立ち昇る湯気。
それは浴室の光景。
まぁそれも当然、浴室とは通常こうやって使うものだろうから。
しかし、熱いってか暑いってかアツイのは、おそらくそれだけの所為じゃない。
「ひゃっ、ぅ……ん、ぁあっ……は、ぁ」
ぽたりと垂れ落ちる液。
天井から垂れる雫に混ざって、床に近い所から垂れる。
最初は……そう、最初は茶を被った体を洗うためにここにきたはず……そのは
ずなのだが。
「ん、むぅん……ん、にゃ……はっ、っ」
ぽたり………ぽたっ、ぴちょ……ぽた………
「ゃ……し、ろう……んんっ……っ、ぁあ」
……ぴちょ、くちゅ……ぽた……くちゅり、ちゅぶ……
聞こえるのは、もはや音だけ。
まぁ普段から耳に聞こえるのは音だけというのは当たり前。
今聞こえるのは、この音と声だけ。
反響して、鼓膜を震わす音と声、もう当初の目的は頭の中からとうに消え去っ
ていた。
いや、目的など最初から無かったのかもしれない。
もしかしたら、これこそが目的だったのかも。
そんな思考さえ、今は邪魔。
もはや触れ合っていない部分などどこにも無く、濡れた体の感触と耳に届く声
と音が、もっと、もっとと……士郎を、そして凛を引き込んで、引き上げてい
く。
こうしているだけで飲み込まれそうになる。
目の前に広がる光景。
唇にかかる息。
こんなの………反則だ。
そう、心の中で悪態をつきながら、僅かに苦笑を浮かべる士郎。
結局、どれだけ反則じみた行為であっても、それが自分に対してどれだけの威
力を発揮しようとも、自分は全て受け入れるだろう、そう士郎は思った。
当然だ。
今自分と絡み合って、四肢を絡ませ合っているのは他ならぬ凛。
どうにかならないはずが無い、いつも冷静で綺麗で、感情の起伏が激しくて、
肝心なところでミスをして……
でもそれが、いやそれだからこそ。
士郎はより強く彼女を求める。
そう、だからこそ。
凛も、彼を求めるのだ。
凛にとっても、この行為がただの一時の迷いではない事は明白。
彼女自身も気づいている。
いつもはへっぽこで、ぜんぜん頼りにならないように見えて、主夫みたいなこ
とばっかりやって、未熟で、熱くて、肝心なところでは絶対ミスをしない。少
なくとも、それが、その思いが間違っていた事など、凛の知る限りでは一度も
無かった。
正反対?
「ん、きゃぅ……うあっ、は、っっ……む、ん」
いや、全く同じなのかもしれない。
本当の事を言えば、士郎と絡み合って、深い深いキスを交わし続ける事は、こ
れ以上ないほど甘美なものだった。
今私は士郎しか見えない。
彼にも、私しか見えていない。
どうやら自分は思っていたよりも独占欲が強かったようだ、などと、凛は濡れ
る体を士郎に任せながら考えていたりしていた。
――――ただの独占欲じゃない。
私だから………士郎だから……彼だから、ここまで私を……こんなにまで私を
………んんっ――――
凛の思考はキスで塞がれた。
いつもなら、自分が喋っているときに中断されると、フィンでもぶっ放してい
るのだが、こんな状況では文句も言えない。
こんなに激しく、こんなに深く、こんなに優しく、こんなに気持ちよくなって、
誰が文句を言えるだろうか。
こうなるのは、士郎だけ。
こんなにされるのは彼にだけだから、もっと、もっと……って。
「と…おさ、っか、ぁ、っつ………」
「ん、んんっ、しろ、う……」
僅かに残った理性が名前を呼び合う。
離れた唇にかかる雫の掛け橋。
赤く、火照った顔で凛がこちらをみている。
それだけで、士郎の何倍にも鼓動が跳ね上がり、抑制が効かなくなっていく。
濡れた裸体は湯気に隠れながらも、しっかりとその存在を示してくる。
絡み、押し付け、触れて、抱き寄せる。
まだ、抱き合って唇を重ねているだけ。
そう、それだけ。
それだけ―――――なのに。
「は、ああっ、ぁぁぁっっ……つぁっ……あああっ!!」
軽く。
ほんの少しだけ、彼女の体が痙攣する。
ぴくっ、ぴくぴく、と。
数秒ほどの空白の後、凛はそっと士郎の顔を荒い息のまま上目遣いで覗きこん
できた。
その視線にも力が無く、それが更に可愛く見えてしまう。
「は、ぁ……はぁ……しろぅぉ……」
どうやら、いや考えられないことも無いのかもしれないが。
もしかしたら、キスだけでイッてしまったのか?
そこで高まっていた興奮が少しだけ収まり、士郎にも凛の顔を見つめる余裕が
生まれる。
凛は目を閉じて、こちらに力無くもたれかかってくる。
湿った空気に包まれて、その柔らかい体の感触が、逆に士郎の体に力を与えて
いく。
思えば、よく我慢していたものだ。
凛と絡み合っているという事が、士郎にとってあまりにも莫大な力を発揮して
いたため、それ以外の事は頭から吹き飛んでいたのだろう。
とくん……とくん……
凛の鼓動が伝わる。
うつろな視線で、それでもしっかりと士郎を抱きしめて。
それだけで他に何もいらなくなりそうになる。
それだけで、その姿だけで。
「ん〜……しろ、……っ」
また、理性が壊される。
でも、いつまでも暴走しているのも情けない。
だから今度は少しだけ。
小鳥が餌をついばむように、小さく、少しだけ、唇を合わせる。
短く、優しく、間を空けずに、何度も何度も、何度も。
ちゅっ……ちゅっ、ちゅ
「っぁ……ぁ、ん、ん、ん、ん、……ぷぁはぁ……ん、ん、ん、……」
ちゅちゅ、っちゅ、ちゅっ、ちゅ……
止まらない。
どんどん加速し、触れている時間が長くなる。
触れている動きから、離れない動きへ。
離れないでいると、更に奥に潜り込ませたくなる。
士郎は、俺だけ?と。
凛は、私だけ?と、互いの目の中に自分の姿だけを見ながら、それでも動きを
止めようとはしない。
分かっているから、二人とも。
感じ過ぎるほどに感じているから。
決まってる。
もう二人とも離れられないってことなんか、とっくに分かってる。
彼には彼女が、彼女には彼が。
凛には士郎が、士郎には凛が。
上気した顔で見つめられれば、誰だって一瞬で虜になってしまうだろう。
その瞳も。 その心も。
その顔も。
その肌も。
その唇も。
その髪も。
その胸も。
その脚も。 その声も。
その………全てが。
今、自分だけのもの。
それだけでもう脳みそぶっ飛んでしまいそうなのに、その上こうやって………
「は、ぁん、ん、ん、ん、んっ」
まだキスを繰り返しながら。
士郎は股間でいきり立ちっぱなしのモノを彼女の秘部に押し付ける。
きゃっ、と短い声が聞こえたような気もしたが、それをキスで塞ぐ。
まだだ。
そう、まだ触れているだけ。
まだ始まったばかりなのだ、こんなところで果ててしまうわけにはいかない。
しかし、この快楽は、今士郎に流れ込み続けている快楽は、もはやそんな意地
さえも押し流すかのように、洪水のような勢いを緩めようとはしない。
気づけば、いつの間にか彼女も腰を振り始めていた。
互いの性器が擦れて、擦れ合って、濡れて、液体が漏れる、淫猥な水音が自身
の耳にだけ届いているような錯覚を覚える。
吐息も熱い。
もはや羞恥さえ無いのか、凛は士郎の肉棒に自身の敏感な所を、これでもかと
いうほど激しく絡ませてくる。
まだ挿入れていないのに。
まだ、触れているだけだというのに。
でも、淫液でぬるぬるになっていくほど、更に熱は上がる。
音と同化する動き。
想いと同化する動き。
ぐちゃ―――とぉ、さか……
しろ、ぅ―――ぐちゅ
もはやうわごとの様になってしまっている。
「は、っぁ……は、あ―――」
「ゃ……ん、ああっ、んあっ、ああ、あ、あ……!」
また、凛の体が小刻みに震える。
そして、またあの潤んだ瞳。
どくん。
鼓動が。
血流が。
高く、際限なく、限界無く。
もう、抑える事など、出来るわけが無かった。
「遠坂―――っ!!」
「ぇ、ぁ……んんっ」
出来る限りの思いをこめて抱き寄せる。
それが、言葉なんかよりもずっと確かだと、士郎は凛を目の前にしてそう感じ
ていた。
言葉は要らない。
ただ。
こうしていることが。
何よりも彼女の思いにこたえることが出来る手段だと。
そう思うから。
「はぁ、っ、っ、あ、ああっ、んぁ、や、ゃ、こ、これ、気持ち、いぃ……ふ
ぁ!!」
一瞬何か大きな衝撃を受けたように、凛の体が震えた。
熱く滾った物が体から流れ出ていく感覚。
「しろうの……あつ、ぃ……ふぁ」
気づけば、士郎は無意識の内に、凛の腹部に精液をぶちまけていた。
あまりの快楽のためか、未だ白濁を噴出し続けている自分の部分の感覚がない。
凛の体を白く染めて、その光景に自分でもどうにかなりそうになりつつ、士郎
は凛の唇に舌を這わす。
でも、キスはしない、ただ唇に沿って舐めあげるだけ。
凛がキスを求めて舌を出すと、すぐに舌を引っ込めて目線を重ねる。
れろっ……ひょい、れろれろ……ひょい、ひょいっ……
その内、凛の動きが止まる。
どうして、といった恨みと疑問の混ざった視線。
それに士郎は、どうしてでしょう?、といつもとは逆の立場で問い返してみる、
もちろん視線だけで。
「う゛〜〜〜〜」
いつもなら何かしら仕返しをされるところだが、この状況と格好の所為か、唸
るだけで凛は何も言わない。
その顔に、また興奮を覚えて、もっと意地悪をしたくなる、でも、まだ我慢、
我慢。
凛も凛で、別に何か言うわけでもなく、じっと見つめ返してくるだけ。
士郎もじっとそのまま動こうとしない。
そのかわり……
「――――ぁ」
何かに気づいたように、凛が小さく声をあげた。
視線は下。
まだ先ほど士郎が放った白濁が、密着している二人に絡みその身を染めている。
その中で、
「も、もぅ、またおっきくなってるじゃない……!」
悠然と自身の存在を主張する士郎の怒張。
白く染まる二つの体に挟まれるように、小さく脈動しながら少しずつだが更に
その大きさを増しつつある。
「そ、そんな事言われてもだな……!」
「ぇ――――きゃっ!?」
士郎も士郎で赤面しつつも、抱き寄せている凛の体は離さない。
というよりも、更にその怒張を彼女に押し付けていった。
ゆっくり、だけど強く。
「ちょ、し、ろぅ……、ぁや、だっ、め……!」
「駄目か?」
「―――っ!! なっ、ぁん……もぅ……バカ……」
「遠坂とこうしてたら……」
そして、また唇を。
「ぁ―――は、んむ」
次に耳元で。
「……俺、抑えられないって」
「―――――!!」
お互いがお互いの体温が高く、熱くなるのを感じる。
同時に、自分の体温も。
「遠坂……」
「士郎……」
暖かい湯船につかりながら、四肢を絡めて一つになる。
士郎は凛の華奢な体を湯と腕で包み込みながら、そっと耳元へ吐息を吹きかけ、
呟く。
「あったかいな」
「……(こくっ)」
頷く動きだけが伝わる。
少し動いただけでも、彼女の動きが湯の動きとなって、彼女が直に触れてきて、
血が下腹部にたまっていく。
湯の抵抗もあるものの、それに包まれているという事が、二人に何かしらの安
心感を与えていた。
ちゃぽん、と水の跳ねる音。
ありえないはずなのに、それが自分達の陰音に聞こえる。
湯が汚れても気にしない、そんな事はどうでもいい。
ただ、ただ今は。
「「――――――!!」」
もう見詰め合うことさえしない。
一瞬でも早く、その体を、相手の体を感じたい。
互いの鼓動を……早く、はやくはやくはやくはやくはやく………もっと、もっ
ともっともっともっと近く……近くに―――――!!!
「んぅっ、くっ……あ、ああっ―――ぁ、ぁ、ぁ、ぁ…!!」
温かい湯、それ以上に熱をもった彼女の膣内に、士郎は進む、自分自身を埋め
ていく。
彼女の表情の変化を一番近いところで楽しみながら、ゆっくり、でも確実に、
その奥へと。
水の抵抗がある所為で、あまり激しくは動けない。
しかしそれは裏を返せば、一番深い所で交わったまま、この空間を二人だけで
占領するということ。
湯につかる前にぶちまけられた精液は、混ざって中に身を漂わせ、再び凛の体
にこびりつき、今度は湯を白く染めていた。
は、ぁ―――あ、はっ、はぁ……はぁ、はぁ……
荒い息で湯気が揺れる。
湯気で隠れて凛の裸体をそのまま拝む事は出来ないが、それがまた士郎の中で
別の興奮を呼ぶ。
ちゅ、と士郎は唇で凛の首筋に優しく印をつけた。
ぁ――――――そんな吐息が途切れる音を聞いて、徐々に士郎の動きが速くな
る。
ちゅっ…ちゅ、ちゅっ……は、む……はむ……
「ぁ、っ……んん、んぁ……は、っあっ、あ……」
動きと声が重なる。
想いと思いが重なる。
吐息と熱が、言葉と視線が。
液と液が、際限なく重なり、混ざり、絡み合って。
ついさっき射精したばかりだというのに、士郎の肉棒は既に先ほどよりも力を
持っていた。
我慢が出来ない、抑制が効かない。
「ぁ――――っ―――――」
「あんっ、ああっ、はぁっ、あああああ、んぁ――――!!」
浴室に響く凛の媚声。
その声に高められる。
引き上げられ、なのに引き込まれているような錯覚、矛盾。
湯の中で胡座をかき、その上に彼女を抱えあげている。
こんな体勢だから、あまり激しい動きは出来ない、でも、もっと、もっと、と、
士郎は自身の中でたぎる何かを感じる。
このままでも充分気持ちいい、このままでも、すぐに果ててしまいそう、でも。
でも、まだ、もっと彼女を、凛を―――――犯したい。
「遠坂――――」
「はぁ……っ、はぁ……ぇっ、きゃっ!?」
凛と一つになったまま、士郎は立ち上がった。
彼女の片足を持ち上げて、さらにその脚を逆側へと下ろす。
士郎の怒張を中心に、凛の体が反転する。
細い体、形容出来ないほどの美しさを保ったその背中を、士郎は力任せに抱き
しめる。
「ちょっ、士郎……ひゃんっ……ぁ、な、これ、しろ、う……ふぁっ」
肩甲骨の辺りから首筋へと、舌を這わせていく。
汗と湯が混ざり合って、そこに更に唾液も混ざる。
先ほど自分でつけたしるしへと、士郎は舌を向かわせていく。
その動きが進み、速まっていくにつれて、凛の体が小刻みに震えるのが伝わっ
てくる。
手も休むことなく、力を入れすぎないように彼女の大きいとは言えないまでも
反則的な柔らかさの双丘の先、その突起へと愛撫を繰り返す。
柔らかく、それでいてその中心はどんどん硬さを増していく。
舌はしるしを更に濃いものへと変え、そして更に上へ。
それでも、先ほどからずっと動かし続けている腰も休めない。
首筋から耳へ。
「は、ゃ……ぁ、はぅんっ!――――あっ、ぁ……」
耳たぶも柔らかく、いつまでも味わっていたくなるのだが、そうもいかない。
士郎はそっと唇を離すと、そのまま彼女へと吐息を吹きかけるように問い掛け
る。
でもそれより先に。
「ふぁっっ!! あ、あ、あ、あ、あああっ、んんっ、あんっ、あああああ、
ああんあぁんあぁあ!!!」
もう抑えられなかった。
問い掛けるよりも先に、抑制の方が壊れた。
突き上げる。
凛が壊れるほどに。
士郎は、凛に。
凛は、士郎に。
士郎がもう這いあがれないほどに。
凛は無意識ながらも腰を振り、士郎を、その動きを加速させる。
士郎は限界の無い快楽の沼に身をやつして、凛の秘裂を貫き続ける。
背中から凛の体の柔らかさを抱きしめる事で感じ、士郎は更に首筋に舌を這わ
せる。
小刻みに揺れ、小さな痙攣を繰り返すその体を、壊れないように、壊しそうに
なりながらも、何処か底の方では優しく、いたわるように。
それでも激しく、彼女の誘いに答えるように。
「あ、んあっ、あ、あ、っあん、っあ……はっ、ひゃ、んぁ、っ、あ、あああ
っっ!!!」
声が聞こえる。
「ああ、んゃっ―――!! しろ、うっ、そんな、に激しくしたら、あ、あた、
っし、も、もうっ!!!!」
「――――はっ――――ぁ」
もう、止まらない。
もう達したのか、それともまだ昇り詰める領域が存在するのか、それさえも定
かではなくなっている。
でも、気持ちいい。
凛と居ることが、凛と一つになっていることが、こんなにも愛しい気持ちにさ
せる。
「ふぁ―――――!!!!!」
「遠坂、遠坂……!!!!」
「や、だ、ぁんあっ、だ、ま、まって……し、しろ、ああっんあんっ!! ん、
ああ、あ、あ、あ、あ……ああっ!!―――は、っああっ、んぁぁんあっ!!!!!!!」
最後に、何か誰かが言っていたような気がした。
しかし、そのときの士郎には聞こえてはいたが聴こえてはいなかった。
脈動する二つの体。
最奥に放った白濁が二人の愛液と混ざり、とろとろと、結合部から零れて垂れ
落ちてくる。
はぁ―――はぁ――――
ぽたっ……ぽた……
重なる音と声。
ゆっくりと力を失っていく自身を、士郎はこれもゆっくりと凛の膣内から引き
抜いた。
彼女の体を支えながら、士郎は自分でも体に力が入らないのを感じる。
この時間、特有のけだるさ。
そっと、もはやお湯だけでは無くなっていた湯船へと二人でつかる。
「………………バカ」
「ぇ―――ぁ、ぁ―――その、な」
一瞬の波。
それが通り過ぎ、また視界に色が戻ってくる。
感じるのは吐息、届くのは愛しき声。
そして、僅かないた……いた、み?
「――――――っで、いででででで!!! な、なっ何すんだ遠坂っ」
見れば、士郎の胸元には紅い筋がいくつか。
すぐ横に、恨みがましくというか、怨念こもらせてというか、ものすごい怖い
というか結局どれもそう変わらないんじゃないかよおい、ってな視線で見てく
る御方がお一人。
「う゛〜〜〜〜〜」
「なにも引っかくことないだろっ……ふ〜〜いて」
「―――――バカ」
「―――――ぅ」
何故だか知らないが、こちらがものすごく悪い事をしてしまったような気にな
る。
何も言わないで、低く唸りながら上目遣いで睨まれると、どうしていいか全く
分からなくなる。
「ぁの〜〜遠坂、さん?」
「――――――」
だめだ……と、士郎は心の中でうなだれた。
いくら勢いとはいえやっぱり中はまずかったのだろうか………それともまた最
後に乱暴にやってしまったからか………いや、もしかしたらもっと前のことか、
それとも、それとも………
などと士郎は思いを馳せ続けるが、それも小さな空気の震えにかき消される。
「バカ――――ぁんな格好………………じゃない」
「――――――ぇ?」
今、何か聴こえた。
今、彼女がいった言葉。
よく聞き取れなかった……いや、ただもう一度、その唇でその言葉を、もう一
度自分だけに向かって言って欲しかっただけなのだろう。
無意識に、士郎は問い返していた。
「だからっ!!………あんな、体勢じゃ……士郎の顔が、見えなかったじゃな
ぃ……………って、もうっ、何言わせんのよっっ!!」
「ぃあ………えっと………」
正直、今の士郎に何か言う言葉を見つける事は出来なかった。
今彼女が言った言葉、今時分が言われた言葉を理解するだけで、その行為だけ
で脳のほとんどの昨日を費やしてしまっていたから。
脳が焼けるほどのインパクト。
溶岩を体の中に流し込まれたように、また顔が体が熱くなる。
「その…………ごめん」
「ふんっ………」
「ごめん遠坂。俺、また自分の事しか考えて無かった」
「謝ったっておそ……んっ」
また何かを言おうとした彼女の唇を塞ぐ。
「だから……さ」
そして、いつの間にか再び熱を持った自分自身を彼女に押し当てて、士郎は、
「―――――いい?」
「も、もうっ! な、何言って……そ、そんな事」
優しく、全ての肌が触れ合うほどに。
そっと。
ぎゅって、彼女の体を抱きしめる。
鼓動を重ねて、耳元でもう一度。
「今度は……二人で、さ」
顔が熱い。
血流が二箇所に集中する。
顔と……そして。
「そ、そんな事言ったら―――――もう、バカ」
「―――――んっ」
溶け合う唇。
またそっと、早くなる鼓動を抑えて。
二人で同じことを考える。
もう少しだけ、このまま――――――いや、違うか、もっと、もっと。
ぼんやりとしながらも何処か鮮明な快楽だけが、やっぱりぼんやりと鮮明だっ
た。
「ただいま〜〜今帰ったよ〜〜……って、あれ、誰もいないのぉ?」
「いえ、今日はシロウも凛もずっと家にいるはずですが」
「そっか、今日は天気がよかったから、二人で昼寝でもしてたりするのかもね」
日が傾きはじめた頃に、私はタイガと二人帰宅した。
まぁ、普段私は凛の屋敷にいるし、タイガは自分の家があるのだから、帰宅と
言うのはおかしいのかもしれないが、これが不思議と違和感は無かった。
先に上がって居間へと向かうタイガの言葉に適当に頷きながら、とりあえず私
も続いて靴を脱いで廊下に上がる。
さて、今は安定しているようですが………
「―――――ふふ」
思わず笑みがこぼれてしまった。
いつもならそう簡単には拝めない光景。
一つになった影。
重なり合って静かに佇む二人。
大の字で眠っているシロウ、その胸元に頭を預け、寄り添うようにしてこちら
も眠っている凛。
微かに聞こえてくる寝息が、その心地よさを当事者でない私にまで伝えてくれ
る。
疲れているのだろうか、まぁそれも当然ですね。
一応服を着る余裕があっただけでも、この場合は賞賛に値するかもしれません。
浴室の方は何とか始末はつけているようですし……。
「はぁ――――しかし……」
本当に大変だった。
全く、こちらの身にもなって欲しいというものだ。
タイガとぬいぐるみを選んでいる途中にいきなり魔力の供給が始まって―――
まぁ、魔力の供給がいらないという訳ではないし、何よりシロウと凛が仲良く
……その、あ、愛し合ってくれるのはこちらとしても嬉しい事であるわけです
し。
しかし、問題はその時間と回数です。
際限無く体力の限界まで何度も何度も……ええそうです、別に悪いと言ってい
るわけではありません、私としても魔力はこの時代に留まるために必要不可欠
なのですから、別に嫌なわけではありません。
しかしそれならせめて思考のラインだけでも遮断しておいて欲しいものです。
昼食を取っているさなかにいきなり、
「あ―――は、士郎……ああっ!!――――んんっ、む、は、ぁ―――」
などど伝わって来てはたまったものではありません。
本当に感情の起伏を抑えるのに苦労しました。
タイガには風邪ではないかと心配され、それなのにこちらの気も知らずに何度
も何度も………
すぅーーー
「―――――んっ、しろ〜〜」
すぅーーー
「ん〜〜〜、とおさか〜〜」
「…………………ふぅ」
二人の横に静かに腰を降ろして、そっと寝姿を見つめる。
「まぁ、良しとしますか。その代わり今日の夕食、手は抜かないでくださいね」
そう強すぎるほど念じて、私も士郎の横に身を横たわらせた。
凛とは逆側の士郎の腕に頭を乗せて、ゆっくりと目を閉じる。
「全く、凛はずるいですね……士郎とあんなことやこんなことまで……」
「ふぅ〜〜ん、セイバー一体どんな事考えてるんだ?」
「っっ!!??? し、シロウ!? お、起きていたのですか」
「しっ」
「ぁ―――――」
シロウの小さな声。
飛び上がりそうになった体を硬直させながら、シロウと視線を同じに。
すぅーーー
静かな寝息。
自身とこの時代をつなぎとめてくれているマスターの安らかな顔。
「この頃疲れてるみたいだからさ、ゆっくり眠らせてやってくれ」
「はい、そうですね。……でもシロウ? それならどうして……」
「ああああああああっっっっ〜〜〜〜〜〜!!!!!!! セイバーちゃんと
遠坂さんずる〜〜〜〜〜い!!!」
「「なっ!?」」
「私も入れて〜〜〜〜〜!!!!!! ―――――とぉっ!!」
シロウ、私はこのとき初めて知りました。
――――――虎は、空を飛べるのですね。
衛宮家は、今日も平和である。
<fin>
〜〜あとがき〜〜
あ〜〜遅れた遅れた。
大遅刻っすな。
なんとか9月中に書き上げることが出来ました。
な〜〜んだか1作目と似てるような気がしないでも無いような………はぁ。
まだまだ未熟な文面ですが、ここまで読んでいただけたのなら光栄でする。
うむ、修行がたらんわ!!!!!!!
お目汚し、失礼いたしまする。
では、また修行の放浪へと。
末丸
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