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 弾かれたように飛び出した志貴は、屋敷の中に駆け込む秋葉を玄関先で捕まえる。蝶の羽の
ように乱した振袖で駈ける秋葉を、背後から羽交い絞めにした。

「やっ……離して、離してください、兄さんっ!」

 激しく首を振り、四肢をばたつかせて秋葉は志貴の抱擁から逃れようと暴れる。
 けれど、もがけばもがくほどに志貴の腕は力を込めて秋葉の身体に食い込んでいく。
 その感触は秋葉の中で喜びに変わる。痛いほどに抱かれた腕が、まとわりつく汗のにおいが、
乱れた息遣いの熱が、秋葉の心を震わせる。
 けれど、この腕は秋葉のものではない。だから、溢れる涙は止めようがない。

「頼むから落ち着け!」
「離して! 兄さんなんて……っ!!」

 どこまでも強硬に抵抗する秋葉に、志貴は腕を緩める。
 言い訳なんて、どこにもなかったから。
 けれど、秋葉は志貴の腕から逃れはしなかった。ただ、自分から志貴の腕を取ると縋りつく
ようにその顔を右腕に押し付ける。

「酷いです、あんな、見せ付けるみたい、に!」

 そうしてその手を取ると、指を鼻先に近づけて犬のように匂いを確かめる。
 先ほどまでの行為で濡れた、指先に向けて舌を伸ばす。
 その瞳には薄絹の幕が下り、平生の凛とした雰囲気を包み隠している。

「なんて、厭らしい、匂い……」

 内容とは裏腹に、全く嫌悪感を感じさせない声音で、呟く。
 秋葉の唇が指を咥えこむ様を呆然と見守っていた志貴が、慌てて身体を離そうとする。
 けれど、もう遅い。

「兄さんの、指、琥珀の味が、しますね」

 囁いて震える秋葉の髪が、赤みを帯びている。
 彼女が自制を失いかけている証。
その長い髪から柔らかく立ち上る、つんとしたすがすがしい香り。
 志貴の腕の中に納まった秋葉は、上品な振袖姿でまるで猫のように彼の指を舐る。
館の広間に、秋葉の立てる音が淫靡に響き渡った。
 その色に狂ったような秋葉の佇まいが、志貴の記憶の扉を開く。
 
「ごめんなさい、ごめんなさい、兄さん。でも、もう、私……」
「……紅葉」

 呟いた名前。
 志貴の記憶の底から湧き上がった、昔語りの鬼の名前。
 語ってくれた女性の顔も思い出せないのに、その鬼の印象だけが鮮明に甦る。

「ああ、そうだ。何で忘れていたんだろう。ここはそう、確かに俺の故郷だ」

 その証拠に、貴女もここにいる。
 口には出さずに、志貴は秋葉を抱き寄せる。

「きゃっ……にい、さん?」
「そして、貴女は」
「何を……いっっ!」

 振り返った秋葉の唇に、志貴が唇を重ねた。 
 驚きに見開かれた秋葉の眦から、涙がこぼれる。
 そんな秋葉の様子には構わずに、志貴はただ抱く腕の締め付けを強めた。そうして激しく舌
を絡ませて、潤んだ秋葉の目元を濡れた指で拭う。

「俺は、俺たちは全身全霊で貴女を守護することを誓う。それが、七夜の……いや、遠野志
貴の、二度と違えない誓い、だ」
「兄さん、何を……」
「わかってる。お前には直接関係ない話しだし、その上俺にとっては、どうしたって琥珀さん
が一番だ。だからコレは俺の我が儘。嫌なら二度とお前に手を触れることも、ない」

 志貴の言い草は到底甘受できるものではない。
 こんな扱いは秋葉の矜持にはどうあっても相容れることはない。
 それでも、秋葉には。

「嫌なわけなんて、ありません。兄さんこそ良いんですか? 私は秋葉です、のに」

 言葉を返しながらも、秋葉の腕には力が込められる。
 もう二度とこの腕を離さぬように、と。

「ん……兄さん」

 再び交わされる口付け。
 秋葉の意識は、琥珀が今にも戻ってくると判断していたが、それでも気持ちは止まらない。
 あの朴念仁の兄が、心に隙間を空けてくれたのだから、踏み込まないでどうするのか。

「ああ、柔らかい、です、兄さん」

 頬を染めながら、そんな事を囁きかける秋葉がとても愛しくて。
 志貴は腕の中の秋葉の着物の裾に手を差し入れた。
 脱がしてしまおうかとも考えたのだが、脱がし方がわからないのだから仕方ない。

「秋葉……これ」
「全部、差し上げます。兄さんの、もの、ですからっ」

 布地を掻き分けた志貴の手は、容易く秋葉の叢へと到達する。
 大きく裾をはだけられ、剥き出しにされた秋葉の秘所は、既に熱く潤み志貴を待ち受ける。
 惑乱したような秋葉の叫び声が、志貴の心に染み渡る。
 秋葉も望んでいるのだから、何も構うことはない。そう、決断する。

「ぁ……ぁぁっ……ひっ!」

 優しく撫でるように、志貴の指が秋葉の股間に伸びる。
柔らかな飾り毛を掻き分け、花弁を開く。既に蜜を溢れさせたそこは、滑らかな感触を志貴
に伝えてくる。秋葉の唾液で濡れた指先が、馴染んで吸い込まれていく。
 琥珀のその部分とはまた違う、硬い締め付け。峻烈と評してもいい反応は、どこか秋葉らし
さを残していて、志貴の胸を昂らせる。
 絡みつく肉の襞を掻き分けながら、志貴は蜜を垂らす秘所を蹂躙していく。
 
「もうここはすっかり準備できているみたいだ。秋葉だって、こんなに厭らしいんじゃないか。
これじゃ琥珀さんのことなんて、言えないと思うぞ」
「やだ、兄さん、いまは琥珀のことは言わないでください、お願い、ですから、あぁっ……」

 秋葉の抗議は、志貴の右手の動きで封じられる。掌の硬い部分で叢をかき回しながら、既に
泥濘のように蕩けきった指先を巧みに操る動き。琥珀との交わりで学んだ技術の全てを動員し
て、志貴は秋葉の理性を奪い去っていく。
 
「ぁぁ、こんなに、やだ、おかしく、なる……ううっ!」

 割り裂かれた秘裂から、白濁した体液がだらしなくあふれ出す。
 抜き差しされる指の音が秋葉の脳裏に刷り込まれ、まるで呼応するように膣の中から甘美な
快楽が這い上がってくる。堪らずに秋葉は身を大きく震わせた。
 その瞬間。腹部に小さな違和感が生じ、秋葉は目をさらに大きく見開く。

「なに、な、に、これっ……やだ、これっ」

 責められている部分とは、僅かに違う場所。
 違和感の元凶は、膀胱。その意味するところを悟って、秋葉が顔を一息に青ざめさせる。

「ゃ…だ……こんな、こんなのっ」

 志貴の前ではしたない姿を見られることになる、そう思うだけで秋葉の身体の熱が醒める。
 慌てて身を離そうとして、秋葉の意識が必死にその挙動を制御する。
 先刻、志貴は何と言っていた?
 
――嫌ならば、二度と触れない。
 
 その言葉は、秋葉にとって鎖。
 ここで志貴を突き放すことは、秋葉にとって出来ない相談。
 けれど、このままなすがままにされていても、やはり待つのは破滅。

「にい、さん……私、わたしぃ……」

 もはやどうしていいのかわからない。
 混乱を極めた秋葉の精神は、志貴の行為に対する抵抗力を全く失っていた。
 残るのは、響きのいい楽器のように淫らな声を発するだけの肉体。
 
「ひっ……くっ……うあぁっ……」

 どれほど、責められたのか。
 既に何度も小さな絶頂に達しながら、秋葉はその精神力の全てを尿意に対抗する為に注ぎ込
む。真紅に染め抜かれた髪が、妖しく波打ちながら志貴を包む。

「そろそろ、いいかな。秋葉を、貰うよ」
「そっ、それは、兄さん、ああっ、兄さんっ……」

 秋葉に包まれながら、志貴はその身体を抱き上げる。
 そうして、純潔の秘所に自らの怒張を押し当てた。
 既に蕩けきったそこは重力の導きのまま、何の抵抗もなく志貴を招きいれようとする。
 そこまでが、秋葉の幸せな記憶。

「あら、まだ少し早かったみたいですね」

 不意に志貴の背後から、琥珀が顔を覗かせた。
 乱れた着物をそのままに、秋葉が陶酔した表情で琥珀を見返す。
 その瞳の奥に小さな怯えを見て取った琥珀が、薄く笑う。

「秋葉さま。夏場はあまり冷たい物を一息に口にされると、お腹を冷やしますよね。もう我慢
できないんじゃありませんか?」
「琥珀さん?」
「志貴さん、秋葉さまは先ほどからずっと……」
「やめてぇ……言わないで、お願いよぉ……」

 弱々しく首を振る秋葉を横目で見て、琥珀は一層深く微笑んだ。
 手を伸ばすと、二度、三度と秋葉の髪を梳く。
 
「良いんですよ、秋葉さま。何も怖がることはないんです。さあ志貴さん、秋葉さまの足を持
ち上げてくださいな」
「こう、かな」
「はい、結構です」

 琥珀が秋葉の背中に回りこむと、着物の裾を一気に捲り上げる。
 外気に晒された秘裂はすっかり粘りのある体液に覆われ、志貴の亀頭をくわえ込んでいた。

「やっぱり。まだなさっておられなかったんですね、おかわいそうに、秋葉さま」

 そう言いながらも琥珀は愉しげな表情を崩さない。
 捲り上げた生地を手際よくまとめると、上気して薄紅色に染まっている秋葉の腹部に両手を
添えた。そうしてゆっくりと掌全体でその部分を押し込んでいく。

「駄目、やめな、さいっ、琥珀っ、お願いだから、やめてっ!」
「そんなこと仰っても、こちらは正直ですよ、ちょっと妬けちゃいます。大丈夫です、志貴さ
んもわたしも、ずっと秋葉様のお側にいます。一生離れたりしませんから、ご安心ください」

 涙を流して懇願する秋葉に顔を寄せ、志貴の耳には届かない程度に囁く。
 秋葉が、思いがけない物を聞いたというような表情で琥珀を見返す。 

「え……どうして、琥珀」
「だって志貴さんもわたしも秋葉様のことは大好きですから。ですから、秋葉さまも素直にな
っていただけるといいな、って……」

 囁きながら。
 琥珀は秋葉の腰を志貴に押し付けていく。肉襞の密集した通路を、志貴の怒張が遠慮容赦な
く押し通っていく感触は、秋葉を惑乱の海に叩き込む。

「あああっ、やっ、来る、来ちゃう、お腹の奥まで兄さんのがあぁぁ……」
「っ……秋葉っ、気持ち、いい」
「え……本当、ですか、あっ、ゃああ……あああああ!!」

 志貴の漏らした言葉が、秋葉の耳に届いた途端。秋葉の身体の中のうねりが制御を失った。
 迸りそうになった尿意を救ったのは、琥珀だった。
 その瞬間、股間から伝わる激痛に、秋葉は恥も外聞もなく泣き喚く。

「秋葉、痛いのか?」
「兄さん、たす、たすけ……」
「良いんですか、わたしが離すと出ちゃいますよ? まあ、今日は下着も穿いていらっしゃい
ませんから、不作法ではないですけど」
 
 あまりの痛みに、秋葉は耐え切れずに救いを求めかける。
 けれど、その耳に流し込まれる琥珀の声は、そんな行動すらも束縛する。

「それでも、志貴さんに見られちゃいますよね。秋葉さまが、おしっこされるところ」
「やぁ……お願い、やめて、琥珀、そんなの、酷いぃ……」
「そうですよね、初めてでそんなの酷いですよね。でも、わたしはそうだったんですよ?」

 刃にもなる言葉。秋葉の脳裏に、泣きながら槙久に組み敷かれる幼い琥珀の姿が映った。
 壊れた人形のように四肢を投げ出して、その股間から鮮血と、精液と、小水を垂れ流す美し
い作り物の少女の姿。

「だから、秋葉さまには選ばせて差し上げます。どうしますか、このまま続けられますか? そ
れとも一度すっきりなさいますか? お医者様としてはすっきりされるほうを勧めますけど」
「やめ、おねがい、離さないで」
「はいはい、わかりました」

 予期したとおりの答えに、琥珀は大きく頷く。

「志貴さん、もう大丈夫ですから、秋葉さまをたくさん愛して下さい」
「……本当に、大丈夫なのか?」

 心配そうに覗き込む兄は、本当に心底秋葉を案じている。
 それがわかるからこそ、秋葉は気丈に頷くほかはない。

「はい、兄さん。私は平気ですから、もっと、大きく動いてください。秋葉を兄さんの好きな
ように、扱ってください」

 ガラクタの人形のようにされても構わない。琥珀が志貴を連れて行ってしまったら、遠野の
屋敷には彼女の大切な物なんて何も残らないのだから。
 志貴を引き止める為ならば、こんな痛みも、辱めも、何のことはない。

「あれ? 秋葉さま。ひょっとして、もう平気ですか?」

 志貴が大きく腰を何度となくグラインドさせるのを観察しながら、琥珀が和やかな声で耳元
に語りかける。その声に秋葉は意外そうな顔で彼女を見る。
 確かに、痛みはもう殆ど感じられなくなった。
 志貴の動きが膣壁をこすりたて、処女幕の残滓をこそぎとっていく痛みも尿道に押し込まれ
た異物感の前にまるで感じられない。
 ただ、堪えがたい疼きだけが股間から這い上がってくるような気がしていた。もう秋葉には
なにがどうなっているかなどわからなかった。ただ自分の身体の反応をもてあましていた。
 それが、琥珀の盛った薬の効能であるなどとは、想像の埒外。

「え、えぇ、もぅ、だいじょう、ぶ、みた、い」

 荒い息の下で、秋葉は琥珀に微笑みかける。
 自分の身体が志貴に作り変えられていくような感覚に、秋葉は陶酔していた。
 その感覚は、志貴にも伝わる。膣内の締め付けが少し緩やかになり、締め上げるというより
は絡みつくといった感触が志貴を愉しませている。
 秋葉の変調を感じ取った志貴が、ひときわ大きく腰を叩き付けた。

「あっ…… あっ…… ひあっ……いいいっ……」

 一度、秋葉が甲高い声を上げて下腹部を痙攣させた。慌てたように琥珀が秋葉の腰を後ろか
ら支えてくれるのを眺め、志貴は再び律動を開始する。断続的に続く嬌声を心地よいメロディ
として、志貴は腰をうねらせて秋葉を更なる高みへといざなっていく。
 もう、呼吸すら忘れそうなほどの快楽。
 最初に一度押し上げられてしまえば、後はそのまま押し流されてしまう。

「やああ、いい… いい… もう、こんなのぉ…」

 幾度となく擦り上げられ、真紅に充血した膣内の粘膜は志貴の激しい動きに擦り切れそうな
ほどになりながらも秋葉の脳髄に快楽を知らせ続ける。
 他の事など考えられないほどの悦楽に、秋葉は涙を流しながら身もだえした。

「ま、また、くる、来ちゃう……うああああ……」

 すっかり蕩けた媚肉が志貴を強く締め上げる。
 それが秋葉の二度目の絶頂。

「う、う、ううぅぅぅ……」

 獣のよう咆哮を上げ、汗にまみれた秋葉の肉体が大きく跳ね上がる。
 そのまま全身を起こりのように震わせる。
 何度も、何度もその伸びやかな肢体を宙で痙攣させた。
 けれども、志貴は止まらない。
 琥珀との交わりが、志貴に並外れた持久力を与えていた。
 
「ぇ? ま、まだ、終わらない、んですか? おねがい、そんなに続けてされると、もう私、
気が狂います、赦し……んんん」
「ほら、秋葉さまったらこんなに気持ちよさそう」

 再び、助けを求める秋葉の口に、琥珀が自分の指を差し入れた。
 だらしなく開いた口からこぼれた一筋の涎を拭いながら、口付けを交わす。
 秋葉はもう、誰が自分の唇を奪っているかすら理解できていない。
 目は霞み、耳は聞こえない。ただ酸素を求める呼吸だけが熱く繰り返される。

「志貴さま、そろそろ限界です。秋葉さまに注いでくださいませ」

 頷いて、志貴は最後のスパートをかける。
 既にどんな刺激も秋葉の中では飽和状態になっているから、絶頂もまた早い。

「ひっ…ひっ…やっ…くるっ…くるっちゃ、う…」

 口の端から泡を吹いて悶える秋葉の子宮口を押し込むほど、志貴の怒張が深々と埋め込まれ
た瞬間、志貴は弾けた。体の深奥に熱い迸りを感じて秋葉は三度達する。
 その刹那、見計らったかのように琥珀が右手の硝子棒を引き抜いた。
 不意に訪れた開放感に、秋葉の肉体は精神を裏切った。

「あ、あ、あ、あああああ……」

 勢いよく、金色の液体が迸る。
 秋葉は目を閉じて、必死に首を振りたてて絶叫する。

「嫌ぁ…見ないで、見ないで下さい兄さんっ! やだ、もうこんなの…やぁ…」

 志貴はただ、自分の下腹部を熱く濡らしていく液体の噴出を呆然と眺めていた。
 つんと鼻を刺すアンモニア臭に、名状しがたい興奮を覚えて身を震わせる
 その耳元に、首を伸ばした琥珀が囁きかけた。

「ほら、出しちゃえ」
「うっ! あ、秋葉、駄目だ、漏れるっ」
「え……ゃ……あつ、熱いぃぃ……」

 大量の熱湯を直接注ぎ込まれたような感触に、秋葉は意識を覚醒させる。
 そして、自分のみに何が起こっているかを正確に把握した。

「あ、あぁ…出され、てる、秋葉の大切なところに、兄さんの、兄さんのが…」

 うわ言のように呟く瞳はもう、何も映してはいなかった。

          ■

「それで兄さん、何か言い訳はありますか」
「あ……ええと、秋葉、その、なんだ」
「ありませんよね、あるわけないですよね。可愛い妹をその毒牙にかけた挙句、やるに事欠い
てその中であんな物をお出しになったんですから。どう責任を取るおつもりですか、大変興味
があるわ、ええ、本当に」

 目が全く笑っていない。
 背筋が冷えるのを覚えた志貴は、救いを求めて周囲を見渡す。

「あら、秋葉さま。でもその件に関してはお互い様ですよ? それに先になさったのは秋葉さ
まですから、おあいこじゃないでしょうか」
「どの口でそんな台詞を吐けるのか、興味深いわね琥珀。けれど、まあいいでしょう。今の意
見を聞いて思いつきました。確かに、私も兄さんと同罪だといえなくもありません」

 羞恥の為だろう。秋葉は頬を赤らめて、そっぽを向く
 これは上手く煙に巻けたかと胸をなでおろしかけた志貴に、秋葉の視線がぶつかる。

「ですが、あの時私は下着を穿いておりませんでしたから。その分は若干マシでしょう」

 いきなり秋葉が口にしたトンデモ理論に、志貴の目が点になる。
 やがて、志貴は泡を食ったように反論を始める。

「うわ、なんて事を言い出すんだオマエは。そんな無茶な理屈がまかり通るわけないだろ」
「お黙りなさい。遠野家のしきたりは私が決めます。ええ、所構わずあのようなことをする犬
っころみたいな兄さんには下着なんて不要でしょう、よってこの屋敷では兄さんに下着の着用
を禁じます」

 トンデモ理論の展開、其の二。
 偏頭痛を感じながらも、志貴は突っ込みを入れる。

「あのな、秋葉。その理屈でいくとお前だって……」
「ええ、もちろん私もここではノーパンで過させていただきます。好きなときに盛って、獣の
ように兄さんと交わることにしましょう。この地のしきたりとします、相応しいでしょう」
「琥珀さん……ここって、やっぱり」
「ええ、今は七夜のお屋敷ですが、そのさらに前は遠野のお屋敷でもあったんですよ。遠野家
では伝説的な鬼女支配していたと伝えられる、曰くつきのお屋敷です。ご存知でしたか?」
「ああ、一応子供のころに聞かされた憶えがある。だからこの地の名前は……って奴な」

 伝承の真偽はともかくとして、それが七夜の郷土の歴史に他ならないから。
 鬼女紅葉、或いは貴女紅葉の伝説。

「きっと秋葉さまみたいな性格だったんでしょうねー」

 琥珀は脳天気に笑うが、志貴はとてもそんな心境ではない。
 帰郷した先が秋葉の故郷だったなんて洒落にもならなかった。

「結局、秋葉からは逃げられないってコトか」
「どうせ逃げるおつもりもなかったでしょう? いいんですよ、わたしはこれで十分報われて
います。何しろ今回の一件で、秋葉さまに対するわだかまりも全部払拭しましたから」
「ああ、そう。それは、よかった」

 琥珀さんが笑ってくれるならそれもいいかと。
 終わりよければ全てよしといった感慨を抱きかけた志貴を、秋葉が見据える。

「あら、兄さん。まだ終わったわけではないですからね。今晩には翡翠も来る事になっていま
すから、三人でしっかりこの屋敷の流儀を叩き込んであげないと」
「翡翠って……おい秋葉っ!」
「だって、一人だけ仲間外れは厭でしょう。それとも兄さんは翡翠がお嫌いですか」

 それは、志貴にとっては答えのわかりきった問いだった。
 仕方なく、頷く。

「わかった。毒食わばお皿までいただきましょう、だな」

 そうして、次の宴が準備される。
 どこまで対象の範囲が拡大されるのかは、誰も知らない。
 けれど、きっと。
 結びの言葉は伝承と同じ。

 みんな、末永く幸せに暮らしましたとさ。
 真偽の程は、ともかくとして。

(了)