「でも、遠野くん。代わりと言いますか、面白い趣向を用意してあるんですよ」
「えっ?」
シエルが微笑んでいた。
いつもの、にこやかな笑みに見える。
しかし、どこかぞくりとさせるような笑み。
つい最近も、この笑顔を志貴は見ていた。
そう、体育倉庫に誘った時もこんな笑みをしていたな、そう志貴は思い出す。
「趣向?」
「はい。遠野くん、そこの跳び箱ありますよね、いえ、隣の……、そう。それ
です。それを順番に上から外してくれますか。
丁寧に。一段ずつで結構ですから、絶対に落としたりしないようにそっとし
て下さい」
「わかったよ」
突然、何を言い出すのだろう。
そんな疑問を持ちつつも、志貴は素直にシエルの指示に従った。
シエルの淫靡なものを予感させる笑みに、何かを期待しながら。
一番上の跳び段を志貴は注意深く持ち上げ、傍らの空間に置いた。
そして二段目、三段目。
こちらは木枠だけだからさほど労力は必要としない。
志貴の胸辺りまでの高さが、腰辺りまで低くなった。
「うん?」
何かが見えた。
持ち掛けた跳び箱をそのままに、志貴は中を覗き込み、そして大きく息を呑
んだ。
目が驚愕に開かれる。
「なな、なんで、秋葉?」
声がかすれて震えている。
とにかく跳び箱の中で、妹が蹲っていたという不条理なシチュエーションで
志貴の頭は思考停止していた。
ついで思ったのが、助けないと、という衝動。
慌てて志貴は木枠を手にとり、放り出すようにして、数段をまとめて取り除
いた。
秋葉の上半身が外に現れる。
「秋葉?」
しかし、その姿を見てさらに志貴は呆然とする。
ショックを受けたような、どうしていいか戸惑う顔の表情。
志貴の目に映った秋葉は、志貴の想像を絶していた。
もちろん、こんな状況自体がおかしいという感覚はあるが、それでもその無
惨な姿は非現実めいていた。
秋葉もまた、体育の授業の後といった格好をしていた。
体育着姿。
そして、口には猿轡。
腕は、後ろ手にして縛られている。
体育座りをした足に、下ろされかけたブルマーが引っ掛かり、下半身にはロ
ープが掛かり拘束されている。
「なんで、秋葉……、大丈夫か」
志貴は、近寄って秋葉を抱き上げようとしたが、秋葉はいやいやをして首を
振る。
近寄らないで下さい、と目が告げている。
志貴は、手を出しかね、代わりに、まだ秋葉を取り囲む跳び箱の檻を全て取
り去った。
「どうして、秋葉……」
身を横にして志貴の目を避けている秋葉を呆然として見つめ、はっと気がつ
いたようにシエルを振り向く。
「先輩ですね。なんでこんな酷い真似をするんです。
「ふうん、遠野くん、ずいぶんとお優しいじゃありませんか」
「だって、こんな」
「まあ、聞いて下さい。どこでどう調べたのかわかりませんけど、遠野くんと
わたしが学校内で愛し合うのを知っても秋葉さんは羨ましく思っていたらしい
んです。口ではこんな不道徳な真似許しませんとか仰ってましたけどね。
今日も、私が体育倉庫に来たら、隠れて覗っていて。そんなに見たいのなら
ご招待して見せてあげようと思ったんですよ。でも邪魔されても困りますしね、
それで少し静かにしていて貰おうと」
「何を言ってるんです、シエル先輩。だいたいいくら何だって秋葉にこんま真
似までして……」
シエルがこの雰囲気に不似合いな笑みを浮かべる。
わかっていませんね、という顔。
「秋葉さんの姿をちゃんと見ましたか?」
「え?」
「嫌がっているように見えますか、秋葉さんの様子?」
「……」
秋葉をちらりと見る。
志貴とシエルの会話は耳に届いている筈だが、反応はほとんど無い。
少し妙だなと志貴は内心で呟く。
「本気で嫌がっていたのなら、いくらでも遠野くんが来た時に知らせる方法は
あったと思いませんか? 喋る事は出来なくてもね。
今だってずいぶんとおとなしすぎると思いませんか、遠野くん?」
「秋葉、おまえ……?」
確かに志貴の前の秋葉は、幾分不安そうに、いつもの気丈さは薄く怯えた表
情をしてはいる。
しかし、それはむしろ志貴の目を怖れているようにも見える。
シエルは、立ち上がり秋葉の傍まで歩いた。
あれ、さっきまで弱々しかったのに、という疑問を持つ余裕は志貴にはない。
「ほら、よーく御覧なさい、秋葉さんの姿を」
そう言うとシエルは屈んで秋葉の体を動かした。
体育着を大きく捲りあげた。
ブラジャーをしていない、秋葉の薄い胸が露わにされた。
志貴に正面が見える様に足の向きを変えた。
ロープと結び目が食い込むショーツの前の部分があからさまにされた。
顔を背ける秋葉の顔を強引に志貴のほうへ向けた。
秋葉の表情が志貴の目に映った。
はだけられた秋葉の胸、そこは僅かに突き出てはいないだろうか。
無惨に拘束されていながら、その身は発情の色を浮かべていないだろうか。
ロープの結び目を谷間に当てられ食い込まされ、しかしそこは濡れて雫を滴
らせてはいないだろうか。
「遠野くんと私の姿をじっと見ていたんですよ、秋葉さん。
最初から最後まで、遠野くんがどんな事をわたしにしてくれて、それでどれ
だけわたし感じておかしくなってしまったのかを、全部。
そして、それを見て秋葉さんは、すっかり感じてしまったんですよ、ほら」
シエルの指が秋葉のショーツを突付く。
志貴の目には、そこがすっかり濡れているのが見て取れる。
「おしおき」
「え、何だって?」
「おしおきが必要だと思いませんか?
お兄さんの情事を覗いて、あろう事か欲情してしまうなんて……はしたない
ですよね。そんな妹には兄として躾をすべきでしょう、違いますか?」
唐突なシエルの言葉に、また志貴は置いてきぼりを食ったような気分になる。
おしおき……。
秋葉に?
志貴は誘うようなシエルの笑顔を見て、視線を秋葉に移した。
秋葉は怯えたような顔で志貴を見ている。
しかし、その瞳は怯えとは違った色を浮かべていないだろうか?
期待、切望、そういった種類の色を。
そして、驚きが僅かに醒めた目で秋葉を見つめると。
露わにされた胸。
剥き出しの太股。
縛られ無惨な姿。
猿轡をされた顔。
それらは、志貴の琴線に触れ、頭のどこかをゆっくりと溶かしていく。
「そうだね」
知らず、志貴はシエルの言葉に頷く。
シエルは目を細め、秋葉は大きく目を見開いた。
「秋葉、いいな」
そう言って、志貴は秋葉の猿轡を外し、目を覗き込む。
秋葉は、まっすぐ志貴の目を受け止め、頷いた。
「はい、兄さん。ふしだらな真似をした秋葉を躾てください」
「ああ。秋葉をいい子にする為の事だから、きちんと受け入れるんだぞ」
引き返せない処まで行ったな。
誰かが、志貴の頭で無感動に囁く。
それに別の誰かが、それがどうしたんだと答える。
「まずは、秋葉のそんな姿を見てたらこんなになっちゃったよ、責任取って貰
おうかな」
志貴は秋葉に隆々としたペニスを突き出した。
シエルとの交合の名残を色濃く留め、新たに穂先は露を滲ませている。
秋葉はそれを嫌がる事無く、むしろ弾んだ顔つきで見つめた。
「どうすればよいのですか、兄さん」
「このまま秋葉に入れては可哀想だな。先に綺麗にして貰おうか。と言っても
手が使えないか。いいや、舌で拭ってよ」
完全に矛盾した物言い。
しかし秋葉は、はいと頷くと体を前に乗り出して、舌を近づけた。
亀頭を、くびれを、幹を秋葉の舌が舐める。
拘束されているが故に不自由な体で懸命になる姿は、志貴に被虐美を感じさ
せた。
腰を動かす。
ぬめぬめと血脈の筋を舐めていた舌が、志貴を見失う。
慌てて秋葉が顔を動かすと、今度は右から左にとペニスが揺れ動く。
ぴた、と汁気のあるペニスが秋葉の頬を叩く。
秋葉自身が濡らした唾液や志貴の体液が美しい頬を汚す。
しかし秋葉は何ら気にする事無く、そのまま頬擦りしてペニスを撫でながら、
舌を、唇を熱いペニスの先へと近づけようとする。
秋葉の感触に、新たに分泌された腺液を嬉しそうに舌先で舐め取る。
と、また志貴は腰を動かした。
先ほどの頬の感触が気に入ったのか、秋葉の濡れた唇を、うっすらと高揚で
朱を滲ませた頬を、すっと通った鼻梁を、ペニスで擦りつけ始めた。
陶然秋葉の端整な顔を、こんな赤黒く充血したもので汚す事にも、興奮を誘
うものがあったのだろう。
秋葉は嫌がらない。
熱いペニスが自分の顔を抉るように接触するのを、志貴の熱を、むしろ嬉し
そうに受け入れる。僅かに顔を引くようにしたのは、誤って眼を突きそうにな
った時だけで、後は志貴が先触れの液をぬめぬめと顔に塗り込めるのを、決し
て邪魔しようとはしなかった。
「そろそろ口でして貰おうかな、秋葉」
「はい、兄さん」
《つづく》
|