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 差出人不明

 作:しにを


 午前最後の体育の授業が終了した後だった。
 下駄箱に運動靴を入れかけ、それに気がついた。
 白い封筒。
 見ると、自分の名前が書いてあった。
 
 僅かに心ときめくものを感じ、同時に微かな違和感を覚える。
 何だろう?
 差出人の名前が無い。
 まあ、これは中の手紙に記載されているのだろう。
 名前が手書き文字でなくて、印刷されたもの。

 これだった。
 これが違和感のもと。

 厚手の封筒に直接印刷するのは無理だったのか、別の薄い紙に印刷されたもの
を貼り付けてあって、それが妙に不自然さを感じさせた。
 そうまでするなら普通は直筆にするだろう。
 受ける印象がまるで違うのだから。

 とりあえず着替えないと。
 そう思って上履きに履き替えた。
 片付けがあって他のクラスメートよりも遅れているから、急がないと。

 結局、それを開けたのは着替えて昼食を取り、午後最初の授業が始まる少し前
だった。
 教室で開けるのは躊躇われた。
 少し考え、手近な場所として屋上へ続く階段の踊り場に向かった。
 思ったとおりさすがにもう誰もいない。
 糊付けしてある封を開ける。

「え?」

 呆然とする。
 中には、想像もしないものが入っていた。
 一枚の写真。

 薄暗い体育倉庫。
 そこで体操服にブルマーという格好でいる少女。
 違う、それは間違いかもしれない。
 胸ははだけ、ブルマーも半ば下ろされている。
 半裸の姿という方が正しい気がする。
 ……なにをつまらない事を考えているんだろう?

 衝撃でかえって瑣末な方に気が回っているのを感じた。
 膝ががくがくと震え、頭はほとんど真っ白になっているのに、残された部分は
焼けつきそうな程、動いている。
 無理もない。
 この写真の少女は、
 無惨に後ろ手で縛られ、脚や股間をいやらしく緊縛されているこの少女は、良
く知っている少女なのだから。


 良く知っている?
 笑い声が洩れる。
 制御しないと、喉から血が出るまで笑い続けてしまいそうだった。
 
 写真に写っていたのは、誰あろう遠野秋葉、その人だった。





 放課後をじりじりと待った。
 他に何か無いかと封筒の中を覗き、最後には、切り開いて確認した。
 しかし何も他に情報は無い。
 写真だけ何故……、そう思ってふと裏返しにした紙片にあった短い言葉。

  ―――放課後に、この写真の場所へ。
  ―――誰にも話さぬ事。

 それだけ。
 何度も何度も読み返し、そしてチャイムの音に急かされ教室へ向かった。
 授業など休んでしまいたかったが、誰にも異常を気取られたくなかった。
 ただ居て、後はひたすら自分の世界に入っていた。
 数学の公式も、中世期の年号も、まったくどうでもいい。

 いつ撮られたのだろう。
 誰が撮ったのだろう。
 何故。
 何の為に。

 出る筈のない答えを求めて問いだけが次々と湧き出す。

 学校内での不純異性交遊。
 外に洩れたらどんな事になるだろう。
 それもただの二人ではない。
 兄と妹。
 実際には血の繋がりは無いとは言え、戸籍上は……。
 そんな事はどうでもいい。
 そういう立場である事が重要。

 どこまで見られただろう。
 兄と妹が抱き合う姿?
 ロープで縛り上げられ、指と舌とで抵抗できぬ体を苛められ可愛がられ、何度
も声を上げた姿?
 何度も形を替え、薄い胸に食い込ませたり、剥き出しの性器を開き強調するよ
うに緊縛したりを繰り返した姿?
 そのまま、口で兄に奉仕する妹の姿?
 それとも、その先の兄妹交合しているケダモノのような姿?
 飽く事無く何度も何度も貫き、注がれた二人の姿……。

 顔から血の気が引いているのがわかる。
 全て知られたと思うのが自然だろう。
 写真だってあると思って間違いは無いだろう。

 あんなものが学校内でバラまかれたとしたら。
 外に出るのを止めたとしても、噂まで抑えきる事は出来まい。
 まして、外にまで写真が流出したとしたら……。
 ただのスキャンダルですむ話ではない。
 遠野グループ全体にまでどんな形でどれほどのダメージが来るか。

 考えれば考えるほど、おかしくなりそうだった。

 すぐに教室から出で、相談したかった。
 一人で思考の檻にいるのは耐えられなかった。
 でも、「誰にも話さぬ事」という無味乾燥な活字の羅列が行動を縛る。
 指示に従わなければ、どんな目に合わされるか。

 今もこちらを見ているのかもしれない。
 ふと、そう思って背筋がぞっとした。
 そうだ。
 差出人が誰かはわからないが、もしかするとこの教室にいるかもしれない。
 下駄箱に封筒を置き、放課後に校内の体育倉庫へ呼び寄せる。
 この学校にいると考えるのが自然だ。
 こちらが指示を守っているか監視し、震え怯える様を密かに楽しんでいるのか
もしれない。
 ……。

 落ち着こう。
 いくら何でも普段言葉を交わしているこの教室の……。
 わからない。
 ともかく否応無しに、答えはわかる。 
 あと十数分で。

 気がつくと、もう授業は終わり、HRを残すだけになっていた。
 それが終われば。
 行かなければならない。
 何が待っているかわからない、体育倉庫へ。

 連絡事項の伝達や、クラス委員の言葉が、どこか異世界の出来事のように現実
感が無い。
 はやく終わればいいのに。
 ずっと終わらなければいいのに。
 相反する想いが矛盾無く頭に浮かぶ。

 そして、ここに残っている理由は無くなり、席を立った。
 ゆっくりと……。

 しかし目的地にはすぐに辿り着いてしまった。
 躊躇い、躊躇い、それでも足は機械仕掛けのように動いたから。

 そして目の前にしてしまった扉。
 体育倉庫の重い扉。

 意を決して、手を掛けた。
 ギシギシと軋み音が響く。
 開けているのにも関わらず、何かを、決定的な何かを閉ざしているような感覚。
 畏れにも似た何かに身が震える。
 そして、光から薄暗がりの中へと進んだ。
 既に待っている誰かの、足だけが見えた。

 それは……。





「あ、志貴」
「え? あ、あ……、あ…………」

 言葉が出ない。
 何故、ここに、こいつが。
 なんだ、夢でも見ているのか、俺は?

「何よ、人の顔見て驚いて」
「アルクェイド」

 ようやく声が出た。

「ん、大丈夫、志貴?」

 心配そうな顔でこちらを覗き込む。
 間違いない、これはアルクェイドだ、夢幻ではない。
 何で……。

 落ち着け。
 ……。
 そうだ、今はこうして立ち尽くしている場合じゃない。

「アルクェイド、ここに誰かいなかったか?」
「え? ううん、誰もいなかったよ、ずっと」
「そうか、こちらが早かったか」

 ならばだ。
 俺はアルクェイドの手を取ると、跳び箱の山の陰にしゃがみ込んだ。
 出入り口を覗えるポジション。
 とりあえず、入って来た者を先に見てから次のアクションが取れる。
 傍らで共にしゃがんでいるアルクェイドを横目で見た。
 こうなるとアルクェイドがいるのも、僥倖だ。
 秋葉とは連絡が取れなかったが、こういう時に味方がいるのは心強い。

 アルクェイドには黙っていろと告げた。
 何か言いたげだったが、俺の様子を見て口を噤む。

 あと、数分がポイントだろう。
 そして……。


「おかしい」

 かれこれ三十分ほど経過している。
 まったく誰もやって来る気配も無い。

「ねえ、志貴、いつまでこうやっているの?」
「誰かが来る筈なんだ」
「あれ、こんな処で約束してたの?」
「そう言う訳では無いんだが」

 小声でぼそぼそとする会話。
 声を殺しつつ込み入った話をするのは、少々やり辛い。

「そうか。だったら、もっと違う場所に呼び出せば良かったかな」

 アルクェイドの独り言。
 ……。
 今、何て言った?

「アルクェイド」
「志貴、大きな声出しちゃダメなんでしょ」
「ああ、すまん。……今おまえ何て言った? もっと違う場所とか言ってたろ?」
「え? ああ、だからね、ここで何かあるなんて知らなかったから、他の処に志
貴を呼び出せば良かったって思って……」
「いつ、俺を呼び出したんだ」

 首を傾げるアルクェイド。

「あれ? 志貴の下駄箱に入れておいたよね。見てないの?」
「……」

 息を呑んで、震える手でアレを出した。

「それそれ、その封筒。なんだちゃんと見てたんじゃない」

 目の前が紅に染まる。
 血が全部頭に集中したような、逆に一滴も無くなってしまったような、何とも
形容しがたい感覚。

「おい、アルクェイド、おまえがこれを送りつけたのか」
「そうだよ」

 あっけらかんとした顔。
 ダメだ。
 何だかおかしくなりそうだった。

「何なら、こういうのもあるけど」
「……」

 黙ってアルクェイドの出した紙片を受け取る。
 写真。


「なっ!?」

 今度はシエル先輩だった。
 秋葉の写真と同じく、体育倉庫で撮られている。
 体操着にブルマーという姿まで同じ。
 胸が露出していて、下半身も出している辺りまで同じ。
 ……。
 写真で見ると凄いな。
 ローターが幾つも先輩に挿入されて、コードだけが膣口や後ろの窄まりから覗
いている。
 無惨とも見えるが、被虐美とも言える艶かしい姿。
 直接は先輩の秘裂などは見えない角度だが、溢れた愛液が腿まで垂れているの
でその様が想像できて、却って淫らに思える。
 写真では知りえない、その時の声や音、生々しい匂いなどまで克明に甦る。

 この後も凄かったよなあ。
 先輩に持って来させた道具を全部使ってみようと思って、ローターでほぐして
から、極太のバイブレーターとアナルパールを無理やりネジ入れて、ぐっしょり
淫香を漂わせていたローターも、すっかり突き出で硬くなっていたクリトリスと
か乳首にテープで貼り付けて。
 動作を全部MAXにした時のシエル先輩の反応。
 さすがに泣き叫んでのた打ち回って、それから……。
 後始末大変だったな。
 先輩ももうこんなのは着れませんとか言い出して、本気で泣き出すし。
 宥めるのに長い時間と体力を使った……。
 ……。
 じゃなくて。

「なんで、こんなの持ってるんだよ」

 アルクェイドを怒鳴りつけようと息を呑みかけ、そして俺は止まった。
 あれ?

「志貴」

 低い声。
 短いのに底冷えするような重い声。
 いつの間にか、アルクェイドの雰囲気が変わっていた。
 静かな怒気、そんなものがアルクェイドに満ちていた。

「な、なんだ」

 本能的に、こっちの怒りは消失した。
 情けないが、受け身に自然と回っていた。

「わたし、志貴に言われていたよね。学校って志貴が勉強する処で、凄く大切な
事をしているんだって。
 学校終わってからとか、お休みなら遊んでやるけど、普通の日は絶対に邪魔を
するなって」
「ああ、そうだな」

 静かな言葉。
 何を言い出すのかわからないが、とりあえず頷ける内容だった。

「だから、わたしは言いつけ守っているよね。少しは我が侭言うこともあったけ
ど、志貴が授業を受けている時は、学校の近くに寄ったりとかしないで、おとな
しく我慢していたよ」
「ああ、そうだな」
「なら……」

 アルクェイドが俺の手から二枚の写真を掠め取った。

「なら、これは何なの、志貴?」

 秋葉とシエル先輩の写真が目の前に突きつけられる。

「何で、その神聖な勉学の場で、こんな事をしているの?
 どうして、わたしの事は除け者にして、シエルと妹とはえっちしているの?
 最近わたしの事は放りっぱなしにして相手にしてくれなくて
 二人にはこんな、わたしにしないような事ばかり。
 ねえ、どうして? 答えてよ、志貴?」

 目が眩んだ。
 嫌な汗がだらだらと流れる。
 いっその事、気絶できればと思うが、逆の意味で言うことを効いてくれない。

「うあ……」
「ねえ」
「うう……」
「ねえってば」
「あうう……」

 詰め寄るアルクェイド。
 こうなれば、出来る事は一つ。

「ごめんなさい」
「志貴?」
「別にアルクェイドを除け者にしたつもりはないし、秋葉達とだって授業を抜け
出してとか、やましい事をしているつもりはないけど、ともかくごめん」
「なんか言い訳がましいなあ」
「謝ってる。ちゃんと謝ってる」

 頭だってこうして下げている。

「じゃ、悪い事しているって認めるんだね?」
「ああ。最近は学校でやりまくってアルクェイドの事は疎かにしていたかもしれ
ない。それで寂しい想いさせたんなら、悪い事をしたと思う」
「なら、許して……、じゃなくて、ええと、志貴の態度次第では許すことも考え
てあげる……、でいいんだったかな?」

 ?
 終わりのほうは独り言じみた呟き。
 
「しかし、いつの間にこんな写真隠し撮りしたんだよ」
「ふふん、わたしを舐めて貰っては困るわね。わたしにだってブレーンはいるん
だから」
「ブレーン?」

 一転して得意顔になっているアルクェイドの顔を眺める。
 ブレーンも何も、この辺でアルクェイドの知り合いって言ったらそんなにはい
ないぞ。案外、孤独な奴だから。
 俺と先輩や秋葉を除外すると、後は、レン……は違うな、幾らなんでも。
 残りは翡翠とか、琥珀さんくらい……。
 琥珀さんくらい、琥珀さんくらい、琥珀さんくらい。
 ……。
 そうか、琥珀さんか。

「最近、志貴がかまってくれないって言ったら、私たちもお相手して貰う機会が
減って寂しいんですよって言ってね、どうも志貴さんの学校が怪しいですねって
いろいろどうすればいいか教えてくれたんだから」
「ふーん。で、そのブレーンの指示に従ってカメラ片手にずっと学校に忍び込ん
でいたって訳か?」
「え、違うよ。志貴と約束したから、授業やってる時は近寄ってもいないもの」
「え、そうなの?」

 律儀な奴。
 ちょっと感心した。

「じゃ、どうやって。空想具現化の力か?
 もしや、この写真も偽物で、俺は見たと思い込まされているだけで……」
「ええとね、志貴の学校にはいっぱい隠しカメラとかがセットしてあるんだって
言ってたよ。大切な主人が通う学校だから当然の備えなんだって」

 琥珀さん、あなたって人は……。

「ただ、指向性には欠けてて効率が悪いとかで普段は使わないそうだけどね。
 今回、いろいろやってこの写真を撮って貰ったんだ。そして、アドバイスを受
けて……。成功だよね」
「そうか。写真だけ入れた無記名の封筒を置いておいたり、それも字体を判断さ
せないなんて芸の細かい事やったり、そのブレーンの入れ知恵か」

 そうだよ、と何が嬉しいのかアルクェイドはにこにこ笑う。
 とてもさっきの威圧感ある怒気を漲らせていたヤツと同一人物とは思えない。

「それでね、もう一つ……」

 言いながら、アルクェイドはいきなり、服を脱ぎ始めた。

「おい、アルク……」

 言いかけて、言葉が途切れた。
 何故って、アルクェイドの姿が。
 ……。
 サマーセーターの下から出たのは、白服。
 スカートを脱ぎ捨てて現れたのは、濃紺。
 何故かアルクェイドが着ていたのは、体操服とブルマーだった。

「……」
「じゃじゃーん」
「……」
「ね、驚いたでしょ?」
「……」
「志貴?」
「……え、ああ。なんだ、その姿は?」

 アルクェイドは得意げに胸を反らす。
 う…わああ……。
 凄い、目を奪われる。

「わたしには足りないものがありますって言われたの」
「ほう、琥珀さんは何が足りないって?」
「うん、琥珀はね、違う、ブレーン」
「ああ、そうだな」

 慌てて首をふる動きで、胸が左右に振られて……。
 ああ、吸い込まれるかと思った。  

「でね、わたしには制服が無いからダメなんです、だって」
「制服?」

 ちょっと胸から目を離してアルクェイドの顔を見る。
 制服、制服ねえ。
 確かに、秋葉なんかはセーラー服姿や、水着とかが何とも言えず魅力的だし、
シエル先輩もそれは同じ。体操服姿も甲乙つけがたい。やらしい事は絶対にさせ
てくれないけど、カソック姿なんかは似合っているよな。
 琥珀さんの着物姿、翡翠のメイド服は凄く良いと思うけど、たまに違う服を着
ているとたまらなく新鮮で目を奪われる。
 といった視点から考えると、確かにアルクェイドの格好って似あってはいるけ
ど代わり映えしないのは確か……。

「それで、これを用意してくれたの。これを着たら志貴はイチコロで、シエルと
妹の独占状態が崩れ去る筈ですって言ってた」

 なるほど、そういう意図か。
 学校まで乗り込むのがアルクェイドなら、何かあってもどうにでもなる。
 さすが、琥珀さん。
 と言うか、今の様子もカメラだかで録画されたり撮影されたりしているのだろ
うか?
 気味悪げに、辺りを見回す俺。

「あ、カメラ気にしているなら平気だよ。ここのは全部眠らせたから」
「そ、そうか」

 なんだか、疲れてマットに座り込んだ。
 
「どうしたの、志貴?」

 !
 覗き込む姿勢のアルクェイド。
 胸がこう少しだけ下に垂れるように撓んで、僅かに首の処から胸の谷間も。
 
「なんでもない」
「そう?」

 安心したのか、にぱっと笑って、ぱっと飛び退く。
 あああ、もうちょっと。

「で、どうかな?」

 自分でブルマーを見てみたり、体操服の裾を引っ張ってみたり。
 長い綺麗な脚とか、信じがたい大きさの二つの膨らみとか。
 なまじ裸でいるより、なんだかむずむずと来る感じ。

「似合っているよ」
「そ、そう?」

 アンマッチと言えばアンマッチなのだけど。
 例えば女子の体育の授業に混ぜたとしたら、強烈な違和感があるだろう。
 でも、似合っていないかと言えば、断じてそんな事はない。
 しかし、見ているだけでくらくらしそうな魔力すらある。

「じゃあね」

 しかし、この胸は反則だよな。
 ちょっと動くとこの、ぷるんと揺れが。

「これ着たら」

 ぷるん

「志貴はわたしを」

 ぷるぷる

「可愛がって」

 ぷるるん

「ちょっと志貴、聞いているの?」
「あ? ああ……」

 むう、と可愛く怒っているアルクェイド。
 でも、この胸が……。
 そんなに近寄って胸を強調されると、その……。

「え? おい、アルクェイド」
「え、あ、何? 大声上げて」
「おまえ、ノーブラ……、って元からつけない方だったっけ」

 今初めて気がついた。
 そう意識して見ると、さらにこう心奪われると言うか。
 いくらでも生乳を見た事も触れた事もあるというのに。

「ほら、志貴」

 抱きつかれた。
 ほとんど押し倒されたような体勢。
 体操服とブルマーの感触。
 その乳が、乳が、乳が。
 ・
 ・
 ・

 するりとアルクェイドの腕から逃れる。
 そのままゆらりと立ち上がった。

「あれ、志貴?」
「ちょっと待ってろ」

 ベルトを素早く外す。
 ストンとパンツごとズボンが下に落ちた。
 制服のシャツの裾をピンと波打たせながら引っ張る。
 ボタンがぷちぷちと嵌め穴から弾けるように外れる。
 これも自分から逃れるように、腕から抜けた。
 片手で下着のシャツを脱ぎ去る。
 その間、コンマ数秒。
 準備完了。

「志貴、あの、どうしたの?」
「……」
「ちょっと恐いよ、ってあれ、もうそんなに大きくして」
「これが欲しかったんだろ?」
「でも、その、まだ、焦らしたりとか何とかする事が残っていて……」
「そんな格好で迫ってきて、今更何を抜かす」
「ああ、志貴、ダ……メ…………」

 アルクェイドに覆い被さった。
 肌に触れる体操服とブルマーの感触。
 そこから伝わるアルクェイドの柔らかさ。
 脳が蕩けた。
 もう、修復不可能なほどとろとろになった。

「ああ、シエル先輩よりさらに大きな胸。即死クラスの凶器だな、これは」
「ああん、そんなに強く揉んじゃ、んんんんッッ」

 アルクェイドの声に、さらに壊れる。
 むにゅ、むにゅむにゅ、ちゅぅぅ、むにゅむにゅむにゅ。

「ここも、凄いな、もうこんなに濡らして、熱くして。ほら、かき混ぜてやる」
「ああん、やだ、そんなに。ひぃぃんッ……」

 指が手が熱した蜜に塗れたようだった。
 どこまでも柔らかく呑み込む蜜の底なし沼。

「せっかくのブルマー姿だ。脱がしちゃ勿体ないよな?」
「ふぁぁ。無理だよ、志貴。そんな、裾から突っ込んでなんて、あん……はぅぅ」
「そら、どうだ、アルクェイド?」
「ああああぁぁぁぁぁッッッ!!!!」






 何時間経ったろう、それから。  
 短かった気もするし、凄く長かった気もする。
 ともかく、へたり込んで動けなくなるほど体力を消耗する時間だ。
 ……どの位だろう?

 アルクェイドを見る。
 目を空けたまま固まって動かない。
 顔や髪が、汚れている。
 唾液と精液が幾分はね飛んだのだろう。
 腕や脚も色濃く今の性交の痕を留め、二人の分泌した様々な粘液がついたり、
キスマークや、噛んだ痕すら残っている。
 いずれも、先ほどまでの激しさを雄弁に語っている。

 それなのに異様なのが、依然として体操服とブルマーはつけたままという姿。
 後で着せた訳では無い。
 徹頭徹尾、ずっと着たままだったのだ。
 だから、改めてみると壮絶。
 体操服は破けたりはしていないが、よれよれ。
 引っ張ったり、くしゃくしゃにされたりしている。
 特に胸の辺りなんて少し伸びちゃっている。
 
 ううむ、だいぶ舐めまわして吸ったから、びちょびちょで少し透けている。
 ぺたんと張り付いて、胸の形がくっきりとして、こうしていてもつんとした乳
首の姿がはっきりと確認できるな。
 当然、精液の滲み跡などもあちこちに。
 飛んだのやら、拭ったのやら、胸に挟んだ時のやら。
 
 で、下はと見ると。
 白い体操服と違って、濃紺のブルマーは一見、無事に見える。
 だが、近づけるとこちらが一番の激戦区と気づかされる。
 全体に濡れている。
 指で突付くとぐしょりと中から何かが染み出てきそうな感じ。
 いや、絶対にねとねとになるだろう。
 アルクェイド自身が、その花弁の奥から滴らせたり、尿道口から噴出させたも
のを、全て内側から吸収しているのだ。
 それと、俺がいたる所から突っ込んで吐き出した精液や腺液。
 外側からも、ぐっしょりと淫液に塗れたペニスを擦り付け、さらに射精して汚
したりとやりたい放題だった。

 どうにも沈黙が心に痛い。

「アルクェイド……?」
「うう……」
「アルクェイドさん?」
「志貴のケダモノ」

 反論できない。
 しかし、こちらが殊勝な顔をしているのをいい事にアルクェイドはとめどなく
俺への文句と罵詈雑言を並べ立てる。

 最初は神妙に聞き入れていた。
 すまないと思う心があったから。
 しかし、意外とバラエティに富んだ物言いだな……、というかこの内容は琥珀
さんの薫陶によるものか?

 しかし。
 ずっとそんな罵倒を受けていると。
 もっともであっても、いや的確に痛い処を突けば付くほど。
 そんな言葉を聞いていると、だんだんと腹が立ってきた。
 そもそも、あの写真で脅されてどれだけ沈み込んで絶望して焦燥に頭をおかし
くしただろう。
 その効果を予想して指示したのは琥珀さんだろうけど。
 考えて悩んで煮詰まった挙句、秋葉を連れて逃げて何処か誰もいない処でひっ
そりと暮らそうと算段したりとか、脅迫されて秋葉の身に危害が及びそうになっ
たらいっそ……と昏い決意を固めたりとか、あの想いはどうなるんだ?

 アルクェイドは相変わらず俺への糾弾を続けている。
 なんだか、ずれてシエル先輩と秋葉へ傾斜しているけど。
 俺は無造作にアルクェイドの頭部に手を伸ばした。

「ていッ!」

 お、いい感触。
 アルクェイドの頭ががくんと後ろへ傾く。

「な、何するのよ、志貴。痛いじゃない」

 額を手でさすりながら口を尖らすアルクェイド。
 でこピンで、ちょっと額が赤くなっている。

「うるさい」
「うるさいですって?」
「黙って聞いていれば、うだうだと。あんな写真でのこのこやって来たおまえが
間抜けなんだよ。
 また、気が向いたら堪能させてもらうから、楽しみに待ってるんだな」

 わざと憎々しげに言い捨てて、アルクェイドを残して退散した。
 何かわめいているアルクェイドは無視。

 
 あーあ。 
 なんか爽快。
 体は出し尽くしたーって感じでふらふらだけど。
 これが昼間なら太陽が黄色く見えそうだな、ははは。


 
 ……なにか間違っているような気がするが、はて?
 まあ、いいか、うん。


 《FIN》
 
 



 
 


―――あとがき

 卑怯とは言うまいね?
 
 いやほら、ルールのボーダーぎりぎりかもしれないけど、秋葉とシエルが出て
来ないとダメとは一言も書いてませんし。
 もっと短い馬鹿SSのつもりだったけど、アルクェイド弄ってたら妙に終わら
なくなって、ちょっと長めの馬鹿SSになりました。
 冒頭で、秋葉陵辱SSと思って期待した人は、反省して廊下に立つように。

 読んで頂いて恐縮至極、では(脱兎逃げ)

    by しにを(2002/10/03)