「俺のをさわってたから? それでこんなになっているのか?」
辱めようとする声ならば反発する。
からかう響きであれば、むしろ毅然としただろう。
しかし、ありのままの事実を、ただ突きつけられた。
自分でも驚くほど、凛はうろたえ、頭を真っ白にする。
頬の熱さを強く感じる。
抑えようとするほど、火照りが増す。
こんな真っ赤な顔を見せているのだと思うと、さらに動揺し、どうしていいかわ
からなくなる。
羞恥の虜になっていた。
冷静になれば、それほど恥ずべき事がある訳ではない。
ただ、今の凛は、初めて好きな少年と結ばれる少女だった。
触れられ、男の手に翻弄されたのならばまだ良い良い。
自分でも知らぬ性感のツボを探り当てられ嬌声をあげるのも仕方が無い。
受身で、快美の渦に巻き込まれたのなら。
しかし、自分から男のものに触れて、愛撫する真似をして。
そんな状態で、太股までこぼれるほど濡らしてしまっている。
急に自分が痴女にでもなったような恥ずかしさを感じた。
士郎はどう思っただろうか。
淫乱と笑っていないだろうか。
はしたないと内心で侮蔑していないだろうか。
そんな事、ある筈は無い。
そう否定する事が、出来なかった。
軽い絶頂の揺り返しだっただろうか。
ふいに居たたまれない気持ちが、体に広がっていった。
挙句、凛の取った行為は、常ならぬものだった。
逃避。
誇り高く、何にも屈しぬ少女が。
背こそ見せないものの、体をぎゅっとちぢこませ、体を丸くしてしまう。
その姿に士郎は、失敗を悟った。
原因もその自分が行った作用もわからないとしても、結果だけは見て取れた。
何か凛を傷つける事をしてしまった。
罪悪感が胸に溢れる。
どうしようと考える。何とかしないと。
しかし、考えるより先に体が動いた。
背中から被さるように、凛に体を寄せる。
腕を回し抱く。大切に腕におさめる。
「感じてくれたんだろ?」
「……」
「凄く、嬉しいよ。うん、俺だけが喜んでたんじゃなくてさ」
凛は無言。
それに不安を感じつつも、士郎は慌てなかった。
腕の中に凛がいる。
離れずに居てくれている。それは不安を打ち消す安心感をもたらしてくれたから。
「……馬鹿」
「え?」
「そんな訳ないでしょ。さっきだって、あんなに感じさせられたんだから」
「うん」
そっと、士郎は凛の太股に手をやった。
すべすべの肌。
そこを触っているだけで、何とも言えない快感が広がる。
ほお擦りしたら、すごく柔らかくていい気持ちだろうなと感じさせる。
しかし、今はそんな執着は持たず、手を動かす。
忍び込ませるように、股の合わせに指を差し入れる。
「遠坂のここ、凄く熱い」
あくまで優しく。
濡れた唇をさらに柔らかく溶かすように。
決して技巧的ではないが、士郎の優しい手の動きが凛の下半身を痺れさせた。
指は中のぴらぴらとした陰唇に触れるものの、その奥へ無理に進もうとはしない。
ただ周辺を弄り、優しく触れるだけ。
それでも、だんだんと内部の熱が高まる。
「キスしたい」
「うん…士郎」
手はそのままに、上半身を捻る。
ぎこちなく顔を寄せる士郎に凛の唇が応える。
唇が重なり舌が互いのそれに軽く触れる。
絡ませあい、唾液を混ぜ合わせるディープキスにはほど遠い。
けれど舌と舌の先が柔らかく触れ合う感触は、他で味わえぬ快美感を脳に起こさ
せる。
キスをすると名残惜しげに士郎は離れ、しかし多情にも凛の耳に唇を触れさせ、
首筋に頬を寄せる。
どこに唇を触れさせても、うっとりとした表情を浮かべる。
白い頬に赤みが差しているのが、たまらなく可愛く思えた。
だから、触れずにはいられない。
頬ずりと、軽いくちづけを、何度も士郎は繰り返す。
凛にしても、それは決して歓迎しないものではない。
軽い愛撫とも云えぬ接触が、たまらなく心地よかったから。
あくまで上半身、それも顔の辺りへの接触なのに、そこから遠い下半身が内部か
ら熱くなっていく。
その熱くなった処を、また士郎の指が訪れた。
「あンン」
思わず洩れた喘ぎ声に、自分でびっくりする。
ぎゅっと体が動き、股間に潜った異物の存在を再認識する。
自分でもろくに弄った事の無い部分を、飽く事無くまさぐっている男の指。
でも、それを許していた。
邪魔する事無く、好きにさせていた。
声を上げた事で動きを止めた士郎に対して、緩やかな肯定で、ここに留まる事を
許す。
あるいは、もっとして欲しいと懇願できずに、黙って待つ。
凛の様子を察したのか、士郎の手が大胆さを増す。
割れ目に指がゆっくりと沈む。
さっきのように不躾に指を潜らせないものの、その周辺を存分に指で探り出して
いた。
繊細な部分に充分に気を使いながら。
花弁のような襞が指でなぞられ、かき回される。
粘膜をそっと押しつつ指先が線を描く。
「あ、ダメ、何これ、止めて」
腰が跳ねていた。
足がばたつき、体中が震えていた。
士郎の手がなければ、ばたばたと身悶えし、のたうつように動いていただろう。
しかし片腕で凛の上半身を抱き、片手を依然として股間に差し込んでいる為、そ
の動きは封じられている。
抱かれ、士郎の体で受け止められてしまっている。
そのまま凛は士郎の手を受け入れざるを得ない。
ぎゅっと脚を閉じている為に、溢れ出す愛液がたまり、手首までをぐっしょりと
濡らす。
「やだ、あ、んんんッッ」
どうしていいのかわからない顔。
自分でもどうなっているのかがわからない顔。
そうさせている士郎が驚くほど、凛は反応している。
士郎の手は依然として、ぬかるみを探っている。
引き抜こうとしても、凛の股に挟まれている。凛の言葉とは裏腹にもっととせが
んでいる。
もちろん拘束としては強くはないが、ここにいて欲しいという無意識の求めを拒
絶できなかった。
何より、指を濡らし熱くさせ、弄る柔肉の中の感触、その素晴らしい感触。
僅かな指の動きで、手の捻りで、遠坂凛が反応している。
音色の良い楽器を爪弾くような快感。
意図してではなく、そんな技量もなく、ただ掻き鳴らす事を楽しんでいるだけな
のに、この上ない音色が響く。
しかし、楽しみつつも、このままでいいのかなと士郎が思っているのも確かだっ
た。
ふと、シーツを握り締めた小さな手が目に映った。
場合によっては岩をも砕く拳となり、または恐るべき魔術を行使する。
だが、今は震えている。小さな女の子の可愛い手。
士郎は空いた手を伸ばした。
シーツから解き放ち、自分の手を乗せる。
指を細い指の間に通す。
「遠坂、手を」
「衛宮…く……んん……えみ…やくんん」
名前を何とか口にして、凛はその手を握る。
手の震えに反して、しっかりとした力。
そうしていないとどこかへ落ちてしまうかのように。
止めていて貰わないととばされてしまうかのように。
士郎は左の手でしっかりと凛を掴まえる。
開いた右手で凛の快楽の源泉への刺激を送り続ける。
相反しているが、どちらも凛の為という想いに違いは無い。
ただ、士郎は凛が悦ぶ様に深い愉悦を感じているだけ。
同時に、自分を支えとして求めてくれた事に堪らない喜びを感じているだけ。
すがるような眼が士郎に向けられた。
あの遠坂凛が、頼っている。子供のように自分を頼りにしている。
愛おしさがこみ上げる。
頬に唇を当て、耳元で優しく囁く。
「いいよ、遠坂。大丈夫だから。俺がいるから」
「わたし…もう……、ダメ」
憧れの少女の乱れる様は、強すぎるアルコールのように士郎を酩酊させていた。
もっとと望む内心の声。
さらに凛が喘ぎ、すすり泣く様を見たい。
この先……、遠坂凛の絶頂の瞬間を、自分の手で遠坂凛がイク瞬間を。
凛は士郎が止めないと知った。
このまま、自分は初めて肌を合わせた相手に、いちばん恥ずかしい姿を晒すのだ
と。
いちばん無防備な姿を見せるのだと。
でも、それが今は嫌ではなかった。
士郎の手によってなら、構わない。
ああ、でもと蕩ける頭で言い訳を考える。
理不尽な責任転嫁をする。
責めるべき相手を持つ事によって、安心して肉体の高波に身を委ねた。
士郎なら文句を言わずに、受け入れてくれる。
「もう、こんなにして、衛宮くんがこん…な……酷い…人…ふぁああッッ」
甘さの混ざった非難の声。
蜜を含んだ悲鳴の声。
もっと続けようとしたのかもしれない。
どうしようもない高ぶり、動揺を転嫁する言葉を口にしようと。
しかし、士郎の指が動いた。むき出しになったクリトリスを擦る。
優しく、しかしどうしようもない官能の矢として。
凛の息の止まった顔が、蕩けるような表情を浮かべる。
声が出ないで静止した状態。
動きが無いのではない。動きが濃縮して、折れるまでにたわめられた状態。
放たれる矢の一瞬の静、爆発の前の静寂。
「見せてくれ、遠坂がイくところ」
「んん、こんな……」
士郎の声に、か細く声が応え……、止められた。声も息も唇で包まれる。
唇を塞ぎ、そのまま指を強く動かす。
中から新たな熱湯が弾ける。
手がぎゅっと握られる。
今までになく、股がぎゅっと締め付けられた。
火傷しそうなそのびしょびしょの隙間が、さらに熱を持った気がした。
湧き水、いや温泉の如き飛沫。
背に回った凛の手が、士郎に強くしがみつく。
爪が軽く食い込む。
ひしとしがみつくよう。
唇が外れ、凛は仰け反った。
口は開いているが、声はあがらない。
息の音だけが聞こえる。風笛のような音色を混じらせて。
さっきのような声はないものの、比べ物にならないほどの強い絶頂を迎えたのだ
と士郎は知った。
何より、凛の輝かしく美しい表情で。
女としての至福を満面に見せた顔で。
快楽に果てた、それも自分の手で絶頂を迎えた愛しい少女の忘我の表情。
そして、ひくひくと震える様を誇らしげに士郎は見つめていた。
数分間、凛は幸せの余韻の中にいて。
士郎もまた、至福の中にあった。
そして……。
「黙っているだけ?」
「え?」
「これで衛宮君が満足したのならいいわよ。
それとも、もうわたしとなんて何もしたくないのかな」
「そんな訳ないだろ」
「だったら、示して。何をしたいのか、何を望むのかを」
凛が忘我の状態からようやく戻って来たが、士郎は次に進めないでいた。
少し冷静になってみると、わが行動を振り返ってみると、さあ続きをと言うのを
ためらう気持ちが生まれていた。
本心から嫌がっていないのはわかった。でも凛の意に染まぬ事をしてしまった。
やり過ぎたか。
初めての相手に、俺は何をしてるんだろう。
高揚が少しおさまると、そんな思いに士郎は顔が青くなっていた。
そんな矢先のやり取りだった。
何か言おうとして言えずにいた士郎に対し、凛が先に言葉を投げた。
少し強がっているよな口調だが、その表情はこのうえなく柔かく問い掛けている。
甘い蕩けるような、逆らう事など考えられぬ懇願。
平然さを装いつつも、はにかみを見せた表情。
それでも待ち望む顔をして、自分の初めての相手を見ている。
幾分かの不安を示して、返事を待っている。
あと一歩を自分に対し踏み出してくれるのを。
僅かな勇気と包容力とを示してくれる事を。
士郎は頷き、まっすぐに凛を見る。
それだけでも凛は、衛宮士郎の心のうちを感じ取った。
不器用であり、口が巧い訳ではない。
ただ、真摯に。
言葉でも、手管でもなく、体で伝えようとしている。
「遠坂が欲しい。遠坂と最後までしたい」
長い長い数秒。
そして沈黙は破られる。
凛は頷いた。
「あげる」
緊張した空気が、甘いものを含んだものに変る。
「士郎にわたしの初めてをあげる。貰ってくれるわよね?」
自ら凛は身を横たえた。
迎え入れる姿勢、態度。
震えている。
士郎自身は意識していないかもしれない。
でも、体は小さく震えている。
初めての行為を、喜びと共に畏れを持って前にしている。
体を屈める。
気持ちの葛藤とは裏腹に、股間のものはこの先に起こる事への備えが万端だった。
痛いほどの反り返りはさらに角度を増していた。
固く大きくなった性器を、手で曲げねばあてがえない。
根本から角度を変えて、凛に向ける。
切っ先を凛の膣口に触れさせる。
士郎が丹念に舌で愛撫を続けた部分。
彼自身の唾液の跡と、それ以上に辺りを潤わせている凛の蜜液。
自ら潤みを湧き出させたのに、それによってあたり一面が柔らかく溶けている。
甘美な刺激によって、薄ピンクだった粘膜はさらに少し赤みを増している。
じっとこちらを見ている目。
起こる事を自分の目で確かめようとしている目。
しかし、その目は不安そうな、あるいは怯えにも似た感情を滲ませている。
それを和らげる事は出来なくても、長引かせない事は出来る。
こんな状態で躊躇っていては、凛をむしろ苦しめるだけと士郎は悟った。
あてがい、前へ進める。
亀頭の先が濡れる。
温かいとろみに包まれる。
後は一息だった。
きつい。
抵抗はあり、力を入れねば前には進めない。
でも、その僅かな接触の変化、熱い柔肉に歓迎される様。
遠坂凛の何よりも秘められた所へ潜っているのだという実感。
さあ、結ばれるのだ。
遠坂と。
遠坂と一つになる。
触れ合う部分からなる圧倒的な肉の快感。
そして認識、精神からなる、それに優るとも劣らない至福。
これを最後まで。
全てを挿入しきったら、どうなるのだろう。
熱くとろとろと溶かされて。
そして。
「早く、…来て」
声はなかった。
目が語っていた。
士郎は、それに答えた。
「遠坂ああッッッ」
知らず、士郎は大きく叫んでいた。
そして一息に強く、遠坂の中へと。
貫く。
「で、感動の余り、止める間もなく中で出して。
そのまま抜きもしないで、二回目に突入。それも奥で出しちゃって。
ようやく終わりかなあと思ったら、体をひっくり返されて。
体を起こさせて抱き合いながらしたり、それから……。
これって初めての相手にする事じゃないわよね」
「……」
「ケダモノ」
「面目ない」
二人並んで横たわっている。
疲れが滲んでいる。
辺りには、濡れたティッシュの固まりが幾つも散乱し、横たわった布団は乱れに
乱れていた。
凛の髪は乱れ、白い肌のあちこちに、強く吸われた跡が残っている。
士郎の汗ばんだ体に小さな噛み跡があるのは、何の名残だろうか。
しかし、言葉ほど凛の口調に険気はない。
体も触れ合うほど近くにある。
「まだ、入ってるみたい。不思議……」
「それは、そうだろう?」
「なんでよ」
「初めてだったんだから」
真顔で士郎は答え、凛は目をぱちぱちとさせ、頷いた。
「そうね。いつの間にか、演技とか成りきりでなくて、本当に初めてになっていた
もの。
士郎もそうだったのよね」
「うん。挿入した瞬間に射精しそうになった。
遠坂の中も最初の時みたいに、すごくきつかった。
そんな相手に、好き放題したんだな。本当に、ごめん」
「いいわよ。好きにしていいって言ったんだし」
凛の手が士郎の手を探る。
指が絡み、ぎゅっと握る。
驚いた顔をした士郎も、それに応える。
「それにね、わたし……、わたしね、衛宮くんとひとつになれて嬉しかった。
本当に初めて結ばれたみたい。
あの時と同じくらい感動しちゃった」
「俺もだ」
顔を合わせて、頷きあう。
幸せそうに凛は微笑み、言葉を続けた。
「そうねえ、今度はもっと優しくして。
そうしたら今の狼藉は許してあげる」
「狼藉って……」
「文句あるの?」
「ないです」
「じゃ、約束よ。いいわね。
今度はもっとわたしの事を優しく愛してね……、ね、士郎?」
恥ずかしそうに、言い慣れぬように、凛が目の前の名前を呼んだ少年を見つめる。
その瞳の色。
関係ない第三者が見ても、愛情がこぼれる様が見え隠れするだろう。
まして、その彼女に恋する少年であれば。
「遠坂」
名前を呼びつつ、士郎は抱きしめる。
腕が交差し、互いを強く抱きしめる。
そのまま二人でもつれるように。
重なる。
新たな衝動を持って。
甘やかなとろとろへ。
交わしたばかりの約束が―――
果たされる。
了
―――あとがき。
正統派のらぶえろにしようと思ったのですが……、長くなり過ぎました。
当初は、挿入後のシーンもきっちり書いていたのですが、冗長に過ぎるのでカッ
ト。
手直しするたびに、前戯のシーンばかり増えていきまして。
まあ、いずれ何かで使う機会もあるでしょう。
ほとんどエロ描写ばかりなのに挿入シーンに至った瞬間に終わりという辺り、か
なり問題ありますねえ。
これだけ長いのに状況説明がほとんど無いし。
いまだFateでのエロに慣れておらず、書き上げたというより、此処までで筆を置
こう的に、終わりにしましたし。
結局、あんまりらぶえろでもないし。
……といった作品ですが、それなりに気に入っています。
それと最終稿の一つ前を見て頂いた秋月さんとKTさん、ありがとうございまし
た。
ご指摘部分、出来るだけ手直ししたつもりです。少しは改善され…てるといいの
ですが。
お読みになられた方、少しはお楽しみ頂けたなら、嬉しいです。
by しにを(2004/11/23)
|