「志貴さま。朝です、お目覚め下さい」

 ベッドに横たわる志貴の顔に色が戻って着たのを見計らい、再び翡翠は声を掛ける。

「う……ううん……」

 身じろぎの後、志貴は薄く眼を開け横になったままうーんと伸びをした。そのまま
勢いを付けて身を起こすと、翡翠から眼鏡を受け取りそれをかける。

「……やぁ、おはよう翡翠」
「おはようございます、志貴さま」

 翡翠はまだ目を瞬かせている志貴に向かって一礼すると言葉を続けた。

「起きられたばかりで申し訳ありませんが、少々時間に余裕がございません。お急ぎ
になられた方がよろしいかと思います」
「あー…………うん、すまない。じゃ、着替えるから……」
「はい、では失礼します」
「……あれ? 翡翠、ちょっと待って」

 頭を下げ、部屋を出ようとした翡翠を呼び止める。

「なんでしょう?」
「え、うん、なんか翡翠の目が赤いかなぁと思って」

 翡翠は眼を瞠ると、申し訳ございません、と頭を下げた。

「いや、謝ることはないんだけど。……何かあったの? 秋葉にイジメられたとか?」
「いえ、その様なことは。秋葉さまには良くしていただいております」
「えーと……じゃあ、その……もしかして、俺のせい……?」
「えっ……いえ、その様な……」

 鼻頭を掻きながら言う志貴に翡翠は顔を赤らめて目を伏せる。しばらくして翡翠は
顔を上げて言った。

「昨夜のことは間接的に関係ありますが、志貴さまのせいではありません」
「…………えーと、その、翡翠?」
「なにか?」
「……その、そういう言い方をされると、とても気になるんだけど?」

 逡巡するが、翡翠は口を開く。

「見回りの後部屋に戻るときに、起きていた姉さんに……」
「七夜さんに?」
「はい、捕まってしまいまして……それでその、明け方近くまで色々と……」
「なるほど、根掘り葉掘り」
「……はい」

 やれやれと頭を掻く志貴。

「まぁ、七夜さんにしてみれば格好の揶い所だしなぁ。……ゴメンな翡翠、やっぱり
俺のせいだ」
「いえ、そんな……志貴さまは──」

 俯く翡翠に志貴は笑いかける。

「だからさ、ここは俺のせいってことにしておいてよ。朝から翡翠にそんな顔される
とさ、その、なんだ、困る」

 志貴の言葉に翡翠は伏せていた顔を上げて微笑んだ。

「……では、その様にさせていただきます」
「うん…………でも、七夜さんと顔を合わせ辛いな。なんて言われることやら……」

 眉を寄せる志貴に翡翠が答える。

「それに関しては、わたしが昨夜のうちによく言っておきましたので、大丈夫だと思
います」
「そうなの?」
「はい…………志貴さま、そろそろお時間の方が……」

 え? と時計を見る志貴。

「こりゃまずい。秋葉にまたお小言言われるな」
「では、わたしはこれで失礼させていただきます」
「うん。じゃあ、また後で」

 翡翠は志貴に一礼すると、部屋の片隅を見て微笑み、部屋を後にした。

──終了──



























── 後書きという名の解説 ──

先ずは拙文お読み下さり誠に有り難う御座います。
何鹿・ザ・スロースターターです。本当はただの何鹿です。

このお話は「翡翠グッドエンド(似)」の後のものです。
記憶を失っても、二人の愛は変わらずに〜♪ って感じで記憶が無い分
七夜@琥珀さんの翡翠愛がそのまま出るとどうよ? と個人的にかなり
ストレート風味に仕上げたつもりなのですが、単に分かり難いだけにな
りましたか? 一番錯乱しているのは書いた奴本人という罠?
翡翠の反応は、琥珀さんに対しては全肯定だと思うのでこんなもんかと、
思っているのは私だけかなぁ……?
ご意見ご感想お待ちしております。
それでは、また機会がありましたら。