古守 久万



 抱き合った俺達は、飽くこともなくいつまでも口づけを交わし唾液を飲み合
った。
 潤んで求めるような瞳を投げかける遠坂に導かれるようにして二人でベッド
へ身体を預けると、俺は一つ一つ遠坂の少女を取り去るが如く衣服へ手をかけ
て、躊躇することもなく本来の姿へ解放させていった。
 その最中、胸を優しく包みその先端で赤く隆起した突起を吸い、臍から腰に
かけての絹のような肌を指先で愛で、誘われるままに巡り着いた花弁を開いて
は溢れる蜜を啜り、陰核と膣内へと自らの指先を触れさせた。
 その間、遠坂は幾度と無く啼き、身悶え、時には背中をぴいんと伸ばして俺
が与える愛の行為にその身を捧げていって。
 やがて何かが溢れたのか、ベッドの上でうねるように舞っていた可憐な身体
が自らの意志で俺の股間へと近づき、互いが性器を愛し合う体勢で行為を続け
た。
 俺は陰茎を銜えてくれた遠坂の口腔内で一度目の絶頂を迎え、その熱い樹液
を暖かくぬめった粘膜の中へ出してしまう。
 しかし、遠坂は俺の射精にも少しも嫌な素振りはせず、それどころか何度も
震える俺の亀頭から放たれた凝りを全て受け止め、躊躇いも見せず飲み干して
いた。
 熱い溜息は、それだけでは体内を巡る熱を奪い去ることなど出来ない。
 そうして俺達は更なる高みへ、一時も離れることもなく触れあってゆくのみ。



 そして……
「いくよ、遠坂……」
 俺はゆっくりと位置を合わせると、目の前でてらてらと濡れ光っているそこ
へ先端を当てていた。
「んっ……や、あっ」
 最後の抵抗、ではないが、遠坂が悶えるように腰を揺らす。
 しかしその腰は、俺が後ろから両の手でしっかりと押さえてしまっているた
め逃げることは叶わず、ただ悩ましく動くのみ。
 その手によって開かれたヒップは手に吸い付くようでしっかりとした質感が
あり、そこから膝へ繋がる裏筋のラインには、脱がす事を忘れた黒いタイツが
みっちりと腿へ張り付いているようだった。
 この、後ろから遠坂を自分の腰に引き寄せ、そして交わろうとする体位。
 獣の体位とは言うけれど、こうして見ると遠坂の背中からヒップにかけての
しなやかな流線型は、確かに猫やヒョウを思わせる何か特別な美しさを感じさ
せる。
 そして……そのしなやかな流線型には、人間であるが故の装備である衣服と
いうモノがほぼ欠落して、血を高ぶらせる魅力を大量に振りまいていた。
 つうっと通った背筋までうっすらと桃色に染め、俺の方を見つめて微かにお
びえた表情を見せる遠坂の裸体はどんなものにも勝り、そして何よりも俺を興
奮させる。
 先程から常にその目に写し続けていた筈の身体が新たな変化を遂げて俺を誘
惑し、遠坂凛という少女を更に引き立て、この空間に満つる空気を匂い立つほ
どに熱く染め上げていた。

「やっぱり……い、や……」
 弱々しく吐き出される言葉はしかし、その奥に行為へ対する覚えて間もない
期待が含まれているようにも思えて、男心の中に眠る獣を目覚めさせる禁断の
果実。
 そんな、かえってこちらを誘っているんじゃないか……そう思わせる姿にぶ
るっと背筋が震えると、俺は自らの腰を遠坂のヒップに密着させるように進め
ていた。
「あ、あ……あーっ……」
 遠坂が、俺のものに貫かれてゆっくりと崩れ落ちるような悲鳴を上げる。
 とん、と遠坂のヒップと俺の恥骨が当たる瞬間まで進んだら、そこで俺は自
らの幹から与えられる快感のわななきを、瞳を閉じて噛みしめた。
「あーっ……深い、しろうっ……」
 微かに呻くような声で、遠坂が腰を震わせる。
 俺の挿入に合わせるように身体は前傾し、既に肘で自らが背後から貫かれた
状態を受け入れている。
 俺が突き刺した方向へ一直線になったその体勢は、中に挿入したモノの感覚
を最大限に味わえるだろう。
 遠坂が自然にそうしたのだったなら、俺はそれを変えさせぬように、まっす
ぐにペニスを抜き差ししてあげるのが自然だ。
「ふあ……あ……」
 ぬちゅり、ずちゅりと粘膜に絡みつく幹が遠坂を背後から貫いてゆく。
 ざわざわと蠢く内部に、亀頭が絶え間なく締め付けられて、まるで一つの器
官になろうかと互いの接合部を探し求めているよう。
「と……おさ、か……」
「こんなの……こんなのぉ……っ」
 ひどく困惑しているようで首をいやいやと振るが、自らの身体へ襲い来た感
覚へ逆らえないと、切なそうな声が物語っている。
 それは全く俺も同じで、新たに咲き誇った花のような遠坂に、格別の淫蕩さ
を覚え、身体が震え上がる。
 それを悟られまいとする男の本能が、腰の動きを少しだけ早め、
「あっ……ああああっ」
 わななく遠坂の声に同調して、ぱちゅんと水桃を指で潰すような音で二人の
結合が音色を奏でた。
「と、おさか……好きだよ……」
 胸の奥からこみ上げた感情が愛の言葉を囁けと求めて、俺は許しを請うよう
な声でそう語りかける。
 こんなことを……だけど、それは遠坂をもっと愛したいからと、分かって欲
しいとばかりに。
「……う、んっ。わ、たしも……っ!」
 突然のことに遠坂の返事は一瞬遅れていたが、言葉を聞いた瞬間から、俺を
包み込んでいる内部の優しさはまた格段に跳ね上がっていた。
 とん、とん……と、幹が根本まで埋まる瞬間に恥骨へ当たる遠坂のヒップの
肉が、張りつめたまま何度も前に揺れている。
 背中をしなやかに反らし、その動きを自らの身体の中で調整しようとする動
きには、視覚的に俺を射精へ向かわせていた。
 腰を引いては進め、何度も遠坂を押し開いてはより深く繋がろうとする。
「く、うっ……ん」
 普段の遠坂が決して発しない啼き声が、俺の頭の中でじんじんとこだまして、
 その度に無慈悲な快感は、いがおうにも俺を高めていき……
「あ、ああっ……!」
 最後、永遠に繋がっていたいと願う思いを無視するかの如く、俺は熱く煮え
た精液をその中へ噴き出してしまっていた。
「あ、つ、いっ……」
 がくっ、かくっと肩から腰までを小刻みに震わせて、遠坂が俺の射精に譫言
を漏らす。
 微かに汗で光った背には、絹糸のような黒髪が広がり、細かな震えに併せて
サラサラと流れ落ちてゆく。
 そんな遠坂の痙攣と調和した内部の締め付けへ、飽くことなく射精を終える
と、その背中へとゆっくりと倒れ込んでいた。
 放出によって力を僅かに失った幹が、遠坂の中からずるりと抜け落ちてゆく。
 そして、折り重なったままはぁっと呼吸を整えている遠坂の腿を、開いた口
から溢れた白い液体がゆっくりと伝ってベッドのシーツを濡らし、名残となっ
て匂いを振りまいていた。
「ああ、んっ。しろぉ、がなかに……」
 こぷ、こぷっと呼吸に合わせてしたたるそれを感じながら、遠坂が俺の体の
下でぴくりと一つ身震いを起こす。
 そして繋がった余韻を味わったまま、俺達はこの一体感にしばらく時を忘れ
て身体をベッドに預けていた……。



 いつも通りに教室に到着すると、まあいつも通りというか、遠坂は来ていな
い。
 三年になって同じクラスになったのは良く出来た運命というか、巡り合わせ
という奴だ。

 そして朝練を終えたクラスメイトやらが帰ってきて騒がしくなった始業5分
前。
「……」
 珍しく低血圧にう〜っとした顔をしたまま、遠坂が教室に現れて席に座った。
 今日はよほど引きずってるんだな……なんて思うが、それは体質だからどう
するつもりもない。ここで『よ』なんて挨拶を交わしたって返してくれないの
は、もはや俺の中での常識だ。

 で、いつも通りの授業が始まった訳なんだが……しばらくして、遠坂の様子
がおかしい事に気付いた。
 たまたま俺は遠坂を後ろから見るような位置関係にいるんだが、妙に椅子に
座っているというのに忙しない。
 身体を微妙に揺らしながら何度も座り直し、しばらくするとやっぱり同じ行
為を続けてる。
 例えるなら……そう、落ち着きのない小学生。
 クラスに大体一人はいた、給食が待ち遠しくてその後に外で遊ぶのがもっと
待ち遠しい奴。
 普段は明らかに落ち着いているだけに、特に後ろの席の奴なんかは不思議に
思っているだろう――素顔の遠坂を知っている俺だって不思議に思っているの
だから。
 そうこうしている内に遠坂の観察が楽しくて、つい授業なんか頭に入らない
まま三限が終わった。
「……」
 遠坂、無言で立ち上がる。
 整然と歩いているが、何かおぼつかない感じがするのは気のせいだろうか、
横顔も苦み走ってるし。
 まあ尾行してもしょうがないし……と、そこで詮索はやめることにした。

 ……が。
 次の授業が始まっても、遠坂は帰ってこなかった。
 視線の先の見慣れた席がぽっかりと穴になっていて不思議である。
 それはそれで色々思慮してしまいそうになるが、流石にそればっかで勉強を
疎かにするとマズイと思って集中……は、なんだかんだで無理だった。
「まあ、この分だと帰ったか保健室か……」
 とりあえず、昼休みにでも覗いてみることにした。



 保健室へお邪魔すると、生憎というか幸運というか当然というか、養護の先
生は食事に出ているようだった。空の保健室に『失礼しますー』と入ったとこ
ろ、奥のベッドの方から
「……士郎?」
 と訝しげな声が聞こえてきた。
「やっぱいたか。どうした、体調でも崩したか?」
「……何でもないわよ」
 カーテンをくぐりながらそうやっておどけて話す俺に背中で語る遠坂。
 向こうを向いてベッドの中に潜り、寝返りを打つのも不要とばかりに一蹴。
「何でもない訳ないだろ」
「……本当に何でもないわよっ!」
「?」
 そう言って備え付けの質素な丸い椅子に座ると、同時にそんな返事が返って
きて、やれやれ……と思ってしまう。
 この学園内で遠坂とこんな調子に話が出来るのは恐らく俺だけに違いない。
それは桜や美綴でさえたどり着けない神の領域。
 まあそんな事はともかく、そこまで踏み込んで話が出来る俺だから……と、
遠慮はしない。
「座ってる時に落ち着きがないようだったけど、階段で尻餅でもついたか?」
 ウチは平屋だから知らないけど、こいつのことだから、寝ぼけたまま階段か
ら派手に転げ落ちて……と、そんな想像が容易いから遠坂は面白い。
 しかし、
「違うわよっ……!?」
 流石に自尊心を傷付けられたのか、ようやくそこでこっちを振り向く遠坂だ
ったが……何故かそう叫んでいる途中に急にしかめっ面になり、ぷるっと身体
が震えた。
「おいおい大丈夫かよ……」
 流石に心配になった俺が立ち上がろうとするが、そんな俺を思いっきり睨め
付ける遠坂。
「……」
 無言の訴えというか、かなり恐いんですけど……
「あんたが悪いんだからね」
「えー?」
 よく分からないことを言われておいおいと思う。
 が、
「一昨日にあんなことしたから、お尻が痛いのよ……」
 遠坂は本当に俺にしか聞こえないように言うと、顔を真っ赤にしそのまま首
だけを反らして枕に顔を埋めた。
 とっても可愛い。
 そして、その言葉に酷く納得すると共に、ちょっとした罪悪感を感じた――
ほんのちょっとだけど。

「とおさ、か……」
 俺は互いの性器を愛でる中、ついとのばした指で遠坂のお尻へと触れていた。
「あっ……」
 花弁とは違う、遠坂の奥のすぼまりをなで上げると、電気を流したみたいに
一瞬身を震わせてから俺の方を見つめる。
「……」
 その瞳は確かに困惑の表情を浮かべてはいたが、やがてこうなることが必然
であったことを悟っていたような顔。
「……いいよ、わたしも。士郎に全部、あげたい……」
 恥じらいを含みながら、遠坂は俺の行為へ同意を示す。
「う、ん……」
 その言葉に許して貰えた感動を覚えながら、俺はおもむろに舌をそちらへと
延ばし、小さな皺をなぞるようにしてぴちゃりと舐めあげていた。
「は、あっ……」
 そして……俺達は、性交渉という本来の目的を僅かに逸した行為へと、身を
進めていたのだった。

 ……つまり俺達は、欲望と好奇心に衝き動かされて、『後ろ』でしてしまっ
たわけなのだ。
「あ、あー――」
 俺は何とも言えない気持ちにぽりぽりと頭を掻く。いやまあ、行為は同意の
上だったけど、流石にちょっとあれはやりすぎだったかな……?
「スマン、遠坂」
「う、うう〜〜」
 顔の前に手を置いてペコッと軽く謝ると、それだけじゃ足りないわよと言わ
んばかりの遠坂の視線がいい感じで突き刺さった。
「で、座れないからここでずっと寝てた訳か」
「そうよ、悪い?」
「いや……」
 俺があれこれ言える立場ではない。
「昨日だって殆ど一日中立ってたし、寝る時は不慣れな横向きで睡眠不足のお
まけ付きよ……最悪」
「ああ、だから朝あんなに」
「まったく男はいいわよね。いつも辛い思いとかしなくて気楽で」
「む〜ん……」
 確かに遠坂が言う通り、男って結構楽してるような……気持ちよさは少ない
って聞くけど。まあとにかく俺は責任として、不満たらたらの遠坂を気遣って
やらねばいけない。
「あの……さ、切れたりとかしてるのか?」
 俺はとりあえず『怪我人を思う気持ち』を強調すべく尋ねたのだが、
「……知らないわよ。でも多分、ジンジン痛いんだから擦過傷の類だと思うわ
……」
「思う、ってそれだけ痛いなら薬とか何かつければ……」
 そう思ったから口にしたのだが、次の瞬間、
「――!」
「う……」
 遠坂のあまりにも鋭い矢の様な視線にたじろいでしまった。
 ……考えてみればそりゃそうだよな、そんなお尻が痛いから薬だなんて、女
性にしてみれば羞恥の極みに決まっている。
「と、とにかく、塗り薬でも効果はあるかも知れないし……」
 俺はちょっとだけ逃げるように保健室の棚を探すと、普段からお世話になっ
ている見慣れた軟膏を探して戻り、それをはいと手渡すも、遠坂はどうにもう
かない様子。
「……」
 じっと軟膏と俺の顔を交互に伺って、何か言いたげだ。

 ……まさか。
 いや、もしかしたらそうなのかも知れない。
「あの、さ……塗ってやろうか?」
 どこが痛んでるか分からないとか、自分じゃ塗りにくいとかそういうことか
と思って、俺は遠坂の無言の訴えから想像して言ったのだが、
「!? 自分でやるわよっ!」
 顔を真っ赤にした遠坂がそれこそ爆発するような勢いで叫んだから、思わず
俺はびくっ! としてしまった。
 そして遠坂は俺の事をキッと睨み付け、『だから出て行きなさいよ?』と無
言のうちに語っている。
「あ、ああスマン……」
 それは当然だよな、いくら何でもと微かに期待していた思いを押し殺しつつ、
俺は席を立つとカーテンを引いて遠坂に個室を提供した。

 布一つ隔てた向こうでは、恐らく遠坂が布団をはぎ、薬を塗る準備に取りか
かっているであろう音。
 それをぼんやりと見つめながら、これはまるでブティックの更衣室の前で着
替えを待つ男のようだと思った。
 いや、今まで遠坂とはそんな事したことはないけれど、もう少し不自然でな
くなったのなら普通の出来事としてしてみたい……という欲望は男だからある。
 なんて思っていたら、
「んっ……」
 奥から、遠坂の微かな声。
 薬を塗っているのであろうか……推論をした俺は、そこでその状況を妄想し
てしまっていた。


(To Be Continued....)