窓から二人を見送る。
 歩幅を合わせてゆっくり歩く士郎と、それにぶら下がるような格好で手を繋
ぐイリヤ。
(なんだか、兄妹みたいね……)
 はっきり言って、妬ける。あそこまで剥き出しの好意をぶつけるのは、いく
らなんでも自分には無理だ。
「はあ」
 さっきは少し士郎とイリヤを相手に軽くお茶を飲んだが、とりたてて変わっ
たことは無かった。イリヤと自分はさきほどの会話などおくびにも出さず、士
郎が何か感づくこともなかった。
 さて、明日からが本番だ。
 あの大馬鹿者を何とかして真っ当な道に引きずり戻してやる。
「問題は、どうやるのか、ね。色仕掛けは……駄目か、やっぱり」
 否定はしてみたものの、ふむ、と一つ首を捻って姿見に向かう。
 自惚れではなく、容姿には自信がある。だが、そんな単純な手で宗旨替えす
るような相手ではなかろう。
「むー……」
 あの夜を思い出す。
 セイバーに魔力を供給する方法を不意打ち気味に教え、良い感じに錯乱した
士郎に再び不意打ちで口づけした。
 思えば、彼のファーストキスは自分が頂いたわけだ。何となく優越感。
 その後、二人をその気にさせるために色々≠竄閨Aそして士郎とセイバー
が―――
「ん―――」
 じくりと、下腹部が熱を帯びた。
 駄目だ、と思う間もない。これまでは明確に思い出すことを避けていたが、
今は余分な思考がその抑制を鈍らせた。思考に容量を割かれた理性が突発的な
情欲に押し切られる。
 イリヤとの会話を色々と考え込んでいたのがマズかったか。
「つぁ……」
 身体が熱い。
 今まで抑え込み意識しないようにしていたツケか、一度決壊したそれは歯止
めが利かな―――
「……って、いくら、なんでも、変……んっ―――よ、コレ」
 下半身に手を伸ばしたい衝動に駆られながら、なんとか頭だけでも冷却しよ
うとする。この状態はおかしい。
 まだ片付けていない紅茶のカップを見る。
 まさか―――
「効いてきたみたいね。リンは魔術師だから思い切り強くしたんだけど、まだ
抵抗できるなんて凄いわ」
 急速に削られていく理性が抱いた疑念を、ソファに座った少女が証明した。
 ぶらぶらと楽しそうに脚を揺らす姿と無邪気な笑みは年相応の可愛らしさを
備えているが、紅い瞳がその全てを裏切っている。
 あれは、これから獲物を弄ぶ愉しみを思っている猫の眼だ。
「イリ、ヤ―――」
 荒い息を辛うじて意味ある声に変換する。
 本来ならただちに治療を開始するはずの魔術刻印が働かない。身体の自由は
奪われていく一方だ。
「対魔術師用の薬物も混ぜてあるから、抵抗は無駄よ。あ、薬を混ぜて投与し
たら危ないんだっけ」
「こ、の……」
 笑顔でとんでもないことを抜かすイリヤ。
 今度こそ混じりけなしの本気で殴ってやろうと足を踏み出し、
「あ―――?」
 膝から崩れるように倒れこんだ。慌てて突き出した両手は間に合ったが、お
陰で絨毯に四つん這いする格好になってしまう。
 両脚―――いや、下半身全体から力が抜けている。両膝と両手をついた体勢
から立ち上がれない。
「うーん、本当ならもう我慢できなくなってるはずなのに……。もっと多くし
た方が良かったかしら」
 イリヤがソファから飛び降りる。そのまま軽い足取りで歩み寄ってきた。
 小刻みに身体を震わせる凛は動けない。
「あ、はあ……ぅ」
「さて、リンの魔術回路は封じちゃったから。今の貴女は普通の人間と同じよ。
大人しく私の玩具になりなさい」
「ぅ、誰が―――ひゃぅ!」
 いきなり耳たぶを甘噛みされた。柔らかく薄い肉が、小さなイリヤの歯に挟
まれてコリコリとした刺激を受ける。
 イリヤは凛の頭を腕で抱えるように拘束し、楽しげに耳を弄びはじめた。
「くぅ―――ぁ」
「ふふ、拒否は却下。貴女に選択肢なんて無いんだから」
 背筋が震えるほどに妖艶な声で囁き、今度は舌で耳全体を舐め始める。複雑
な凹凸構造を丹念に舌先でなぞり、唾液で濡らし、耳の穴にまで小さな舌をこ
じ入れる。
「うあ……く、ん……!」
 耳は、もっとも脳に近い器官の一つだ。そこを舌で弄られれば、その感覚は
ダイレクトに脳に伝わる。
 柔らかく唾液に塗れた舌が産む、むず痒いような刺激。それが直接中枢神経
に流し込まれ、頭から脊髄の末端、そしてそこから全身までをも戦慄かせる。
 特に終着点である腰から先―――下半身に響く。
 凛はおろかイリヤでさえまだ触れていないというのに、既にショーツから溢
れ出した愛液が内股を濡らしていた。
「ふぁ……」
 腕から力が抜ける。執拗に耳を愛撫するイリヤから逃れようとする思考もあ
ったのかもしれない。
 結果、凛が上半身を床に押しつけ、膝をついて腰を高く上げるような姿勢に
なってしまった。
「ん……っ!」
 胸が押し潰される。下は柔らかい絨毯なため痛みはなく、ただ性感帯を刺激
される快楽しかない。
 やはり勝手に硬くなっていた乳首が服と絨毯越しに床に擦りつけられ、痺れ
るような快感が同時に二つ。
 気づけばイリヤは愛撫をやめており、凛は自分から求めるように床に胸を擦
りつけていた。
「まだ片方しかしてないのに、もうこうなっちゃったの。リンったらはしたな
いわよ」
 無茶苦茶勝手なことを言いつつ、イリヤはその様子を満足気に眺める。
 だが、責めはこれで終わったわけではない。
「あぅ……く―――」
 もどかしげに凛の両手が絨毯を掻く。
 愛液に塗れてもはや用を成さなくなったショーツに包まれたそこ。もっとも
敏感で快楽を産む場所に触れたいのだが、両腕には力が入らない。
「性欲は増すけど運動能力は著しく低下する―――身体を痛めない拷問には最
適よね?」
 さて、と再びイリヤが凛の傍らに寄る。
 同時に、外敵を認識した凛の瞳に若干の理性が戻った。
「っ―――」
「強いわね、リン。でもそれも終わりにして上げる。―――シロウのことは諦
めなさい。あんまり強情張るなら壊しちゃうわよ」
 ぎり、と凛は奥歯を噛む。やはりそれが目的か。
 イリヤにはイリヤの切実な事情があるのだろう。だが、ここまでやられて黙
って引き下がるのは我慢ならない。そして何より、士郎のことを諦める気など
毛頭無い。
「っ…ぁ……お断り、よ」
 今度は喘ぎを辛うじて意味ある声に変換する。
「………」
 溜息を一つつき、イリヤは無言でポケットから広口の小瓶を取り出した。中
には、軟膏のような乳白色のものが詰まっている。
「これはね、皮膚に塗って感覚を鋭敏にする薬。本来は粘膜に使うものじゃな
いけど、これを―――」
「っく…!」
 イリヤの指が、凛の秘所を濡れたショーツ越しにまさぐる。中が透けるほど
に愛液を吸ったショーツは、何の役にも立たない。
「―――ここに塗り込んだらどうなるでしょうね?」
「っ!」
 身をよじって逃れようとするが、それすらままならない。
 イリヤの手がショーツにかかる。そのまま、一気に曲げた膝まで引き摺り下
ろされた。
「ふ……く」
 ぬちゃりとした感触が太腿と内股に絡みつくように下へ動き、膝辺りに蟠る。
元から溢れ出した愛液に塗れていた脚はさらに全体が濡れつき、外気に触れて
やや肌寒さを感じさせた。
 だが、剥き出しにされた秘所の方がはるかに心細い。一番大事な場所を無防
備に晒されているのだから無理もないが。
 そこに、細い指が触れてくる。
「ひあ……!」
 自分で慰めたことは何度もあるが、イリヤの指の感触は新鮮だった。サイズ
が小さいせいか触れられる面積は少なく、その代わりより繊細な愛撫が可能だ。
 細い指が小陰唇をつまむように嬲りはじめる。
「はう、く―――んん!」
 まだ入り口の辺りを軽く弄られているだけなのに声が漏れる。絨毯を噛んで
も抑えられない。
「リンのここ、すごく熱くて濡れてるわよ」
「っっっ」
 聴覚そのものを舐め上げるようにイリヤが耳元で囁く。そういう手だと解っ
ていながら、羞恥でさらに頬が熱くなってしまう。
 堪らずに腰を動かして逃れようとするが、身体の返してくる反応は弱々しい
ものだ。傍目には悦んで尻を振っているようにしか見えない。
 身体は本当に自由が利かなくなっている。下半身が崩れそうになるが、ここ
でそうなってしまえばもう立ち上がれないだろう。
「く―――!」
 まだ、何とかなる。
 イリヤにあの軟膏を使われる前に、この状況を打破しなければ―――
「だーめ。逃げようなんて考えても無駄よ」
 言葉とともに、指が侵入してきた。
「ぅあ……っ!」
 腰が跳ねる。
 未だ男を受け入れたことの無い凛のそこは、本来なら指一本程度が限界のは
ずだ。だが、イリヤは指の細さと大量に溢れ出している愛液を使い、一気に三
本束ねた指を捻じ込んでくる。
「っくあ! ふ!」
 狭い膣口が無理矢理に押し広げられる感覚。一瞬、このまま破られるのでは
ないかという恐怖に身を硬くする。
 が、イリヤの指の細さが幸いしたのか、処女膜を守ったまま凛のそこは根元
まで捻じ込まれた指を咥え込んだ。
「くぅ……」
 いくら細いとはいえ、三本はキツい。少しでも激しく動かれたら破れそうだ。
 その感覚に身を震わせる凛をイリヤは満足そうに見下ろし、
「もう準備はできてるみたいね。じゃあ、そろそろこれを塗って上げる」
 勢いよく指を引き抜いた。その動きで勝手に絡みついていた膣壁が擦られ、
再び凛の腰が跳ねる。
「あ―――や、め……」
 朦朧としながらも見た背後では、イリヤが乳白色の軟膏をたっぷりと指にの
せている。
 本気で、あれを膣の中に塗り込むつもりだ。紅茶に盛られた薬だけでこんな
になってしまったというのに、この上あれを敏感な場所になすりつけられたら
どうなるか解らない。
 足掻く凛の腰をイリヤの左手が押さえつけた。自由の大半を奪われた身体は、
それだけで動きを止められてしまう。
「さあ、壊れちゃいなさい。―――シロウは、渡さない」
 加虐の愉悦と静かな決意の混ざった声が宣言する。
 そうして、再びイリヤの指が侵入してきた。
「ひ―――」
 挿入はさっきよりもスムーズだ。イリヤの指に塗りたくられた軟膏が潤滑剤
の役目を果たし、三本の指があっさりと根元まで埋まる。
 同時に、
「う、ああ…?」
 じわりと、妙な感覚がそこを始点として広がりはじめた。とっくに燃え上が
っていた身体が、さらに温度を上げていく。
 イリヤの指を感じる。今までは曖昧な一つとしてしか認識できなかったもの
が、三本だと明確に解る。
 それが、唐突に動く。
「―――!」
 一瞬、声を忘れた。
 全身の筋肉が痙攣し、呼吸さえできない。
「か―――は―――!」
 引き攣る声帯がかすかな音を立てる。
 それほど、生じた快楽は強烈だった。
「あ、ふ……リンのここ、気持ち良い……」
 蕩けた声でイリヤが呟く。
 当然だ。
 あの軟膏が感覚を鋭敏にする作用を持つなら、それを直接指につけているイ
リヤにも効き目があるはずである。
 もっとも、その度合いは比べものにならないだろうが。
「ん……。ちょっと、失敗しちゃったかな…。でも―――」
 明らかに欲情した声でイリヤが言い、
「き、あ―――!」
「こっちの方が面白いわよね?」
 ぐるりと突っ込んだ指を半回転させた。指の腹が膣内部のざらりとした部分
に触れる。
 堪らず身悶えする凛に構わず、イリヤはそのまま乱暴とも言える動きで指の
抜き差しを開始した。
「や、あっ!」
「……ぅん」
 激しい嬌声を上げる凛と、控え目な喘ぎを漏らすイリヤ。
 指の抜き差しに合わせて、くちゃくちゃという露骨な水音が響く。
「っっあああ!」
 膣の腹側、もっとも感じる場所を集中的に責められる。感覚が増しているた
め、一度擦られるたびに腰が大きく跳ね上がってしまう。
「んふ……、すごい」
 イリヤの息が溢れ出した愛液に濡れる太腿をくすぐる。
 指の動きを休めることなく、
「お漏らししてるみたいよ、リン……」
「つあっ!?」
 小さな舌が腿の内側を舐め上げてきた。予想外の刺激に、一瞬視界が白濁す
る。
 軽く達したのだ。
「あ、ああ……」
 脱力した身体が完全に倒れこもうとする。が、膣に差し込まれているイリヤ
の指がそれを許さない。
「んぅ……」
 指を締め付ける感覚にイリヤが吐息を漏らす。彼女にとってもこの行為は快
楽だ。軟膏によって半ば性器と化した指で凛を犯している。
 故に、
「もっと、して上げるね」
「くああああああああああぁぁっ!!」
 さきほどの余韻も抜け切っていない凛に構わず、さらに激しい抜き差しがは
じまる。イった直後で敏感になっているそこには、強烈すぎる責めだ。加えて、
今の凛はイリヤの薬による影響が出ている。
「っひああ―――!!」
 指の一往復ごとに限界まで持っていかれる。
 わななく膣壁が勝手に指を締め上げ、より密着度を上げたそこがさらに快楽
を生み出す。
 既に愛液は溢れ出すのではなく噴き出すような勢いで流れ、絨毯に大きな染
みを広げつつあった。
「あ、あ、んくっ! ああああ!」
 だんだんと思考がままならなくなっていく。身体の感覚さえ希薄となり、明
確に感じられるのはイリヤの指とそれが産み出す快楽のみ。
(いけ……ない…。このままだと―――)
 本当に壊される。
 許容量を超えた快楽は、それが流れる精神と神経を確実に蝕んでいく。身体
は動かず、頭は千切れていく理性を繋ぎとめることで精一杯だ。
 それもいつまで耐えられるか―――
「ふ、ぅ…。頑張るわね……。でも、」
「っ!」
 イリヤの左手が腿の内側を這う。そのまま右手の指を咥え込んでいる秘裂に
達し、その上で硬く勃起している陰核を探り当てた。
 ゆっくりと、敏感な神経の塊である突起を指先で撫で回す。
「くっ、あぅ…。や、やめ……」
 駄目だ。そこを責められたらどうなるか解らない。
 細い指先で軽く触れられただけで、腰が浮くように全身に響く。
「ふふ、ちょっと触っただけでまた熱くなった」
 イリヤが嗤う。
 同時に、痛いほどに硬くなった陰核が摘ままれた。そのまま思い切りしごき
上げられる。
「ぅああああぁぁぁあああっ!!」
 指をきつく咥え込んだまま、突き上げるように腰が暴れる。その動きで膣壁
のあちこちが激しく擦り上げられるが、もはや自分ではどうにもできない。
「あっ、くぅあっっ! んんんんっ! ぅあ―――」
 ぐにゃりと視界が歪む。頭が芯から漂白されていく感覚。
(あ、ああ……)
 思考が消える。
 その瞬間、
「―――遠坂! イリヤ!」
 ここにはいないはずの人間が見えた気がした。



「―――ああ疲れた」
 今度こそ本当に帰っていく士郎とイリヤを見送り、凛は溜息をついた。身体、
特に下半身が異様に重く感じる。
 イリヤの暗示を喰らっていた士郎が途中で気づいて飛び込んできたから良い
ようなものの、あのままだったらどうなっていたことか。
 とりあえず、イリヤが士郎のことになるとかなり暴走する恐れがあることは
解った。これから気をつけよう。
「……次の診察のときはこっちの番よ」
 呟く。
 ……窓の向こう。遠ざかっていくイリヤの背中が、急な悪寒に襲われたよう
に震えた。
 まあ、気持ちは解らないでもない。愛情と独占欲は表裏一体だ。
 問題はそんなことよりも、
「―――見られたわよね。それも思いっきり」
 服はほとんど着たままではあったが、ショーツを引き摺り下ろされ指を突っ
込まれた姿を士郎に見られた。
 セイバーの気持ちがよく解る。あれは、たしかに恥ずかしい。
「ふん……。良いわよ別に。私だって士郎の見たんだから」
 ついでに言えば、セイバーと交わっているところもだ。
 冷静に考えてみると物凄い関係ではなかろうか。
「なのに、直接したのがキスだけってどういうことよ」
 苛立ちが声に出る。こう、近いんだか遠いんだかよく解らない関係は頭にく
る。
 ―――決めた。もう細かいことを考えるのはやめだ。
「あそこまで見たり見られたりしたんだから、もう士郎に責任とって貰うわよ」
 解りやすく言うなら、お嫁に行けない、だ。古臭い手ではあるが、あの朴念
仁には効くだろう。
 どうやって真っ当な道に引き戻すかは後回しだ。まずは恋人同士になってし
まえ。あとはどうとでもなる、というか、どうとでもしてみせる。
 拳を握る。
「見てなさいよ衛宮士郎。―――私が、徹底的に叩きなおして上げるから」
 窓の向こうで、士郎の背中が引き攣ったように震えた。



あとがき:
 Fateで十八禁は初めて書きました。
 なんか、最初は「セイバーEND後で士郎と凛」というつもりで書き始めた
のですが、何故かイリヤと凛の絡みに。
 イリヤと凛と士郎で3Pとかどうかしら、なんてことも考えましたが、状況
とか設定的に無理な気がしたのでやめておきました。
 セイバーEND後はある意味一番難しいネタだと思うのですが、今回書いた
これはどうも話に一貫性が無いですね。すみません。

 なんか、自分はストレートかつノーマルなのは書けないような気がします。
凛END後に普通に恋人同士として○×△、というネタがどうしても思い浮か
ばなかったり。
 逆に、アルクEND後の翡翠、という感じのネタは大好きです。あとは、死
徒シオンとか死徒さっちんでアレコレとか。