれまで避けていた性的な知識にも興味を持つようになり、いろい
ろ勉強した。
 例えば性器を挿入する前にはちゃんと愛撫ってやつをして、濡らさなきゃい
けないって事や、二人が逆さに重なりあって愛撫する行為をシックスナインと
言うって事なんかも覚えた。
 あたし達は学園内に出まわっているその手の雑誌――全寮制とはいえ、持っ
てる奴は持ってるのである――を何冊も手に入れ、二人そろって勉強した。
 二人並んで雑誌を読み、面白そうなのを見つけると実際にやってみた。
 そして、羽居が挿入で快感を得られるようになってからは、本当に歯止めが
利かなくなってしまった。


・・・


「う……羽居……」
 すべすべしたあたしのアレの先端が、ザラザラとした生地に擦れる度に、む
ず痒いような快感が沸きあがってくる。
 まして、その生地の奥には羽居の柔らかい胸が潜んでいるのだから、その温
かさと柔らかさに、あたしの先端からはすでに先走りの液が出ていた。
「どう? 蒼ちゃん」
「どう……んっ! ってぇ……」
 あたし達が居る場所は、水泳授業のための更衣室だった。
 立ち並ぶロッカーにもたれ掛かりながらあたしが立ち、その足元に羽居が跪
いている状態。
 それだけではない。
 羽居の格好は制服でも私服でもなく、先ほどまで水泳の授業で使っていた学
校指定のスクール水着なのだ。
 別にフケたわけではない……はずだったのだが、実際にはそういう形になっ
てしまった。
 本当は、授業中に足を挫いた羽居を保健室に連れていくはずだったのだが…
…。

 あたしは基本的に体育の授業には出ない。
 特に水泳の授業などは、小学校高学年から一度も受けたことがなかった。
 理由は……説明しなくてもわかると思う。
 そういうわけで、今日も水泳の授業を見学していたあたしが羽居を保健室に
連れていく役割に任命されたわけだった。

「足は?」
「ん? ちょっと痛いけど、もう大丈夫みたい」
 とりあえず、彼女が嘘をついて抜け出してきたわけじゃないって事に安心す
る。
 よくよく考えてみれば、羽居にそんな器用なことができるわけないのだが。

「蒼ちゃん、出そうなの?」
「う……あぁん!」
 ビクビクと震えるその動きから、出そうなことくらい分かってるくせにあえ
て聞いてくる。
 羽居はあたしの恥ずかしがる反応を見て楽しんでいるのだ。
「どうする? 一回出しちゃおうか?」
 このまま羽居の中に居れても、三擦り半も保たないのは間違いないだろう。
 あたしは恥ずかしさに頬を染めながらも、コクンと素直に頷いた。
 それを見て、羽居の顔が一気に明るくなる。
「うん♪ じゃがんばるね〜!」
 こういう時ですら、羽居の笑顔は普段と何ら変わらない。
 羽居の大好きなマーブルケーキをご馳走した時と同じ笑顔で、あたしのゴツ
ゴツしたそれに吸いついてくるのだ。

 何十度と羽居と身体を合わせていて気がついた事は、羽居はどうやらこのフ
ェラチオという行為がお気に入りらしいと言う事だった。
 アレを口で愛撫し、そこから出てきた液をのどの奥で受け止め飲み込んだり、
顔に浴びたりだなんて、正直あたしにとってはゾォッとする行為なのだが、羽
居はそれを嬉々としてやっている。
 朝、起き抜けに半場寝惚けながらむしゃぶりついてきた事もあった。ちなみ
にその際、羽居は「このミルク、美味しい〜」などという爆弾発言をかまし、
あたしを卒倒させてくれた。
 昼、休み時間にトイレに連れ込まれ、個室の中で時間一杯まで散々吸引され
た事もあった。
 夜は夜で、遠野が横で寝ているところでアレコレと……。もちろん遠野の事
だから気づいているのだろうが……なんだか随分悪い事をしてしまっているよ
うな気がする。
 
「んんっ、ちゅくっ、あぁっ、んんっ……あぁ」
 ズ、ズズと吸引される音が静かな室内に響き渡る。
 もともと素質――こういう事に素質が必要なのか知らないが――があるのか、
羽居のテクニックは身体を合わせるたびに上達していった。
 最初からそうだったけれど、SEXの際の主導権はいつも羽居にあった。
 あたしはというと――――
「うっ……くぁん!」
 羽居にされるがまま、鳴いているだけ。
 申し訳ないし、情けないとも思うのだが、気持ち良いのだから仕方ない。ど
うしようもないのだ。
 唾液で濡れてヌルヌルになったビロードの感触の唇で締め付けられ、さらに
ザラザラとした舌があたしのソレを隅々までくまなく這いまわっていく。
 それだけではなく、喉の奥深くまで飲み込んでいく。
「ん、んぅぐ……」
 おそらく苦しいのだろう、喉の辺りから小さな呻きがもれた。
 それでも羽居は吸引を止めない。
 いったん先端の辺りまで吐き出し、舌を這わせたまま再び飲み込んでいく。
 それを繰り返す。
 熱いヌメリと腰の奥から神経ごと吸い出されるんじゃないかっていう吸引。
 唇の締め付け加減も絶妙で、本当に根こそぎ吐き出してしまいそうになるく
らい気持ち良い。

「こっちもしてあげるね」
「あ、んあぁっ! そ、そっち、はぁっ、あ!」
 空いていた左手があたしの女の子の部分に触れたのだ。
 指でピッタリと閉じているその部分を開き、中にある敏感な所を撫でまわし
ていく。
「ふふ、蒼ちゃんのここ、カワイっ」
 すでに羽居の口淫の快感で濡れ始めていたソコは、ニチャニチャと音を立て
ながら羽居の指を歓待した。
 羽居の中指はクルクルと入り口の辺りを回ったかと思うと、ふいにあたしの
中に入ってきた。
「く、ぁぁあっ!」
 羽居と違ってまだ未使用のその内は、彼女の細い指一本でも一杯一杯だった。
 入っては出る。出ては入る。
 まるで指が男性器であるかのように、羽居はピストン運動を始めた。
 敏感なその場所は、感じるほどでもないはずの羽居の指の隆起すら、感じて
しまうほどだった。
 もちろん、その間も口の動きは止まっていない。
 指の動きとシンクロして、更なる快感を送ってくる。
 あたしの神経が一点に集中してしまわないように、絶妙なタイミングで口と
指を動かしてくるのだ。
 こうなっては当然、それ以上の我慢など、出きるわけがなかった。
「う、でる……羽居ぃ、でるよぉ」

「出して、蒼ちゃん。いっぱい〜」
 羽居の甘い声が引き金になった……ワケではないだろうけど、あたしは精液
を吐き出していた。
 勢い良く吹き出した精液はそのまま羽居の喉に突き当たる。
「んぐぅ! げほっ!」
 羽居が苦しげに嗚咽し、あたしのから口を離した。
 しかし、一度の放出で止まるわけもなく、第二、第三の射精は、そのまま無
防備な羽居の顔面に撒き散らされてしまった。
 羽居の僅かに赤らんだピンク色の肌に、白い精液が妙に映える。
 あたしは、先ほどまで必死にふんばっていた足の力も抜けてしまい、その場
に尻をついてしまった。
 たったこれだけのことなのに、息が上がってしまっている。
 責められてたあたしの方がそんな状態だってのに、顔を上げると……。
「羽居……」
「……ぅん?」
 どしたの? って顔で、羽居が顔についた精液を指でこそぎ、舐めていた。
 息が上がってるなんて事もなく、あたしが望めば、このまま即もう一回、と
行けるだろう。
 もちろん、そんな自殺行為、あたしが望むわけないけど。
 

 一、ニ分ほどの小休憩の後。羽居は何を思ったか、いきなりあたしに背を向
けると、反対側のロッカーに手をつき、膝を曲げてお尻を突き出してきた。
 柄の無い紺色の生地の中に無理やり押し込められているお尻の肉が、あたし
の目の前で揺れる。
「蒼ちゃん。次は私だよ♪」
「う、あぁ……」
 強烈な射精で脱力していた身体を、無理やり動かす。
 吸いこまれるように、あたしは羽居の恥ずかしい部分に顔を近づけた。
(濡れてる……)
 プールの水はいい加減乾き始めている。その証拠に他の部分はスクール水着
独特のあの味気のない色に戻っている。
 なのに、股の部分だけが……深い色をしていた。
 羽居も、感じていたのだ。
 彼女はどうやらあたしの事を責めるのが大好きらしく、自分には何の刺激が
なくても舐めているだけで濡れたりする。
 サド、でないことを願うばかりだ。
「蒼ちゃん〜、早く〜」
「あ、あぁ」
 羽居の声に、慌てて従う。
 あたしは、水着の上からその部分にしゃぶりついた。
「ひゃんっ」
 いきなり、水着に染み込んだ羽居の愛液を搾り出すように、吸引する。
 僅かに、しょっぱいような味が口の中に広がった。
 呼吸が続かなくなるまでそれを続け、あたしは口を離した。
 水気を吸ってピチピチに貼りついているその部分は、僅かに羽居の形を浮き
出させていた。
 これまでも数え切れないほどみて、記憶の中にはっきりとその形が残ってい
る羽居のアソコ。
 だけど……もっと見たい。そう思ってしまう。
 別に、見たからといってどれ程のことでもないのだけれど。
 それでも、見たいと思ってしまうのだ。
 前に呼んだ本で、女性器は華に例えられる事があるらしい。
 なるほど、とちょっと感心する。
 羽居のここは、まさに華のように綺麗で、あたしはそれに引きつけられてく
るチョウチョみたいなものだった。

 あたしは、羽居に無断で、水着の股の部分を横へずらした。
「ヒャッン」
 唐突に敏感な部分を晒されて、羽居が軽く悲鳴を上げる。
 ム〜と子犬みたいにこちらを睨み付けてくる彼女に、あたしはお返しだ、と
ばかり笑い返してやった。
 羽居のその部分は、綺麗な桜色をしていた。
 大人になると、ここが黒くなるとか、そんな話を聞いたことがあるから、そ
う言う点で羽居のもまだまだ子供なのだと安心する。
 これでここまで大人だったら、全身くまなくお子ちゃま仕様のあたしとして
は立場が無い。
 水着を脇に押さえつつ、舌を伸ばす。
 チロチロと、敏感な膣口あたりを舐めまわした。
「ひゃぅ、あ、んぅん!」
 逃げ様としてるのか、それともさらに押し付け様としてるのか、羽居のお尻
が揺れる。
 だけど、あたしは逃がさない。
 腰をつかんで固定し、さらに強く弄りまわした。
 もちろん、弱点であるオマメさんも見逃したりはしない。
 上のほうで、ひっそりと包皮に包まっていたのを舌でゆっくりと起こしてい
く。その部分は、
「やぁ、そこ、はぁ」
 羽居はその強い快感に、逃げようと動いたが、あたしが腰をつかんでいるた
めに未遂に終わる。
 あたしはその動きに気を良くし、今度は舌ではなく、唇で羽居の突起を挟ん
だ。
 そして、強過ぎない程度に転がす。
「んあぁっ、蒼ちゃん、そこっ! そこぉ! 気持ち、良いよ〜」
 羽居が、鳴き声をあげる。
 普段以上に甘い声で、あたしの脳みそまで蕩けてしまいそうだった。
 その声がもっと聞きたくて、開き始めているその穴に指を一本、刺しこんで
いく。
 熱いほどにヌメっているその中は、指だというのに背筋がゾクゾクするほど
気持ち良かった。
 一杯一杯まで入れると、指先を鍵状にしながら引きぬき、また、押しこむ。
「んんん、あぁっ!」
 まるで、自分のを入れてるみたいに、激しくピストン運動を繰り返す。
 クチュクチュとイヤラシイ音が響いた。
「あ、蒼ちゃん。もう……」
「どうする? 一回イっとく?」
 さっきの仕返しに、同じ事を聞き返す。
「う〜、イジワル」
「ウソ。冗談だよ」
 だって、あたしだってそんな余裕は無いから。
 もう、羽居の中に入りたくて入りたくて、堪らないのだ。
「それじゃ、いくよ?」
「うん」
 羽居はその姿勢のまま、あたしは立ちあがった。
 もうすでに準備万端な自分のアレを見て、その現金さというか元気さという
か……なんとなく苦笑する。
 あたしはそれを手で位置修正した。
 先っちょで、羽居の入り口をノックする。
「いくよ?」
「うん」 
 再度確認したことに、意味は無いと思う。
 あたしは、ゆっくりと腰を押し出していった。
「んん……あ、入ってくるぅ。蒼ちゃんのが、入ってくるよぉ〜」
 ゆっくりゆっくりと沈めていく。
 羽居の中を、感じるように。
 そして、そのままゆっくりと最奥に辿り着くと、そこで一息ついた。
「羽居の中、すごく暖かい」
「うん。蒼ちゃんのも……ぅん、暖かいよ」 
 羽居の中は、暖かくて、その上入れてるだけでも気持ち良かった。
 名器って奴なのかもしれない。
 比べようが無いので、わかんないけど。
 しばらく止めていると、羽居の腰が勝手に動き始めた。
「どうしたの、羽居。腰、動いてるゾ」
「うぅん……蒼ちゃぁん……」
 じれったそうに、鼻にかかった声。
 それが堪らなく淫猥で、魅力的で、あたしはそれ以上腰の動きを止めること
が出来なくなってしまった。
 羽居の中を引きずるようにして笠の部分まで引きぬき、一気に差し込んでい
く。
 そして、羽居の奥を叩くように、思いきり突き上げる。
 その度に、羽居の中は細かく収縮を繰り返し、反撃してくる。
 膣のどこで感じるかは人それぞれらしい。
 入り口のほうを早い動作で出し入れされるのが良い人や、奥までズシンと突
かれるのが好きな人も居る。
 羽居は後者だった。
 先っちょで、一番奥に有る子宮の入り口をグリグリと苛められるのが大好き
だった。
 といっても、それはあたしにとっても捨て身の攻撃で、めったにできる事じ
ゃない。
 今みたいな余裕のないときは、ただがむしゃらに突き込むだけだ。

 パン、パンと軽快な音が、更衣室に響く。
 肉と肉が激しくぶつかり合う音。
 テンポは一定ではない。
 たまにタイミングをわざと外してやると、さらに可愛く鳴いてくれた。
「羽居、キモチイイ?」
「あぁっ、キモチ、いいよぉっ」
 高い塀に囲まれたこの敷地内で、万が一と言う事もないだろうが、更衣室に
は窓はない。
 壁の高いところに採光と換気のタメに小さな窓がついていることはついてる
のだが、今は開けられていなかった。
 そのため、室内にはあたし達の声が良く響くだけではなく、流れ出る汗や甘
酸っぱい愛液の匂いも溜まっていった。
 その匂いは、あまりに濃縮されていて、まるでピンクの靄がかかったみたい
に、目で見える……なんて錯覚するほどだった。
「蒼ちゃぁんっ、イイ、イイよぉっ」
 快感に、身体を弓状に反らせる羽居。
 あたしは目の前にある、その白い背中に口付けした。
 そして、まるで真っ白な処女雪のゲレンデを滑り降りてくるスキーヤーみた
いに、舌を這わせていく。
 汗の味が、口の中に広がった。
 その味を堪能しながら、あたしは羽居の胸へと手を伸ばした。
「あんっ! 蒼ちゃんぅ……」
 腰の動きにワンテンポ遅れて揺れるその白い半球の塊を、やや強めに握り締
めると、さすがに痛かったのか、羽居は抗議の声を上げた。だけど、その声す
ら甘い。
 あたしは構わず、キュっと、先っちょで自己主張している部分をつまみ上げ
る。そして引っ張りながら、上下左右に揺さぶった。
「ひゃっ、あ、ぅんっ、ああぁっ!」
 堪らなかった。
 羽居の、なにもかもが。
 あたしの行為に鳴いてくれる、羽居の存在が。
「蒼ちゃん! もぅ、もう、イっちゃうよぉっ」
「あたしも……あたしもっ、イクっ」
「あぁ、蒼、ちゃっ! イク、イクっ! イっちゃう!!」
「くっ、羽居、一緒にっ、一緒にイこ」
「う、あはぁっ、一緒、いっしょにっ」
「うあぁぁっ!」
 最後の一突き、とばかりに腰を突き出し、最奥まで差し込む。
 その瞬間、羽居の中が急に収縮した。
 痛いくらいに締め付け、まるで何千万の繊毛があるかのように中の壁が複雑
に蠢く。
 まるでそれ自体が別の生き物みたいに、獲物を逃がさないように吸いこんで
いく。
「あ、あ、あはぁああああぁぁぁぁぁっ!」
 その収縮に、あたしは身体の中のものを全部、吐き出していた。 


・・・


 廊下の窓から見える空は灰色の雨雲で覆われている。
 ポツポツと降り始めた雨は、もう少ししたら本降りになるだろう。
 だがそんな天気とは裏腹に、あたしはスキップしてしまいそうになるくらい
上機嫌だった。
 もちろん、ついさっきまで羽居と一緒に居たわけで……つまるところ、「い
たして」いたワケである。
 ここ最近は、一日に何回もすることの方が多くなっていた。
 今日だって、朝にニ回。そして今は一回。
 馬鹿みたいだって思うかもしれないけれど、あたし達にとってはそれが至福
の一瞬だった。
 羽居と繋がっている時間の心地よさは、きっと他人にはわからない。
 このまま、世界の全ての人間が消えて無くなっても構わないと、そんな風に
考えてしまう、この気持ちなんて。
「蒼香」
「ん? 遠野か。何だよ」
 そんなあたしを止めたのは、こちらとは対照的に不機嫌ですっていう顔をし
た遠野だった。
 色々とごたごたに巻き込まれやすい遠野である。また何かあったのかもしれ
ない。
 なんて思っていたあたしに向かって、遠野は唐突にとんでもない事を言って
きた。
「あなた達、もうちょっと離れたほうが良いんじゃないかしら」
「はぁ?」
 前置きの省略された、あまりに単刀直入なその言葉に、遠野の言う「あなた
達」があたしと羽居の事だとは思いつかなかった。
 遠野の口からあたし達の話題が出てくることなど滅多になかったし、「離れ
たほうが良い」なんて彼女が言うわけないと思っていたから。
「今のままの関係を続けるのは、良いことではないわ」
「な、何だよ……いきなり。干渉しないんじゃなかったのかよ」
 半場戸惑い、半場嘲るような気分で、あたしは言い返した。
 だけど遠野はさらに顔を不機嫌そうに歪ませ、さらに続けた。
「干渉したくなんてないわよ。だけどあなた達が不幸になっていくのを見過ご
すことなんて出来ないだけ」
 不幸?
 いったい誰がどうして不幸になるというのだろう?
 あたしには分からなかった。
 あたし達はまったくもって不幸なんかじゃない。そんなモノからは一番縁遠
い二人だと思っていた。
「中途半端な関係をいつまでも続けていても、傷つくだけよ」
「中途半端? あたし達が?」
「えぇ。正確には中途半端なのはあなただけなのだけど……やっぱり気づいて
ないのね」
「あたしの何処が中途半端だってんだよ!」
 あたしは怒りのあまり、遠野の襟首をつかんで捻りあげた。
 あたしが中途半端……。いったい何が中途半端だというのだっていうのか。
 気持ちの問題を言っているのなら、それは大きな間違いだ。
 同性愛だから、いつまでも続けることは出来ない。この関係もいずれ終わる
ものだ。
 なんて、思っているのだというのなら、そんな事は絶対にない。
 あたしは一生羽居と一緒に居るって決めたのだから。
 それが同性愛で、世間的にタブーであったとしても。構いはしない。
 しかし、遠野は襟首を捕まれながらも変わらぬ冷静な――いや、冷淡な――
瞳で言い放った。
「あなた最近、男みたいね」
「――っ」
 遠野のその一言は、あたしに強烈なショックを与えるのに十分だった。
 目の前がいきなり真っ暗になった。
 頭がクラクラと揺れた。
 身体中の力が抜けていった。
「中途半端ね、あなた」
 遠野の言葉は剣となってあたしの浮かれていた心を刺し殺した。
  
 あたしは女として生きていたはずなのに――――

 羽居の事は好きだ。愛している。
 だけど、それは男としてではない。私は女だ。
 女として、羽居を愛していた。
 これはれっきとした同性愛なのだ。
 なのに、今ここにいるあたしは、遠野のいう通り、男のようなあたしだった。
 男みたいな口調で、男みたいな思考で、男みたいに……羽居を犯してる。

 あたしはどっちなんだろう?
 男?
 女?
 分からない。
 あたしは女であったはずなのに。
 分からない。

 そうだ――――

 何よりも。

 分からないことが一番の問題なのだ――――!!

 何故自分は女だとはっきりと宣言できない?
 遠野に笑い返してやれない?
 どうして、分からない?

「このまま進んでも、高校卒業までは別に何の問題も無いでしょう。だけど、
卒業してからはどうするつもりなの?
 男みたいな女でも良い。逆だってね。同性愛だって構わない。性転換したっ
て何ら関係無い。だけど今のあなたはそのどれにも当てはまらない。女でもな
く、男でもない、どちらでもないあなたには――――」 
 残酷なくらい強い遠野は、その先も躊躇いなく言ってしまう。そんな事聞き
たくないあたしには、逃げ出すことしか出来なかった。
 あたしは、耳をふさいで逃げ出した。遠野に背を向けた。
 それしか、なかった。
 でも、ホントは聞かなくったって分かってる。
 男でもない、女でもない、どちらでもないあたしには――――羽居を幸せに
することなんて出来ないのだ。
 

 廊下を走り抜け、あたしは校舎を飛び出した。
 雨にぬかるむ地面を踏みしめ、あたしは逃げ続けた。
 あたしは女。
 でも、股間には男のモノ。
 あたしは女。
 でも、セックスするときに男のモノを使う。
 あたしは女。
 でも、男。
 ありえない存在。
 どちらでもない存在。
 中途半端な存在。
 だけど、どちらにもつかないなんて、そんな事が赦されるわけ無い。
 だって世界には男と女、二つしかないから。
 だから神様は……選択を要求するのだ……。
 どちらかを、選ばなければならないのだ。

 どうして――――

「どうして! あたしをあたしのままで居させてくれないんだ!!」

 あたしの渾身の叫びは――――しかし、雨音に吸いこまれ、むなしく消えて
いった。





                                      《つづく》